お寿司大乱闘ゲーム『スシ・バトル・ランバングシャスリ』ではなぜ寿司が戦うのか。というかなぜ寿司なのか。そもそもゾンビ寿司とは何か。好きな寿司ネタは何か。開発者に訊いた

お寿司の生き物“シリモン”たちが大乱闘するゲーム『スシ・バトル・ランバングシャスリ』。疑問の尽きないぶっ飛んだ本作について、開発元Visual Lightの方々に話を訊いた。

スシ・バトル・ランバングシャスリ』はお寿司の生き物“シリモン”たちが大乱闘するゲームだ。物理演算(ラグドール物理)を用いている本作では、他のプレイヤーを投げ飛ばしたり、ステージ上の湯飲みやお箸を使って攻撃したりと、はちゃめちゃな戦いが繰り広げられる。3月14日にNintendo Switch版が配信開始された。公式サイトによると、PlayStationおよびXbox向けにも発売される見込みだ。


しかし、本作のトレイラーを見てみると「なぜ寿司が戦うのか」「なぜゾンビがいるのか」「なぜこんなぶっ飛んだものを作ってしまったのか」など疑問は尽きない。そこで、今回は本作の開発元である韓国のゲームスタジオ、Visual Lightの方々にメールインタビューで話を聞いてみた。

── 自己紹介をお願いします。

ジョン・ソンギュン代表(以下、ジョン氏):
Visual Lightは韓国のコンソールゲーム専門開発会社です。本プロジェクト『スシ・バトル・ランバングシャスリ」では、代表のジョン・ソンギュン、カン・ギユンP/D、寿司バトル開発チーム長のCode Garam、グラフィックチーム長のオ・ヨンチョルがそれぞれ開発を担当しています。

── スタッフと開発環境について教えてください。

ジョン氏:
弊社は、コンソールゲームが大好きなメンバーで構成されています。VRゲーム開発ができるメンバーも所属しています。韓国にはコンソールゲームの開発会社が少ないので、チームメンバー間の絆がとても強いですね。みんな個性的で、休憩時間にはゲーム関連の動画を見たりゲームを遊んだりと、ゲームマニアが多い会社です。

── あらためて本作がどのようなゲームなのか教えてください。

Code Garam寿司バトル開発チーム長(以下、コードガラム氏):
『スシ・バトル・ランバングシャスリ』は、可愛いシリモンたちが黄金のお皿を奪い合うコミカルなバトルロイヤルゲームです。ラグドール物理が適用されて開発されたシリモンは、奇想天外な動きとアクションで、物理演算を活用した面白いシーンが演出されることでしょう。ゲーム途中でゾンビ寿司(ゾンビシリモン)が登場し、ハラハラドキドキする場面も用意しました。 最後の1人として生き残れれば、どうにでもなるかもです!?


開発初期は寿司じゃなかった

── なぜほかの料理ではなく「寿司」なのですか?そして、寿司が題材のゲームを作ろうと考えたら、寿司作りや寿司屋の経営になりそうなものですが、本作の「寿司同士を戦わせる」というテーマに至ったきっかけを教えてください。

オ・ヨンチョル アートチーム長(以下、オ氏):
開発経緯を先に説明する必要があり、長くなりそうですので、開発チームがお答えした方が良さそうですね。

コードガラム氏:
初期の企画としては、お寿司のキャラで何をすれば良いか?というより、ラグドールキャラクターで戦う!とコンセプトが先に決まっていたので、お寿司作りやお寿司屋さん経営とは距離があります。システムが決まってからキャラクターを考えるべきだったのですが、ラグドールキャラクターを共有しながら様々なバリエーションを与えることができるイメージキャラクターで、「お寿司」コンセプトを超えるものがなかったんですよね。

でも実は、その時にお寿司が食べたいと思っていたら思いついたのかもしれません。 お互いに喧嘩しているシリモンたち、可愛くないですか?できるだけおいしそうで、かわいく表現できるように頑張りました。

オ氏:
最初は寿司以外にも幽霊や鬼、あるいはパンのキャラクターなどさまざまな意見が出ました。しかし、最終的に寿司が選ばれた理由は、身近で、グローバル的に人気があるもので、あとやはり時間と工数面……ですかね。私たちは、半年以内にこのプロジェクトを完成させなければなりませんでした。 見た目がさまざまなキャラクターが登場してしまうと、ラグドールのプログラム的にもグラフィックリソース的にも物理的な限界があります。 そこで、形はそのままにしつつ、ネタを乗せてさまざまな味を表現できる寿司が思い浮かび、一つの形(シャリ)に様々なネタを乗せて、キャラクターの姿を変えることができる寿司を選びました。


── 本作にインスピレーションを与えた作品はありますか?

