小規模ゲームですら開発費が肥大化していると、インディーパブリッシャーCEOがこぼす。スタッフに十分な賃金を払うにはお金がいる

Finjiの共同創設者/CEOであるRebekah Saltsman氏は1月5日、自身のTwitterアカウントにてゲーム開発費と人件費について語った。

Finjiの共同創設者/CEOであるRebekah Saltsman氏は1月5日、自身のTwitterアカウントにてゲーム開発費と人件費について語った。その背景には、肥大化するゲーム開発費と、スタッフへの待遇のバランスの問題があるようだ。


Finjiは米国中西部のミシガン州を拠点とするデベロッパー/パブリッシャーだ。ヒット作『Night in the Woods』や『Chicory: A Colorful Tale』などの販売を担当したほか、『Overland』など自社開発作品も手がけている。同社はスタッフを優遇するポリシーを掲げている。具体的には、スタッフの生活をを尊重してクランチ(主に制作後期における残業などの追い込み)を避ける姿勢や、売り上げにおける大部分のスタッフへの分配などだ。

また、同社CEOであるSaltsman氏も、インディーゲーム開発シーンの醸成や、開発者の保護などに熱心な人物だ。同氏は個人として、夫でFinji共同設立者のAdam Saltsman氏とともに、インディーゲーム開発者支援基金Indie Fundの出資者に名を連ねている。また、過去には米IGNのインタビューにおいて、近年の小規模ゲーム開発費の肥大化傾向や、開発シーンの危機についても訴えていた。そんな同氏が今回、自身のTwitterアカウント上で「ゲーム開発費に占めるスタッフ人件費の大きさと重要さ」について語った。


まずSaltsman氏は「税や福利厚生および報酬を含め、Finjiスタッフの給与は安くありません」とコメント。現在同スタジオでは10人のフルタイム従業員と、2名のデベロッパーおよび2名のパートタイマーと契約しているとした。「ゲームに携わることは仕事です」と改めて強調。ゲーム販売を通じての収入は、スタッフの生活に必要なあらゆる支出をささえる源であり、さらに会社が提供する医療保険料なども人件費に加わると伝えている。

そして、マーケティング費用や、機材費およびライセンス費なども含めると制作費はさらに膨れ上がる。同氏は10~15人ほどのチームで、十分な給与のもとでゲームを制作するなら、プロジェクトあたりの制作費は400万米ドル(約4億6375万円)は優に超えるとの見解を示している。そして、ゲームが完成して発売されるには3年ほど期間が必要とのこと。同氏は改めて、小規模チームであってもゲーム開発には莫大な資金が必要となると示したのだ。


しかしSaltsman氏は、それでも十分な人件費は重要で、軽視されるべきではないと伝えている。同氏は「スタッフの生活費を賄えない開発費は、“現実的な開発費”ではありません」とコメント。スタッフの給与削減や、契約社員を増やして医療保険料などのコストをカットする手法にも否定的な見解を述べている。同氏は「ゲーム開発はチームにとって安全かつ、持続可能性をもって進められるはず」と延べ、その体制づくりこそが自身の仕事であると伝えている。薄給での長時間労働など厳しい労働環境は、スタッフを消耗させる持続不可能な制作体制だという主張だ。

Saltsman氏が一連のツイートで伝えたかったのは、肥大化するゲーム開発費における人件費の大きさと、それでもスタッフに十分な賃金を与えるべきであるという意見だろう。同氏のツイートには業界関係者からも反響が寄せられている。例として、『Ynglet』発売元Triple ToppingのCEOであるAstrid Refstrup氏は「スタッフへの給与水準が高すぎるとして、投資を断られた」との経験を共有している。つまり、一部投資家側にも人件費を軽視する風潮が見られるとの証言だ。


また、インディースタジオAlbino Moose Games共同創設者のTravis Rupp-Greene氏は「ざっくりとした計算ながら、フルタイム従業員をひとり雇うのに月1万米ドル(約115万円)はかかる」とコメント。スタッフの雇用に大きな費用がかかるとの見解を伝えている。なおアメリカにおいては、家賃など、生活に必要な支出が日本よりも高い傾向もある。そのため、日本国内に比して賃金への感覚が違うであろう点には留意したい。


また、気になるのは「なぜインディーゲームの開発費が肥大化しているのか」という点だ。大規模作品の開発費については、ハードウェアの性能向上などに伴い上昇するのは想像に難くない。その時代で最高峰・最先端の体験を届ける必要があるためだ。一方で、インディーゲームについてもここ数年間で市場および作品規模の拡大を見せている。例として、Steamでは2016年頃より作品リリース数が増加傾向にある(関連記事)。また、ボリュームやグラフィック面でリッチなインディー作品が人気を集めることもしばしばだ。拡大した市場競争にてほかタイトルの水準に合わせるため、インディーにおいても開発コストが上昇している面があるかもしれない。また、多くのタイトルがリリースされるなかでは、マーケティングコストも増大しがちだろう。

そして、インディー開発スタジオ自体の高度な組織化が、コストを可視化したとの見方もできる。かつてのインディー作品は、個人やごく小規模なグループでのコスト度外視の制作もしばしばだった。インディーゲームの隆盛に従い、開発スタジオも大規模化し、また会社として運営されるようになった。ビジネスとしてスタジオへ出資する者も増加し、資金繰りの可視化も必要となる。そのため、元々かかっていた小規模開発コストの問題が、近年になり浮上したとも考えられる。

いずれにせよ、たとえ小規模インディーであろうとも、適切な条件と環境でスタッフを働かせる場合、ゲームの開発には莫大な資金がいる。今回はスタジオCEOであるSaltsman氏から直々にその実態が語られた。スタッフに適正な賃金を与えようと思えば、なおさら人件費含む開発費は嵩んでいく。そして、肥大化した開発費はゲーム自体の価格にも反映される可能性もある。一方で、定価の引き上げはすべての人が必ずしも歓迎できるものではない。ユーザーとしては悩ましいところながら、好きなゲームや開発元には惜しみないサポートを送りたいものだ。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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