『アサシン クリード ヴァルハラ』の元クリエイティブ・ディレクターが解雇される
Ubisoftが『アサシン クリード ヴァルハラ』の元クリエイティブ・ディレクターAshraf Ismail氏を解雇したことがわかった。Ashraf Ismail氏は6月、既婚者であることを隠してファンと交際していたとの告発をきっかけに、同作のクリエイティブ・ディレクターを降板、休職していた。
事の発端となったのは、『アサシン クリード』シリーズのファンであるTwitch配信者のMatronedea氏による告発。6月21日、TwitterにてAshraf Ismail氏と交際当時のメッセージのやりとりを写したスクリーンショットとともに「Ismail氏に既婚者であることを隠されていた」と主張。不倫の告発であった。Ismail氏はTwitter上で謝罪し、『アサシン クリード ヴァルハラ』のクリエイティブ・ディレクターの任を降りることを発表。その後、Twitterアカウントを削除した (関連記事) 。
Ashraf Ismail氏は2009年にUbisoftモントリオールに入社。『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』、『アサシン クリード オリジンズ』ではゲーム・ディレクターを担当するなど、長らく『アサシン クリード』シリーズの開発に尽力してきた人物だ。Ismail氏が『アサシン クリード ヴァルハラ』のクリエイティブ・ディレクターを降板して約2か月経ち、同氏はUbisoftから解雇されることとなった。Ubisoftは、解雇に繋がったとされる調査の結果について、関係者にのみ詳細を伝えたようだ。
Ismail氏だけでなく、6月から続くUbisoft幹部に対するハラスメント告発により、すでに複数の幹部が退職。チーフ・クリエイティブ・オフィサーSerge Hascoët氏、Ubisoftカナダのマネージング・ディレクターYannis Mallat氏、新規IPの監修ディレクターTommy François氏、Ubisoftトロントの共同設立者Maxime Béland氏などが告発を受けて退職している。また、これらのハラスメントへの対応が不足していたと指摘を受けた人事部のトップCécile Cornet氏も自主的に退職した。
Ubisoftで相次ぐ内部告発
Gamasutraによると、『アサシン クリード オデッセイ』のクリエイティブ・ディレクターJonathan Dumont氏にも社員に対するパワーハラスメント疑惑が浮上しているようだ。Gamasutraに匿名で寄せられた複数の元社員・現社員のコメントによると、同氏は頻繁に社員たちを脅しているという。ドアを叩きつけるように閉める、壁を殴る、物を投げるなどの暴力的な態度を始め、不快な言葉や同性愛嫌悪的な言葉で社員を罵り、ときに泣かせることもあるようだ。また、女性社員に対して服装に関する不適切な指示をしたり、笑顔を強制するなどのハラスメントも報告されている。
また、『Gods & Monsters』のクエスト・ディレクターHugo Giard氏は、Dumont氏と同じく部下に対して理由もなく暴力的な態度を取っているとの訴えも出ている。Giard氏は、とくに女性社員や新入社員を標的とする不当行為の疑いがもたれている。Ubisoftケベックのアソシエイト・プロデューサーStephane Mehay氏に対しては、支配的な暴言で同僚たちを虐げているとの声が上がっている。匿名コメントによれば、同氏は「意図的に会話から人を排除するために英語を話すことを拒否し、(英語話者が理解できないと思っているのか)フランス語で人々を侮辱している」という。
さらに、エクゼクティブ・プロデューサーのMarc-Alexis Cote氏は常習的なパワーハラスメント、Ubisoftシンガポールのマネージング・ディレクターHugues Ricour氏は女性社員に対するセクシュアルハラスメント、『Skull & Bones』の元クリエイティブ・ディレクターのJustin Farren氏は人種・女性差別発言、Ubisoftシンガポールの元マーケティング・プロダクト・マネージャーのJordi Woudstra氏は複数の女性社員に対するセクシャルハラスメント が問題とされているようだ。また、Ubisoftモントリオールの元社員の証言によると、同僚2名からセクシュアルハラスメントを受け人事部に相談したが、適切に対応してもらうことができず、被害者本人が自主退職を選択する結果となったという。
変化とこれから
ハラスメントの告発が続くUbisoftであるが、加害者個人の問題だけではなく、会社全体としての問題ともなっている。社内で起きているハラスメントや権力の乱用を上層部や人事部が見過ごしてきたとのこと。こうした体制は、長らく同社のゲーム開発に影響してきた。たとえば『アサシン クリード』シリーズでは、マーケティングチームによる「女性が主人公では売れない」という考えの元、開発チームが望んでいた内容を変更せざるを得ない状況が続いていた(関連記事)。
UbisoftのCEOで共同設立者のYves Guillemot氏は、7月に一連の告発に対するコメントを表明。「ハラスメントを見過ごすわけにはいきません。被害を受け告発した方や、被害者をサポートしてきた方の声は届いています」と述べ、社内環境の改善に務めることを約束した。具体的には、人事部の改革、ハラスメント問題における各マネージャーの責任関係の改善、社外組織の主導による元社員の証言の場を作ること、外部コンサルティング会社による業務進行やポリシーの審査、多様性を尊重するための新たな役職の設置などを遂行すると宣言した。
CEOのGuillemot氏の宣言から1か月以上経ち、把握できる範囲でも前述のような内部告発が続いている。これらは、新たな取り組みによって、今まで黙っているしかなかった被害者が声をあげられる状況に近づいたということでもあるのかもしれない。