『Sky 星を紡ぐ子どもたち』日本人開発者インタビュー。「感情を喚起する世界」のために生み出された鼓動

『Flowery』や『風ノ旅ビト』を生み出したthatgamecompanyは、現在『Sky 星を紡ぐ子どもたち』を配信・運営している。前編で登場してもらった水谷立氏に加え、吉野令佳氏とともにゲームにこめられたこだわりをお訊きする。

『Flowery』や『風ノ旅ビト』を生み出したthatgamecompanyは、現在『Sky 星を紡ぐ子どもたち 』を配信・運営している。基本プレイ無料で配信されている同作は、空を舞台としたアドベンチャーゲームであり、他者とのつながりを重視するユニークな作品に仕上がっている。ビジュアルの美しさや世界感を伝える音作り、そしてプレイヤーの内的感情を揺さぶるナラティブ要素など、最新作には間違いなくthatgamecompanyの血が流れている。そんな『Sky 星を紡ぐ子どもたち 』はアメリカのロサンゼルスで開発されているが、日本人スタッフも制作に参加しているという。前編で登場してもらった水谷立氏に加え、吉野令佳氏とともにゲームにこめられたこだわりをお訊きする。

水谷氏:
改めまして、水谷立です。『Sky 星を紡ぐ子どもたち』(以下、Sky)では、サウンドエフェクト制作全般、サウンド仕様の設計とエンジニアリング、およびゲームへの実装を担当しました。ちなみにローンチ時点までは、弊社のもう一人の日本人スタッフと分担して日本語ローカライズも担当していました。実は『Sky』は7年にわたって開発されています。7年の開発期間の半ばに「一本道のストーリー体験型」から「コミュニケーションを核とした型」へとゲームデザインが大きく変わったことがあり、その仕切り直しのタイミングで参加しました。

吉野氏:
吉野令佳です。背景担当の3Dアーティストです。入ったのが2年前と割と直近なので、ゲームの最後の方のステージ背景を多く触っていました。今はいろんな仕事をやりすぎて(笑)。3D関係のアーティストで入社しましたが、UIのデザインもキャラクターや衣装のデザインもしています。『Sky』のプレイヤーベースには女性が多く、かつ社内スタッフに女性が少ないので、女性的な視点を持つという意味で仕事が増えてくるというのはあります。そもそもチーム自体がすごく小さくて、たとえばカットシーンやエモート、プレイヤーのコントロールのモーションを作るアニメーターはひとりしかいないんです。

写真左が吉野氏、右が水谷氏

───あらためて、『Sky 星を紡ぐ子どもたち』を紹介していただけますか。

水谷氏:
『Sky』は、『Flowery』『風ノ旅ビト』のthatgamecompanyによるソーシャル・アドベンチャーゲームです。プレイヤーは星の子どもとなって、星座から落ちてしまった星々や生き物たちを助けながら、他のプレイヤーたちと協力しながら荒廃した王国に希望をもたらしていくこととなります。

ビジュアルやサウンドもモバイルゲームの常識を超える表現を目指しましたが、それより何よりも体験してみてほしいのは、行く手を阻む障害をどう乗り越えていくかというゲームプレイから、ストーリー、課金内容に至るまで、「思いやりを贈ること」が思想の根底にあるという点です。ゲームデザインに導かれるように自然と他人を助け、共感し合い、何を考えているのか推しはかるようになっていくプロセスは、他ではあまり体験できない楽しさではないかと思います。チャット機能(も実装されていますが)に頼らなくても、身ぶり手ぶりで外国のプレイヤーたちとも何となく意思疎通をはかって、付かず離れずの程よい距離感で一緒に遊んでいられます。そうやって遊んでいると、名前も知らない相手と日が暮れるまで公園で夢中で遊んで、ご飯の時間になれば連絡先を交換するということもなく、明日もまた会えるかなという淡い期待だけを胸にさっと帰宅してしまうような、そんな子どもの頃のコミュニケーションが心地良かったんだなと、思い出したり改めて感じたりします。

