まちづくりシミュレーションRPG『きみのまち サンドロック』開発者インタビュー。緑の自然より砂漠を舞台に選んだ理由、日本ユーザーの割合など、いろいろと訊いた

『きみのまち サンドロック(My Time at Sandrock)』開発元、Pathea Gamesで事業開発およびマーケティング部門のディレクターを務めるAaron Deng氏に話を訊いた。

EXNOA(DMM GAMES)は11月3日、『きみのまち サンドロック(My Time at Sandrock)』国内コンソール版の発売を予定している。対応プラットフォームはPS5/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switchで、PS5およびNintendo Switch向けにはパッケージ版も発売予定。また同日には、現在早期アクセス配信中の本作PC(Steam)版も正式リリースとなる見込み。


『きみのまち サンドロック』は2019年にリリースされた『きみのまち ポルティア(My Time At Portia)』と世界観を共有するサンドボックスRPGだ。開発は前作に引き続き、中国に拠点を置くPathea Gamesが手がけている。Pathea Gamesといえば『きみのまち』シリーズのほか、今年7月には『Let’s School』をリリースし、同作も好評を集めている。さらに今年5月にはオープンワールド街づくりRPG『Project ME』が発表された(関連記事)。

さまざまな作品を精力的に打ち出し、それぞれ好評や注目を集めているPathea Games。一方で国内ではスタジオに関する情報は少なく、ミステリアスな開発元といえる。弊誌は今回、Pathea Gamesで事業開発およびマーケティング部門のディレクターを務めるAaron Deng氏に話を訊いた。


──自己紹介をお願いします。

Aaron氏:
Pathea Games(以下、Pathea)の事業開発とマーケティングのディレクターをしているAaronです。Patheaで働き始めてもう8年以上になります。Patheaのスタッフは現在約250人います。中規模ともいえますが、大型タイトルを開発する会社としては小さめです。現在Patheaでは6つのタイトルを同時並行で開発中です。

──改めて『きみのまち サンドロック』の紹介をお願いします。

Aaron氏:
『きみのまち サンドロック』は『きみのまち ポルティア』と同じ世界、同じ時間軸でストーリーが展開されます。そのため早期アクセス版でもポルティアから訪れたキャラと会うことができます。正式リリース版では、いくつかのミッションをクリアすることでポルティアから多くのNPCが訪れるようになります。二作目の舞台をポルティアの近くにあるサンドロックにしたのもそのためです。『きみのまち ポルティア』でもサンドロックに言及するミッションがありますし、地理的に近いのでポルティアのキャラがサンドロックに訪れることに説得力があるわけです。

とはいえ、二つの街の環境はまったく違います。ポルティアは海に近いですから、たくさんの水があり、草花も生い茂っていました。ポルティアには色彩があり、住み心地のいい環境でした。ところが、サンドロックに入ったら、そこにあるのは砂と岩。プレイヤーはまったく違う印象を受けるでしょう。

──『きみのまち ポルティア』が出た時は新作が出るとは思いませんでした。『きみのまち サンドロック』も好調とのことで、おめでとうございます。

Aaron氏:
『きみのまち』シリーズの世界を生み出せて嬉しく思っています。私たちはシリーズを通して、プレイヤーに伝えたい物語を多く胸に秘めているんです。『きみのまち』シリーズの世界において、作品ごとに新たなストーリーになるのはそのためで、ストーリーを伝えることに重点を置いています。

また私たちが最初に手がけたゲーム『きみのまち ポルティア』では、プレイヤーに世界のリアルさを感じてほしいと思っていました。そのために、まずストーリーを作り、世界の歴史を作りました。世界中のさまざまな場所や街で、あらゆる出来事が常に起きているのです。プレイヤーがゲームの世界にとどまり続けたとしても、世界は動き続けるわけです。ほかの都市に行くことができなくとも、世界が生きているのを感じられます。たとえば、NPCがあなたの街にやってきて、新しい出来事が起きたと教えてくれたり、新聞でニュースを読むことができたり。プレイヤーにそれを感じてもらいたかったのです。

「My Time(きみのまち)」というタイトルにもそうした思いがこめられています。ゲームをプレイするたびに、そしてゲームを終えたあとも、その街で過ごした時間、つまり「自分の時間」をいい思い出として残す、という意味なのです。そのためには世界がリアルである必要があります。


──アートの方向性や見た目、色合いが大きく変わることで、前作のファンが離れるリスクはあると思いますか?

Aaron氏:
私はそうは思いません。プレイヤーがゲームをプレイする目的は、ビジュアルの美しさだけではありませんから。しかし、ゲームの二作目は作るのが難しいものです。一作目とあまりに似通ったものを作ってしまうと、プレイヤーはゲームが進歩していないと感じてしまいます。逆に変えすぎると、一作目みたいじゃないから好きじゃないと思われてしまう。ですから色合いを変えて『きみのまち ポルティア』とは違う雰囲気を出しつつ、ゲームサイクルなどは『きみのまち ポルティア』に近づけました。

また世界をうまく構築して、ディテールを充分加えれば、プレイヤーはそれを感じとってくれます。サンドロックは美しくはないかもしれませんが、クールな雰囲気をもっています。それに、サンドロックでは緑あふれる街を実現できないわけではありません。正式リリース時にはサンドロックに緑をもたらすミッションが実装されます。サンドロックの町に木が茂り、花が咲き、緑があふれるのです。その様子はまだ内緒ですが……それも正式リリースでプレイヤーに気に入ってもらえる新要素だと思っています。

──『きみのまち サンドロック』はすでにSteamで1万件以上のユーザーレビューが寄せられて「非常に好評」の評価ステータスを得ています。このゲームが成功したと感じていますか?

