タリバンの暫定政権が『PUBG』禁止令を決定。背景には政情の難しさ


アフガニスタンで、イスラム主義のタリバンが政権を掌握してから1年余り。タリバンの暫定政権がイスラム法に基づく統治を進める中、『PUBG MOBILE』(以下『PUBG』)の配信禁止が決定された。アフガニスタンメディアのKhaama Pressが報じている。

タリバン暫定政権の宗教省は、かねてより、『PUBG』が精神衛生上有害であり、暴力的な考え方を生み出すと警告していた。また昨年12月、通信規制当局が『PUBG』を禁止すると発表、今年4月にも禁止が予告されていたが、この度ついに正式に決定された。アフガニスタン国内の電気通信事業者およびインターネットサービスプロバイダーが対象となる。

電気通信省が治安部門の代表者とイスラム法執行機関の代表者との会合で決定したという。イスラム法は人間の行動すべてを対象としているため、政治・経済から礼儀作法まで、幅広い事柄がその規律の対象となる。今回はそのひとつに『PUBG』が含まれるわけだ。同時にTik Tokも禁止の対象となっている。こちらは1か月以内に禁止対象となるとのこと。

エコノミスト誌が1月に報じた記事よると『PUBG』はアフガニスタン国内でも大人気らしい。携帯電話事業者の推定によると、ピーク時には同時接続数は10万人。しかし教育学者などからは「暴力を助長する」「若者を堕落させる」「時間を奪う」と危険視されているようだ。同誌の記事には、法学部を卒業した無職の男のエピソードが掲載されている。夜通し『PUBG』をプレイし昼間は寝ているそうである。「仕事を探しても何もない。これ以上何ができるんだ」と述べる彼は、もちろん、『PUBG』禁止に反対している。

Image Credit:The Economist


『PUBG』人気とそれに対する規制推進の裏には、40年にわたる内戦の影響があるようだ。アフガニスタンでは、親が子供を外出させるのに積極的でないとのこと。首都カブールにはそもそも公園やレクリエーション施設がほとんどなく、また路上での暴力の危険もあるためだ。アフガニスタンでは昨年8月、アメリカとタリバンとの和平合意に基づいてアメリカ軍が撤退し、タリバンが暫定政府を樹立したものの、イスラム国(IS)系の過激派によるテロが発生しており、治安は不安定である。

悲しい話ではあるが、室内で世界中の人と遊べるオンラインゲームは、今のアフガニスタンの若者たちにうってつけなのかもしれない。他方、規制推進派の論調にもアフガニスタンの政情は影響している。前述の教育学者は、すでに絶え間ない暴力にさらされている世代がさらに暴力に鈍感になることを危惧している。日本におけるゲーム規制論とは趣を異にする、アフガニスタンのリアルな事情を反映した議論と言えるかもしれない。

『PUBG』をめぐってはこれまでもいくつかの国で禁止の動きがあった。たとえばインドでは州の通達で禁止され、それに違反したかどで若者16名が逮捕される事態に(関連記事)。その影響は隣国ネパールにも波及したが、こちらでは裁判官が個人的に『PUBG』をプレイしてみて危険性を調査したことが注目された(関連記事)。一方中国では、政府からの認可を得るためにタイトルやモーションが大きく改変された“愛国版”が配信された(関連記事)。いずれも各国の政治・文化の相違を感じさせる事件だ。世界中にファンを抱えるゲームならではの現象かもしれない。アフガニスタンの今後の動向にも注目したいところだ。