Steam好調の理由は「既存ゲーム研究」「コンセプト一貫」にあり。ローグライト+工場ゲーム+TDの全部盛り『ShapeHero Factory』開発者に訊いたこれまでと今後
アソビズムが11月6日に早期アクセスを開始した、工場建設ローグライト『ShapeHero Factory』。「工場建設」「タワーディフェンス」「ローグライト」の3ジャンルを組み合わせた意欲作で、工場を建設し、そこで生産した兵士ユニットをタワーディフェンスバトルに投入し、敵を退けることでゲームが進んでいく。工場建設というジャンルは腰をしっかり据えてじっくり挑まなければいけないタイトルも多いが、本作では1プレイにかかる時間は短め。工場建設ゲーム初心者にもおすすめの、噛めば噛むほど味がするタイトルである。
本作は今年5月末に体験版をリリースして以降、ユーザーのフィードバックを見つつ体験版のアップデートを繰り返し、早期アクセスに至ったかたちである。Steamでの評価は本稿執筆時点で全404件のユーザーレビューの92%が好評とする「非常に好評」、最近のレビューでは142件中の95%が好評とする「圧倒的好評」を叩き出しており、着実な評価を獲得している。
弊誌では早期アクセスから2か月弱のこのタイミングで、本作ディレクターのmamiya氏と、マーケティング担当の井上清勝氏へのインタビューを実施。『ShapeHero Factory』制作秘話や、今後の展望を伺ってきた。本作が気になっている方も、遊び尽くした方も、mamiya氏の熱意が垣間見えるインタビューとなったのでぜひお読みいただきたい。
―― まずは自己紹介をお願いいたします。
mamiya氏:
『ShapeHero Factory』でディレクターをしております、mamiyaと申します。アソビズムの前作『ビビッナイト』ではプログラマーでしたが、『ShapeHero Factory』では企画からゲームデザイン、ディレクター業務など幅広い部分を担当しました。本日はよろしくお願いいたします。
井上氏:
海外メインのマーケターとして『ShapeHero Factory』を担当しました、井上と申します。前作『ビビッドナイト』がSteamで 非常に好評を得たことをきっかけに、今後も海外展開を広げていくためにアソビズムに参加しました。英語圏をはじめ中国やEUなど、 各地域に向けたデジタルマーケティングや、海外ゲームショウでの商談を通じて、各地域のPR会社さんとの交渉全般を任せていただいております。
―― 早期アクセス開始から2か月弱が経ちました。手ごたえのほどはいかがでしょうか。
mamiya氏:
『ShapeHero Factory』の早期アクセスはまだまだ始まったばかりですが、配信プレイや動画をアップロードしてくださる方も多く、上々の滑り出しと言っていいのではないかと思っています。自分はユーザー目線だとかなり“買い控え”をする方なんです。それでもこの時期に多くの方が遊んでくださって、なかには1週間で100時間以上……1日に10時間以上も遊んでいる方もいて驚きました。早期アクセスということでまだまだ未完成な部分もありますが、熱量のあるプレイヤーが多くて嬉しい限りです。Steamでも高い好評率をいただいていますしね。
井上氏:
国内だけでなく、海外市場でも間違いない手ごたえを感じています。今回は中国へのマーケティングにも力を入れて、微博やbilibili動画で活動されている現地のインフルエンサーの方々にもアプローチをしていきました。その甲斐あって、中国圏でも多くの動画がアップロードされていて、面白いゲームさえ作れれば未知のマーケット領域でも反響があるのだな、と感動しました。
*中国インディーゲームイベント「We Play EXPO」 の様子
実は中国へのアプローチに至るまで、PAX Australiaや台北ゲームショー、 BitSummitやTGSを回り、最後には天王山であるgamescomにも出展して、英語圏だけでなくドイツ語圏のインフルエンサーさんにも現地でプレイしていただきました。こうして多くの言語圏向けのアプローチを続けてきましたが、実際に現地で体験していただいたことでの広がりはとても大きなものでした。
―― 海外向けのアプローチも強化したとのことですが、リージョンごとにユーザー反応の違いはありましたか?
