中国で販売が禁止されている『龍が如く7』を売るために、売り手は隠語や暗号を使う。背景には“自主規制”の根深さ

 

今月1月16日に発売された『龍が如く』シリーズの最新作『龍が如く7 光と闇の行方』。これまでの主人公桐生一馬に変わり、新たな主人公春日一番が登場し、バトルシステムもコマンド入力式に変更された意欲作だ。この人気シリーズは、ヤクザの人間ドラマの描写や、日本の街を忠実に再現している点、そして豊富かつユーモアあふれるミニゲームなどが評価され、中国でも人気のあるタイトルになっている。

そうしたニーズを汲んだのか、このナンバリング最新作は今回、香港向けの繁体字中国語版が日本と同時に発売された。しかしながら、中国ではこの繁体字中国版(主にパッケージ)が入手困難になっている。なぜならば、この香港向け正規パッケージ版を中国で入手できる“ほぼ唯一の大手通販サイトタオバオ”では、小売業者がこのゲームを売ることが「禁止」されているからだ。販売するにあたって、大々的に禁止する通知などが出されているわけではないが、同作はタオバオで「検索不可状態」にある。事実上の禁止だと言えるだろう。

タオバオで「人中之龙(龍が如くの中国名)」と検索しても、ゲームのフィギュアしかヒットしなかった。一方で、フィギュアが売れているという状況から、『龍が如く』の中国での人気が推測できるかもしれない。

しかし、この「禁止の壁」をかいくぐりゲームを売る方法がある。それはゲームのタイトルを変えることだ。昨年筆者は『バイオハザード RE:2』も中国で販売を禁止されていること(こちらは、明白に販売が禁止されている)を報じた。売り手は、さまざまな工夫をしてゲームを売ろうとしているのだ。

ためしにワードを『龍が如く7』ではなく、このゲームのサブタイトルの「光と闇」へと変更し検索してみると、下記のようにいくつかの商品がヒットした。

この店はゲーム画像にモザイクを加えることで、なんとなくのイメージを伝えている。しかし販売されているのはゲームのダウンロード版のみ。この値段の安さからみるに、おそらくファミリープランのシェアでのレンタル提供かと思われる。
こちらもパッケージ版の販売ではなく、レンタル販売をする売り手だ。本作のゲームデザインに影響を与えているという『ドラゴンクエスト』シリーズを模した画像を使用している。なおこちらの画像については、日本で作成されたパロディ画像が中国で無断使用されたことが濃厚。また商品名は、サブタイトルの「光と闇」ではなく、なぜか「男神异闻录」という名前になっている。中国では『ペルソナ』シリーズを「女神異聞録」と訳す。この「男神異聞録」という名前は、『龍が如く7』のシステムが『ペルソナ』シリーズに似ていることをパロディとしつつ、ゲーム中に勇猛な男たちが登場することをまじえた、なかなかひねりのある名前なのだ。

【UPDATE 2020/1/26 10:50】
画像の参照元について追記
こちらはちゃんとしたパッケージ版であるようだ。なおお店によっては、直接訊いてみると販売してくれるところも。裏メニュー的な扱いなわけだ。

以前の記事でも詳しく説明したとおり、中国では家庭用据え置きゲーム機用のタイトルの多くが、正規に流通されていない状態にある。中国では、正規品のPlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switchが販売されている(される)が、それらのゲーム機に対応する正規品のゲームの発売は、数少ない。その原因はというと、やはり中国政府の審査に関連している。中国でゲームを正式にリリースするために、中国政府からの審査をくぐり抜け、ライセンスを獲得しなければならない。なお中国ではゲームだけでなく、全ての文化的なものに「18+」の年齢規制がなされないため、あらゆるメディアでは、性的なもの、暴力的なもの、宗教的なものおよび中国国家に反するものの出版および流通が禁止されている。それらを破った場合、最悪多額の罰金と刑事裁判に遭う危険性がある。

昨年発生した中国での「言論の自由への妨害」のもっとも厳しい例である、BL同人誌の作家天一氏が、中国のインターネットで炎上し、逮捕された件での裁判。天一氏は十年の懲役刑と10万元(約1576万円)の罰金を科せられた。この事件の奇妙なところは、同人誌を印刷し編集した人々にも、懲役と罰金を科せられた点。

