Steamのゲイブはメタバースの現状と人々に懐疑的。「あいつらMMOもやったことないだろ」「まずはラノシアへ行け」と斬る

 

昨今よく聞かれる用語「メタバース」の濫用について、Valveの共同設立者Gabe Newell氏が苦言を呈している。同氏が海外メディアPC Gamerに対して、メタバースの現状にやや懐疑的な見解を語った。

今回Newell氏が語る題材となったメタバースは、端的にいえばオンライン上に構築される仮想空間のことだ。ユーザーが思い思いのアバターを身にまとい、仮想空間状で人々との交流や経済活動をおこなうような仕組みがメタバースと呼ばれる。また、仮想空間内のアイテムが金銭的価値をもったり、企業・個人が宣伝やアイテム販売などの活動を実施したり、多くの人が集うイベントの仮想空間での開催などもメタバースの例とされる。つまるところ、第2の現実世界のように人々が交わる仮想空間がメタバースと呼ばれているのだ。

2000年代にブームとなった『セカンドライフ』や、VR空間で人々が交流する『VRChat』などもメタバースの例として知られている。また、メタバースはテック企業やゲーム会社についての関心事でもある。昨年には、Facebook社がメタバースへ取り組む方針を反映し、社名を「Meta」と変更。また今年2月8日にはバンダイナムコグループが「IPごとのメタバース」の開発を発表し話題を呼んだ(関連記事)。

『セカンドライフ』


そして、メタバースは仮想通貨やブロックチェーン技術、NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)と絡めて語られることも多い。「第2の現実」での商取引やアイテム所有と、アイテムや仮想通貨の価値を保障するブロックチェーン利用技術は、メタバースと相性の良い側面もあるからだ。一方で、そうした技術とメタバースを一緒くたに扱うことに疑問の声もあがっている。昨年末には「日本メタバース協会」が発足したものの、メタバース構築に必ずしも必要不可欠ではない、ブロックチェーンやNFTとメタバースを紐付ける声明が議論を呼んだ(関連記事)。

そもそも、メタバースは幅広い概念ゆえに、明確な定義については定まっていない。アバターを着て人々と交流できるのがメタバースなのか、現実の通貨や仮想通貨を使って取引できるのがメタバースなのか、あるいは別の定義があるのかは、人によって解釈が変わる部分もある。そうした中、メタバースなる語句だけが流行にのって独り歩きしている面もある。そのため、メタバースがブロックチェーン技術とセットで扱われ、投機的な謳い文句として利用されるのではないかと、懸念をもつ者も少なくないのだ。

どうやら、Gabe Newell氏もメタバースの現状に懐疑的な見方をもっているようだ。PC Gamerから「メタバースは技術革新を促すと思うか」と聞かれたNewell氏は、「メタバースを巡って、一攫千金を狙うような企みが出回っている」とコメント。さらに「メタバースについて語るほとんどの人々が、それが何なのかすらまったく理解していない」とバッサリ切り捨てた。

Newell氏の弁舌は止まらず、メタバースを喧伝する人々はしばしば「カスタマイズ可能なアバターが使えます」などの謳い文句を口にするとコメント。MMOもやったことがないのだろうと揶揄しつつ、「『ファイナルファンタジーXIV』のラノシア(地名)にいってみろ」との旨を述べている。つまり、投機的にメタバースを謳い文句にする事業者たちのアピールポイントは、MMO作品などですでに実現されているとの見解だ。また、仮想通貨やNFTと絡めてメタバースなる語句が“金儲けの道具”に利用される傾向への懸念もあるのだろう。なお例え話に『ファイナルファンタジーXIV』が使われている点については、現在 Newell氏は同作にハマっているからかもしれない(関連記事)。


一方で、Newell氏は楽観的な視点ももっているようだ。同氏はメタバースを取り巻く現状についてはいずれ落ち着くだろうと述べており、“魔法のような金儲け”以外の動機をもった開発者の参入について関心があるとコメント。「いずれにせよ、最後に勝つのは有用な技術と顧客だ」との意見を述べて、メタバースの今後についてさほど心配はしていないとした。

メタバースとブロックチェーン技術は本来であれば別の存在だ。しかし、投機的な文脈で一緒くたに語られる傾向も見られるのは確か。Newell氏が語ったのは、そうした技術の価値や将来性は認めつつも、流行りに乗った“金儲け”にはNOを突きつける姿勢なのだろう。なお、Valveが運営するSteamについては、昨年10月に「ブロックチェーン技術に基づいた、仮想通貨の発効や取引を可能にするゲーム」を同プラットフォームにて販売禁止にしている(関連記事)。