Steamで高評価の時間操作ACT『Timelie』は、日本のクリエイターに感銘を受けて作られた。Urnique Studioの秘話から見えてきた、タイの複雑なゲーム事情

Steamで高評価の時間操作アクション『Timelie』の作品ルーツに迫る。開発元Urnique Studioへのインタビューを介して、本作の開発事情やタイのゲーム事情にふれていく。

「タイ」と聞いて、読者の皆様はまず何が脳裏に浮かぶだろうか。仏教美術、トムヤムクン、道を埋め尽くすバイクの群れ。実はそうした候補のほか、ビデオゲーム市場が成長を遂げつつある国としても知られている。タイのゲーム市場は東南アジア地域2位の規模を誇り、Thailand Game Expoをはじめとした国内ゲームイベントも開催されているなど勢いもある。インディーゲームの開発も盛んになりつつある中、2020年に登場したのがタイ産パズルアクションゲーム『Timelie』だ。

開発メンバーは2016年、学生時代に本作のプロトタイプを作り、マイクロソフトが主催する学生ITコンクール「イマジンカップ」ゲーム部門で見事優勝を果たした。商業ゲーム化に成功した現在でも、Steamで900を越えるユーザーレビューによって「圧倒的好評」の評価を獲得するなど高い人気を博している。日本語にも対応していることから、既に本作を楽しんだという方も多いのではないだろうか。

今回特別な機会をいただき、『Timelie』の開発元Urnique Studioの共同創設者であるParimeth Wongsatayanon氏へ、一問一答形式のインタビューを行う運びとなった。本稿では、タイのゲーム事情を皮切りに、『Timelie』の開発の裏側に踏み込んでいく。

インタビューに入る前に、『Timelie』について紹介しよう。『Timelie』は少女と猫の二人組が、廃工場に似た無機質な世界を旅するステルスアクションパズルゲーム。プレイヤーは姿形が異なる二人を「同時に」操作しゴールまで導いていくことになるが、巡回するロボットの監視や、ステージに用意されたギミックがその行く手を阻む。単純な謎解きではなくステルスアクションをメインに据えることで、ステージの回答プロセスにブレ幅をもたらし、プレイヤー各々のやり方を尊重する=唯一無二の体験を生み出している。

そして本作最大の特徴と言っていいのが「メディアプレイヤー型のシークバー」だ。プレイヤーはアクションとともに進行するシークバーが端に到達するまでに、ステージをクリアしなければならない。だがシークバーを操ることで自由にプレイを停止・巻き戻しできるようになっている。ルールの提供だけに収まらず、シームレスなリトライを可能にし、さらにはゲームのタイトルにもある「Time」という概念を表現する要素としても一役買っている。一挙三得のシステムとして成立しているのである。

『Timelie』はPC(Steam)向けに、1840円で好評発売中。2月16日までのSteam旧正月セール期間中は、30%オフの1288円で購入できる。


『メタルギアソリッド』に感銘を受けた、学生時代

──まずは自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。


はじめまして、Parimeth Wongsatayanon (パリメット・ウォンサタヤノン)です。もしくはジェームスとお呼びください。『Timelie』のクリエイティブ・ディレクターであり、タイに拠点を置くUrnique Studioの共同創設者でもあります。ゲームの脚本とデザインを担当しています。今27歳です。

普段のゲームクリエイターとしての仕事のほかに、タイのゲーム開発者を支援するタイ・ゲーム・ソフトウェア産業協会(TGA)の委員会にも所属しています。また、国会の「ゲームソフトとeスポーツ産業の研究に関する小委員会」にも属しています。本日はこうして私たちの物語を日本の皆さんと共有できることを光栄に思います。

──Wongsatayanonさんのゲームプレイ遍歴を教えて下さい。

ぜひとも!少し長めに語らせていただきますね。まず物心ついたころから、ゲームボーイ、ファミコン、プレイステーション、PCなど、さまざまなプラットフォームでゲームを遊んできました。最初にプレイしたゲームが何だったのかも覚えていません。幼いころ一番気に入っていたゲームは『ロックマンX』シリーズだったかな。すごく好きで、漫画も持っていました。2番目のお気に入りは『ポケモン』。そして韓国の『ラグナロクオンライン』をきっかけに、幼少期から思春期までMMORPGに大ハマリしました。そういえば、紙でRPGを作って、学校の休憩時間中、友達に遊ばせてもいました。自作ゲームを遊ばせるにあたり、サブスクリプションモデルでの課金までして。なんて欲張りな小学生だったんだろう(笑)