井上氏:
ドイツ語圏のプレイヤーさんは考えるゲームが大好きという話は聞いていて、ウィッシュリストの量ももともと多い方ではありました。gamescomではそのニーズを突いて広がりを見せることはできたかなと思っていますね。
mamiya氏:
個人的にはリージョンというより、ユーザー属性での反応の違いのほうが大きかったですね。もともと工場建設ゲームが好きなユーザーか、そうではないがビジュアルや他の要素に惹かれて興味を持ったユーザーか、という部分です。そのユーザーによってゲームに求めている部分がはっきり分かれるタイトルに仕上がったのですが、その違いはリージョンごとではなく、プレイヤーの属性の違いが大きいです。
―― 興味深い分析ですね!
ローグライトは掛け算したが、タワーディフェンスは足し算した
―― 『ShapeHero Factory』は「工場建設」「ローグライト」「タワーディフェンス」という、複数のジャンルをかけ合わせた作品です。かけ合わせるにあたって、ジャンル同士の相性の良さを感じた部分はありますか。
mamiya氏:
工場建設というのはなかなか重たいジャンルで、いわゆるライトユーザー層が遊ぶというよりは、ちょっとコアな人たちが遊ぶジャンルだと思っています。そのなかで『ShapeHero Factory』でやりたかったのは、「工場建設ゲーム序盤の“一番美味しい部分”だけを遊べる」ゲームを作ることでした。
工場建設ゲームは、中盤以降は数字や効率を突き詰めるようになっていって、それが面白い部分ではあるのですが、同時に難しさにつながってきてしまいます。『ShapeHero Factory』ではその難しさをなるべく軽くして、そのためにどういう手法を取ればいいかと考えてローグライトと組み合わせることを思いつきました。「序盤を何度も遊べるゲーム」を作るというコンセプトに、ローグライトは予想以上にきれいにハマったんです。
―― なるほど、最初は「工場建設」と「ローグライト」の掛け算から企画が始まったんですね。
mamiya氏:
タワーディフェンス要素を取り入れた理由は、工場の成果を視覚的にわかりやすくしたかったからです。工場建設ゲームは、最終的には情報を見て数字を分析する方向になりがちです。素材が秒間いくつできるから、効率よく作るには製作機をいくつ作って……という感じですね。ですが、数字を見るというのもなかなかに人を選ぶ要素なので、派手な画面でわかりやすい見栄えにしたかったんです。
タワーディフェンス画面で気持ちよく勝てたら工場はうまく回っているし、逆にボロボロに負けてしまったらうまくいっていない。そういう風に見栄えで自分の工場の良し悪しを測れるように、タワーディフェンス要素を入れました。なので、『ShapeHero Factory』では工場建設とローグライトは掛け算ですが、タワーディフェンス要素は足し算のほうがニュアンスが近いんです。
―― 逆に、かけあわせるにあたって調整が難しかった部分はありましたか?
mamiya氏:
工場建設とローグライトをかけあわせると決めるまでは良かったのですが、どの部分をローグライトにするのかとても悩みました。どういう要素をローグライト――つまり乱数にしていくべきかの検討ですね。最終的には研究ツリーとヒーローのレシピをローグライト要素にしましたが、初期から今まで何度も作り直しています。
――『ShapeHero Factory』のローグライト要素には『Slay the Spire』に代表されるデッキ構築ゲームっぽさを感じました。やはり制作にあたって、他のタイトルは多く参考にしているのでしょうか。
mamiya氏:
『Slay the Spire』は本当に完成されたゲームで、メカニクスの部分を参考にさせていただきました。他にも多くのタイトルを研究して、本作に生かしたかたちです。
※ mamiya氏は過去のインタビューでも、かなり数の工場ゲームやシムゲームをプレイしていることを明かしていた
―― 多くのゲームを遊んで、研究されていると。そんなmamiyaさんが最近遊んで面白かったゲームはありますか。
mamiya氏:
研究しようとしてやっているわけではなく、純粋にゲームが好きでやってるだけですけどね(笑)。最近だと、『Leap Year』ですね。すごいセンスのあるゲームで、組み方に賢さしか見えてこない。とても頭が良い方が作ったんだろうなと……。もうひとつは『Card Survival: Tropical Island』というタイトルで、サバイバルゲームをカードゲームに落とし込んだものなんですが、これもすごい。クリアまでの道のりは長いのですが、夢中で遊んでしまいました。
―― 多くのタイトルを参考にしたなかで、『ShapeHero Factory』はこれまでにありそうでなかったゲームに仕上がっています。チームでそうした研究をされてきたのでしょうか。
mamiya氏:
『ShapeHero Factory』の企画は、担当は自分ひとりなので、アイデア出しは僕のインプット量によるところは大きいですね。ですが、チームメンバーにもインプットはたくさんしてもらっているので、こちらで細かい指示をしなくとも、今の時代に合わせたゲームデザインについて研究してくれています。
―― 共通言語のようなものはありつつ、企画担当やディレクターとして旗を振っている感じでしょうか。それをやっていて、コンセプトがぶれるようなことはありましたか。
mamiya氏:
『ShapeHero Factory』では初期段階からコンセプトを明確にしていたので、最終的には1回もぶれることはありませんでした。とはいえ、開発中にコンセプトからぶれそうになったことは何度もありましたね。
―― コンセプトどおりの制作を続けられた要因には、どのようなものが挙げられますか?
