『龍が如く 維新!極 』は、なぜUnreal Engineで作られたのか。その音を支えたのは“なくてはならない”あの技術

セガは『龍が如く 維新! 極 』を発売した。同作はUnreal Engineで開発されているという。なぜUEを選んだのか、音まわりの話をまじえて話を聞いた。

セガは2月22日、『龍が如く 維新! 極 』を発売した。対応プラットフォームはPS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/PC(Windows/Steam)。同作は、2014年にPS4で発売された『龍が如く 維新』をフルリメイクした作品だ。グラフィックが刷新されたほか、追加要素もあり。オリジナル版は当時は国内でのみ発売されていたが、フルリメイク作として全世界向けにリリースされる。


そして面白いのが、『龍が如く 維新! 極』がUnreal Engineで開発されたことだ。龍が如くスタジオといえば、自社エンジンの開発も活発。現在でも自社エンジンがシリーズ新作に使われているが、一方で今回はあえてUnreal Engineを採用。なぜUnreal Engineが採用されたのか。そして、Unreal Engine採用に際して「音」の仕様はどのように対応したのか。

ということで、今回はセガの龍が如くスタジオの開発メンバー4人に話を聞いた。サウンドという観点にも寄りつつ、その開発の裏側をお伝えする。参加したのは以下の面々である。なお本インタビューは、感染対策をした上で実施している。

チーフプロデューサー:阪本 寛之
リードプログラマー:加藤 達也
リードプログラマー(サウンド担当):服部 義明
サウンドデザイナー:下原 史義

ちなみに先にオチを言ってしまうと、『龍が如く 維新! 極』の音技術については、CRI・ミドルウェアの技術ブランド「CRIWARE(シーアールアイウェア)」から、統合型サウンドミドルウェアCRI ADX、高圧縮高画質のムービーミドルウェアCRI Sofdecが採用されている。資料請求についてはこちらから問い合わせてほしい。

https://www.cri-mw.co.jp/contact/game.html


Unreal Engineで装いを新たに登場した『龍が如く 維新!極』

――自己紹介をお願いします。

阪本:
『龍が如く 維新! 極』チーフプロデューサーの阪本と申します。本作は2014年にPlayStation 4ローンチタイトルとして発売した『龍が如く 維新!』のフルリメイク作品ですが、オリジナル作品では私がディレクターを務めておりました。9年の時を経てフルリメイクということで、自身にとっても非常に感慨深いプロジェクトです。今日はよろしくお願いいたします。


加藤:
本作でメインプログラマーを務めた加藤です。入社は2006年で、PlayStation 2で発売された『龍が如く2』のプログラムを担当、その後も『龍が如く』シリーズに関わってきました。本作においては、初期段階におけるバトルの実装、後半はゲーム全体に関わる実装や技術的な方針決定とスケジュール管理を行いました。


服部:
サウンドプログラム担当の服部です。元の『龍が如く 維新!』でも私が担当していました。業務領域としてはサウンドデザイナーの作成したデータをゲームに組み込む事をメインに行なっています。ADXも長年使わせてもらっています。


下原:
サウンドデザイナーの下原です。サウンドプログラマーとして入社し、紆余曲折を経てサウンドデザイナーとなりました。プログラムの知識があることから、現在はテクニカルサウンドデザイナーのような立場で仕事をしています。本作ではBGM以外のSE、ボイスの新規実装、移植のデータ管理を担当しました。


――改めて、今回のテーマとなる『龍が如く 維新! 極』のゲーム概要を教えてください。

阪本:
『龍が如く 維新! 極』は『龍が如く』シリーズの中でも異色作となる歴史スピンオフ作品で、主人公となる坂本龍馬が「もしも新選組に入隊したら?」という歴史のIFと史実を織り交ぜた大河ドラマ的作品となります。これに加えて、シリーズに登場するキャラクターがオールスターで登場するという要素もあります。

ゲーム内容としては、オリジナル当時から刀と拳銃を使い分けてプレイするアクション要素が特徴でした。フルリメイクとなる本作でも、オリジナルを拡張した剣戟アクションを踏襲しています。また、開発においては、シリーズ初となるUnreal Engineを使用した点が特徴になります。

――本作の開発期間について教えてください。

加藤:
事前にUnreal Engine開発における基礎研究は行っていましたが、実際に開発がスタートしたのは2021年9月です。約18か月の開発期間ですね。もともとセガでは業務用タイトルでUnreal Engineを使用していた実績があり、既に開発経験のあるスタッフが合流して開発しました。

