BlizzardとNetEaseの「契約解消」はなぜ中国ゲーマーにとって衝撃だったのか。漂う「時代の終わりの始まり」

 
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米国ゲーム会社Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)は11月17日、NetEaseとの中国現地パートナー契約を終了することを発表した。2023年1月23日をもって、『オーバーウォッチ』や『Diablo III』などの現地サービスが停止される見込み。なお、『ディアブロ イモータル』は別の契約に基づきサービス継続するとのこと。

Blizzardの公式声明文では、今回の契約終了は「現存のライセンス契約が来年1月に終了する」ことがきっかけであり、同社の理念に沿うかたちでの契約更新に至ることができなかったと説明された。NetEaseの公式声明文では、最大限の交渉はしたものの、Blizzard社といくつかの条件について合意に至らなかったと、契約終了の理由について無念さをにじませて語った。

Blizzardは自社タイトルの中国展開をNetEaseに委託しており、その契約が打ち切りになるわけだ。Blizzardが中国のゲーム会社と現地契約を打ち切ることは、今回が初めてではない。NetEaseとの関係は2008年から始まったが、それ以前は奥美や第九城市といった会社とパートナー契約を結んでいた。とはいえ、NetEaseがその中でもっともBlizzardとの付き合いが長い会社。NetEaseとのパートナーシップが続いた14年もの年月の間に、Blizzardの『World of Warcraft』『StarCraft』シリーズ、『Diablo』シリーズは、中国では誰でも知っている人気ゲームになった。中国でeスポーツが絶大な人気を得ているのも、Blizzardの影響が大きい。

いろんな意味で中国のゲーマーに影響を与えている、『Warcraft Ⅲ』の拡張コンテンツ「The Frozen Throne」。


一方でNetEaseも、この14年間を経て、中国でテンセントに次ぐトップクラスのゲーム会社へと成長。日本でも人気な『荒野行動』などのタイトルを手がけた。2022年第2四半期のゲーム会社の収益観点で見ると、NetEaseが世界で5番目の会社であり、9番目のActivision Blizzard より稼いでいる

中国ではBlizzard系列のゲームを遊んでない人がいないほど、この会社のゲームの存在感が大きい。ゆえに、今回の契約終了は中国のゲーマーたちに大きな衝撃を与えている。というのも、中国では長い間、コンソールゲーム機の公式販売がほぼ許されていなかった。当時の中国では、PCでしかゲームを遊ぶことができず、もっぱらBlizzard産のゲームを遊んできたゲーマーが多いのだ。筆者も数多くの中国ゲームデベロッパーを取材してきたが、彼らのほとんどがBlizzardからなにかしらの影響を受けていると語っていた。NetEase内部の社員も、管理層を含め、Blizzardのファンが多い。彼・彼女らにとってBlizzardは信仰対象に近い存在だ。筆者もよくNetEase関係者から「Blizzardを信仰している」という言葉を耳にした。このようにBlizzard作品の影響力は強いため、今回の契約終了は中国のゲーマーにとって衝撃だった。

また、NetEaseとBlizzardがパートナーシップを締結した当時は、ゲーム収益の55%をBlizzardへ分配するという“おいしい”条件で契約が結ばれていた(前にパートナーだった第九城市は、20%しかBlizzardに配分しない契約だった)。ただ、今回のNetEaseとBlizzardとの契約終了は、会社全体の収益という観点から見ると、双方にとって大きな損失になっていないとみられる。Activision Blizzardの最近(2022年第2四半期)の決算報告書によると、パートナーシップがもたらした収益は2021年全体の3%。NetEaseもまた「Blizzardのゲームを中国国内で販売代理することで得た収益は少ない」という情報を決算報告で出している。

なおBlizzardは、中国のプレイヤーらに向けてゲームをふたたび届ける手段を模索していくと語っていた。しかし最近の中国の状況を鑑みるに、ゲームサービスを再開することはほぼ不可能に近いと言っていいだろう。中国ではゲーム市場が大きいものの、政府によるゲームへの規制がとても厳しい。まず中国国内でゲームをリリースするには、ライセンス(版号)を取得する必要がある。それに海外資本の会社が中国で直接ゲームをリリースすることは法律上禁じられており、必ず現地の中国会社とパートナーシップを締結しなければならない。

また、海外ゲーム会社がパートナーを変更するとき、すべての運営許可ライセンスが打ち切られ、一から申請し直さなければいけない。先述した「版号」がその一つだ。しかし版号が発行されるゲームの数は年々減少していて、今年になってからは314個の版号しか発行されていない。版号を待ちきれずそのまま倒産したゲーム会社も中国では数少なくない。

また、中国では版号の認可は「国産枠」と「海外枠」(海外のデベロッパーが開発したゲーム)で分かれており、「海外枠」ゲームの版号の発行はすでに17か月以上発表されていない。BlizzardがNetEaseとのパートナーシップを打ち切ることで、中国のゲーマーは14年にわたり親しんだBlizzardのゲームを正規に遊ぶことが難しくなる。信仰物の喪失、ともいえるだろう。

11月23日になりBattle.netではすでに中国から入金ができなくなっている。終わりは、突然やって来る。


中国のゲーマーたちも、この日が来ることはある程度予測はしていただろう。Blizzardのゲームによって人気が出た中国のゲームBBS「NGA」では、定期的に「このゲームはいつサーバーとの接続が中止され、オフラインになりますか?」といったタイトルの投稿がなされ、掲示板内で話題になる。そして今、終わりの日が実際近づいているのだ。また、カードゲームをメインに扱う中国コミュニティ「旅法師営地」では、『ハースストーン』の新しい発表に喜んでいる最中、突然契約終了が発表されるというジェットコースター気分を味わった人々も。

ほとんどのゲーマーにとって、Blizzardのゲームが遊べなくなることは、「悲しい出来事」という話で済む。しかしBlizzard系のゲームを職業にする人々にとっては、青天の霹靂だ。eスポーツ選手はもちろん、ゲーム実況とeスポーツ解説を生業にする関係者も、一夜で職業を失うことになる。中国では今年4月、ライセンスがないゲームの中国国内での実況配信が許されなくなった。これからは、『オーバーウォッチ』と『ハースストーン』のeスポーツシーンから中国選手の姿があっさりと消えていなくなるだろう。

中国でゲーマーになるにあたっては、大好きなゲームを突然失い、2度とプレイできなくなる可能性があるのだと、覚悟をしなければならない。そして実際そのような日が来ても、平然と受け入れることしかできないのだ。ゲームに限った話ではなさそうであるが。

次に終わるゲームはなんだろうか。あるいは、Steamのようなゲームプラットフォームが突然中国でのサービス提供を終了するのだろうか。いずれにしても、予測不可能である。


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