当時のタイはかなりのMMORPG大国。毎月のように新しいMMORPGが出てきては、試しに遊んでみるというのを何年もやっていました。それに飽きてしまった私は、友達が誰も持っていないのにも関わらず、PS3と一緒にコンソールゲームの世界へ戻ることにしたのです。これを機に、ゲームの世界により深く引き込まれていきました。ちょうどそのころにE3や東京ゲームショウの存在を知って、コンソールゲームのクオリティの高さに驚かされました。なかでも『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』の発表にめちゃくちゃ興奮し、『メタルギアソリッド』シリーズの1〜3を探してプレイしたんですけど、たまげましたよ。小島秀夫さんの大ファンになりました。それから中学生のころは毎日のようにゲームやゲーム業界のニュースを読んでいました。趣味でゲームジャーナリストとしてゲームサイトに寄稿したりもしました。

今でもゲーム機やPC、スマートフォンでたくさんのゲームをプレイしています。インディーからAAA級のタイトルまで、ジャンルや開発規模を問わず、さまざまなタイプのゲームをプレイしてきました。新しい世界を探求し、クリエイターがゲームに密かに込めた意味を理解するのが好きなんです。

タイのゲーム事情

──代表作『Timelie』について触れる前に、まずはタイのゲーム事情についてお尋ねしたいと思います。タイにおけるビデオゲームは、数ある国内の娯楽の中で、現在どのような立ち位置にありますか?遊び手の年齢層についても教えて下さい。

タイにおいてゲームは、この5年間でよりポピュラーな存在になりました。年齢や性別にとらわれない大衆向けのメディアとなり、特に子供たちに人気があります。ゲーマーの主な年齢層は、10〜40歳ではないでしょうか。子供は主にスマートフォンでゲームをプレイする傾向があります。大学生はPCの方が多く、大人はコンソールやPCで遊んでいます。

今では、11歳の女の子が『Arena of Valor』(タイで一番人気の中国製MOBAゲーム)をプレイしている姿を簡単に見つけることができます。大物監督を起用した、『Arena of Valor』のタイ映画まで作られるほどの人気ぶりです。

『Arena of Valor』


ゲームを遊ぶYouTuberやストリーマーは、子供たちにとっては一般的なメディアの様式になっています。若者の間では、今では芸能人よりもよく知られています。もっとも有名なYouTuberのひとりは、ゲームの実況配信をしている女性で、チャンネル登録者数は1300万人。今では広告や看板で彼女を見かけることもあります。

eスポーツシーンもかなり大きいですね。リーグやクラブがたくさんあります。国内の主流メディアで頻繁に取り上げられているため、eスポーツ関連のゲームを目にする機会は非常に多いです。先行きは明るいと思いますよ。

──タイの人はどのようなハードウェアを用いてゲームを遊んでいますか?スマートフォンでしょうか。PCでしょうか。ゲームセンターでも遊ぶのでしょうか?

スマートフォンが市場全体の半分以上を占めていて、残りの多くはPC。コンソール機を持っている人はそれほど多くないんですけど、それでもプレイヤーの人口規模は大きいです。ゲームセンターは今では非常に珍しく、一部の場所にしかありません。私が名前を挙げられる店舗はたった2軒ですね(笑)

──人気のあるタイ産タイトルを教えてください。

最近のタイのゲームで人気があるのは、『Home Sweet Home』と『Araya』ではないでしょうか。どちらも一人称視点のホラーゲームです。MMOが流行っていたころは『12 Tails Online』が一番人気だったかな。

ただ最近のタイのゲームと言えば、タイのデベロッパーが作ったメカアクションの作品で、アメリカや日本のファンがかなり多い『M.A.S.S.Builder』などもあります。もう一つ紹介したいのは、欧米のゲーマーの間で人気が出てきている『Kingdoms Reborn』。個人開発者による、Steam早期アクセス配信中の都市建設ゲームです。ぜひチェックしてみてください。

