Steamサイバー東京殺し屋ゲーム『Tokyo Underground Killer』、好評だし東京だし大阪のスタジオ(ドイツ人CEO)だし、とにかく要素が多すぎる。何がどうなって生まれたゲームなのか?

近未来の東京を舞台とする殺し屋アクションゲーム『Tokyo Underground Killer』を手がける大阪スタジオの、ドイツ出身CEO兼ディレクターに話を訊いた。

パブリッシャーの3DM GamesとGone Shootinは9月5日、フェニックス・ゲームプロダクションが手がける『Tokyo Underground Killer』をPC(Steam)にて配信開始した。

本作の舞台となるのはネオンが輝く近未来の東京で、「新宿ヴァンパイア」として恐れられる暗殺者コバヤシとなり、日本最大の犯罪組織「ゴクラク」のもとで裏社会を暗躍する。血を浴びながら敵を斬り伏せるスピード感が持ち味の一人称視点の3Dアクションゲームであり、さっそくユーザーレビューで好評を集めている。

そんな本作を手がけるフェニックス・ゲームプロダクションは、大阪に拠点を置くスタジオだ。CEO兼本作ディレクターであるDaniel Hedjazi(ダニエル・へジャージ)氏はドイツ出身で、国内の有名ゲーム会社での経験を積んだのちにスタジオを設立し、本作を手がけている。個性的なゲーム内容もさることながら、開発元にも興味が湧くところ。今回は同氏の人物像や本作の開発秘話について話を伺った。

Daniel Hedjazi氏

── 自己紹介をお願いします。フェニックス・ゲームプロダクションはどんなスタジオなのでしょうか?

Daniel Hedjazi氏(以下、Daniel氏):
「捻っている」「尖っている」「拘っている」という3本柱を制作のコアとしてフェニックス・ゲームプロダクション(以下、PGP)を大阪で設立しました。小さな規模の会社ですが、わりと業界経験の長いベテランもいて「既成概念を破壊する」というゲーム制作のスタンスのもと、制作の最後まで拘りたいクリエイターが集まっています。

弊社は設立時、カプコンさんの『BIOHAZARD RE:4』等のタイトルに協力させて頂きましたが、現在、ほぼ各セクションが社内に揃っており社内でオリジナル及び受注ゲームの開発を行っています。

僕自身はドイツ出身ですが、10代の頃から日本で開発されているゲームがすごく好きです。ゲーム以外にも、日本の漫画、映画、音楽等が好きです。いずれも結構個性がある作品が好きですね。グラスホッパー・マニファクチュアさんの『killer7』やクローバースタジオさんの『ゴッドハンド』とか。当時からそうしたスタジオのようなクリエイティブな環境で物作りに専念したいと思っていました。

2012年に日本に引っ越し、サイバーコネクトツーさん、そしてプラチナゲームズさんで仕事をさせて頂きました。日本の会社で働くことに慣れることから始まりいろいろありましたが、その経験があったから最終的に2019年に大阪でPGPを設立できました。

── 大阪を拠点にしていらっしゃるのですね!『Tokyo Underground Killer』は近未来の東京が舞台ということで、あえて大阪ではなく東京にした理由はありますか?

Daniel氏:

ドイツのド田舎から来た自分が、20代の頃に初めて東京に行った時の刺激をゲームに落とし込みたかったからです。色々な夢がある反面、その裏に深い闇も潜んでいる都会を描きたいと思いました。また、大阪は拠点だからこそ東京に引き続き夢や憧れを持っていました。とはいえ、大阪を舞台にしているゲームも作りたいと漠然と思っています。もし、いつか機会があれば。

── 本作は戦闘ばかりではなく、近未来の新宿の街を探索したり任務で稼いだお金を使ってミニゲームを楽しんだりできますね。どのようなゲームサイクルで、どのくらいの自由度があるのでしょうか?

