プレイ時間は短いが、濃密な体験。AUTOMATONライターが選ぶ2021年のベスト短編ゲーム
今年2021年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第4弾。ゲームといえば長大なボリュームの作品ばかりではない。映画のような長さで、鮮烈に記憶に残る作品も数多リリースされている。本稿では「プレイ時間」に着目し、短くも心に深く刻まれた今年の作品を振り返っていこう。なお選出基準としては、初回プレイ時間5時間以下を目安としている。
『Unpacking アンパッキング』
――誰もいない、でも感じ取れる物語
開発元:Witch Beam
販売元:Humble Games
対応機種:PC/Nintendo Switch/Xbox One
初回クリア時間:2時間
『Unpacking アンパッキング』は、新居での荷ほどきをテーマにしたパズルゲームだ。家具などはすでに設置されており、部屋に積まれた段ボール箱から物をひとつずつ取り出して配置していく。たとえば、調理道具ならキッチンの引き出しに、洗面用具ならバスルームの棚にと、それぞれのアイテムにふさわしい場所に配置することがパズル要素となっている。もっとも、配置場所の指定はそれほど厳しくなく、常識の範囲内である程度自由に配置可能。そして、すべてのアイテムを配置し終えれば次のステージ(家)へと進む。全8ステージあり、クリアするだけなら2時間もかからないが、クリア後も配置をいじり続けたくなる魅力がある。
とにかくアイテムの種類が豊富。生活にかかわるあらゆるものが用意されており、ドット絵で精緻に描かれている。また以前記事でも紹介したが、アイテムを置いた際の音がリアルであり、ひとつひとつ異なることにも驚かされる。こだわりが凄まじい。さらに、物の向きを変えたり、棚に置いた本などの並び順を変えたり、重ね置きできたりなど、配置の自由度も高い。ふさわしい場所に配置する必要があると先に述べたが、実は設定でこの縛りをオフにすることも可能。どのように配置するのか、プレイヤーごとに個性が表れるだろう。
本作のストーリー性も評価したい。内容についてあまり詳しくは触れないが、本作はある人物の写真アルバムをめくり、年代を進めるようにしてステージが進行。箱から取り出すアイテムも、それぞれの時代を感じさせる物へと変遷していく。そのなかに、ずっともち続けている物があったり、所有者のその時々の人生における状況を示唆する物があったりし、プレイヤーの想像を掻き立てるのだ。そんな第三者目線でいると、「他人の新居で何やってるんだろう」とふと我に返ることもあるが、単なる“荷ほどきシム”に終わらない仕掛けに感嘆させられたのであった。
by. Taijiro Yamanaka
『ユウゴウパズル』
――あらゆることを試したはずなのに、正解の手順だけが分からない
開発元・販売元:Qrostar
対応機種:PC
本作の開発であるQrostar、もといたつなみ氏はパズルゲーム界隈ではかなり有名な方である。Twitterで毎週、ちょっとした謎解きを投稿しているのをRTで見かけたことがある人も多いのではないかと思われる。パズルゲームの開発者としては『ゼリーのパズル』『ハナノパズル』『ハナノパズル2』の作者としてよく知られているのだ。この3作品は、そのシンプルなデザインとルール、そして無料配布であることに釣られ軽い気持ちで手を出す人が多い。しかしてその正体は悪魔的なまでに洗練されたレベルデザインと極悪な難易度で絡め取り時間を消費させる、食虫植物のようなゲームなのである。
そんな多くのトラウマを生み出したシリーズの最新作ということでおそるおそる購入した本作『ユウゴウパズル』は、あらゆる意味で期待通りの作品であった。一見シンプルに見えるゲームのルールにさまざまなギミックが仕込んであるのはQrostar製ゲームの定番であるが、本作ではそれがさらに顕著だ。特に『ゼリーのパズル』経験者に「これは前作と一体何が違うんだ?」と思わせておきながら引っ掛けてくる手法には思わず感心の舌打ち(?)が出てしまった。
とはいえ本作の総合的な難易度は『ゼリーのパズル』などに比べれば(若干だが)簡単と評しても差し支えなく、その代わり新しいギミックが次々と出てきて飽きさせない作りになっている。そういう意味では尖っていた無料配布作品たちに比べると商業作品らしい、丸めの作りになっているとはいえるかもしれない。しかし高難易度ながら秀逸なレベルデザインは健在で、パズルゲームの一つの到達点といっても過言ではない。正解の手順に辿り着くまでに作者の想定したであろうあらゆる失敗例をなぞることになるので、ここまで「作者の掌の上で転がされている」感を味わえるゲームはそうそうない。普段パズルゲームをやらない人にもぜひ触ってみてほしい一品だ。
by. Mizuki Kashiwagi
『世界を破壊する魔法』
──世界を破壊したい少女たちの、可愛くて残酷な青春
