『Apex Legends』において、チートなどの不正とともにBAN(ゲームプレイ禁止)などの処罰の対象にされているのが、ゲーム内チャットにおける人種や性などに関する差別的発言だ。Respawn Entertainmentは不適切な発言をするユーザーに対し、厳しく取り締まる姿勢を見せている。一方で、そうした処罰につきものなのが、運営側のエラーによる適切でない処罰、いわゆる“誤BAN”だ。先頃、海外掲示板において、誤BANにまつわる運営とコミュニティを巻き込む一騒動があった。
『Apex Legends』開発元であるRespawn Entertainmentは、ゲーム内の人種および性指向の多様性に気を配る姿勢を見せている。同作の利用規約ではゲーム内での嫌がらせや脅迫、人種や性指向についてのヘイトスピーチも禁じられており、処罰の対象とされている。また、登場キャラクターのセリフに差別的と受け取れる表現が見られた際には修正対応をおこなうなど、差別問題に対しても比較的鋭敏といえる開発姿勢がうかがえる(関連記事)。こうした対応については、一部コミュニティからの支持を受ける一方で、「過剰反応ではないか」という懸念を示すプレイヤーも存在する。
そして、BANなどの処罰については誤って下されてしまうケースもある。アンチチートシステムやサーバーの不具合が原因ではあったものの、過去同作において大規模な“誤BAN”が起きたケースもあった(関連記事)。多くのプレイヤーがひしめく継続サービス型ゲームにおいて、人為的、またはシステム的なエラーによって「無実のプレイヤーに誤った処罰が下されてしまう」という現象は十分に起こりえることだ。ユーザーらにとって、「誤BAN」の被害報告はつねに注目を集めるトピックである。
そうした誤BANへの懸念が背景にあるなか、海外掲示板Redditの『Apex Legends』コミュニティ/r/apexlegendsに7月22日、あるスレッドが立てられた。「ジブラルタルはゲイって言っただけでアカウントを抹消された」と題するこのスレッドは、たちまち多数のUpvote(高評価)を得て、同コミュニティの大きな支持を得た。またしても、誤BAN被害者が現れてしまったということに、他ユーザーからの同情が寄せられたのだ。
しかし、結論から言えばこのスレッドを立てたユーザーは、「誤BAN」対象者ではなく、れっきとした「BAN」の対象者だったようだ。同ユーザーは、過去にチャットで明白な差別語を送信していた。つまり同ユーザーへのBAN処分は適切なものだったと見られる。同ユーザーはアカウントを削除、投稿内容も削除され、あとにはスレッドに寄せられた返信が残るのみとなっている。
経緯を詳しく見ていこう。オリジナルの投稿には1枚のスクリーンショットが送付されていた。内容は運営元からのメールらしき文面で、投稿者が規約違反であるヘイトスピーチをおこなっていると注意する文面だ。対象とされているチャット内容は「開発元によればジブラルタルはゲイだよ」というもの。この発言自体は差別的表現にあたるとは考えづらい。というのも、ゲーム内キャラクターのひとりであるジブラルタルは同性愛者だという公式設定がある。ゲイ(Gay)という単語についても、一般的に用いられる言葉であり、少なくとも単語そのものが差別的とは言い難い。
つまり、この投稿のみを見れば、「ゲイ」という単語が自動フィルターなどに引っかかった結果、不適切なBANを受けたという証言だと受け止めることができる。投稿当初のユーザーたちもそのように解釈したようで、返信欄には「ゲイという単語が無礼に使われる可能性があるから、自動的にBANしてるんだろう」など、運営側を揶揄するコメントが立ち並んでいる。こうした多数のコメントからは、多様性の尊重やヘイトスピーチの防止においてしばしば伴う表現規制への一部コミュニティの懸念が垣間見える。
そして、この投稿に反応したのはユーザーたちだけではなかった。Respawn Entertainmentにてコミュニティ・コミュニケーションディレクターを務めるRyan K. Rigney氏が、Redditのオリジナル投稿から4時間後に反応したのだ。同氏はテキストフィルターがおかしくなっている可能性を指摘して、この問題を取り上げてシステムに修正が必要か調査すると約束。しかし、のちに寄せられた同氏の報告は「このユーザーへのBAN処分は、実際はもっと問題のある、別のチャット送信によっておこなわれたものでした」というものだった。
また、Rigney氏は「投稿者はそうした“問題のある”チャット送信のスクリーンショットをメールで受け取っている」と指摘した。これらの証言を踏まえると、投稿者が「ゲイ」発言とは別に、処罰の本来の原因を自覚しつつ、「ゲイと言っただけでBANされた」と装ってコミュニティを煽った可能性が高いのだ。
Rigney氏の上記投稿に、オリジナル投稿者と見られるユーザーも返信をつけている。こちらの投稿も削除されているため詳細は不明。しかし、Rigney氏はさらなる返信として「あなた(投稿者)は3月31日に通報された他のメッセージのことを無視していますね」と指摘、「Nではじまる言葉」をチャットで発言したとしている。Nで始まる、ヘイトスピーチに直接繋がる英語卑語といえば、「Nワード」が連想される。「Nワード」はアフリカ系人種に対して用いられる明白な差別語だ。
オリジナル投稿者が書き込みとユーザーアカウントの削除をしており、Rigney氏自らが証言している以上は、やはり「ゲイと言っただけでBAN」は虚偽によるミスリードだったと考えるのが妥当だろう。上記の一連の流れがあったのち、/r/apexlegendsには「おまえらまたこんなの信じちゃったの?」と前述のスレッドとコミュニティの反応を揶揄するスレッドが新たに立ち、現在4万5000件を超えるUpvote(高評価)を集めている。
Rigney氏も同スレッドに投稿しており、英文俳句形式で、ミスリードをおこなうユーザーの行動について揶揄している。あるユーザーは「みんな“誤BAN受けた物語”好きだろ?」として話題に飛びつく姿勢を皮肉るような書き込みを投稿。また、「ゲームのバグなどに関する書き込みが注目されない一方で、不適切な言葉でBANされたという書き込みが多くの注目を集め、運営側の反応も受けるのはおかしい」として、ゲームプレイについての建設的な投稿が軽視されがちな、コミュニティの風潮を批判する投稿も見られる。
虚偽と見られる投稿により、一部コミュニティと運営側が翻弄されるかたちとなってしまった今回の出来事。一見して正当性があるように見える投稿でも、調査が進むまでは信用に足るかどうかわからないという端的な例といえるだろう。コミュニティを利用するにあたっては、どのような発言も慎重に吟味した上で反応したいものである。