『モンハンワールド』は“世界”へと羽ばたけるか。海外で高まり続ける期待の理由を読み解く
ついに1月26日に『モンスターハンター:ワールド(以下、モンハンワールド)』が狩猟解禁を迎える。国内では長年屈指の人気を誇るタイトルであるが、実は今作においては海外でも特に盛り上がりを見せていることはご存知だろうか。PC GamerやPolygon、KotakuやGameSpotといった海外の大手ゲームメディアがこぞって特集記事を組んでいるほか、大手メディアだけでなくRock, Paper, Shotgunのようないわゆるコアゲーマー向けメディアも熱心に『モンハンワールド』の動向を取り上げている。
盛り上がりを見せているのはメディアだけではない。たとえばAmazonのビデオゲーム部門における売上ランキングでは予約段階にて一時的ながらパッケージ版がアメリカ、イギリス、ドイツで1位を獲得している。ゲーム動画配信サイトTwitchでは、約75,000以上の数の動画が投稿されていた。ベータにおいては、全世界におけるプレイ時間が1000万時間を突破したと公式Twitterより報告されている。1月19日までに開催されたすべてのベータをあわせた時間報告ではあるものの、ひとり10時間遊んだとしても100万人のプレイヤーが参加したことになる。国内だけでなく全世界で遊ばれている証拠としては十分だろう。このように、本作品に対する海外ゲーマーの注目度の高さが伺える。
The Guild reports are in: #MHWorld Beta on PS4 has been played for over 10 million hours! 😮
Are you ready for the Final Beta? https://t.co/nBNM5Rt3XD pic.twitter.com/jOBsJN8NzA
— Monster Hunter (@monsterhunter) January 18, 2018
国内外で温度差があった携帯機時代
それでは、『モンスターハンター』シリーズにおけるこれまでの海外の売り上げを端的に振り返ろう。たとえば『モンスターハンター ポータブル3rd』は2017年9月のカプコンの公式発表において、全世界売り上げは490 万本と記録されている。同作は発売1か月時点で国内向けに400万本出荷したと報告されていた。のちに売り上げが伸びたことを考えても、その大部分が日本のものであると考えられる。またナンバリングタイトルの『モンスターハンター4』に至っては海外向けに発売されていない。ただ、『Monster Hunter 4 Ultimate』として発売された『モンスターハンター4G』は欧米向けの出荷100万本を達成したことをカプコンが報告している。徐々にファンベースが生まれてきているものの、長きにわたり海外における『モンハン』人気は、日本とは異なり一部のファンに支持される静かなものだったといえるだろう。
では海外においての『モンスターハンター』のゲーム自体の評価はどうなのだろうか。GameRankingsやMetacriticといった海外の大手ゲームレビュー集積サイトに掲載されている歴代『モンハン』の評価は良くも悪くも“作業的”という点で一貫している。例えばIGNは『モンハンX』(海外版ではGENERATIONS)のレビューにて『モンハン』のゲーム性を「The endlessly rewarding loop(無限の報酬のループ)」と表現している。同じモンスターに何度も立ち向かい、素材を入手し、装備を整え、更なる強敵の元へ向かう。明確なストーリーラインは無く、誰かと何かを競うでもない。ひたすらにトライ・アンド・エラーの繰り返し。この『モンハン』の醍醐味であり根幹とも言えるゲームシステムは海外メディアにとって万人受けするとはいえず、結果的に人を選ぶこととなった。
その評価はどのシリーズのレビューにおいても変わらず、たとえばMetacriticで『モンハン3』に10点中10点の評価をつけたあるユーザーはレビュー内で「本作はモンスターを如何に効率よく倒せるかのパズルだ」と語っており、楽しみ方を見出しているユーザーとそうでないユーザーとでは評価が分かれていたわけだ。ではなぜこれまで海外では「人を選ぶ」とされていた『モンハン』最新作が発売を前にして、目に見える形で盛り上がりを見せているのだろうか。弊誌はメディアやパブリッシングに携わる欧米出身のゲーム関係者複数名に、『モンハンワールド』が盛り上がりを見せている理由をたずねた。そうした回答を踏まえて注目度が高まっている理由を考察していく。
過去から学んだ展開手法
先ず要因の1つ目としてあげられたのが、据え置き型家庭用ゲーム機をメインに据えたマルチプラットフォーム展開だ。『モンハン3』以降、これまでの『モンハン』は据え置き型ではなく携帯機に対応したシリーズを中心に展開していたが、そもそもとして海外では携帯型プラットフォーム自体が売れていなかったという現状があった。海外は車社会や自転車通勤がメインな地域が多く、日本のように時間つぶしの為にわざわざゲーム機を持ち運びするという習慣があまりないと関係者のひとりは語る。