mamiya氏:
まず、会社の体制として、社内でテストプレイをしてコンセプトがぶれていないかをチェックする仕組みが整っていることがあります。第三者のフィードバックをもらうことで、問題点を洗い出せるのが良かったですね。
もうひとつは純粋に、コンセプトをしっかり定めて、なにか悩んだらそこからずれないように決定することを徹底したことです。『ShapeHero Factory』のコンセプトは「工場ゲームを遊んだことがないユーザーに、工場建設の楽しさを伝える」「工場ゲームを遊んだことがあるユーザーに新しい刺激を与える」の2点でした。ここから動かさないように心がけたことで、コンセプトどおりの制作ができたのかなと。
―― 社内テストプレイではさまざまなフィードバックがあったかと思いますが、ゲームに取り入れるかどうかの取捨選択はどのようにしていましたか?
mamiya氏:
社内テストプレイでの意見を分解して、「なぜこの人はこのように感じたのか」を精査しました。その人の性格や普段どんなゲームを遊んでいるのか、どこに対して不満をいだいたのかというのをしっかりフィードバックしていただくと、実はその不満は見せ方を変えるだけで解決することもあるんです。
たとえば、開発初期は、チュートリアルなんかはとても簡素に作られていて、なんなら僕が口頭で遊び方を説明することもあるんです。そうすると、たまたま操作方法をうまく伝えることができず満足なゲーム体験にならなかったケースも結構でてきます。そういった場合も加味してさまざまなパターンを考えて、フィードバックを製品に反映していきましたね。
―― ちなみに、mamiyaさんのゲーム作りへの熱意について、近くで見ている井上さんはどう感じていらっしゃいますか。
井上氏:
ディレクターとしては珍しいタイプだと思うのですが、mamiyaさんは本当にユーザーを喜ばせることに対して貪欲で、プロフェッショナルな方なんです。開発の方は職人気質な方も多いのですが、mimiyaさんは常にユーザーの方を見てゲームを作っている人だなと感じますね。
本来アップデートはロードマップの内容を中心に進めていきたいところだと思うのですが、その合間合間にもなにかユーザーを楽しませることができる施策がないかをずっと検討しているんです。たとえば今回、季節限定のクリスマス仕様が実装されるのですが、画面やキャラクターの姿など小さなところにもギミックを仕込んでくれました。マーケティングサイドとしてもわくわくするアナウンスをお届けできるのでありがたいですし、こういう強い熱意のある方と一緒にお仕事をするのが今後も楽しみだなと感じますね。
mamiya氏:
なんだかめちゃめちゃ恥ずかしいですね……(笑)
―― mamiyaさんのユーザーファーストな開発姿勢は、お話を伺っていても感じるところですね。
早期アクセスの反響は上々
―― 早期アクセスで新たにお披露目されたマスター「スペルマスター」の反響はいかがでしたか。
mamiya氏:
ミニオンマスターのヒトは◯と△の組み合わせで1体しかできないのに比べて、スペルマスターの妖精は◯と□で2体できるので、スペルマスターはミニオンマスターと比べて出陣するヒーローの数が多いです。数が多いかつ色をたくさん使うマスターなので、結果として画面が『Vampire Survivors』のようにとても派手になります。派手に戦って自分の強さを感じたい方には、スペルマスターは楽しんでいただけているのかなと。
バランス的な問題もあって、いまはスペルマスターの方が難易度は低くなっています。渋みのある難易度を求める方であればミニオンマスターの方がバランスは良いのですが、まずはこのゲームを楽しみたいという方にはスペルマスターがおすすめですね。
―― スペルマスターはタワーディフェンスパートでの操作が多い印象があります。私はタワーディフェンスパートは見守っていたい派なのでミニオンマスターのほうが好きなのですが、このあたりはやはり「ユーザー属性」の違いでしょうか。プレイヤーからのフィードバックはありましたか。
mamiya氏:
体験版でミニオンマスターのみを公開していたときは、タワーディフェンスパートは「見ているだけだとつまらない」という意見と「結果を確認する場所なんだから見ているだけでいい」という意見がとても綺麗に分かれていたんです。当時すでにスペルマスターは開発中だったので、内心では「マスターは2つ実装されるから、製品版では選んでほしいな……」と思っていたわけなんですが(笑)
