中国政府がeスポーツ選手を正式な職業として認める。支援と締め付けの両方を受ける中国eスポーツ産業のジレンマ

今年の4月1日に、中国の人力資源と社会保障部(日本の厚生労働省に相当する国家機関)が新たに13の公認職業を発表した。その中に、eスポーツ運営者とeスポーツ選手も含まれていた。これによって、ゲームに直接に関係ある職業が初めて中国政府に認められた。

 

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公務員に近い扱いに

この発表文の説明によると、すでに社会にてある一定規模の従業者数に達し、しかも比較的に独立かつ成熟した専門知識を必要とする職業が、上記のように「国に認められた」職業として認定される。また、このような承認が行われることによって、政府にとっても人材育成の支援、関係ある産業への研究と政策の定立、またはデータ収集に役立つと解釈されている。ちなみに、日本政府も標準職業分類を作成している

また、アメリカ、日本などの多くの国と違って、中国スポーツ選手のほぼすべてが国に属している、いわば公務員に近い立場にある。国からの教育とお金を得てアスリートとして成長し、その成果もすべて国の名誉になるという考えが一般的である。今回の件も、国が正式的にeスポーツ選手の育成に着手するための準備になるかもしれない。なお原則的に国のスポーツ体制から離脱することは許されない。テニス選手の李娜(リー・ナ)の境遇を見ればわかる。2002年当時、途中脱退が原因で彼女のキャリアが中断された事例がある。

これでゲーム産業、特にeスポーツ産業は、ある程度中国政府に承認された立場になると認識していいだろう。データを見ると明白だが、2017年には、eスポーツ産業の収益は772.8億人民元(約1.27兆円)に達し、中国ゲーム産業の三割以上を占めていた。2018年中国のeスポーツ産業の収入は880億人民元(約1.45兆円)に達していると予測される。この収益は、主にゲーム自体、ゲーム実況、eスポーツイベントなどからのものである。また、eスポーツの市場規模が4.3億人になると予測されており、過去3年では主に20%の成長率を保っていたという。

2016年中国の人気ゲーム『王者栄耀』の公式プロリーグKPLの様子 

 

右肩上がりの中国eスポーツ産業

中国のプロゲーマー選手たちも国際大会で良い結果を残していた。2018年中国のチームは、国際大会で8つも世界チャンピオンの座を奪った。中でも、アジア最大のスポーツの祭典「第18回アジア競技大会」にデモンストレーション競技として初めて登場したeスポーツ部門では、中国のチームが『王者栄耀』と『リーグ・オブ・レジェンド』で計2つの金メダルを獲得した。これらの試合は中国で公式的にライブ配信することが禁止されていたものの(理由は後述)、Twitchなどの海外配信プラットフォームでは400万人程度の視聴者が観戦していたと報告された。その7割が中国のユーザーであり、その大半のユーザーは観戦するためだけに初めてTwitchを使ったようだ。ちなみに、アジア大会で多くの中国ユーザーがTwitchを使ったことで、この世界最大のゲーム配信プラットフォームは、後ほど9月下旬に中国政府によってブロックされた。中国国内ではアクセス不可の状態になり、Twitchのアプリも中国のApp Storeからダウンロードできなくなった。

中国チームが『王者栄耀』のチャンピオンを獲ったときの様子

日本と違って、中国のゲームといえばPC、モバイルなどを使って競技をするオンライン対戦型ゲームが圧倒的な主流だ。多くの中国ゲーマーは、コンシューマーゲームどころか、一括でお金を払い、エンディングまで遊び、または一人で遊ぶゲームの存在を知らない。eスポーツの種目になるゲームが、中国で膨大な人気を得るのもおかしくないだろう。

中国のeスポーツ大会の注目度も極めて高い。2017年の『リーグ・オブ・レジェンド』ワールドチャンピオンシップの決勝戦が北京の国家体育場で開催された際には、イベント会場には4万3000人の観客が集まり、この試合の再生回数においては、1億6千万を超える動画も出たという。政府も、中国国内のeスポーツ産業に好意的な立場をとっている。本稿の冒頭に記述した「正式的な職業として認める」という姿勢のほか、イベントの開催、人材の育成、財政からの支援などさまざまな側面から産業としてのeスポーツを支えた。 

2016年から、政府の提唱に応じて、多くの大学および専門学校がeスポーツ専攻を設置し、eスポーツ選手、解説者などを育成中。さらには、マネジメントに関係する課程も開設された 。また、地域活性化も兼ねて、中国政府は貧困地域に「eスポーツタウン」(中国語:电竞小镇)を建設し、選手の訓練場、大会の開催スタジアム、eスポーツ企画の発信地などを作ろうとしている。国際大都市上海も、「グローバルeスポーツキャピタル」を目指して、ゲームを作る、eスポーツの配信を運営する会社の支援などが行われている

「eスポーツタウン」忠県に建設中のスタジアム

 

ゲームを締め付けるという矛盾

しかし、中国政府はeスポーツ産業に力を注ぐ一方、ゲーム産業自体には好意を示していない。中国共産党の機関紙「人民日報」が、最近まで、定期的と言っていいほど頻繁に「ゲームは精神的なドラッグ」と訴えかける社説を発表していた。最近はそうした言動は徐々に見当たらなくなりつつあるが、一方で「青少年の健康と視力を保護するため」という理由で、ゲームを制限するように輿論を導いている。また、2016年からゲームのリリースに政府から審査を受けライセンス認定を受けなければならないという条例がくだされ、2018年は説明もなしに9か月間もライセンスの発行を一時中止し、中国のゲーム産業に莫大な損失を与えた。前述したアジア大会にてeスポーツのライブ中継が禁止された理由の一つも、当局から「未成年を守るために、未成年を相手にしたゲームの宣伝、紹介は禁ずる」規定があるためである。もう一つの理由は、当時第18回アジア競技大会のライブ中継権利はすべて中国中央電視台(中国の国営放送テレビ局)にあり、他のすべての配信プラットフォームのライブ中継は許されないからだ。

中国政府がeスポーツ産業を育てたい意向が明確になったとはいえ、eスポーツ分野で人気のあるタイトル『フォートナイト』『PUBG』は現時点では中国でゲームライセンスがないゆえに正式的な運営ができていない事実からも、中国のeスポーツ産業の未来には不確定要素が多いと感じるだろう。

余談であるが、中国にてeスポーツは女性にも非常に人気がある娯楽だ。eスポーツをテーマにするウェブ小説「全職高手」の人気ぶりも影響してか、実は女性向けの成人小説、漫画にもeスポーツが登場しており 、ものすごく人気があるジャンルの一つになっているのだ。プロゲーマーという職業は、中国の女性にとって魅力を感じるポイントのひとつになりつつある。

eスポーツを題材にしたドラマ 『全職高手』のポスター。主演は中国で人気のイケメン俳優楊洋だ。

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