Daniel
氏:
ミッションをクリアすると歌舞伎町にあるアパートに戻り、嫌いな上司から次の任務の説明を受けます。任務を開始する前に自由に歌舞伎町を探索して、夜の街を楽しむことができます。複数の施設で遊べますが、それぞれ違う役割があります。ホステスクラブで出禁客に対する用心棒ミッションをしたり、アーケードでバーチャルミッションを遊んだりする事でお金を稼げます。本作の世界では、認定暗殺者は地下鉄に乗車する時に特別な乗車料金(賄賂)を払わないといけないので、次のミッションに行く為にちょっとお金を溜めないといけないですね。

他に本格的なパチンコやクレーンゲーム等もありますし、アパートに集めたコレクションを飾れる専用スペースがあるので、自分好みにCDやフィギュアを買ったりしてカスタマイズする事ができます。

── 本筋とあわせると開発が大変そうですが、あえてそうした要素を採用された理由はなんでしょうか?

Daniel
氏:
ブラック企業で働いているサラリーマン風殺し屋のイメージはストーリーのコンセプトでしたので、主人公が忙しい仕事の中で少しでもヲタ活等で何とかプライベートもカバーしようとしている日常を再現したいと思いました。

その目的で、本当に最初に企画書を書いた段階からハブの遊びを入れる予定でした。極端に言いますと、この遊びがないと『Tokyo Underground Killer』ならではの世界観を成立できないとさえ思います。

── ここまでお伺いするだけでも、要素が多彩なゲームという印象です。逆に本作でDanielさんがイチオシのポイントをずばり教えていただけますでしょうか?

Daniel氏:

レベルアップできる刀の戦闘はもちろん遊びの要ですが、それと「ブラッドスキル」システムと刀を使った戦闘のサイクルがやっぱり楽しいです。ブラッドスキルは、血の力で発動する特技ですね。敵の体力を奪ったり、敵のアーマーを一発で破壊したり、敵の弾を空中で止めたりする事ができます。

ブラッドスキルを発動する為には血が必要なので、敵を倒し血を入手してブラッドスキルを使うサイクルになります。また、ブラッドスキルを発動した直後、「ブラッドレフィル」という要素でタイミング良くUIの表示にあわせてブラッドスキルボタンを押すと、すぐに血が回復し、またブラッドスキルを使える遊びもあります。この操作に慣れると、テンポ良くブラッドスキルと刀技を繰り返して使えるのでかなり強くなります。

── なるほど。ハイスピードに立ち回るゲームですが、もっとも影響を受けたゲームは何でしょうか?

Daniel氏:
ゲームでは、『Hotline Miami』、『No More Heroes』シリーズの熱い世界観はやっぱり衝撃的で、センスがかなり気に入っているので自然に影響を受けたのではないかと思います。また、割と映画から影響を受けましたね。「殺し屋1」、「Enter the Void」などです。

── どこに一番そうした作品の影響が表れていると思いますか?

Daniel氏:
やっぱり『Tokyo Underground Killer』の独特な世界観、バイオレンスの表現やハブのやり込み要素については影響を受けていると思います。また、特定のゲームを意識して作った訳ではないですが、ゲームを遊んでくれたユーザーから「グラスホッパー・マニファクチュア風のFPSだ」と好評の声がありました。

以前イベントで本作を出展した際、グラスホッパー・マニファクチュアのTシャツを着たファンたちがPGPのブースを訪れてくれて「まるで同じ家族のように感じられる」と言ってくれました(笑)それを狙って作った作品ではなかったですが、僕も弊社のスタッフもグラスホッパー・マニファクチュアさんの作品をとても尊敬しているので、そう言ってくれて嬉しかったです。

── それとは別に、Danielさんが一番好きなゲームがありますか?

Daniel氏:
悩ましいですね。季節によりますね。春は『大神』、夏は『ジェットセットラジオ』、秋は『サイレントヒル2』、冬は『killer7』ですね。

── 本作ではいわゆるエセ日本ではないちゃんとした東京らしさもありつつ、よく見ると変な看板があったりと尖った世界観が表現されていますね。なぜこのような絶妙なバランス感になっているのでしょうか?

Daniel氏:

まずは東京の繁華街のエッセンスをしっかり再現したいと思い、その為に現地の実際の建築や歌舞伎町にあっておかしくない看板をベースとして作りました。その上で本作の世界でしかあり得ない狂気的な表現をあえて入れ込みました。ルールとしては、ただ単に思い付いた設定ではなく、ユーザーに気になってもらえるような要素を採用しました。例えば「電撃の和牛」という看板が出てきますが、「電撃と名付けられた和牛ってどんな和牛?それってどんな味?」と気になるんですよね。開発現場では色々なアイデアを出したり、議論したりしました。


── ちなみに過去のインタビューからチームにはさまざまなルーツの方がいらっしゃるとお聞きしました。スタッフさまのご出身はどのような内訳になるのでしょう?

