フロム・ソフトウェアの新作として2019年6月に発表されたファンタジー・アクションRPG『Elden Ring(エルデンリング)』。『ダークソウル』シリーズや『ブラッドボーン』『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のディレクター宮崎英高氏と、「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作小説「氷と炎の歌(A Song of Ice and Fire)」で知られる作家George R. R. Martin氏がタッグを組んだことで話題を呼んだ。
フロム・ソフトウェアにとって過去最大のプロジェクトであることや、オープンワールド形式を採用すること、プレイヤーが困難を乗り越えていくことに喜びを覚える「フロムライク」なゲームであることなど、発表当時に断片的な情報が明かされたものの、その後は目立った新情報は公開されていない(関連記事)。そこで、現時点で公開されている限られた情報をもとに、ファンが自分で創作物を生み出し披露する動きが活発化している。情報に飢えたならば、自分で作り出せばよいのだ。昨年11月の時点で海外メディアのPolygonが動向を察知しており、今年3月に入りVG247が続報を伝えている。
*2019年に公開された『Elden Ring』デビュートレイラー
フロム・ソフトウェア作品の特徴のひとつは、アイテム説明文やNPCの台詞など断片的な情報を繋ぎ合わせていくことで全体図を掴むナラティブ構造。ファンは断片的な情報しか与えられないことや、些細なヒントにまで目をこらすことに慣れている。データマイニングによる没コンテンツの発掘に力を入れるユーザーが多いのには、フロム・ソフトウェアの世界観構築方法の影響が少なからずあるだろう。そして『Elden Ring』のファン創作の動きを見るに、断片的な情報から空想を膨らませる力に長けたファンも多いようだ。
ファンによる独自解釈の産物は、『Elden Ring』のsubredditにて確認できる。投稿者が読んだ小説の一節を「もしもこれが『Elden Ring』での出来事だったら」と再解釈するケースや、もう『Elden Ring』は発売されており何度か周回したという妄想にもとづく「強ボスランキング」を披露する者など。情報の枯渇がファンの想像力をフル回転させている。コメント欄では、「そのボスの評価には同意しかねる」「私なら◯◯をランキングに入れるよ。なぜなら~~」「△△のアイテム説明文を読んでみると~~」といったように、スレッド主の空想文をさらに膨らませていくような返答が見られ、いつの間にかファンメイドの『Elden Ring』観が広がりつつある。
最近では、「クリムゾン聖堂の地下に眠っていた紅の剣を使うことで、傷ついた巨人と会話する場面を描いてみた」という、存在しない設定の二次創作投稿も見られる。コメント欄では「これって、紅の王の宮廷に入る前の場面だっけ?」「ボス戦になると思って、一瞬めちゃくちゃ怖くなったのを覚えているよ。彼がフレンドリーなやつでよかった」「傷ついた巨人のデザインは一目見ただけで気にいったよ。彼の声もいいよね。妖王オスロエス(『ダークソウル3』のボス)の声を彷彿とさせるよ」と、『Elden Ring』はすでに発売されているというフィクションに乗っかりながらも、ゲーム内の様子をイメージしやすくなるような追加情報が足されていっている。
I drew the moment you use the Red Blade from underneath the Crimson Church to access dialogue with the Scarred Giant. from Eldenring
[OC] The Fisherman (Elden Ring art challenge) from Eldenring
「Fake Lore」というタグで検索すると、存在しないゲーム内のあるあるネタをネットミーム化する動きも観測できる。「最後の王が、5段階のボス戦だと気づいたときの僕」といったように、フロム・ソフトウェアの過去作品の傾向から、あり得そうな設定を作るのがひとつのコツ。またredditユーザーのstray_demon氏のように、デイリーでキャラクターや武器のアート、スペル攻撃の仕様説明画を投稿している者もいる。ゲームのワールドマップ型のパンケーキを焼いてみたといった変わったアプローチの投稿も。「Darron the Dwarf」「Glaive Master Hodir」といったキャラクター名や「Serpent’s Fjord」という地名が繰り返し言及され、設定が共有されつつあるのも興味深い傾向だろう。
It makes it twice as sad when he dies at the end though ??? from Eldenring
Gotta say Serpent’s Fjord is my new favorite area in the game. from Eldenring
またredditでは、『Dreams Universe』を使ってファンメイド『Elden Ring』を作ってみてはと提案するコメントも散見される。中には、本当に『Dreams Universe』でコンテンツを作ってみた者もいる。「Elden Ring – Swamp of Ridoh」「Elden Ring – Stonehaven Sanctuary」を作成したUnevenOrb氏がまさしくそうだ。『Dreams Universe』で作られた両作は、狭いエリア内を動き回れるだけの簡易なものではあるが、ファン制作の場としての可能性を示すものではあるだろう。
またreddit内に限らず、賞金付きのコンテストとしてファンアートを募り、「『Elden Ring』のフェイクボス トップ10」として発表するVaatiVidya氏のようなコンテンツクリエイターも現れた。VaatiVidya氏は『ダークソウル』『ブラッドボーン』などフロム・ソフトウェア作品の考察や物語解説を中心とした高品質動画を長年投稿しており、YouTubeチャンネルの登録者数は150万人以上。賞金付きかつコミュニティ内では名の通った人物が主催していることもあって、背景設定やボス戦のシチュエーション案付きのボスデザインが大量に集まった。実際のアートワークは以下の動画にて確認できる。
まだ存在しないゲームについて、ここまで力を入れて創作物を量産するのは、細部にまでこだわり抜いた作品を世に送り出し続けるフロム・ソフトウェアのファン層ならではの現象だろう。未発売ながらも、フロム・ソフトウェアらしさがファンの創造性を喚起し続ける『Elden Ring』。同作の発売時期は未定。2019年の発表時点では、PlayStation 4/Xbox One/PC向けに発売されるとアナウンスされていた。