甲殻類3Dアクション『カニノケンカ』開発者インタビュー。みんな人間の表現には厳しいが、カニの表現には厳しくない

カニとなり、カニと戦い、ひっくり返すゲーム『カニノケンカ -Fight Crab-)』が、本日Steamで配信開始された。本作の開発者、ぬっそ氏にメールインタビューを行ったので、その内容をお届けしよう。

カニとなり、カニと戦い、ひっくり返すゲーム『カニノケンカ -Fight Crab-(以下、カニノケンカ)』が、本日Steamで配信開始された。アザラシにまたがるカニや、ジェットで飛ぶカニなど、シュールな光景もしばしば見られるが、カニ同士の熱いバトルが繰り広げられることも、本作の魅力である。また、カニたちの戦いは物理シミュレーションによって描かれ、武器のダメージも当たった際の運動エネルギーによって決定されているなど、一見ではわからないカニへのこだわりも、作品に込められている。

そんなカニへの情熱が込められた本作は、どんな人物が作っているのだろうか。今回は『カニノケンカ』発売を記念し、『NEO AQUARIUM』『ACE OF SEAFOOD』を手がけた本作の開発者、ぬっそ氏にメールインタビューを行ったので、その内容をお届けしよう。

───『カニノケンカ』Steam/Nintendo Switch版の発売、おめでとうございます。改めてぬっそさんから『カニノケンカ』について、紹介をお願いします。

『カニノケンカ』、それはカニを操作しカニと闘う新規軸3Dアクションゲームです。 物理演算に基づきつつも、力強く鋭い動きのできるカニのカラダは、どんな真剣勝負にも耐える戦いの実験場。 左右のハサミを意のままに動かし、数多の武器を操り、貴方だけのカニ武芸を探求しましょう。より自由に、とことんまでケンカしたい。カニのカラダは、それをかなえてくれます。

───今回は、ぬっそさんご自身にフォーカスを当てたいと考えています。ぬっそさんは学生時代に開発された『NEO AQUARIUM』以降、3作品続けて海産物をテーマにした作品を作り続けておられますが、そもそもゲーム開発を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

『NEO AQUARIUM』は、元々は大学の卒業制作で作ったゲームなのですが、在籍していたのがゲーム学科ではなかったので、「ただゲームを作ります」というだけでは通らなかったのです。なので、「生き物の特性をゲームにしたアート」という文脈にしました。そのため、ゲームシステムでやたらと体節構造を強調したりだとか、過剰に水質のシミュレーションを回したりしています。

『NEO AQUARIUM』のスクリーンショット


───海の生き物にこだわるようになったきっかけと、彼らが好きな理由をそれぞれ教えてください。

こだわるようになったきっかけは、やはり『NEO AQUARIUM』でいろいろ調べて「海の生き物」が面白いと思ったことです。理由としてはやはり彼らが食材として日常に溶け込んでいるというのが大きいですね。子供の頃からどちらかというとヒーローより怪獣が好きだったんですが、東京で育ったのでトカゲ一匹出会うことはありませんでした。しかし魚や蟹は、魚屋で出会えます。犬猫鳥を除けば、魚やカニは日常で丸ごとの姿を目にする、もっとも巨大でエキセントリックな生物じゃないでしょうか。

───そんな中でも甲殻類にこだわりを持たれているようですが、甲殻類のどういったところに惹かれるのでしょうか。

硬質なところですね。虫もいいのですが、脚が細すぎるのと、美味しそうではないので甲殻類に軍配があがります。

───キャリアのお話をさせてください。Steamのニュース記事にて、セガの『龍が如く』チームでゲームプログラマーとして5年間働かれていたと伺いました。同チームでは、どのようなことをされていたのでしょうか。

『BINARY DOMAIN』で人間キャラの動作を実装したり、『龍が如く5』でダンスバトルなどのミニゲーム、 『サンリオファンタジーシアター』でゲームエンジン(Unity)まわり、あと発売しなかったタイトルもいろいろやりました。

───そうしたプログラマーとしてのノウハウが本作に特に生かされているとすれば、どの部分でしょうか。

『BINARY DOMAIN』はやたらと動的なアニメーション制御に凝った作品です。キャラクターのやられリアクションやモノを掴むときのIK。担当では無かったですが、スパイダーと呼ばれる多脚ボスなど。直接的なノウハウではないですが影響はあるでしょうね。


───『カニノケンカ』開発の経緯について教えてください(人間では満足できなかったんですか?)