Daniel氏:

現在、割合的に日本人のスタッフの方が多いですね。外国籍のスタッフは、インドネシア、フランス、イタリア、ドイツのスタッフがいて割とにぎやかな感じです。弊社が作っているゲームは日本を舞台にしていることが多いので、日本人のスタッフが自身も日本のユーザーも納得できるようにクオリティラインをチェックしています。

── 日本人の方もいらっしゃるのですね。今回のインタビューも日本語でお答えいただいておりますが、スタジオでは何語でやり取りされているのでしょうか?

Daniel氏:
基本的に日本語です。会社の全体会議や社内アナウンス、プロジェクトの朝礼も日本語ですし、もちろんプロジェクトの仕様書等も全部日本語で作成します。なので、外国籍の方の採用条件としては、ある程度の日本語を話せること、また、入社後も前向きに日本語を継続して習得していきたいという方を採用条件とさせて頂いています。もちろん外国人スタッフ同士のカジュアルな会話が英語であったりして、あっちこっち飛び交う事が普通にあります。

── 日本語必須なんですね!日本人も働きやすそうな環境ですが、日本人向けにスタッフ募集などもされていたり?

Daniel氏:

はい。日本人の方に英会話の採用条件は特にありません。

今はすでに新しいプロジェクトの開発が始まっており、次のプロジェクトの下準備にも入っていますので、弊社のゲーム制作スタンスのもと、制作の最後までこだわったPGPの尖ったゲーム作りに一緒に参加してみたいという、熱意のある仲間を募集しています。特にコンシューマーでのアクションゲーム開発経験があるプログラマーや企画、漫画風アートも描けるコンセプトアーティスト、UIデザイナーを募集しています。もう少し会社の規模を大きくしていければいいなと思っています。

<フェニックス・ゲームプロダクション採用ページ>

── スタジオ規模拡大も狙っていらっしゃると。ちなみに野心とは裏腹に『Tokyo Underground Killer』は1480円とリーズナブルな価格設定ですが、この価格に決めた理由は何でしょうか?

Daniel氏:

かなりリーズナブルな設定にしました。開発期間が6年と長かったことや、オリジナル第一弾なだけに会社的にもクオリティラインにこだわって作り込んできましたので、社内でも「この値段で本当にいいのか」という声も多くかなり悩みました。これからもこのような価格でゲームをリリースすると、流石に会社をたたむことになりますのでなかなか出来ないと思います(笑)

ただ、今回オリジナル第一弾タイトルですし、まずはできるだけ多くのユーザーに弊社の事を知っていただき、手に取って試していただける機会になればいいなと思いました。PGPならではの世界観を少しでも多くの方に届けたいと考えていますので、今回は特別に1480円の価格にしました。PGPの世界への初売りお得券だと思って頂ければ幸いです(笑)

── 第一作だからこその大盤振る舞いなんですね。最後に読者へのメッセージをお願いします。

Daniel氏:
『Tokyo Underground Killer』は、細かいところまで拘って作った僕らの6年間の情熱を込めた作品です。主人公コバヤシの物語を、フルカラー100ページほどの漫画ページでゲーム中に演出し、25人以上のプロの声優さんで日本語のフルボイス対応をしています。なんと、レジェンド声優の柴田秀勝様もコバヤシの恐ろしい組長として素晴らしい演技をして頂きました。その他の声優陣の方々も、本作の世界観にぴったりと合ったお芝居で、このゲームにリアルな命を吹き込んでくれています。秋葉原、浅草やお台場など、東京の本当にある様々なエリアを参考に本作ならではのスタイルで作り込みました。

パブリッシングパートナーの3DM GamesさんとGone Shootinさんも一緒に『Tokyo Underground Killer』の独特の世界観に拘って頂き、重要な所で細かくフィードバックして頂いて最後に皆が力を合わせたおかげで、PGPの夢の世界であるネオン東京のビジョンを無事発売できたと思います。今回、価格もかなりお得にしていますので、是非、ネオン煌びやかな東京のアンダーグラウンドの世界観に没入して頂ければ幸いです。

── ありがとうございました。

Tokyo Underground Killer』はPC(Steam)向けに発売中だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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