『Kingdoms Reborn』


──『Timelie』はダウンロード販売の形式を採用していますが、タイにおけるパッケージ販売の状況についても興味があります。タイにおいてゲームはどこに売っていますか?ゲーム屋さんでしょうか。ラインナップは国産のものが多いのでしょうか。

今はダウンロード販売が主流となっています。コンソールゲームに関してはパッケージ販売がまだ残っており、それらを扱っているお店もあるにはあるのですが、その数は限られています。PCゲームのパッケージ販売はほとんど存在していません。タイ産ゲームの物理的なコピーを見かける機会はごくわずか。もし見かけたら、タイのゲーム業界における最大のマーケティング・スタントの一つと考えていいでしょう。それほど珍しいものなのです。

──タイのゲームは、主にどこの市場を狙っているのでしょうか?

興味深い質問ですね。タイではタイ製ゲームの市場はほとんどありません。数が少ないので、主なターゲット市場がどこかは分かりません。数は少ないものの、タイのゲームはあらゆるジャンル、プラットフォームで見られますよ。

ゲーム専攻学生増。次世代ゲームクリエイターの台頭へ

──ゲーム開発者という職業のタイ国内における人気はいかがでしょう。

消費者目線でのゲーム事情とは大きく異なり、ゲーム開発業界はそこまで盛り上がっていません。タイのゲーム業界全体としての市場は大きく、現在東南アジア市場のトップ2に入っており、目覚ましい成長を遂げているものの、収入の98〜99%は海外のゲームによるものです。ゲームで収益を上げられるタイのデベロッパーはごく一部。年間で発売されるタイトルの数も、非常に少ないです。

ほとんどのタイ製ゲームは、そのクオリティや大衆への露出量が原因で、国内ではあまり知られていません。他国のゲームに対抗し、通用するレベルのゲームを作らないといけないのですが、いかんせん予算が少ないのです。

そして、タイで一番人気のある市場は、もっとも競争の激しいモバイル市場です。そのためタイの開発者は、(国内で埋もれることを避けるために)グローバル向けのゲームを作る傾向があります。モバイル市場で勝負しようとしたデベロッパーもいますが、結果はあまり芳しくありませんでした。小さな会社であればなおさら、成功をおさめられる可能性は非常に低いです。近年、多くのスタジオが廃業しています。タイで生計を立てるためにゲームを作るのはかなりリスキーです。生き残った人たちは、グローバル市場で収益を上げているか、海外企業の外注案件をこなしている場合が多いです。

しかし今年は事情が好転すると思っています。ゲーム開発を学ぶ学生が数多く大学を卒業するようになったからです。私が学生だったころには、ゲーム開発を専攻できる大学がなかったので、新しい世代の登場を感じています。そうした新世代のゲームが、今年や来年にかけて続々と出てくるでしょう。タイのゲームにとって、もっともエキサイティングな年になると思います。おもしろそうな作品ばかりなので、遊べるようになるのが楽しみです。

──タイはIT新興国であり、学生達が参加するハッカソンなども盛んに行われている印象があります。インディーデベロッパーや、若年層によるゲーム制作に関して、勢いはありますか?ゲーム開発に際して国からのサポートは出ていますか?

少し前までは、政府からの大きな後押しも、十分な支援も得られなかったのが実情です。意外と、ビデオゲームに対する悪印象の方が強いのかもしれません。ゲームは、子供の心を堕落させるような悪いものとして見られていましたし、ゲームクリエイターはお金のために子供たちを傷つけようとしている強欲で利己的なモンスターだというレッテルを貼られていました。 だから、誰からもほとんど支持されません。悪印象の例として出されるような、人気のある暴力的なゲームは、どれもタイの開発者が作ったものではないのですが(笑)

しかし状況は少し変わり、この2年間で多くの団体がビデオゲームを支援しようとし始めました。そのため、資金提供を受けたプロジェクトが今後続々と出てくる見込みです。なんとタイの首相も『Timelie』を試し、メディアで絶賛していました。 まだまだ始まったばかりの状態ではありますが、潮目が変わろうとしています。今後のさらなる支援にも期待しています。

──タイで開催されているゲームイベントは、Thailand Game Expo以外だと、どのようなものがありますか?インディーデベロッパーでも参加できるイベントはありますか?

