「ゲームイベントでPCを26台無料で貸してもらいましたが、メリットはあるんですか」を、借りた側が貸した側に訊いた。マウスコンピューターが機材貸し出しを続ける理由
BTO/PCメーカーはときにPCの販売だけでなく、貸し出しもおこなっている。ゲームイベントで遊べるゲームのPCの設置は、こうしたBTOメーカーの協力により実現している。一方で疑問に思う方もいるだろう。そうしたPCの貸し出しを、メーカーはなんのためにやっているのか?
今回は弊社アクティブゲーミングメディア向けにPCを貸し出してくれるマウスコンピューターに話を訊いた。きっかけは、マウスコンピューターが今回東京ゲームショウにてPLAYISM向けに大量にPCを貸し出したこと。ありがたい反面、担当者はこんなに貸してもらっていいのか不安だったという。そうした担当者の心配を踏まえつつ、マウスコンピューターの担当者に話を訊いた。
──自己紹介をお願いいたします。
桑園 勉氏(以下、桑園氏):
株式会社マウスコンピューターで、マーケティング部、オンラインチームの主任をさせていただいております、桑園 勉と申します。本日はよろしくお願いします。
──これまでのご経歴などを教えていただけますか。
桑園氏:
かつては競合他社で、ゲーミングPCとゲーム関連の業務を担当していました。いちど“ゲーミング”に関わる業界を離れたんです。パソコンに関わることやエンタメ、自分の大きな趣味であるゲームに携わる仕事に戻りたいという想いがあり、マウスコンピューターに入社した次第です。
──桑園さんはかなりゲームがお好きとは聞き及んでおります。
桑園氏:
かなり好きです。Steamって、ライブラリをプレイ時間でソートして、手集計するとSteamのゲームで遊んだ累計時間を出せるじゃないですか。トータル2万時間を越えていまして(笑)一番プレイしたゲームは『ARK: Survival Evolved』(以下、ARK)ですね。『ARK』はだいたい5000時間くらいで、あとはジャンルにこだわらず幅広くプレイします。オープンワールド・サバイバルゲームだったり、シミュレーション、FPSやシューティングも含めて、本当にやらないジャンルはないくらいです。
そもそもなぜPCを貸し出すのか
──ありがとうございます。それだけゲームが好きなんですね。本題となります。TGSではマウスコンピューターさんは、さまざまなメーカーに機材を貸し出したとのことでした。具体的にはどういうメーカーさんにどのような機材を貸し出されたんでしょうか?
桑園氏:
キャプチャーボードなどの周辺機器メーカーであるAVerMediaさま、マウスやキーボードなどのゲーミング機器ブランドのSteelSeriesさま、あとはパブリッシャーのPLAYISMさま、Intelさまの計4社ですね。
AVerMediaブース G-Tune DG-I7G60が使われていた
SteelSeriesブース
Intelブース G-Tune H6-I9G80BK-Aが使われていた
PLAYISMブース
──ありがとうございます。単純に疑問に思っている人が結構いると思うのですが、ぶっちゃけ「機材の貸し出し」って本当にメリットありますか……?ゲーミングPCは高価な精密機器じゃないですか。当然、トラブルなどで壊れるリスクもあります。製品のレビューがメインなら販促につながる宣伝になるとは思うんですが、TGSのようなイベントではPC自体は主役ではないですよね。
桑園氏:
我々は営利団体ですので、貸し出しはちゃんとビジネスとして捉えています。ボランティアではありません(笑)一方で、今おっしゃられたように、貸し出しをすることに対して、効果がハッキリとした形で、数字やリターンとして見込めるわけではないです。ただ、お客様が会場までわざわざ足を運ぶようなオフラインイベントで、我々のブランドを見かけていただくというのは「あっ、ここにもG-Tuneあるんだ」っていう認知の機会だと捉えていますので、そういう部分では貴重な機会を我々もいただいていると考えています。
また違う側面からお話をさせていただくと、このような機会に、周辺機器メーカーさまや、パブリッシャーさまの活動に協力させていただく事が、間接的にはなるんですが、現代の“ゲーミング”を取り巻く環境に対する、我々ができる貢献と捉えています。
──ふむふむ。
桑園氏:
当然ビジネスですので、何かしらのリターンは我々の方から要求させていただきます(笑)ただそれだけではなく、周辺機器メーカーさま、パブリッシャーさまの、新製品や活用方法、新タイトルの発表などをお手伝いする事が、結果として回りまわって我々のビジネスにも良い影響を与えると捉えて、持ちかけられたお話に関してはできるだけ前向きに検討させていただいております。
──つまり、消費者向けには、認知度やあるいは親しみやすさのアピールのようなものがある一方、メーカーと一緒に組むことで連携を学ぶ、そういう2つの側面があるということでしょうか。
桑園氏:
そうですね、そういう認識で問題ないと思います。
──ありがとうございます。どちらの側面も数字には現れない、目に見えないものなので難しいところかと思いますが、桑園さんの一存ではなく、マウスコンピューター全体として貸し出しの活動をやっていこうという雰囲気はあるんでしょうか。
桑園氏:
我々マーケティング部という属性の上では、イベント会場でどれくらいの人数が我々のブランドと接触していただいたかというのは、多少なりとも試算していますので、その辺はある程度は会社で担保されている前提で進めてはいます。
──ボランティアに見えつつ、しっかり数字を取っている側面もあると。
桑園氏:
そういうことになりますね。
26台貸し出しても問題ない理由
──ありがとうございます。実は弊社、アクティブゲーミングメディアのPLAYISMにも機材を貸し出していただいた際に、弊社は26台お借りしたんですよね。担当が「こんなに借りて大丈夫なのか」と不安がっていたんですけど、大丈夫でしたか?
