「おしえて!ギャル子ちゃん」作者・鈴木健也が語る『VA-11 Hall-A』の魅力。漫画家/ファンとして惹かれた点とは
きたる5月30日に、弊社アクティブゲーミングメディアのPLAYISMからNintendo Switch/PlayStation 4版が発売されるサイバーパンクバーテンダーアクションゲーム『VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)』。開発を手がけるのはベネズエラ出身の2人組、Sukeban Gamesだ。アート担当のCEOクリストファーと、テキストとプログラミングを担当するフェルナンドによって、重厚な物語が紡がれる。
『VA-11 Hall-A』の舞台となるのは、207X年の未来都市「グリッチシティ」の一角にあるバー「VA-11 Hall-A」、通称「ヴァルハラ」。あなたはバーテンダーの女性「ジル」となって、訪れる個性的な訪問客にカクテルをふるまう。お客に提供するカクテルによって物語が分岐するというユニークなテキストアドベンチャーとなっている。お客を介して「グリッチシティ」の現状について把握しつつ、彼らのニーズや気分に応じたカクテルを出していく。
今回発売されるNintendo Switch/PS4のパッケージ版は、パッケージが特別なリバーシブル仕様となっている。そのイラストを描き下ろしたのが、今回インタビューする漫画家である鈴木健也氏だ。連載中の漫画「おしえて! ギャル子ちゃん」にて『VA-11 Hall-A』パーカーが登場しており、Sukeban Gamesがそうした演出に反応。クロスオーバーを希望したことから、国内販売を担当するPLAYISMを通じて今回のコラボレーションが実現した。
リバーシブルジャケットのクオリティや、マンガの1シーンに登場させるというこだわりを見てもわかるとおり、鈴木氏は『VA-11 Hall-A』の非常に熱心なファン。今回のコラボレーションについても、ゲーム内にちりばめられた細かい設定を存分に活かしている。鈴木氏は、なぜ『VA-11 Hall-A』にこれほど魅了されたのか。クロスオーバーを記念して、鈴木氏に同作への想いを語ってもらった。
鈴木健也
まんが家。2005年、月刊コミックビームにてデビュー。2008年に「蝋燭姫」を初連載。2014年にTwitterから商業連載となった「おしえて! ギャル子ちゃん」は、アニメ化もされ代表作となった。ほかに短編集「寒くなると肩を寄せて」や、「伯爵家女中伝(同人版)」「女衒屋グエン」の挿絵も担当。
――鈴木先生はComicWalkerで現在も「おしえて!ギャル子ちゃん」を連載されており、漫画家として活躍されていますが、普段ゲームはされるのでしょうか。
実は、最後に買ったハードがゲームキューブなんです。子供の頃からゲームは大好きで、特にRPGをやり込んでいたんですが、漫画家になるかならないかの頃、ゲームに費やす時間があまりに膨大すぎて漫画を描く時間を圧迫してしまっていて、「一旦ゲームを遊ぶのを止めよう」ということを決めたんです。以後、新しいハードは購入していません。最後にプレイしたのが『ゼルダの伝説 風のタクト』と『ガチャフォース』ですね。
とはいっても、ネットのブラウザゲームはちょいちょい遊んでいて、いわゆる「脱出ゲーム」というジャンルは相当やり込みました。今はさまざまな事情でブラウザの脱出ゲームは下火になってしまいましたが……。『放課後⭐Quest』という作品がとても面白かったのですが、現在はプレイできないようで残念です。ちなみに、人生で一番やり込んだゲームは『ファイナルファンタジータクティクス』で、これは初連載の漫画(蝋燭姫)の元ネタにもなりました。最近はSteamで少し遊んだりもしていますが、今回の『VA-11 Hall-A』の発売をきっかけに、新しくNintendo Switchを購入する予定です。
鈴木氏が語る『VA-11 Hall-A』の魅力
――鈴木先生が『VA-11 Hall-A』と出会ったきっかけは何ですか?
最初はTwitterでしたね。PSVita版をプレイした方の感想を見かけて、面白そうなので
Amazonでどんなゲームか見てみて、グラフィックも雰囲気も良さそうで、「日本の小さなゲームメーカー製なのかな? こういう作品も今は作れるんだなあ」と感心したんです。調べたらSteam版もあったので、これはプレイできるな、と。
――最初プレイしてみようと思ったとき、どこに惹かれましたか?
まずはグラフィックですね。もともとドット絵自体が好きなのですが、キャラクターデザインもとても良くて。絵柄がかわいいですよね。また、バーという舞台にも惹かれました。その頃、近所に良いバーを見つけて個人的に通うようになっていて、バーに対して好印象を持っていたので。あとは、「どぎつい下ネタが多い」という部分にも反応してしまい……自分でもそういうマンガを描いているので……。それと、プレイする前にいくつかインタビューや紹介の記事を読んだのですが、これが「南米ベネズエラの若者2人が作ったインディーゲーム」だという部分に、非常に興味をそそられました。どこをどう見ても日本のゲームにしか見えなかったですし、だからこそ、どういう内容なのかとても気になったんですよね。
――実際にプレイされて、ベネズエラの2人組が作ったゲームとして印象に残る部分はどこでしたか?