───ありがとうございます。そんな水谷さんが『Sky 星を紡ぐ子どもたち』の音作りにおいてこだわった点を教えていただけますか。

水谷氏:
ゲームオーディオの役割は、大雑把に言えば「音楽でプレイヤーの感情を喚起し、効果音によって必要な情報を伝える事」だと長年考えていました。しかし『Sky』が最終的に目指したゴールは、「ゲームを通じてプレイヤー達がエモーショナルな体験を共有する」ということでした。その実現のためには、プレイヤーがその音を聴くことでどんな感情を持ってほしいのかを考慮することが、ディレクターから徹底して要求されました。

たとえば『Sky』の象徴的なアクションのひとつとして、プレイヤーどうしで手を繋ぐことができるんですが、手を繋いでいる時は温かさを感じる音が鳴るようにしてくれという指示に悩みました。温かみを感じる音とは何か、すごく考えましたね。まさか手を繋いでいる間パチパチと炎がはぜる音を鳴らす訳にもいかないですし……。

思案の末に辿り着いたのは、温もりからの体温の連想です。心拍音が聞こえるというアイデアでした。と言っても、静かなロケーションでキャラクターが静止した状態で、イヤフォンで集中して聴けば僅かに聞き取れるくらいの、普段は意識しないレベルの音です。これは一つの例ですが、『Sky』の世界で鳴る音にはいちいちそういった意図が込められていて、とにかく試行錯誤が必要なプロジェクトでした。

それが意図したものでない限り、サウンドが不快感を与える要素にならない、という点にもっとも気を使いました。音楽制作においては各楽器一つ一つのチューニングに注意が払われる事は当たり前なのに、ゲーム内音響では時としてあからさまな不協和音が容認されているという状況には個人的に不満がありました。特にスマホのようにスピーカーの帯域が狭いデバイスでは、不協和音は容易に音が混ざり合って判別できないノイズの塊となってしまいます。

『Sky』のサウンドの大きな特徴の一つは、はっきりとした調性をもった効果音と音楽のキーが全てリアルタイムで同期して、協和音を構成するようになっていることです。効果音と音楽をシンクロさせやすいシングルプレイのゲームと異なり、『Sky』のようにMMOに近い、よりノンリニアなシステムのゲームで、複数のプレイヤーが鳴らす音の種類やタイミングをコントロールすることが出来ない状況下では、なかなか狂気的な試みでしたが、ある意味力技でなんとか実現しています(汗)。

───風の音が心地よいゲームですよね。

水谷氏:
タッチパネルに最適化したナビゲーションをつくることにおけるエンジニアチームの熱量が並大抵ではないからでしょうね。指を動かしたとおりキャラクターが追従する、エンジニアのそういう動きへのこだわりがすごいんです。ゲーム内のインターフェイスに対して伝えた運動を、ちゃんとキャプチャし、ビジュアルやサウンドに反映させる、しっかりした計算式があります。そういったパラメータがたくさんあるので、風の音が操作に応じて変化するようにできています。風の音自体も何層にもわたってできている。自然の風が刻一刻とその様相を変えていくように、音の層一つ一つも操作や周囲の状況、時間経過によって、複雑に変化していきます。そうしたこだわりによって、没入感があると感じていただけるのではないかと。ゲーム中、同じ音が鳴り続けるということはないです。この世界に入り込んでほしい、という意図がありサウンド全体が設計されています。

───風の音だけでなく、さまざまな音が気持ちいいですよね。やはり多岐にわたる点にこだわりがありますか。

水谷氏:
各所で楽器のこだわりとか、鳴き声とか、雲を突き抜ける音とか、いろいろ話してしまっているので、段々隠された秘密のこだわりが無くなってきてしまっています(笑)。ひとつお話すると、暗黒竜という、『Sky』の世界では数少ない巨大な敵キャラクターが移動中やプレイヤー発見時に鳴らす効果音は、他の場面では使っていない素材をたくさん混ぜ込んだ音となっています。

『Sky』のサウンドデザインにおいては、音の発生源が持っているストーリー上の意味やプレイヤーにもたらされることを期待される感情ごとに、使用する素材を分けるようにしています。「そこでその音を使う意味」を常にナラティブに検証しているんです。たとえば、星の子どもの命の源とも言える「光」や、落ちた星である「精霊」、光と同じくプレイヤーに力をもたらす「炎」が鳴らす音色には、鈴や鐘の音を多用しています。しかし他にいくらキラキラして見えるものがあったとしても、実際にそこに鐘があって音が鳴っている場合を除くと、光や炎と関係がない場面であれば鈴や鐘を使わないようにしています。