その現状は数字としても現れており、特に国内では数百万本売り上げていた「ポータブル」シリーズを遊ぶために必要なPSP(PlayStation Portable)が同時期に発表されたiPhoneなどのスマートフォン、日本から数年遅れて流行が始まったニンテンドーDSに押され、海外での売上があまり伸びず普及もしなかったのだ。アメリカの調査会社Flurryの報告によれば、ポータブルシリーズが国内で全盛を誇っていた2010年まで、PSPはアメリカの携帯ゲーム機市場において10%のシェアしかなかった。その後プラットフォームを3DSに変えた後、試行錯誤を続けファンベースを固めていくこととなる。そして今回『モンハンワールド』はPS4/XboxOne/PCという一定数普及している据え置き型プラットフォームで発売される。この決定によって、これまでの『モンハン』ファンのみならず、新規層の注目を集めることに成功しているという。
次の要因として考えられるのは、最初から「海外市場を意識した作品作り、PR展開を行っていること」だ。先ず「海外市場を意識した作品作り」という点に関してだが、前述した関係者によれば、これまでのシリーズとは異なる美麗なグラフィックがより“大作”であることを感じさせるという。欧米においてはダイナミックな映像美と、ゲームプレイにおける自由度の高さが評価点としてあげられやすい。映像美に関してはトレイラーを参照すれば、その素晴らしさを否が応でも伝わってくるし、自由度の高さも今作からマップにオープンワールド的な要素を取り入れたことでクリアしている。「個性豊かな調査団のメンバーとして災害をもたらす古龍を追う」というこれまでになかったキャラクター性の強い明確なドラマもストーリーテリングを強化する要素のひとつとしてカウントできるだろう。しかし、ただ欧米のゲーム文化に最適化しただけではここまでの注目は得られてはいない。シェアによるユーザーコミュニティの拡大も理由としてあげられるだろう。
新たなコミュニティの開拓
具体的にはゲーム実況だ。いまやゲームを語るうえではゲーム実況はプロモーションの手段としても無視できない。自分のゲームプレイを撮影し共有、もしくはプレイの模様を生放送するという行為は、SNSや動画投稿サイトが普及した現在において最早あたりまえのように行われている。そして『モンハン』というゲームはトライ・アンド・エラーを遊びの主軸に据えたゲームだ。同じ敵を倒すにしても100人いれば100通りの倒し方が存在するのである。自由度が高い『モンハンワールド』であればなおさらのこと。自分のプレイ動画をネットに公開すれば、それを観たユーザーが「自分ならこうする」と新たな動画を公開する。シェアの流れを生むことが、新たなファンコミュニティの開拓を促し、ひいてはプロモーションにもつながるだろう。
ベータ版段階の現在では国内版パッケージの表紙にも描かれた本作の看板ボスモンスターである「ネルギガンテを如何に早く討伐するか」といった投稿がにぎわっており、松明弾の固定ダメージを利用することで討伐に通常15分ギリギリかかるところを2分36秒で達成するソロプレイヤー、さらにそれを1分上回る猛者達が登場するなど、熾烈なタイムアタックが勃発している。かつて我々が携帯機を持ち寄り、狩猟に勤しんでいたあの光景が世界規模で行われているのである。もともと『モンハン』においてはタイムアタックによる競技性も注目されていたが、そのプレイがグローバルかつ映像としてシェアできるようになったという点も見逃せない。
海外市場を意識したプロモーション展開も熱心だった。たとえばEurogamerが掲載したプレイレポートでは最下部に「この記事においてはカプコンに大阪オフィスまで招かれ、旅費と宿泊費を負担してもらい取材しました」との一文を掲載している。その手法については各々の感想があるかもしれないが、発売の半年前から影響力のある海外メディアに対し積極的なアプローチをはかっていることからその本気度がうかがえるだろう。またプラットフォームの幅を広げたことで、前述したようなPC GamerやRock, Paper, ShotgunといったPCゲームを扱うメディアでも『モンハンワールド』に関する情報が報じられるようになった。各前述したメディアにて「Monster Hunter」と検索をかけるだけで大量の記事がヒットするだろう。
それだけ海外メディアに取り上げられているという証左であり、これまでのシリーズと比較すると、メディアにて姿を見せる機会は格段に増加している。さらにデモともいえるベータを数回に分けて実施することで、露出機会を増やしプレイヤーに触ってもらえる機会をも増やした。ここまでの段階でいえば、大型タイトルのプロモーションとしてはモデルケースとも呼べる鮮やかなものだと言わざるをえない。
このように『モンハンワールド』が海外から多大な注目をあつめることとなったのは、これまでの失敗を踏まえ、欧米中心の市場に成長している昨今のゲーム業界を意識した作品作りとPR戦略を丁寧に遂行したカプコンによる努力の賜物と言って他ならないだろう。しかしながら、本作が真に良作として世界に認められるか否かはゲームそのもののクオリティにかかっていることを忘れてはならない。昨年は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『ペルソナ5』『ニーア オートマタ』といった国産のゲームが世界から輝かしい評価を得た年だった。はたして『モンハンワールド』はこの流れを引き続き2018年に持ち越せるのだろうか。今年も国産ゲームによる良いスタートダッシュが切れることを願い、期待に胸を膨らませるばかりだ。