Aaron氏:
難しい質問です。まだゲームが完成していない以上、プレイヤーはゲームのすべてを体験できていませんし、ストーリーの全容も知ることができません。時間や開発リソースの制約から盛り込むことができず、次回作に持ちこさざるを得なかったアイデアもあります。

開発者というのは、ゲームに入れたい新たなアイデアが常に思い浮かぶものです。アイデアを考えてゲームに落とし込む頃には、すでに次のアイデアが生まれている。私たちは「次はもっとうまくやれる」といつも感じています。開発者として、自分のゲームが完璧だと思えることはないのです。ですから自分のゲームが成功したかと訊かれたら答えは「NO」になってしまうでしょう。とはいえ、『きみのまち サンドロック』が正式リリース後に『きみのまち ポルティア』よりも良い売上・評価を得られれば成功したという実感を得られるかもしれません。

──Steam版の日本人ユーザーは何人くらいいますか?

Aaron氏:
約1万人です。『きみのまち ポルティア』の早期アクセス配信時よりも多く、悪くない数字です。また、日本のユーザーからは好意的で優しいレビューが多く寄せられており、嬉しく思っています。正式リリース時はDMM GAMESがプロモーションを担当しますし、コンソール版も出るのでより多くの人に遊んでもらえると考えています。


──『きみのまち』シリーズの日本での人気の理由についてどう考えていますか?

Aaron氏:
Patheaの作風が関係していると思います。Patheaの創業者Zifei Wu氏は大学時代、かつてディズニーに在籍していたアニメーターから指導を受けて、ディズニーの伝統的なアイデアや哲学を学びました。ディズニー映画のアニメーションやキャラクターのアートスタイルは、アメリカや日本、中国のスタイルとも異なる、世界中の誰もが受け入れられるものです。そのため、私たちがゲーム世界やキャラクターのデザインをする際には、ディズニーの手法に倣ってグローバルなゲームを目指しています。そして「いつかはディズニーを超えてやる!」とも思っていたり……(笑)とにかく、そうした作風が、日本のプレイヤーからの人気に繋がっているのかもしれません。

──Patheaはデベロッパーだけでなく、パブリッシャーとしても活動していますよね。

Aaron氏:
中国ではセルフパブリッシングをしています。また『きみのまち サンドロック』では、中国外でのパブリッシングも試みましたが想定通りにできず、さまざまな問題が生じました。特に日本の市場は特殊ですから、日本向けのパブリッシングが必要だと考えました。

──DMM GAMESとはどのようにパートナー契約を結ぶに至りましたか。

DMM GAMESとは2019年に、ゲームの見本市「Paris Games Week」で出会っていました。ただ、『きみのまち サンドロック』の日本のパブリッシャーを探した際には、さまざまな会社に目を通してミーティングをしました。この際、本作が早期アクセスであることに難色を示されたんです。早期アクセスのゲームにプレイヤーは比較的関心を示さない傾向があるため、パブリッシャーやインフルエンサーの多くは早期アクセスのゲームを取り扱いたがりません。

でもDMM GAMESとの打合せの際には、「できる限りサポートする」と前向きに考えてもらえました。DMM GAMESはファンが多く求心力も高いですし、検討を重ねて最終的にパブリッシングをお願いすることに決めました。

──DMM GAMESとはどのように協力していますか。

Aaron氏:
DMM GAMESにはコンソール版とPC版の日本でのパブリッシングを担当してもらっています。外国のデベロッパーやパブリッシャーが日本のメディアにコンタクトを取るのは大変です。なので、そうした各メディアとの橋渡しや、『サンドロック』の日本語のウェブサイトを作ってもらえて助かっています。正式リリースに向けたメディアやインフルエンサーとの連携など、多方面でのサポートも期待しています。

──日本でコンソール版が発売されたら、どのような人にプレイしてもらいたいと思いますか?

Aaron氏:
PS5版ではPC版に近いレベルでのゲーム体験が可能です。またNintendo Switch版も現在開発中で、フレームレートやロード時間、雰囲気に大きな差が生じないように努めています。Nintendo Switch版も自信をもって販売したいので、発売前には実機映像も出す予定です。また、前作『きみのまち ポルティア』では移植を外部に委託して失敗したので、今回は社内で移植しています。自社内で開発環境の変化があっても適応できるようにした方が確実ですし、新しい要素も追加しやすいメリットもあります。

──最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

Aaron氏:
『きみのまち サンドロック』にはどのメディアにも独占情報を話せるくらい、多くのアイデアを詰め込んでいます(笑)中国では基本プレイ無料のオンラインゲームやモバイルゲームが主流で、Patheaのように大型タイトルを作っている会社はまだ少ないです。ですから、そうしたゲームを作りたい熱意ある人が入社してくれます。毎年社内でコンペティション形式のゲームづくりも行っていますし、本作にはそうしたクリエイティビティが盛り込まれています。そうして生まれたキャラクターや世界観に注目してほしいですね。

──ありがとうございました。

『きみのまち サンドロック』はPC(Steam)向けには11月3日に正式リリース予定。国内PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/Nintendo Switch版は同日DMM GAMESより発売予定だ。PS5およびNintendo Switch向けにはパッケージ版も発売予定。

AUTOMATON JP
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