コードガラム氏:
ゲームとしては『Gang Beasts』を参考にしました。私が考えているラグドールの動きを一番よく見せてくれたので。開発中にも『Gang Beasts』をプレイしながら動きを分析して、開発し直したりもました。 改めて考えてみると面白かったです。

── 本作を制作するにあたって、日本の回転寿司屋を取材しましたか?内装や小道具が正確に再現されていますし、トレイラーに登場するあのスシトレイン、どこかで見たことあるような……。

コードガラム氏:
以前、東京で回転寿司屋に行ったときに、ベルトコンベアのある回転寿司屋に行った記憶があります。 その記憶を活かし、資料調査をして実装しました。プロトタイプでは流水に船を浮かべてお寿司を運ぶアイデアも作ってみたのですが、いろいろ欲張りすぎたのか、Switchでの実装は難しく最終的には除外しました。

オ氏:
回転寿司屋は、値段のせいでまだ一度も行ったことがありません(涙)。なので、Google画像検索で一生懸命調べました……。お皿の大きさや回転する板の大きさや形、各種の桶、寿司屋のインテリアまで!スシトレインは『呪術廻戦』に登場した回転寿司屋で、新幹線が出てきたのを見て検索してみましたね。そこで、ギミックとして使うと面白そうだなと思いました(ゲームが人気になったら、社長が回転寿司に連れて行ってくれるかもです……?)。


ツヤツヤなシリモンたちへのこだわり

── ゲーム内に登場する「シリモン」は一体何者なんですか?彼らはなぜ戦っているのですか?

コードガラム氏:
シリモンが生まれた理由は知られていませんが、彼らが戦うのは黄金の皿に登るためです。どうやら彼らの間では「強いシリモンがより美味しいお寿司である」という噂が飛び交っているとか。世界観や詳しいストーリーは続編で描かれる予定ですので、お楽しみにしてください。

── というか、そこはシリモンじゃなくて「スシモン」じゃないんですか……?

コードガラム氏:
せっかくの可愛いキャラクターなので個性的な名前をつけたかったんです。ただでさえ美味しそうなビジュアルなのに、名前までSushimon(スシモン)だったら、すぐにでも食べたくなっちゃうかも?

── な、なるほど。本作には敵としてゾンビ寿司が登場しています。シリモンとは打って変わって恐ろしい見た目をしていますが、彼らが登場する理由を教えてください。

コードガラム氏:
プレイヤー同士が競い合っている最中にCPUが乱入してくることで、よりスリルと緊迫感のある状況を演出したかったんです。ゾンビシリモンのデザインに関しては、可愛い目と口で擬態して他のシリモンを騙しながら近づき、恐ろしい本物の口を開けて食べてしまうという、逆転の発想を入れると決めました。ちなみに緑色である理由は、シリモンが腐ってゾンビシリモンになったからです。

── シリモンや寿司のグラフィックでこだわっている点は何かありますか?ネタがツヤツヤしていておいしそうです。

オ氏:
よく分かってくださいましたね、できるだけおいしそうに見せたかったんです!そのほうがよりリアルに、かつコミカルに見えると思いました。 キャラクターのデザインと造形は予想以上にすぐ決まったのですが、3Dに移行するにあたって試行錯誤を繰り返しました。可愛い表現を単純化してみたり、粘土状っぽくしたり、逆にリアルにしすぎたせいで、何百個も飛び散る米粒が不気味に見えてしまったり。その中間点を見つけるために本当にたくさんの作業をしましたね……。

形も直してみたり、シェーダーも直してみたり……。この時期が一番大変だったと思います。 結果的には、みんな新鮮で美味しそうだと言ってくれて良かったです!ただ、作っている間、毎日、毎時間、お寿司がすごく食べたくなったという欠点はありました。


意外な日本での宣伝戦略

── 韓国のスタジオからこれほど寿司にフォーカスされたゲームが出るのは意外です。スタッフに日本好きの方がいらっしゃるのでしょうか。

カン・ギユンP/D(以下、カン氏):
Visual LightにはNintendo Switchのコンソールゲームを楽しむ開発メンバーが多く、ほとんどがNintendo Switchを所有しています。 プロデューサーである私は、幼い頃から両親から日本語を習い、ファミコンの「くにおくん」シリーズ、「ドラゴンクエスト」シリーズといったコンソールゲームを30年以上プレイしてきました。Nintendo Switch用の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』も、日本にいる友達とオンラインプレイを楽しんでいます。やはりパーティーゲームはみんなで楽しい思い出を作れるので、ゲーム開発をしながらも友人や家族におすすめできるジャンルのゲームです。そういう意味では『スシ・バトル・ランバングシャスリ』も、多くの方々がみんなで一緒に楽しんでいただければと思います。

── Visual Lightは韓国が拠点のスタジオですが、公式Twitterには日本語の投稿しかされていません。これはなぜですか?