―― 最終的にはどちらの好みのユーザーにも、求めるものは届いたと(笑)
mamiya氏:
はい。ただ、統計を取ったわけではないのですが、動画サイトやSNSなどを見ていると、片方しか遊ばないというプレイングをしている方はあまりいないのではないかと感じています。みなさんまんべんなく遊んでくださっている印象ですね。
―― 本作は体験版をリリースしてから、Discordサーバーを中心に多くのフィードバックを受けて調整していらっしゃいました。ユーザーの声を受けて改善した内容にはどんなものがありましたか。
mamiya氏:
いただいたご意見はバランスに関するものが多かったのですが、早期アクセス開始までに調整時間が取れなかったのが反省点です。フィードバックをもとにこれから順次バランスを見直していきたいと思っています。直近でもアップデートで大きなバランス調整を実施し、そこからレビュー評価もぐっと良くなりました。
―― 逆に、ユーザーの声はあったけれど導入できなかった要素はありますか。
mamiya氏:
上位のヒーローを開放しても作り出した頃にはゲームが終わってしまうので、1回のランあたりのウェーブ数を伸ばしてほしいという意見をたくさんいただいています。これは、 今後のロードマップにも関わってくるため、なかなか難しいところです。
単純にウェーブだけを伸ばすことも考えたのですが、そうすると1回のプレイが長くなってしまう。『ShapeHero Factory』は「工場ゲーム初心者のライトユーザーに遊んでほしい」というコンセプトがあるので、あまりプレイが重くなると今度はコンセプトに反してしまいます。伸ばさないと決めたわけではないのですが、コンセプトを鑑みて検討している最中です。
ロードマップにないことも追加していきたい
―― Steamストアページによると、早期アクセス期間は最低4か月とのこと。短めの印象ですが、正式リリースまでのスケジュールは現時点でどれくらい固まっているのでしょうか。
mamiya氏:
これはまだ定まっておりません。ユーザーからの意見を取り入れる期間という意味で最低4ヶ月としましたが、正式リリースまではもう少し伸びるのではないかと思っています。とはいえ、1年以上かかることはないはずです。
―― ロードマップによると、今後も新たな要素がどんどん追加されていくそうですね。正式リリースに向けてどのようにコンテンツを拡充していくのか、展望を教えてください。
mamiya氏:
基本的な実装内容はロードマップのとおりで、大きな変更はありません。ですが、このロードマップは“リリース前に”ある程度決めていたものです。ユーザーさんからのご意見をいただいて、ここにさらに追加要素を足していこうかなと考えています。
―― 具体的に検討している要素はありますか。
mamiya氏:
あくまで検討中で実装できるとは言い切れないのですが、いわゆるエンドレスモードを追加できたらいいなと思っています。先ほどお話した、長く遊びたい人のニーズも満たせるのではないかと。また、現在『ShapeHero Factory』ではステージごとのボスが固定化されているので、このボスの種類を追加してほしいというご意見をかなりいただいています。その部分を、3体ほど追加することを検討しています。そのほかにもスコアシステムやデイリーイベントといった要素を増やしていこうかなと思っている感じですね。
―― 最後に、ユーザーに向けて一言お願いいたします。
mamiya氏:
『ShapeHero Factory』は。工場ゲームに触れてこなかった人にこそ触れてほしいゲームとして制作しています。キービジュアルであったり、システムであったり、何か惹かれるものがあればぜひ一度遊んでみてください。また、弊社のDiscordサーバーではユーザーのみなさんに多くのご意見をいただいております。これらは全てリストアップして集計をしておりますので、ゲームに対するお声がありましたら是非サーバーに参加していただいて、ゲームを一緒に盛り上げていっていただければと思います。
―― ありがとうございました。
『ShapeHero Factory』はPC(Steam)にて配信中だ。無料体験版も存在するほか、現在開催中のSteamウィンターセールの対象にもなっており、1月3日までは15%オフの1785円で購入できる。年末年始の初めての工場建設の入口に、ぜひ本作を手にとっていただきたい。