開発元:もっきゃりぺお
対応プラットフォーム:PCおよびブラウザ
初回クリア時間:1時間~1時間半程度
『世界を破壊する魔法』は、最悪の少女たちが織り成す、閉塞百合ジュブナイルノベルゲームである。主人公の夕暮鴉は、イマジナリーフレンドのフェアリーハートといつも一緒にいる、思い込みの激しい少女だ。彼女は、自分とフェアリーハートのことしか考えておらず、自らの世界に生きていた。しかし、あるきっかけからフェアリーハートがいなくなってしまう。
夕暮鴉はあちこちを探して回るが、空想の友達はどこにも見当たらない。そんな中、夕暮鴉はフェアリーハートと「世界を破壊する魔法」を掘り出す約束をしていたことを思い出し、団地の裏にある雑木林へ出発。そこで夕暮鴉をいじめている朝野光と、なぜか一緒に「世界を破壊する魔法」を探すことになる。一方で正義感が強く、自身の正しさを疑わない平野蛟は、夕暮鴉に目をつけ始めていた。それぞれに相手のことが見えていない3人の少女たちは、必然的に噛み合わず、ぶつかりあい、どこまでも転がっていく。肌に汗がまとわりつく、蒸し暑い夏の日。世界を破壊したい少女たちは、暗黒の青春を過ごしていく。
本作では少女たちの関係性や感情が、陰湿ないじめや暴力、性描写を交えて紡がれる。砂糖菓子のような甘い絵柄で包まれているものの、文章表現は生々しい。可愛くて残酷な少女たちの姿は痛みを伴うため、きっと人を選ぶだろう。しかし苦くて重い展開のあとには、不思議と爽やかな風味が広がっていて、泥中の蓮を見たようだった。1時間ほどのプレイ時間に、140枚以上のCGと苦しくて美しいストーリーが詰め込まれた本作は、忘れられない一作であった。
by. Keiichi Yokoyama
『Minute of Islands』
――胞子蝕む世界で、斜陽の島々を救えるか
開発元:Studio Fizbin
販売元:Mixtvision/ H2 Interactive
対応機種:PC/Mac/PlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switch
初回クリア時間:5時間
パズルアドベンチャー『Minute of Islands』は、身に染み入る“あるある”のゲームだった。舞台となるのは、有害な胞子に蝕まれる島々。島の地下では、古来より存在する巨人たちが機械を駆動させ、胞子から人々を守っている。主人公のモーは、ある出来事から巨人に選ばれし少女だ。機械を操る鍵「オムニスイッチ」を扱い、島々の浄化装置を管理している。しかし、あるとき巨人たちに異変が起き、浄化が停止。モーは修繕のため、島々を巡ることとなる。
世界の危機、使命を帯びた少女、救済のための船出。これ以上王道でワクワクする設定があるだろうか。ゲームを遊ぶ我々は、モーの冒険活劇の顛末やいかにと見守ることとなる。しかし、遊んでみるとすぐ違和感が生じるだろう。このモー、めっぽう頑固なのである。離れた島で暮らす家族と再会し、歓迎されてもつっけんどん。とにかく「仕事があるから」の一点張りで先を急ぐ。なぜならモーは特別な女の子なのだ。みんなを守るため、何があっても突き進まなくてはならない。
誰しも多かれ少なかれ、「誰かのため」に大変な仕事をやり遂げようとしたことがあるだろう。そんなとき、役目に向き合い擦り減っていくことがあったのではないか。ときには、その「誰か」を憎んでしまうことさえあったかもしれない。世界を救うというけれど、その「世界」って何だっけ?『Minute of Islands』は王道のあらすじでプレイヤーを誘いつつ、「真面目なひと」ほど身につまされる消耗の行く末を描いた、ビターな作品だ。
by. Yuki Kurosawa
『ElecHead』
――小さな体に純度100%のエンタメ魂
開発元:NamaTakahashi, Tsuyomi
販売元:NamaTakahashi
対応機種:PC
初回クリア時間:約2時間半
開発技術の発達に伴い表現の幅が大きく広がった2021年度において、単なる懐古主義ではない、ただただ完成度の高いミニマルなゲームが登場するとは、私は想像もしていなかった。
「ジャンプできる体」「通電する頭」「頭を投げるアクション」という3つのシンプルなルールから、それらの組み合わせを通じて、非常に多彩なレベルを形成している。通電により無い道を生み出すものから、ルールの穴を突くものまで。アクションを重視せず、ビリリと脳に電流走る「ひらめき」をデザインの重きに置くことで、消費者層に対して広い間口を確保している。レベルを提示する順番も絶妙で、プレイヤーの成功体験を可能な限り途切れさせないような「解かせる」作りになっている印象を受ける。難問を解いた時に生まれる瞬間的で大きな快楽ではなく、自らが頭が良くなったと錯覚させるような持続的な快楽の流れを強く意識している。可愛らしいドット絵と音楽の表現は細かなアクセントとして小さな歓びを生み、箸休めとして効果的だ。