カン氏:
日本はTwitterの影響力が非常に大きいですし、 自国語に対する敏感さも持っていると思います。私は韓国でコンソールゲームの日本語、英語音声を韓国語に翻訳し、吹き替えをする会社で働いた経験があり、現地サービスの翻訳とローカライズの重要性を経験してきました。 本作の日本市場のビジネス担当者として、そして日本人の友人のためにも、『スシ・バトル・ランバングシャスリ』に関しては直接日本語でゲームを紹介するほうが良いと判断しました。

ありがたいことに、日本現地ではハイブリッド・スクアードさんも協力してくださっています。日本と韓国のゲーマーの皆さまが、お互い仲良くこれからも一緒に良いゲームを作り、サービスを提供し、楽しめたらと思います。「一生懸命頑張ります!」


── シリモンたちがすでにぬいぐるみ化され、クレーンゲームのプライズ品になっています。これが実現した経緯を教えてください。

カン氏:
『スシ・バトル・ランバングシャスリ』プロジェクトは最初、日本市場を優先して考えながら進められてました。 そのため、キャラクターの萌え要素を多く考え、アートチーム長のオが初期キャラクターデザインを何度も作り直して、イラストレーターさんが可愛いシリモンのデザインを完成させてくれました。完成したデザインを見て、日本でも多くの人に愛されると思いましたね。

それと、2023年9月のTGSにてVisual Lightは『スシ・バトル・ランバングシャスリ』のデモ版を出展したのですが、ブースにお越しいただいた方にシリモンのキーホルダーをお土産としてお渡ししたんです。その反応がとても良く、AUTOMATONさまにも取材していただきX(旧Twitter)で500万回以上の再生回数を記録していただいたり、日本オート玩具さまの担当者さまに来ていただいてシリモンのキャラクターで人形を作りたいとのご提案をいただいたりしました。

2023年11月には韓国の釜山で開催されたゲームショウ「G-STAR2023」で、日本オート玩具さまとシリモンキャラクターぬいぐるみのライセンス契約を結び、2024年2月にバンダイナムコアミューズメントさまからナムコ限定でぬいぐるみ商品を発売していただきました。


『スシ・バトル・ランバングシャスリ』の過去と未来

── 過去に『Throw Anything』で物理演算を用いたゲームを制作していますが、そのノウハウは本作にどう活かされていますか?

ジョン氏:
Throw Anything』は弊社の代表作の一つで、VRゲームとしてPlayStation VR、Steam、Meta Questなどでリリースされました。『Throw Anything』で重要視したのは、ゲーム内の全てのオブジェクトとの100%相互作用を作ることでしたね。つまりゲーム内にあるものは全部インタラクションできて、「この物体だけは触ることができない」というような制限を設けないゲームです。そのなかでプレイヤーが個性に合わせて、さまざまな方法でプレイできるゲーム作りが目標でした。『スシ・バトル・ランバングシャスリ』も、100%ではありませんが、ゲーム内のほとんどのオブジェクトと相互作用が可能です。 予想外の状況が発生する可能性も高めましたので、ゲームを繰り返し遊んで飽きることなく楽しめます。

── 最後に一番重要な質問をさせてください。好きな寿司ネタはなんですか?そして、それはなぜですか?やはりロゴにも使われているマグロですか?

コードガラム氏:
玉ねぎを乗せたサーモン寿司が一番好きですが、昨年日本で食べたマグロ寿司が忘れられません……。本当に口の中でとろけるような美味しさでしたね……。

オ氏:
ヒラメ!真っ白な薄肉を突き破って自己主張する緑のわさびが、とても食欲をそそるんですよ。

カン氏
私は大人なので、やっぱり甘くてやわらかい玉子が一番です!

ジョン氏:
高級感があり、タンパク質が高い、カロリーも高いマグロ寿司が最高です!

── お腹が減りますね。ありがとうございました。

これほど寿司にフォーカスした本作だが、最初は寿司にこだわらずラグドール物理を活かすための造形を探していたなど、さまざまな話を伺うことができた。最終的にはネタの好みは違えど、スタッフに行き渡った寿司への愛が本作に宿ったようだ。本インタビューにお答えいただいたことに、改めてお礼を申し上げたい。

『スシ・バトル・ランバングシャスリ』はNintendo Switch向けに配信中だ。また、公式サイトによればPlayStationおよびXboxでの配信もされる見込みだ。

Rikuya Melichar
Rikuya Melichar

ゲームだいすき。独特の世界観や没入感があるゲームが好きで、気付いたら流行りのゲームを尻目にずっと遊んでたりします。

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