そうですね、たしかにタイ最大のゲームイベントとされる「Thailand Game Show」があります。しかし、大型イベントのほとんどは、東京ゲームショウなどとは似ても似つきません。ほとんどのブースは、パブリッシャーが自社で販売するモバイルゲームやeスポーツのイベントに関するグッズを配るためのものです。タイ製の最新ゲームはほとんど出展されません。そうしたイベントの様子は、タイ製ゲームの国内市場が小さく、ユーザーの関心が低いという、業界の現状をあらわしていると言えるでしょう。

残念なことに、インディーゲームの開発者が参加できるようなイベントはありません。上述したようなゲームイベントでは、インディーデベロッパーのためのサポートや割引がありません。小さなブースを作るのに数十万バーツ(10万バーツ=約35万円)かかることもあり、インディーデベロッパーにとっては高すぎます。先述した国内需要の都合と、イベントに参加するハードルの高さにより、大型イベントでタイ製ゲームを見かける機会は稀。クリエイターが注目を浴びることはあまりなく、あくまでも消費者と大手パブリッシャーのためのイベントとなっています。

しかし、タイ製ゲームの波が来ていることと、大企業がビデオゲームをプッシュしようとしていることで、状況は変わるかもしれないと思っています。それにタイ製ゲーム市場はまだ発展途上であり、業界全体として学んでいる最中です。まだまだ始まったばかり。私個人としても、TGAおよび国会の小委員会のメンバーとしての影響力を活かし、ゲーム業界がより良い方向に向かえるよう、貢献していけたらと考えています。そして近い将来、インディーゲーム向けのイベントを開催できる日が来ることを願っています。


YouTubeから着想を得た、時間操作シークバーシステム

──タイのゲーム事情についてお答えいただきありがとうございます。続いて、『Timelie』についてお聞きしていきます。まずは『Timelie』の開発経緯を教えて下さい。先に生まれたのはゲームシステムですか?それともストーリーですか?

ゲームシステムが先です。でも、そう単純ではないんです。最初に作品のアイデアがあって、しっかりとしたコンセプトができるまで時間をかけて形にしていき、それを踏まえてストーリーを書いていきました。『Timelie』をゲームプレイ重視の作品にしたかったからです。


──ストーリーの元ネタや参考にした(もしくは影響を受けた)作品などはありますか?

まず、このゲームには2つのバージョンがあります。1つ目は大学時代の学生プロジェクトとして制作したバージョンです。2つ目は、会社を設立した後に商業目的でリメイクしたバージョンです。

学生プロジェクトのバージョンは、『メタルギアソリッド』『シュタインズ・ゲート』『Transistor』から多大な影響を受けていました。そうした作品による影響のもと、何年もかけてゲームの設定や世界観の構築を行っていたのですが、のちに製品化するにあたり方向性が変わったことで、ほとんど使わずじまいでした。ですがそれらは、どのような物語を語り得るのか探求するための青写真として役立ちました。

学生プロジェクトのころの構想は、ほとんど残っていないとはいえ、製品版『Timelie』にもいくらか影響を及ぼしています。テーマとしても通ずるところがあります。なお製品版の『Timelie』にもっとも影響を与えたのは、『ワンダと巨像』、『人喰いの大鷲トリコ』、そしてDenis Villeneuve監督のSF映画「Arrival(邦題:メッセージ)」でしょうか。私のお気に入りの作品であり、どれも傑作だと思っています。

──本作の特徴のひとつであるメディアプレイヤー型のシークバーは、ルールの提供という面でも、リトライの快適性というUIデザインの面でも、本作のテーマを暗に語るナラティブの手段としても機能する優れたシステムだと思います。このシークバーを生み出すまでのプロセスについて教えて下さい。

ゲームの中で時間をコントロールするシステムについては、非常に多くの試行錯誤がありました。そもそも、最初のうちは時間をコントロールするシステムを実装しようとはまったく考えていませんでした。あるとき、プログラマーがプログラミングの腕を示すために自作してくれたんです。大きなポテンシャルを秘めていると感じたため、独自色として活かすよう、そこに焦点を当てていきました。ただ、当初その形は「メディアプレイヤー型のシークバー」ではありませんでした。