注釈が長くなりましたが、『Sky』では、たとえば放置された自動ドア開閉装置など「滅んだ文明」を表すアイコンとして、シンセベースの音色と刃物の音色を割り当てています。暗黒竜は何種類ものシンセベースと刃物の音を渾然一体と公害のように常に撒き散らしています。自分で録音した、ハサミや包丁をジャキジャキ擦り合わせる音も含んでいます。個人的には結構お気に入りの音なのですが、怖い、聴きたくないと言われることが多いですね。デザイン意図からは成功かもしれないですが、あまりに嫌われているのでちょっと不憫です。

───ディレクターやデザイナーの表現したいものを汲み取るのは難しかったのでは。言語の問題もあるでしょうし。

水谷氏:
そうですね。新しく会社に入った人は全員、丸一日かけてチームからレクチャーを受けるんです。会社の理念や『Sky』の目指しているもの、『Sky』のストーリーなど。最初の時点で叩き込まれるプロセスがあるんです。それと幸運にも、「まずは自分が一番いい方法だと思うものを試してくれ」と任せられることも多くて。提案してフィードバックがかえってくる。そんな流れでした。

───そうやっていろいろと任されているのは、信頼されている証なのでは。最初からそのような進行でしたか。

水谷氏:
最初から信頼されていたわけではなかったと思います。チームに入って最初に風の音などいろんなものを提案して、そこから任せたほうが早いと思ってもらったのではないかと。

───環境音が引き立つ作品ですよね。足音も大きくて孤独感を強めます。

水谷氏:
足音はディレクターのジェノヴァ(※)のこだわりでした。最初はもっと小さな音にしていたんです。踏みしめる足音一歩一歩から、感情をもっと感じ取れるようにしてほしいと言われて、今の形になりました。

※ 共同設立者でディレクターのJenova Chen氏

───『Sky』においては、サウンドづくりをする人もある種の演出家なのかなと。

水谷氏:
それはthatgamecompany全員に言えることだと思います。ゲーム内のオブジェクトひとつをとっても、それにどのようなバックグラウンドがあり、どのようなストーリーを内包しているのか。そういうことを考えないアイデアはまず却下されます。全部に意味があるんです。

さきほど不協和音について話しましたが、ほかにも不快にさせないポイントがあります。
『Sky』の特徴的な要素として、フレンドをつくった時にフレンドの名前が表示されない。自分がフレンドの名前をつける仕様になっています。仮にフレンドになった相手の名前が攻撃的で、それがそのまま表示されたとして、嬉しい気持ちになるかというと、ならないかなと。ゲームで遊んでリラックスしたいと思っている時、そのような名前を見るのは気持ちよくない。いちプレイヤーの名前は、他プレイヤーはコントロールできない。コントロールできない仕様によって不快な思いをしないよう、音作りだけでなくあらゆる状況で徹底されています。

───ありがとうございます。吉野さんは、アーティストとしてゲームにどのようなこだわりをこめられましたか。

吉野氏:
デザインの面でいえば、無性別のコスメティック・アイテムを意識しました。無性別が難しい場合でも、男性が「可愛い!」または女性が「かっこいい!」と思える様なアートにこだわっています。そして性別だけでなく、色々な人種を含めた上でアートに挑んでいます。単なる髪型ではなくアイデンティティとなる特徴的なヘアスタイル(くせっ毛 など)を作り、世界中の色々な人を歓迎できる様なセレクションを作りたいと思っています。

ゲーム部分でいえば、一度だけでなく、再び戻っても面白い・興味深いエリアを作るのに時間をかけています。ほとんどのエリアは比較的リニアなデザインで作られていますが、個人的には新しいエリアを作る際には、色々な秘密場所や寄り道を入れたくなります。これは『Sky』の世界観、レベル・デザインといったデリケートなバランスが取れた上でやっと実現できるんです。最終的に出来上がったエリアを見ると単純にデザインされている様に見えますが、実際には多数の開発者の意見や思いが込められています。