――Unreal Engineでの家庭用タイトル開発という意味では初の試みかと思いますが、どういった検証を行ったのでしょうか。また、ドラゴンエンジン(『龍が如く』シリーズで活用されていた内製ゲームエンジン)ではなくUnreal Engineを活用した理由についても教えてください。

阪本:
Unreal Engineを採用した一番の理由は、光の表現が良かったからです。一番分かりやすいのは冒頭の牢屋シーンですね。牢屋の格子の隙間から光が差し込むシーンをUnreal Engineで再現した際、物理演算的なアプローチだとここまでナチュラルかつリッチに見えるのかと感動して。そのときに「このエンジンであれば大丈夫」と確信したんです。


ただ、もちろん単純に移植をするだけではダメで、3Dモデルなども相当ブラッシュアップしています。もとのモデルデータだと顔が膨らんで見えたり、髭の位置がズレてしまったり、きちんとした見栄えにはなりませんでした。Unreal Engineで一番見栄えがするようにモデル側へ手を加えるのと同じように、ほかの要素も「移植」ではなくしっかりとリメイクを行っています。

加藤:
Unreal Engineは、多くのゲーム開発で採用されているエンジンのため、学習コストや知識の共有化がしやすいというのも大きな強みですね。検証方法については、まずは元の『龍が如く 維新!』をUnreal Engineで動かすことから始めたのですが、座標系の違いやスケールの問題などに直面しました。たとえば、ドラゴンエンジンの座標系では高さがY軸ですが、Unreal EngineではZ軸になります。また、長さの単位の違いによるバグは一見正常に動作しているように見えるため発見しづらいなど、初期の頃は苦労しながらワークフローを模索していました。

ドラゴンエンジン…… 『龍が如く』シリーズのために独自開発されたゲームエンジン。

――基礎研究のベースがあったとはいえ、18か月というのは短い開発期間という印象を受けますね。サウンドチームはどの段階からプロジェクトにジョインしていたのでしょうか。

下原:
サウンドチームは2021年5月頃、立ち上げの前段階から工数の算出やUE4のサウンドに関するスタディーなどを行っていました。その時点では、他プロジェクトと掛け持ちもしながら、3名ほどで作業をしていましたね。

その後、プロジェクトが本格化するなか、2021年10月頃にキャスト変更の話が出てきたので、そこから音声収録に関わる準備を開始しました。サウンド人員の規模としてはサウンドプロデューサー、実装統括、BGM統括がそれぞれ1名ずつ、キャラクター差し替えによるイベントシーンのMIX作業に2名と、この5名がコアメンバーとなりました。このほか、新規のカラオケ曲やバトルBGMの作曲担当で5名ほど、効果音の実装周りも含めると12名程度での開発となりました。

――サウンド全般に関するコアメンバーが5名というのは、この規模のタイトルでは一般的なのでしょうか。

下原:
『龍が如く』シリーズにおいて、コアで関わるメンバーとしては少ないと思います。いつもは10名以上が主に関わっておりますが、今回は5名のほかはスポット参加でしたので、少数で進行した形でしたね。


進化したサウンド演出、キャスト変更のために用意された収録ワークフロー

――9年振りのリメイクとなる『龍が如く 維新! 極』ですが、オリジナルとのサウンド演出の違いを教えてください。

下原:
まずはBGMに関して、全体の2割ほどは前作にはない楽曲を搭載しています。当時の雰囲気も残しながら、バトル曲などでは新規アレンジ曲を制作したり、オールスターという意味合いで過去の人気曲をピックアップして使用したりする試みも行っています。『龍が如く』シリーズではバトルBGMがユーザーの心象に残ることも多く、新たなオールスターの雰囲気を感じていただければと思います。

一方、SEに関しては、オリジナル作品ではバトルダンジョンに限定していた「隊士能力」が通常のバトルでも使えるようになった関係上、新たな隊士能力に関するアセットが増加しております。従来のシリーズにはないファンタジックなスキルも多いため、これまでにないようなSEを80ファイルほど作らせていただきました。

服部:
イベントシーンからバトルに移り変わる際も、BGMが綺麗につながるような仕組みを持っています。沖田総司と戦うシーンはイベントシーンからテンションMAXの状態でバトルになだれ込むという演出になっていますので、ぜひ見て欲しいです。


阪本:
サウンドも含め、演出の変化という意味合いではキャストの変更が大きい感覚がありますね。オリジナル作品を遊んでいただいた方にも楽しんでいただけるよう、改めて現在のキャラクター性などから、配役を再検討しております。当然、これに伴って音声収録も新規に行っています。

――確かに、キャストの変更には驚きました。新規タイトルではなく、フルリメイクだからこその収録方法の工夫はありましたか?