素晴らしいコンセプトとは裏腹に、その複雑さゆえゲームにおける最悪の側面でもありました。プレイヤーは、このゲームのメカニックがどのように機能するのか、理解することができなかったのです。プレイヤーがゲームの操作方法の基本を理解するのに30分かかることもありました。私はいろいろな方法を試しましたが、どれも十分ではありませんでした。諦めて、もう作りたくないと思ったほどです(笑)何年も心に傷を負いました。

しかし、ゲームを製品版としてリメイクするにあたり、このUXの問題を解決するのは私の役目でした。タイムメカニックをユニークかつシンプルなものにする解決策を見つけなければならない。そんな中、YouTubeを眺めていて気づいたんです。答えは最初からずっと、私の目の前にあったのだと。そう、YouTubeのシークバーです。試しにYouTubeから着想を得たシークバーを実装してみたところ、とても上手くいきました。長らく続いていた悪夢をようやく止めることができたんです。ハハハ!

──『Timelie』のステルスメインなパズルアクションは『メタルギアソリッド』シリーズから影響を受けているそうですが、「2体のキャラで同時攻略する」というアイデアはどこから来たのでしょう。


制作過程における副産物です。開発初期の段階では時間操作要素がなく、複数のキャラクターによる計画と実行のゲームでした。『RGB Express』というモバイルパズルゲームのような仕組みです。その後、ステルスの要素を増やし、キャラクターを2体に減らしていきました。その時たまたま「2体のキャラクターが同時に攻撃する」というコンセプトが出てきたんです。でも、それ単体では特段光る部分はありませんでした。時間のコントロール要素を追加したときチームの誰かが、それがいかにユニークなものなのか指摘するまでは。チーム全員が驚きましたよ。


ネコとてるてる坊主

──また、本作に登場するネコについても教えて下さい。開発メンバーにネコ好きが多いのでしょうか。

はい、その通りです!開発メンバーのほとんどが猫好きです。どの動物をゲームに含めるか話し合った時、チームのみんなが猫を提案しました。犬派なのは私だけかもしれません。なので、その時点で不戦敗が決まっていました(笑)とはいえ、シュレーディンガーの猫理論もありますし、このゲームが持つ「時間」というテーマには猫がピッタリだと思うんです。猫以外の選択肢は考えられません。

──レベルを作る上でクリア率と難易度のバランス調整方法に関して教えて下さい。

もちろん、ステージクリア率は100%になるべきだと考えています。私たちの目標は、挑戦的でありながらも難しすぎず、いろんな層の人が遊べるパズルゲームを作ることです。ゲーム全体を通して最高の体験を提供したいと思っています。本質的には(パズルの難しさよりも)プレイヤーとキャラクターの旅が重要なのです。

難易度のバランス調整に関しては、チーム内ですべてのステージをテストし、クリアまでの時間を計り、そのデータをすべてエクセルに入れてグラフを作成しました。時間がかかりすぎるステージがある場合は、修正するか、削除します。簡単すぎるステージも修正していきました。プレイヤーの感情の流れをできるだけ維持するためにも、そうした調整は欠かせません。

──キャラクターやオブジェクトデザインについて、影響を受けた作品はありますか?

キャラクターデザインに関しては、他のインディーゲームのキャラクターに影響を受けています。『Celeste』や『Transistor』『Little Nightmare』など。シンプルな形と色で認識できるようなデザインにしたいと思っていました。あとは、日本のてるてる坊主のシンプルな形と色からも影響を受けています。オブジェは『Little Nightmare』『INSIDE』などのインディーゲームからインスピレーションを得ています。


言語情報を使わないストーリーテリングと、上田文人氏の影響

──本作はストーリーを伝える上でテキストや音声を可能な限り使わない演出を用いていますが、これはなぜでしょうか。経済的な理由もあれば合わせてお願いします。


そうですね、「テキストや音声を可能な限り使わない演出」を用いた背景には金銭的な理由がありました。フルボイスとフルダイアログを用いたゲームを作るのは決して安くはないからです。それに身の丈に合わないことをやろうとしているような、中途半端なゲームは作りたくなかったんです。私たちは、可能な限り最高の体験をプレイヤーに届けたいと思っています。だからこそ、野心的でありながら、素晴らしいストーリーを、開発上実現可能な方法を用いて伝える術を模索していったのです。