マネージメント側ではプレイヤー達に届けるコンテンツの量より質を優先しつつ、合理的な作業量を調整するのに努力しています。アートチームのメンバー達のモチベーションを上げられる様にコミュニケーション不足や作業量の偏りなどを回避できるよう頑張っています。そのことが各自のインスピレーションに繋がっていくといいなと思っています。

───ちなみに吉野さんにとっての『Sky』のサウンドの魅力はなんですか。

吉野氏:
『Sky』を遊ぶと最初に入ってくるのって、サウンドなんです。ロゴが出てきてサウンドが響いて、海と風が出て、ビジュアルがついてくる。そこからアニメーションが目につく。その段階があるんです。『Sky』のサウンドの恩恵は、歩いているのが楽しいところですね。飛んでる時より楽しいかも(笑)。

───ジェノヴァさんの調整の甲斐があったんですね!

水谷氏・吉野氏:
(笑)。

水谷氏:
音楽とかがあまり聞こえない場所でも、歩いているだけでも感情が変わってきます。草の上や石の上、お気に入りの音は金属の上。カンコンという音が鳴ります。新しいAir Podでぜひ聞いてください。ノイズキャンセリングの機能がすごすぎて、周囲の音が何も聞こえなくなる。thatgamecomapnyのスタッフもAppleの製品が大好きです。

───チーム全体で何人ぐらいでしょうか。

水谷氏:
30人ぐらいですね。そのうち開発者は20人ほどです。

───3Dのライブサービスゲームをやられる規模ではないイメージです。

吉野氏:
もう少しほしいですよね(笑)。

水谷氏:
『Sky』のビジョンがもっと大きくできるような段階になれば、スタッフの数も増えて、現行のシーズンイベントだけでなく、さまざまなコンテンツを増やしていきます。いろんな職種を今募集しているのでチェックしてみてください。

───『Sky』のユーザー数は、日本ユーザーは世界で何位くらいですか。

水谷氏:
『Sky』は11か国語に翻訳されていて、すごく多くの地域の方に遊んでいただいていますが、中でも日本ユーザーの方々はとても熱心で、3番目くらいに大きな規模のグループになります。

吉野氏:
日本の人がロシアの人と友達になったという話を聞いた時には、心が温まりました。

───『Sky』ならでは形ですよね。ちなみに昨年のリリース後、半年近くアップデートされていますが、ロードマップ的な観点でみると、どのような場所にあると思いますか。

水谷氏:
今ひとつ目標としているのは、世界中でより多くの人に触ってもらうというところです。

吉野氏:
そういう意味では、まだ始まってないといえるかもしれません。

水谷氏:
まだ頑張っている途中です。AndroidやPCやコンソール版など、今はそういうところをチームが頑張っています。Android版はなんとかエンジニアチームが頑張って国内リリースまでこぎつけました。

世界中の人たちに届けるというところをある程度達成できてからが、本当のスタートなのかなと。世界が拡張してまだ見たことのないワールドが見つかったり、ストーリーの深みが増していったり、成長が始まるんだと思います。

吉野氏:
常に進化している世界として作られているので、プレイヤーたちが新しいエリアを発見してもらえるゲームにするために、全世界のプレイヤーに遊んでもらえる機会を増やすことに専念しています。

───かなり壮大な計画があるんですね。

水谷氏:
ビジョンとしては壮大なものがあるんですが、ビジョンをひとつひとつ具体的なものとして実行していくためには、プレイヤーのみなさんの継続的な支えが必要になります。ぜひご支援よろしくお願いします(笑)。急に宣伝になります(笑)。世界の拡張についても、そうしたサポート次第というところではあると思います。

当面は、まずは間口や入り口となる端末のサポートを増やし、かつゲームを始めたばかりの初心者がつまづきやすいポイントを解消していくこと。今遊んでいただいている方に向けて新しい驚きやサービスを追加していくこと。この2点が今後の注力ポイントになります。日本のユーザーも『Sky』をぜひとも遊んでみてください。

───ありがとうございました。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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