桑園氏:
正直にいうと「多いな!」とは思いました(笑)ただ、私は自分がゲーマーというのもあってPLAYISMさまのことは知っておりましたので、なんとなく想像できるところはありました。パブリッシャーという特性上、多数のゲームタイトルを、会場に足を運んで頂いたお客さまに快適にプレイ頂くためには、相当数のPCが必要だろうなと。少ない台数で、入れ替わり立ち代わりという形で試遊していただくのではなく、1タイトル1台という形が好ましい形だろうという。
それに加えて、どれくらいの新規タイトルがこのTGSで発表されるのかっていう興味も個人的にありましたが(笑)
──借りる段階で展示タイトル数やブースの大きさは伝えられていたんですか?
桑園氏:
既存のタイトルがいくつで、新規タイトルはどのようなものなのか、何タイトルあるのかというのは、ある程度は共有していただいていました。
──なるほど。では機材の貸し出しの際には、ブースの規模や、その企業様の理念もある程度は精査されるという感じですか?
桑園氏:
そうですね。
──たしかに、コスト面の事も考えると1台でも結構な値段のするPCを26台貸すって結構リスクも大きいですよね。やはり当然のことながら、雰囲気だけで貸し出されている訳では無いんですね。
で、今回は貸し出しをやって良かったですか?今この場で面と向かって「良くなかったです」とは言えない気もしますが……(笑)
一同:
(笑)
桑園氏:
我々としては、機材の貸し出しはやる価値のある業務だと思っています。ただ、どうしてもお貸出しする台数が増えれば増えるほど、こちらからお願いすることも増えてしまうんですね。頼み事が増えることに関しては、不安ではあります。
──それがさっきおっしゃっていた「メリットを要求する」という話ですね。
桑園氏:
そうです。ただお願いするのは難しいんですよ。正直に申し上げますと、ゲーミングPCの貸し出しは、業界的なものも踏まえると、かなりの年数を経験しています。その上で、もちろん周辺機器メーカーさまやパブリッシャーさまは、「マウスコンピューターの製品を展示するために我々からPCを借りて出展する」わけではないと理解しています。周辺機器メーカーさまや、パブリッシャーさまには別の目的があるけれど、それでもこちらから「こんな事お願いできませんか」というリクエストをする必要があるんです。
──なるほど、リクエストですか。
桑園氏:
その擦り合わせを、こちらからお願いすること、乱暴な表現をすればこちらの要求を呑んでいただくためにはどういう調整が必要なのか。理解していただけるか、という部分はやはり不安ではあります。
──ぶっちゃけ、PLAYISMにはどういった条件を出したんでしょうか。
桑園氏:
やはり26台のPCを用意するのには相応のコストがかかってしまいます。それに対しての分かりやすい見返りとしてお願いしたのは、PLAYISMのブースで出展されるゲームタイトルのコードをいくつか提供してほしい、というものです。頂いたゲームの認証キーは、こちらの公式SNSを新規フォロー頂いた方や弊社ECサイト・マイページ登録者限定でのプレゼントキャンペーンに使わせていただく形ですね。
当然ですが、パブリッシャーさんにもメリットが無いといけませんので、新規タイトルのPR拡散という形で、お互いにメリットがあるような形でのご案内をしております。
──PCを貸し出すぶんの見返りはしっかり求めていて、その見返りとはどんな物なのかを知れるのは大変興味深いですね。「全部タダで条件なしで貸してあげる」と言われるほうが恐ろしいものがあるので、納得ではあります。
桑園氏:
ちなみに読者の皆様がご不安に思わないようなお話をさせていただくと、我々が販売するPCと、貸し出しするPCは完全に分けています。貸し出しに使用したPCは、完全に処分するんですが、処分にかかるコストを、先ほど話した何かしらの見返りで充当する、という仕組みでやっています。
──え、え!?何度か貸し出し用に使って、動きが悪くなったからとか、型落ちになったからという話ではなく、1回貸し出したらそのまま処分してしまうんですか?