また、私は上田文人さんの大ファンでもあります。彼が用いる、ゲームメカニックの中でストーリーを語る手法が大好きです。そして『Timelie』の特筆すべき点は、そのゲームメカニックにあります。そのため、「テキストや音声を可能な限り使わない」作品づくりと、非常に相性がよいと思うんですよ。私は最終的に出来上がったものをとても誇りに思っています。『Timelie』は、テキストやセリフがなくても、プレイヤーの感情を動かすことができます。そうした作品に仕上げられたことには、達成感がありますね。

──言語情報を使わない代わりに、サウンドトラックに力を入れているように思います。Aun Jessada氏とPongsathorn Posayanonth氏を選んだ理由と、楽曲制作のプロセスを教えて下さい。

*『Timelie』オリジナルサウンドトラックより、「No Last Eternity」

物語を語る上で、音楽やサウンドエフェクトは最高のツールだと思います。テキストや音声を一切使わずに、プレイヤーとコミュニケーションをとることができるからです。私個人としても、サウンドトラックに魅了されて好きになったビデオゲームがたくさんありますし、今でも聴いているサウンドトラックがいくつかあります。だからこそ、低品質であってはならないものだと思います。

Aun Jessadaさんは初期のチームメンバーの一人であり、彼とは学生のころからの付き合いです。だから彼と一緒に仕事をするのはとても楽でした。彼ほど『Timelie』を理解している人はいません。私は彼に物語のあらすじを伝え、ゲーム用という観点にとらわれずに曲を作るよう指示を出しました。楽曲を聴く人の心を動かしたいし、『Timelie』を知らなくても共感できるような歌詞にしたい。そうした経緯を経て、(テーマソングである)「No Last Eternity」が出来上がったのです。私たちのYouTubeチャンネルでは、曲作りの過程を記録したドキュメンタリービデオを公開しているので、興味のある方は見てみてください。

*『Timelie』サウンドトラック ドキュメンタリー(英語字幕あり)


Pongsathornさんも似たようなプロセスを経ています。彼にゲームを見せてストーリーを伝えてから、どんな楽器を使うべきか決めていく作業を進めました。私が好きな音楽の種類を伝えたりもして。作曲の段階に入ってもやりとりを続けて。とても楽しかったですよ。Pongsathornさんは才能に溢れています。


学生プロジェクトの経験は、商業ゲーム開発でも活かされた

──続いて、学生時代の経験や、学生プロジェクトと商業ゲームの違いについてうかがいたいと思います。Wongsatayanonさんは学生活動の一環として、たった3か月でチームメンバーと共に『Timelie』のプロトタイプを作り上げ、タイ代表としてイマジンカップ(※マイクロソフト主催の学生ITコンテスト)に参加し、優勝されました。その時点で、将来ゲーム開発者になりたいというビジョンを持っていましたか?

私を含むチーム全員、もしくはほぼ全員が、ゲーム開発者になりたいというビジョンを持っていました。ビデオゲームを作るのが私たちの夢でしたから 。でも、それが将来的に実現するかどうかはわかりませんでした。こうして自分たちのスタジオを持つことができて、こんなにも長い間、友達と一緒に仕事ができるのは幸運なことだと思います。

──開発メンバーが増え、環境が変化した現在でも、イマジンカップに参加した経験は活きていますか?