だが、本作にはこれしかない。「解くことが簡単なパズル」と「可愛らしいビジュアル&音楽」しか無いのである。白熱したストーリーや、高いリプレイ性、あっと驚く演出が仕込まれているわけではない。その点を大きくカバーしているのがボリュームの少なさである。謎解きによるトリップ体験が収まる前にゲームが終わる。
何事も量があれば良いわけではない。だが物足りなさを生んではいけない。可能な限りシステムの存在理由が消費者に伝わっていなければならない。その点本作は、中身を最低限にしたことで、作り手の顔が浮かんでくるように、1つ1つの仕組みがすべてプレイヤーのためにあると分かる。楽しませたいという意図が直に伝わってくる。そう、本作にはこれしかない。小さな体に純度100%のエンタメ魂。『ElecHead』はボリュームがないからこそ無駄のない面白さを内包している作品である。
『Emily is Away <3』
――「愛は双方向でないと成り立たない」という事実との向き合い
開発元・販売元:Kyle Seeley
対応機種:PC
初回クリア時間:4時間
『Emily is Away <3』は、Kyle Seeley氏が手がける『Emily is Away』シリーズの3作目にして集大成である。ノスタルジックなSNSインターフェイスを通じて、気になるあの子(EmilyまたはEvelyn)との関係性を描く、甘酸っぱい青春ラヴストーリー。その大枠はシリーズを通して変わらない。だが最新作では、恋愛・友情・信頼といった、軸となるテーマの厚みが増し、人間模様の描写がさらに味わい深くなっている。
また同作では、周回プレイという行為そのものに、恋愛に関するメッセージ性を含ませており、青春の甘酸っぱさだけで終わらせず、その先まで推し進めるという作り手の気概を感じる。そこにあるのは、「love takes two(愛は双方向でないと成り立たない)」という事実との向き合い方に関する探究だ。あわせて、恋愛と並ぶ、切っても切れない青春の一部分として、友人関係の描写にも時間を割いている。ここにもうひとつの力点を置いたおかげで、プレイヤーを突き放して終わるような、恋愛関係だけで閉じた青春模様ではなく、より救いのある終着点を見出している。
同シリーズは、ストーリーテリングの形式こそ変わらないが、そこに含めたニュアンスやクリア後の余韻は作品ごとに異なる。そして今作における余韻は、「シリーズとしての熟成」を感じさせるものであった。同じフォーマットでの作品づくりを追求し続けた作者による、反復と継続の賜物なのかもしれない。
by. Ryuki Ishii
『Here Comes Niko!』
――優しさの遊園地
開発元:Frog Vibes
販売元:Gears for Breakfast
対応機種:PC
初回クリア時間:4時間
短編ゲームには、物語や斬新さが際立つ作品が多い。映画のような感覚を味わえたり、あるいは、これまで見たことがない体験ができたり。『Here Comes Niko!』はその点では、物語はよくわからず、ゲームプレイも平易。楽しい時間がずっと続く、遊園地のようなゲームとして筆者のお気に入りの一本になった。
『Here Comes Niko!』は、3Dアクションゲームだ。ステージが分かれており、ステージごとのクエストやミッションをこなす、『スーパーマリオ64』型、といってしまえば手っ取り早いかもしれない。しかし本作には、敵もいないし、シビアな台渡りなどもない。あくまで、主人公のニコが友達をつくるために、世界中を旅し、人助けをする、というだけである。お礼にコインをもらって、このコインを集めることで新たなステージに行くことができる。それぞれのステージにあるクエストは、どれも30分もあれば達成できるだろう。
しかしこのゲームは、ただシンプルな3Dアクションではない。というのも、プレイヤーに楽しんでほしいと思ってか、それぞれのステージにとにかく無数のオブジェクトが敷き詰められている。さわると飛び上がる浮き輪や、ふれると飛び上がる新聞紙。どんなオブジェクトもニコがあたることで反応。そこらにある草さえも愛らしい。ステージ内にいる個性的なキャラたちもまた、面白おかしい身の上話を聞かせてくれる。
筆者が考えるに、このゲームには「プレイヤーに楽しんでほしい」と願う開発者の想いが詰められている。飽きさせないように。ストレスをためないように。配慮や優しさ、そして愛が詰まっている。ギミックもまとまりはないが多彩。プレイ中は、つねに楽しさに包まれていた。ちょっとした遊園地気分。クリアした際も感情を揺さぶられることも、興奮することもなかった。しかし、たまに起動したくなるし、ニコたちに会いたくなる。クリア時間こそ短いが、愛おしい、優しい空間がそこには広がっている。
by. Ayuo Kawase
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12月27日〜12月31日にかけて1本ずつ掲載予定。