下原:
新規の龍が如くタイトルを開発する際は台本ベースで収録を行い、音声が先行することが多いのですが、本作はオリジナル作品がありますので、声優さんに映像を見ていただきながら収録を行うアテレコを多用しています。

2021年10月にキャストを変更するアイデアが具体化し、音声収録を開始したのが2022年6月だったのですが、4月から5月にかけては、収録用の映像をどう作るかでバタバタしていた記憶があります。


加藤:
キャラクターがきちんと動いていない状況からのスタートだったので大変でしたが、期日までに正しく動作する状態にでき今はほっとしています。キャラクターが立っているだけでアテレコをするのは難しいでしょうからね。プロジェクト全体を通してドラマシーンが先行してクオリティを引っ張っていたと思います。

――新規の収録はアテレコ中心だったと。ドラマシーンというのは、いわゆるカットシーン(ムービーシーン)のことでしょうか?

ドラマシーンとは、キャラクターにフェイシャルモーションと演出用のカメラを設定した会話シーンのことで、通常のイベントシーンに比べて低コストで実装が可能ですが、アニメーター側でフェイシャルモーションを作成するため、ボイスの尺が変わるともう一度データを作り直す必要があります。今作では、元の『龍が如く 維新!』のフェイシャルモーションデータを再利用するために、オリジナルのボイスデータの尺に合わせてアテレコを行いました。

阪本:
顔の演技は本当にこだわっていたので、当時はいろいろなアプローチがあったんです。そもそも、単純な音素解析だと、声がない部分は無表情になりますからね。全部決まった表情、全部決まったカメラでは機械的に見えてしまい、長尺のドラマは再現できないんです。ドラマシーンは、演出に幅を持たせておくという意味合いで生まれた仕組みでした。


下原:
実は、開発序盤では私たちもドラマシーンのことはすっかり頭から抜けていて……。ドラマシーンはセリフ送りもできるので、シーン尺の音声データではなく細かく切り分けた波形ファイルになっています。実装の都合でカットシーンよりも厳密な尺合わせが必要だったため、準備も収録自体も大変なものでした。

ゲームエンジンが変わってもOK。ADX活用で従来通りの開発ワークフローを継承

――開発面においては、本作が初のUnreal Engine x ADX(※)の事例かと思います。この部分について、サウンド開発はスムーズでしたでしょうか?

ADX……CRI・ミドルウェアが提供するサウンドミドルウェア。ゲーム開発で要求される多様なサウンド演出を手軽に実現することが可能。

服部:
本作の開発においてはドラゴンエンジンのシステムとUnreal Engineのシステム、ADXのシステムと3つの作業領域がありましたが、ADXの部分は従来通りの作業ができました。データの移植や変換もスムーズに行うことができましたし、逆に言えばADXでなければこの物量を再実装することはできなかったと思いますね。

Unreal Engineのネイティブ機能で実装するとしたらUnreal Engineの習得からスタートすることになりますが、そこをAtom Craftがカバーしてくれたので、今までのワークフローを完全に守ることができました。我々としてはもうADXありきです。使っていないタイトルはないくらいですから。

――そうなると、Unreal Engineのエディタ機能はほぼ使っていないのでしょうか?

服部:
ほとんど使っていないですね。基盤となる部分はほとんど丸ごと元の『龍が如く 維新!』から持ってきていますので、Unreal Engineではイベントシーンのアセット管理と、Animation Montage(モンタージュ内でイベントを発行し、アニメーションやエフェクト、サウンドキューを再生する仕組み)だけを触っています。

加藤:
物量の多いタイトルだったので、内製ツールで作成したデータをAnimation Montageやシーケンサーにインポートできるようにコンバーターを書きました。また、武器の各種パラメーターも元の『龍が如く 維新!』のデータをそのまま使えるように工夫しました。

服部:
サウンドも元の『龍が如く 維新!』のデータが流用できたので、とてもスムーズに移植できました。またUnreal Engineとドラゴンエンジンとのサウンド再生方法の差を埋めるために、CRIさんに「2つのエンジン共通のIDをサウンドデータに埋め込む仕組み」を作成していただきました。これが無ければ完成の目途が立たなかったほどなので、このような手厚いサポートは大変助かりました。

――サウンド面だけでなく、ほぼすべてのデータを一旦コンバートした上で作業しているのでしょうか?たとえばマップデータなどは、何が置いてあったかも含めて再現できていたということですか?