はい。というより、経験と呼べるような経験は、イマジンカップくらいしかなかったですから(笑)当時、ゲームスタジオで働いたことがあるメンバーはほとんどいなかったんです。そのため、大会で得た経験はすべて、今でも役に立っています。少なくとも、トレイラーに映る受賞歴のおかげで、人々の注目を集めやすくはなりました(笑)もちろん、スタジオとしてゲーム開発を始めてから今に至るまでにも、多くのことを学んできました。かつてはイマジンカップが人生の頂点になると思っていたのですが、全然そんなことはありませんでした。年々クレイジーさが増して、どんどんエキサイティングになってきています。それらの経験すべてが、私たちの役に立っています。

──本作の開発に際し、コロナウイルスによる影響はどれくらいありましたか?もしあれば、対策もセットで教えて下さい。

そうですね、在宅ワークを始めた当初は大変で、発売日をずらさなければなりませんでした。そのころは金銭的な問題も大きく、最悪の時期でした。対策としては、Discordに移行して、オフィス環境に近い状態を作り出せるよう最善を尽くしました。その試みはうまくいきましたよ。プロジェクトマネージャーであるYongyotさんのお手柄です。

以前までのオフィス。今オフィスは引っ越している最中とのこと



学生プロジェクトと商業ゲームの違い

──イマジンカップに持ち込んだ『Timelie』のプロトタイプと、製品版の『Timelie』では、内容がまったく異なっています。これは何故でしょうか。

プロトタイプのころの『Timelie』も魅力的で、多くの賞を受賞することができました。しかしビジネス的な観点からすると、内容がニッチすぎてゲーマーから注目されないのではないかと考えていました。暗くて重苦しい感じがしたからです。そのため、インディーゲーム好きの方々に刺さるような作風に変えていくことにしました。また開発者としての観点からすると、私たちはプロトタイプを作ったころよりも成長していて、経験も豊富になっていました。ですので、プレイヤーにとって一番良いと思う形で、そして自分たちが得意とする形でゲームを表現したいと思ったのです。先ほど述べた金銭的な事情も含め、さまざまな理由から方向性を変えようという話になり、現在のような形になりました。

──ゲームを、コンテストにて制限時間内に作り上げることと、商品として作り上げることの違いを教えて下さい。

随分と違いますね。学生のころの私たちにとって『Timelie』は、教授からAの成績を取ること、そしてコンテストで賞を取ることを目的として作られたゲームだったんです(笑)私たちの目標は、短い時間の中で、「審査員」の興味を引けるような最高にクールなゲームを作ることでした。ゲームの見た目やパフォーマンスにこだわる必要はありません。

しかし商業ゲームとなると話は別です。プレイヤーは審査員とは違い、ゲームを試す義務はありません。第一印象が良くないと試してもらえないので、見た目にもこだわらないといけません。プレイヤーがゲームに費やす時間も変わってきます。彼らはゲーム全体をプレイするため、全体として最高の体験を提供しなければなりません。

学生プロジェクトと商業ゲームの違いはそれだけではありません。どうすれば最後までプレイしてもらえるのか。プレイヤーたちは何を期待しているのか。ゲームのマーケティングはどうすべきなのか。どのような価格が妥当なのか。このように、商業ゲームを作る際には、考えなければならないことがたくさんあります。


『Timelie』開発陣の今後

──『Timelie』をコンソール向けに移植する予定はありますか?

はい!さらなる情報発信をお待ちください。

──現時点で次回作の構想はありますか?

はい、こちらについても、続報を楽しみにしていてください。

──『Timelie』は既に日本でも高い評価を受けています。本作をプレイした方へメッセージをお願いします。

遊んでいただき、ありがとうございます。ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。『Timelie』は私たちの夢と情熱が詰まった作品です。私たちにとっては長い道のりでした。非常にニッチなゲームで、当初は収益を出せるかどうかもわからない状態でした。日本でも評価され、ファンが増えていくというのは、これ以上ない喜びです。夢を叶えてくれて、ありがとうございます。そして、私たちの次のプロジェクトにもご期待ください。培った経験を活かし、『Timelie』よりも優れたゲームを作ることをお約束します。

──逆にまだプレイしていない方へのメッセージをどうぞお願いします。

『Timelie』はとても良いゲームです。しかもネコが登場します。ぜひ買ってください!そして、ここまで読んでいただきありがとうございました。

──タイのゲーム事情から『Timelie』の開発秘話まで、貴重なお話ありがとうございました。『Timelie』のさらなる展開、そしてUrnique Studioの次回作を楽しみにしています。


タイのUrnique Studioが手がけたアクションパズルゲーム『Timelie』は、Steamにて1840円で配信中。2月16日までのSteam旧正月セール期間中は、30%オフの1288円で購入できる。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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