桑園氏:
基本的には1度の貸し出しで、アウトレットや訳アリ品として処分するか、廃棄するかですね。たとえば、メディアの皆様に新製品のレビューをお願いするような場合、A社さんが終わったら次はB社さんに回す、という事はあります。ですが、今回の場合のように、ひとつの型番のPCを大量にとなると、なかなか使いようがないので。「いつか使うだろう」で置いておくこともできませんから。その処分にかかるコストを、貸し出した企業さまからの見返りで充当しているわけです。
貸しやすい条件もある
──ほうほう。手配といえば、こちらの想像よりもかなりスムーズにPCを手配していただいて驚いていたんですが、どういう仕組なんでしょうか。
桑園氏:
弊社としてはTGSの時期は、そもそもお貸し出しのリクエストを大量にいただくものだと認識しています。それに加えて、ゲームのイベントだけではなく、普段から展示会やビジネスシーンでの活用などでも、お貸出しのリクエストを受けることが多いので、貸し出しまでのプロセスは一連の流れとして確立しています。決して特殊な手配が必要な訳ではありませんので、リクエストにはシームレスに対応しています。
──すでにフローがあるわけですね。今回、準備の問題でPCを前もってすべて弊社に送って頂いて、動作確認後に今度は会場に送るという対応をしました。本体だけ3週間前に会社向けに送ってもらうなんて、嫌がられなかったのが不思議だと担当がコメントしていたんですが、このようなケースはよくある事なんでしょうか?
桑園氏:
実はこういったケースや、イレギュラーは多くあります。イベント前日に、多くのPCが届いたけど、何らかのトラブルで動かないとか。やはり長年この業界を見ているとよくある事ではあります。そういったケースを見てきた立場としては、評価機を先行でお送りして、問題なければ、残りを会場に送るっていうのは決してイレギュラーでもなんでもありませんので、こちらとしてはスッと受け入れられる部分ではあります。
──なるほどなあ。
桑園氏:
補足をすると、一定の台数を超えると、輸送事故とかも視野に入れなければならないんですよ。輸送事故のリスクを避けるため、予備機の貸し出しを弊社が提案する場合もあります。
──事故を見越した提案……?こんな言い方をするのもなんですが、なぜ貸す側が自分たちの仕事を増やすような提案を……?
桑園氏:
輸送事故は誰のせいでもなく、少ない確率とはいえどうしても発生してしまうものだと考えています。弊社は貸し出し専門の会社ではありませんが、そういったトラブルへの知見があるのに、懸念を示しておかないのは紳士的ではないので。
──納得です。ちなみにTGSではPLAYISMブース含む貸し出しメーカーさんのところには視察にも来られていたと聞いているんですが、どういうものを見に来ているんですか?
桑園氏:
会場の各ブースにお伺いさせていただいた意図は大きく2点あります。先ほども話したように、弊社もSNSに力を入れていますので、「○○ブースに設置いただいてます!」ということを発信させていただくためですね。これがまず1点。
もう1つが、設置・設営の手違いなどで、弊社の機材やブランドロゴの前にポップなどが置かれてしまっていて、ブランドロゴなどが隠れていると、ブランドの認知というところに支障をきたしてしまうので、ポップや展示物を少しズラしていただけますでしょうかという交渉をしたり。
──貸し出している以上は、最低限のレギュレーションを守っていただいているかどうかっていうのは視察の際に見ないと、お互いのためにならないというところですかね?
桑園氏:
チェックと言っては、重く捉えられてしまうかもしれないんですが、やはりそのあたりの確認はしたいですね。
──どのくらい数字が出るか、直接的なメリットがあるかって短絡的に考えてしまうんですけど、貸し出しという行為ひとつに、いろんな効果があるんですね。
桑園氏:
そうですね。前提として、PCの性能に詳しい方も一定数いらっしゃいますが、ゲームが好きな方が全員ゲーミングPCに詳しいのかと言われるとそうではないと思っています。TGSでゲームを試遊してみて、もっと遊びたいと思った。その際に、どこのPCを買おうかと考えたとき、試遊した場所で見かけたであろう弊社のPCをイメージしてもらえることは、弊社にとっていちばん嬉しいことです。
──ちゃんと商いに繋がっているというのが分かって安心しました。マウスコンピューターとしては、貸し出しについてはケースによっていろいろ判断しつつも、今後も続けていくということですかね。
桑園氏:
はい。付け加えるとしたら、交渉の際に「こういう物を展示しますよ」「ウチではこんなことができますよ」といったお話をあらかじめ貰えれば、もっと早く、スムーズにレスポンスが返せるというところです。
──ありがとうございました。
2024年1月に開催されるファイナルファンタジーXIV ファンフェスティバル 2024 in 東京にも、マウスコンピューターはG-Tuneは協賛およびPCの貸し出しをするとのことである。
[執筆・編集:Yusuke Oizumi]
[聞き手・編集・写真:Ayuo Kawase]