どちらかというと、『龍が如く』の現場を見て、人間をちゃんと作ろうとすると、それだけでめちゃくちゃ大変なのを知ったことが大きいです。人間は底なし沼だから、「やっぱり生き物で戦いだ……!」と考えました。みんな人間だから、人間の表現にはうるさいんですよ。でもインディーのアクションゲームならそこは無視していいかな……と。カニに表情をつけなくても、みんな文句いわないでしょう?

───確かにカニの喜怒哀楽はわからないですからね。本作では、相手のHPを減らすのではなく、ひっくり返して決着を着けるところもユニークだと思います。なぜこのルールを採用したのでしょうか。

どんなゲームでもそうなのですが、やはりダメージで決着というのは描写として納得感が薄いのですよね。さっきまでピンピンしていたのに小足で倒れるの……と思います。『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズは言うまでもないですが、最近は『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が、体幹と忍殺というシステムで解決しようとしていますね。また、『カニノケンカ』はダメージを回避することが難しいので、被弾覚悟で攻められるシステムが必要でした。ボディにパンチを食らわない限りは、倒れないようになっています。

───もしもぬっそさんが人間同士の戦いを描くとしたら、どんな仕様を採用しますか。

うーん、やはりちゃんとしたアニメーションで勝負すると厳しいので、人間はあくまでアバターでいろいろな道具やギミックを使った感じにしますかね。人間の特長は、道具を使う事なので。


───本作で、特にこだわったポイントを教えてください。

なるべく、物理シミュレーションの要素と、ゲームシステムを融合させようとしたところですね。たとえば、武器のダメージは当たった際の運動エネルギーから算出されています。結果としてはたとえば、日本刀のダメージが刀剣類では大きくて、あの形状はやはり合理的なんだという発見がありました。

───それは興味深いですね。逆に、非効率的武器はなんだったんでしょうか。

アニメでよくある蛇腹剣(通称ガリアンソード)ですが、フレイルのように先端に重しがないとやはり勢いをつけにくいですね。見た目はかっこいいのですが。ちなみに、ゲーム中では無理矢理加速させています。あと、やはり現在の物理エンジンでは、紐状のものは苦手ですね。

───「Fight Club」を思わせるサブタイトルの「Fight Crab」という名前は海外圏でもウケたり、逆に国内では海外タイトルだと思われたりもしているようですが、サブタイトルはどのように決まったのでしょうか。

これは私の功績ではありませんので……。

───同人/インディーゲームとしてユニークな作品を一定期間で完成させ、3本リリースされていますが、開発で心がけていることはありますか。

ゲームを作り始めるときは「最高のゲームを考えたので、ずっとこのゲームで食っていきたいな……!」という気持ちなんですが、ゲームが完成する頃には「十分面白くなったし、このコンセプトで出来る事はやりきったかな……!次にいきたいぜ……!」という感じになってしまうんですよね。

憧れのゲームの精神的続編を作るとか、具体的な夢のある方はそれを達成すると満足すると思うんですが、そういうのが無いので、この世に無いものを探し続けている感じです。探求心が大事かなと。

───ということは、すでに次回の構想も浮かんでいたりします?

いくつか案はあります。ちょっと購入アセットを主体とした絵作りに限界を感じてきた部分もあるので、しばらくはビジュアル面の実験をしたいですね。

───最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。

過去作では、これほどインタビューなど来なかったので、「うわあ なんだか凄いことになっちゃったぞ」って感じです。相変わらずほとんど個人制作のゲームですので肩の力を抜いて、それでもしっかり楽しめるよう作り込んだ作品ですので、カニの戦いに没頭して頂ければと思います。

―――ありがとうございました。

『カニノケンカ』は、Steamにて配信中。また、Nintendo Switch版が8月20日配信予定となっている。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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