加藤:
マップデータについては、元の『龍が如く 維新!』と同じ開発環境を用意し、元のデータをすべて持ってくることにしました。Unreal Engineのエディタ上では確認できないというデメリットはありましたが、結果的には大幅なコスト削減になりました。


――なるほど、これは思い切ったワークフローですね。それで問題なく動作している技術力や旧システムの保守面もさることながら、シリーズを長く作っているメンバーが集うからこそ実現可能なのかも知れません。

加藤:
逆に、UI周りはUnreal Engineネイティブで開発しました。元の『龍が如く 維新!』との差を吸収するのが大変な部分もありましたが、UIシステムを移植するコストのことを考えると、良い選択だったのではないかと思います。

マルチプラットフォーム&海外展開を視野に入れた9カ国ローカライズ

――オリジナル作品はPlayStation 3、PlayStation 4のマルチプラットフォームでしたが、本作はそこから世代が変わって対応機種も増えました。マルチプラットフォーム対応と、ローカライズ対応について教えてください。

阪本:
本作はマルチプラットフォームかつローカライズを含めた世界同時発売ということになりました。プラットフォームはPlayStation 4、PlayStation 5、Xbox Series X|Sに加え、Steam、Windowsに対応しています。

オリジナル作品は日本国内のみ発売したため、今回は9カ国語へローカライズしています。EFIGS(英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)と、簡体字、繁体字、ハングル、そして日本語ですね。

『龍が如く』シリーズの市場規模は北米欧州が圧倒的に大きいんです。日本も大きな市場ではありますが、ありがたいことに海外にも多くのファンの方がいらっしゃいます。

服部:
マルチプラットフォーム対応においては、VP9コーデック()が使えたのが大きかったですね。いくらハードスペックが上がったとしても、データ容量を抑える必要はありますので、Sofdec()側がVP9に対応していたのは助かりました。

VP9…… Googleが開発しているオープンでロイヤリティフリーな動画圧縮コーデック。比較的コーデックとしては新しく、圧縮率が高い。

Sofdec…… CRI・ミドルウェアのムービーミドルウェア。『龍が如く 維新! 極』でも採用されている。


――イベントシーンの画質や音質について、使用コーデックを教えてください。また、各機能の全体的なご感想もお聞かせください。

服部:
PlayStation 5とXbox Series X|Sではムービーを4K解像度で収録しています。VP9を使うことによって、PlayStation 4やXbox One Xに収録されている2K解像度のH.264とほぼ変わらない容量まで低減できています。

Windows、Steam版ではSofdec Prime(※)を使っています。こちらはVP9やH.264に比べて圧縮率は高くないですが、画質については素晴らしいコーデックだと思いました。

Sofdec Prime…… 前述のムービーミドルウェアSofdecで使用可能な独自コーデック

阪本:
イベントシーンなどはプリレンダも制作しますし、ミニゲームなどでもプリレンダムービーを活用します。いくらブルーレイディスクの容量が大きくなったとはいえ、ゲーム全体のデータ量も上がっていることから、ムービーは圧縮頼みになる部分もあります。Sofdecもそうですし、ADXなど開発の基盤となるミドルウェアは、シリーズにとって「なくてはならない存在」だと感じています。


――それほど重要なミドルウェアなんですね。いろいろお話聞かせていただき、ありがとうございました。

繰り返しとなるが、『龍が如く 維新! 極』では、統合型音声サウンドミドルウェアCRI ADX、高圧縮高画質のムービーCRI SofdecといったCRI・ミドルウェア製の技術が採用されている。資料請求についてはこちらから問い合わせてほしい。

[聞き手・執筆・編集:Daiki Kamiyama]
[編集・撮影:Ayuo Kawase]


※ The English version of this article is available here

Daiki Kamiyama
Daiki Kamiyama

NINE GATES STUDIO コンポーザー/サウンドデザイナー/技術系ライター。商用作品への楽曲提供と並行して、”Yack Lab.”名義でゲーム制作も行っており、代表作『Gen.』は東京ゲームショウSOWNやWIRED CREATIVE HACK AWARDなどにノミネートされるなどの評価を得て来た。好きな時に好きなゲームで遊ぶため、現在はフリーとして活動中。

NINE GATES STUDIO
http://blog.nine-gates.com

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