感染症を拡大させるゲーム『Plague Inc.』が、突如“中国のApp Store”から消滅【UPDATE】

『Plague Inc.』が、中国のApp Storeから消滅したようだ。感染ゲーム『Plague Inc.』は、中国国内でも話題を集めており、良い意味でも悪い意味でもスキャンダラスなゲームではあったが、削除されている。削除したのは誰なのか?

『Plague Inc.』が、中国のApp Storeから消滅したようだ。実際にApp Storeからゲームが消えていることが確認されており、中国メディアが報じている。同作は中国にてリリースされて以来根強い人気があったほか、新型コロナウイルスの存在が確認されて以来、そのテーマ性が話題を呼び有料アプリランキングでは1位に居座ることも多かった。しかし2月27日に入り、急にストアから姿を消したようだ。

『Plague Inc.』は、感染症をテーマとしたシミュレーションゲームだ。プレイヤーは危険な病原体を作り出し、世界を滅亡させることを目指す。伝染病のタイプや感染国を選び、惨事を引き起こすのだ。感染を拡大させる上では、ワクチンという天敵が立ちはだかる。騒ぎにならぬようにこっそりと感染を進めたり、一気に病原体を進化させたり特性を変化させたりと、うまくワクチン開発から逃れながら、頭をひねらせて全人類の感染を目指す。空気感染や液体感染など、設定も多彩。国ごとにも性質が異なり、たとえば発展途上を起点にすれば感染ペースが早まったり、北方のエリアは感染させにくかったりと、ゲームシステムはシンプルながら奥深さを併せ持つ。

『Plague Inc.』は、2012年にリリースされた8年前のゲームながら、唯一無二のテーマ性と新型ウイルスが蔓延する昨今の世界情勢との一致もあり、2020年に入り人気が再燃。Steam版の同時接続ユーザーは過去最高の数字を記録しており、世界各地のApp Store/Google Playストアの有料アプリランキングで上位に。特に新型コロナウイルスの発信源ともいえる中国では、エンタメとしてだけでなく、学習的な面でも同作は注目を集めており、人気を博していた(関連記事)。

しかしながら、ここにきて『Plague Inc.』はApp Storeの有料アプリランキングから姿を消すことになった。続編である『Rebel Inc.』は引き続き配信されており、『Plague Inc.』のみを“狙いうち”されたような状況だ。中国国内からは本作を購入することが不可能なほか、アップデートをしようとすると「開発者はこのアプリをApp Storeから削除しました」という文言が表示されるという。『Plague Inc.』は跡形もなく、中国のApp Storeから消えてしまったのだ。

Image Credit : Baidu

文言から察するに、開発者が自ら削除した可能性もあるが、Apple側が削除したという線も考えられる。というのも、Appleは最近になり中国政府の検閲に協力しつつあるからだ。中国でコンテンツ販売をする上では、中国政府が命じることに従うのが絶対。そうしなければ、商売自体が認可されないからだ。中国国内企業はもちろんのこと、国外企業も中国でビジネスをする上では、政府の突きつけるルールを遵守する必要がある。ほかの大企業としてはGoogleはいちはやく中国市場に参入していたが、政府との折り合いがつかず。現在Google検索エンジンおよびGoogle Playは中国で展開されておらず、膠着状態が続いている。Appleは事業展開のために、中国政府に手を貸しつつある。

一方で中国政府の検閲に協力するAppleの姿勢には株主も懐疑的になっており、今月26日に開かれた株式総会にて、中国政府のインターネット検閲への協力実態を開示するよう求める株主提案が提出されていた。経営陣は招集通知にて「事業を展開する国では現地の法律を順守し、顧客と従業員の安全を守る義務がある」と述べていたが、投資家の懸念は強まっているという(日本経済新聞)。

『Plague Inc.』は、前述したように中国国内でも話題を集めており、政府を皮肉る意味でも親しまれる側面を持っていたりと、良い意味でも悪い意味でもスキャンダラスなゲームではあった。新型コロナウイルスという懸念事項を、話題として拡散させる同アプリの存在を、政府が危惧したという可能性はあるだろう。もしくは、プラットフォーマー側かデベロッパー側が自主規制したのかもしれない。

なお開発元であるNdemic Creationsは、新型コロナウイルスの話題に相乗して『Plague Inc.』の人気が再燃していることに困惑しており、先月には公式サイトにて声明を出していた。『Plague Inc.』は現実的で教育的な意義があり、実生活の深刻な出来事をセンセーショナルにするためのものではないとコメント。『Plague Inc.』はゲームであるとも強調しており、科学的なモデルではなく、新型コロナウイルスは多くの人々に影響を及ぼしている深刻な感染症であると言及。保健機関などから正しい情報を得てほしいと呼びかけていた。その後もTwitterにて、新型コロナウイルスに関する情報発信に尽力している。

Appleは最近では、政府からの審査を受けたゲームに付与されるゲームライセンス取得を、中国向けアプリを制作する開発者に義務付けるように求めるなど(関連記事)、中国のルールに則った動きが見られる。それだけに、『Plague Inc.』の今回の配信中止には、Apple側に疑惑の目が向けられている。国内版やSteam版は引き続き販売されているので、国内ユーザーには無縁な騒動なものの、販売元会社にとっては打撃。Ndemic Creationsは、酸いも甘いも味あわされ、新型コロナウイルスに翻弄されている企業のひとつと言えそうだ。

新型コロナウイルスについては、現在も情報共有が進んでいる。情報が錯綜している側面もあるが、厚生労働省のQ&Aページを見つつ、その都度状況にあった対策をしておこう。

【UPDATE 2020/2/27 21:55】
Ndemic Creationsは2月27日、中国App Storeにて『Plague Inc.』がBAN処分を受けたことを正式に報告した。中国の国家インターネット情報弁公室から、ゲーム内に違法コンテンツが含まれていると判断されたためだという。ゲームはApp Storeから削除され、開発元は対処できない状態にあるとのこと。新型コロナウイルスが原因がどうかはわからないとしながら、ゲームはアメリカ疾病予防管理センターに教育的重要性が認められていると反論。世界の保健機関と連携し、新型コロナウイルスの対処について、可能な限りを手を貸していくとも表明した。

一方で中国でのアプリ再配信にも働きかけていくとも。小さなイギリスのインディースタジオであるが、国家インターネット情報弁公室とかけあっていくそうだ。また中国以外ではなんらゲームの状況では変化していないとも付け加えており、今後も『Plague Inc.』のアップデートや『Rebel Inc.』の運営を続けていくと語っている。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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