『No Man’s Sky』開発者、ゲーム発売時につまずいた際の“沈黙”の重要性を語る。EAやBethesdaの対応を例にあげて
『No Man’s Sky』を手がけたHello GamesのCEOであるSean Murray氏は、イギリスのブライトンでおこなわれたDevelop Conference 2019のキーノートにて、ゲームが発売された際に躓いてしまった際に、沈黙を貫くことの重要性を語っている。その内容の一部をGamesRadarが報告している。『No Man’s Sky』は今でこそ持ち直したタイトルの成功例としてあげられるが、発売直後は非常に“ラフ”なものだった。
『No Man’s Sky』は、2016年8月にPC/PlayStation 4向けに発売されたオープンワールド型のアクションゲームだ。プレイヤーは謎の声に導かれ、宇宙の中心を目指して数々の惑星を渡っていく。素材を集めたり建築をしながら宇宙船を強化し、宇宙を冒険するのだ。本作の舞台は広大な銀河。数々の惑星と宇宙がシームレスにつながっており、ロードなしに惑星と宇宙の移動が可能。惑星は1800京以上存在しており、それぞれの惑星には全く異なる生命体や気候が生息しているなど、小規模のスタジオの開発作品とは思えないほどの野心がコンセプトには詰められている。メディアインタビューでは、前述した基本システムだけでなく、惑星の生態系や宇宙の動的なサイクルなどが語られ、大きな期待が寄せられていた。
※ E3 2014のトレイラー
こうした野心的な宣伝文句を前面に押し出しプロモーションがおこなわれていたが、いざ発売されると批判が殺到。メディアに対して語られた要素の多くがゲーム内に実装されていなかったり、宇宙探索のサイクルが単調だったり、コンテンツが根本的に不足していたりと、高まりきった期待に沿うことができず、Steamでは大量の低評価が投下された。6080円というインディータイトルとしては高価な価格もまた期待を引き上げ、そして落胆を強めた。さらには、Steamストアのスクリーンショットや発売前に公開されたトレイラーと、実際のゲームの映像が異なるとし、返金騒動にまで発展していた(関連記事)。
ディレクターであるSean Murray氏は、発売当初はTwitterなどで投稿をしていたものの、批判が強まるにつれて沈黙し始め、その沈黙は3か月にわたって続けられた。積極的につぶやき始めたのも、いくつかの大型アップデートが完了し、“つぶやきやすい”ムードになってから。Murray氏は、コミュニティとの対話を3か月しなかったことや2年メディア対応をしなかった当時を振り返っている。
“メディア対応は2年受けませんでしたし、3か月コミュニティには何も言いませんでした。(コミュニティに言わなかったことは)とてもハードでしたね。当時は、公式ブログにゲーム開発やロードマップにまつわるすべてを説明する完璧な記事を何度も書こうとしましたが、私達のいた立ち位置を考えると、信用できないだろうと思ったんです。”
『No Man’s Sky』だけでなく、さまざまなタイトルが配信時のつまずきを経験している。たとえばEAの『Anthem』やBethesda Softworksの『Fallout 76』などがその際たる例だ。こうした逆風を受けるメガパブリッシャーが、コミュニティと対話を試みながらも批判されるような例を見て、Murray氏はあらためて“沈黙”の重要性を説いている。
“たくさんのゲームが発売され、賛否両論のローンチを迎え、たくさんの議論がかわされてきました。EAやマイクロソフト、Bethesdaが対話によってプレイヤーをなだめようとしてきたのを見ましたが、それが正しくとも間違っていようとも、あまりうまくはいかないんです。大きなパブリッシャーたちがコミュニティと対話し、問題を解決しようとし、そして混乱し、余裕がなくなっていくのを見たでしょう。実装の準備ができていないことを話しても、信用されないし興味を持ってもらえません。何を言うかではなく、何をするかが非常に重要なんです。”
Murray氏の語る「論より証拠」は、『No Man’s Sky』が発売され批判されている時から貫かれているモットーだ。Hello Gamesはゲームが発売され批判の真っ只中にある9月頭に、『No Man’s Sky』サポートチームの新設や無料での改善と拡張を予告していた。その時にも「言うこと」ではなく「やること」が重要であると強調していた(関連記事)。どれだけうまく対話しても、コンテンツが伴わなければ関心も信用も得ることができない。そうした氏の哲学が垣間見える発言だ。
一方で難しいのが、メガパブリッシャーはHello Gamesとは異なり、パブリッシャーとしてのブランドを守らなければならないこと。『No Man’s Sky』だけを運用するHello Gamesとは異なり、EAやBethesdaは複数のタイトルを抱え発売し、パブリッシャーとしての信用を守っていかなければならない。沈黙をすることで、発売を控える他タイトルに対する疑念が集まることは想像に難くない。現に『Anthem』は、スケジュール通りにアップデートが進んでいないことに加えて、BioWareスタッフの対話が減少していることが不満としてあげられている。同コミュニティでもこのMurray氏の発言は取り上げられており、やはり否定的な意見が散見される。
ただし、Murray氏も沈黙を積極的に推しているというより、「正しくとも間違っていても、うまくいかない」としているように、雄弁に何かを語って問題を起こし労力を使うぐらいなら、アップデートを推し進めるべきだと言っているのだろう。消極的な意味合いで「沈黙」が推されているといえるかもしれない。
Game as a Serviceの浸透やSNSなどによりユーザーと開発者の距離の接近に伴い、ゲーム展開においてはコミュニティの声は無視できない時代にある。一般的には、コミュニティとの対話においては、迅速で丁寧な対応が求められるが、問題の原因が「コンテンツ」にある場合、コンテンツがリリースされなければ根本的な解決には至らない。コンテンツが出るまで沈黙するのか、出てない状態でもある程度納得してもらえるように対話するのか。特に運営型のゲームにおいては、こうした対話のあり方は、今後も重要な課題になりそうだ。