さて、今回の『龍が如く』シリーズが中国のインターネットで販売不可になっている原因についても、ゲームのテーマがヤクザであることやゲーム内容が暴力的であることに起因していると考えられる。しかし、人気シリーズの『龍が如く』最新作のパッケージ版が入手困難になっているのは、ゲームのテーマや内容だけでなく、その外にある問題が関連しているかもしれない。

その原因のひとつとして見られるのは、『龍が如く』シリーズの前作『龍が如く6 命の詩。』での騒動。2016年発売当時、日本の人気俳優の登場により、同作の人気は中国に及んでいた。しかし、中国の主要SNSであるWeiboでは、「世嘉博士苏维埃」(セガ博士ソビエト)を名乗るセガゲームを愛するインフルエンサーが、ゲーム内の一つの「問題」に注目。セガを相手に疑問を投げかけ、そしてWeiboで物議を醸していた。この問題というのは、ゲーム内のあるシーンにて「台湾」を国家として認識する描写があったこと。

『龍が如く6 命の詩。』では、日本と台湾のハーフのキャバ嬢SORAが登場し、主人公の桐生一馬に「台湾という“国”に対し、どういう印象を受けるか」と問いかけるシーンがある。

セガ博士ソビエト氏は、この描写を問題視。「セガブランドが中国内で成長するために、セガを愛する気持ちがあるゆえにファンとして問題提起した」と主張。氏はこの問いかけをしたことについて、ふたつの理由をあげている。ひとつは、台湾が中国に属しているかどうかはまだ議論の最中の話であるがゆえに、むやみに「国」と定義すれば問題になりかねないこと。もうひとつは、セガは中国で多彩な事業を展開しており、これからも拡大すると予想する上で、政治的な観点をゲーム内に入れることによって、中国での事業に影響を及ぼしかねない。そのような懸念をしているようだ。

こちらの投稿はすでに消去済み。

当時、セガ博士ソビエト氏は、以上のメッセージをセガの従業員に伝えようと語り、Weiboで呼びかけていた。ようするに、『龍が如く』シリーズが中国で正式に販売されていないにも関わらず、氏はセガに「自主規制」をすべきだと呼びかけていたわけだ。そして、その呼びかけは、セガ愛ゆえのものであると。そして、こちらの投稿は拡散され、最終的にセガのもとへ届いたようだ。結果的にセガは『龍が如く6 命の詩。』をアップデートし、こちらの「問題」を「修正」した。

アップデート後、SORAのテキストは「台湾という国」ではなく「台湾」だけになった。

この件に対して、プロデューサーの佐藤大輔も「誤解を招く表現であったと判断し、修正対応を行いました」と説明している(サーチナ)。この事件については、中国共産党の機関紙も報道。「愛国主義」の模範的な例であるとして取り上げ、「日本を愛している若者が、日本を中国に謝ることを呼びかけた」というタイトルで称賛した。

しかし、事件は解決されたといえ、“台湾の国”という描写を入れたことによって、「セガは中国を反対し、台湾を支援する」イメージが生まれてしまっているのは事実で、いまだそのブランドイメージは払拭しきれてない。こうした事件も、おそらく新作がタオバオで入手困難になっている原因のひとつであろう。なぜなら、堂々と『龍が如く7』を販売したあかつきには、上記の事件をリアルタイムで体験している(「教育」を受けている)、セガ博士ソビエト氏を支持しているユーザーたち(決して数少なくない)が、この売り手を通報し、刑事沙汰になりかねないからである。

昨年にも、今回のように、「中国国家の権威と利益」を守るために、中国の一部のユーザーたちが海外のコンテンツプロバイダーに抗議し、自主規制を呼びかけるゲースが頻繁に発生していた(関連記事)。いずれも「このままだと中国で商売できなくなるぞ」との威嚇としての意味合いが強い。中国政府による直接的な介入が発生すれば再起は不可能。そうした危機は、いつ、どのように、どんなタイミングで爆発するのがわからない。それゆえに自主規制をせざるをえない。政府の介入も、それを盾に威圧する愛国者らによる自主規制要求も、海外そして中国国内の企業にとって、危険な爆弾になっているのだ。