『ポケモンカードゲーム』初期カードの背景素材が特定される。任天堂ファンの“テクスチャハンティング”は止まらない

90年代ゲームにおけるテクスチャ元ネタ発掘が続いている。しかしテクスチャが使われていたのは、ゲームだけではなかったようだ。

ゲーマーたちが普段目にしながらも、特別意識することは少ないテクスチャ。テクスチャは3Dオブジェクトの表面やもしくはゲームの背景などに使うことで、ゲームに雰囲気をもたらしている。その出典元特定に情熱をそそぐコミュニティが存在しており、中でもクリエイター集団Render96は『スーパーマリオ64』のテクスチャを続々と特定している(関連記事)。その過程で同一のレンガ風テクスチャが多数のゲームに利用されていることが判明したり(関連記事)、と、もはや考古学的ともいえる発見をもたらしている。

しかし、テクスチャが用いられているのはビデオゲームだけではなかった。今回はRender96のWiki立ち上げ人でもあるFanamel 氏が『ポケモンカードゲーム』の背景画像を特定するにいたったのだ。普段からテクスチャに気をくばる熱意と、任天堂愛がなければできない発見だろう。


Fanamel氏のツイートではPonyta(ポニータ)・Scyther(ストライク)・Wartortle(カメール)Professor Oak(オーキド博士)など9種類のカードに使われている背景素材が明らかにされている。今回発見された素材は『スーパーマリオ64』や『大乱闘スマッシュブラザーズDX』にも広く用いられているデジタルデータ集「素材辞典」を出典元とするものだ。素材辞典シリーズとしては、石から空、金属などさまざまなテーマの素材集が発売された。これらの辞典の初期の素材集から、多岐にわたる素材が使用されたようだ。 『ポケモンカードゲーム』の国内発売開始は1996年。NINTENDO64 の発売と同年であり、当時の任天堂内で素材辞典シリーズが広く用いられていたことがうかがえる。

素材辞典公式ホームページより


しかしながら、ポケモンカードの背景は、素材集のものがそのまま使われているわけではない。ポニータの背景は油絵風フィルターをかけて素材を活かす、オーキド博士の背景は伸縮して構図を調整、ピカチュウは黄色い電光の素材を青い色味へ変更、ストライクは鋭い風が吹いているような渦巻き状のフィルターをかけるなど、素材集を利用しつつもポケモンのイメージに合うように工夫されていることがわかる。


また、背景が特定されたポケモンカードはいずれも初版や雑誌付録などで90年代に流通したもの。ピカチュウは「Pokémon: The First Movie(劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲)」のプロモーションで配布されたもののようだが、このカードのみ日本で配布されたカードと絵柄が大きく違うのも興味深い。


そのほかポケモンカード背景以外でも、『スーパーマリオ64』 のステージ背景として「Visual Disk Mountains」より山の素材 、壁面テクスチャとしてデザイナー向け素材集「バックの鬼 侘」の素材が利用されているなど、続々と90年代ゲームの元ネタの特定が続けられている。レンガ風テクスチャの起源を求めて当時使われていたであろう3Dモデリングソフトの調査までなされており、当時のゲーム開発文化の一端を照らし出している。

それぞれの作品が発売され20年以上の時が過ぎた今、それらの作品のテクスチャの元ネタを発掘し、過去の制作現場のありかたに光をあてる活動はもはや「テクスチャ考古学」と呼べるのではないだろうか。任天堂でものづくりにはげむ人々の、当時の姿が思い浮かぶようだ。90年代の3Dゲームを楽しんだ方、また好奇心旺盛な方は、“発掘”されたテクスチャを眺めて当時に思いをはせてみてはどうか。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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