あまり読むとネタバレになってしまうので、インタビューは詳しく読まずに始めて、プレイ後にあらためて作品について調べました。そうすると、作中で「腐敗した未来世界の描写」として描かれているいくつかの部分が、実際に今現在ベネズエラで起きていることだと知って驚きました。ゲーム内の、街の治安を守っているけど評判の悪い「ホワイトナイト」も、ベネズエラを知る方からしたら、モデルが何か一発でわかるみたいで……。あと、一日中外から大きな音が聞こえてきていて、ジルたちが「銃声じゃない?」「爆発音だよ」と、何の音だか議論しながら過ごす日がありますよね。
かなり近くで危険なことが起こっているのに、普段どおり店を開けるし、お客も普段通りに来て、みんなもう慣れてしまっているという……。ああいうシーンは、おそらく実体験で描かれているのかなあと思いました。今、トランプ政権との軋轢でベネズエラが更に深刻なことになっていて、以前よりニュースに出ることが増えました。自分でも解説記事を読んだりして、状況を理解するとともに心配しています。それまで全然知らない国でしたが、こういう形で関心を持てたのは良かったと思います。
――鈴木先生にとって、『VA-11 Hall-A』の魅力を特に挙げるとすればなんですか?
いろんな要素のあるゲームなので、プレイした人それぞれに刺さるポイントが幾つもあると思います。自分の場合だと、やはりさまざまなキャラクターたちの「生の人生」が垣間見えるところですね。それは主人公のジルであったり、バーに来るハッカーや殺し屋であったり、アンドロイドのアイドルやセックスワーカーであったり……。複雑なキャラクターたちが、血の通った会話や悩みをぶつけてくるのがとても刺激的でした。
あとは、すべてを語り過ぎない、プレイヤーに想像する楽しみを与えている部分も好きですね。なにしろほとんどの舞台がバーと、あとはジルの自宅の2箇所で進んで、お客さんとの会話も大半は「バーテンダーと客」の範疇なので、一から十まで全部説明してくれるわけではないし。プレイしながらそれに聞き耳を立てて、いろいろと想像を巡らせる楽しみがあると思います。ちょうど、バーで見知らぬ他人が会話しているのを盗み聞きして、この人は一体どんな人生を送っているんだろう? と想像したりするような。
自宅で、ジルの端末からネットの匿名掲示板やニュース記事を読むことができますよね。あれは別に読まなくても、ゲームの進行には一切関係がない。にも関わらず、毎回自宅に帰ってくると更新されてないかチェックして、読んでしまいますよね。なにか情報はないかと気になって……。そうすると、バーでの会話を補完するような内容が書いてあったりして、あのお客さんは実はああいう人だったのか!ということがわかったりして。そういう発見をしていくのが楽しいですよね。ジルの同僚のギリアンなんかは、正体が全く不明なんですが、毎回の会話やネットをチェックすることで、なんとなく正体に想像がついたりする……そういうところがゲームの端々に散りばめられていて、とても面白いと思いました。また、音楽もいいですよね。バーのジュークボックスを操作して自分で仕事中に流れる音楽のプレイリストを作れたり、新しい曲を買ったりもできるというシステム面ともマッチしていて良い趣向でした。
――同じイラストを描かれる同業者として『VA-11 Hall-A』のグラフィックの魅力は何だと思われますか?
とにかくキャラが多彩でかわいい! かなり多くのキャラクターが登場するんですが、みんなキャラが立っていますよね。それと、通常画面のキャラ絵とは別に、ちょくちょくデフォルメされた絵が出てきて……ジルの自宅での姿とか。ああいうギャップもいいですよね。お店で変なグッズを買うと、実際にジルの部屋がどんどんモノで埋まっていくのも楽しいです。他にもジルとボスが、ベランダでひたすらビールを飲んでダベるところも、かわいいデフォルメのドット絵なのがすごくいいですね。
――テキストやシーンで特に好きなところはありますか?
いろいろありますが、あえて挙げるとするなら…アンドロイドのドロシーが自身の存在について哲学的な悩みを抱いているときに、ジルが自分の好きな本「この世界最後の雨」のことを持ち出して、解決の糸口を与えるところ。あそこはとても好きですね。また、その本の著者が誰なのか、というのが別のところでわかるのが……すごく気が利いていて、やられましたね。
――では、特に好きなキャラクターはだれですか?
すとり〜みんぐチャンとドロシーが、特に好きですね。理由は、どちらもアダルトな仕事をしているんですが、その仕事に誇りを持っていて、すごく明るく生きているところでしょうか。両方とも性的にどぎつい冗談をガンガン飛ばしてくるんですけど、自分の仕事にはプロ意識を持っていて、とても真面目なところが好きです。すとり〜みんぐチャンの24時間生配信が実際にあったら、多分課金しちゃいますね。仕事中に流して、ずっとあのハイテンションな喋りを聞いていたいです。あとドロシーには一晩中ハグをしてもらいたい(金銭的に難しいでしょうが……)。
――今回のNintendo Switch/PS4版パッケージのリバーシブルジャケット制作では、オールスターに近いキャラクターが登場していて、なおかつ原作の設定を活かした内容になっていますね。特にNintendo Switch版はファンならわかるネタの嵐です。制作にあたり、どれくらい『VA-11 Hall-A』を詳細にチェックされましたか?
メモを取りながら、もう1周半くらいプレイしました。できるだけキャラの関係性や小ネタを把握したうえで描きたかったので……。
――今回、Nintendo SwitchとPS4で全く別のイラストを描いてくださっていますね。
PS4とNintendo Switchのパッケージの寸法が全然違うので、販促にもなるし2枚お願いできないか……と言われたときは頭を抱えたのですが、「バニー」と「秋葉原」という2つのアイディアを思い付けたので、なんとかなりました。まあバニー衣装というのは完全に趣味なんですが、幸いゲームの方にも「ワンダーランダーズ」というバニー姿になって盛り上がる集団の話題があったので、合わせることができました。秋葉原は日本のオタクカルチャーの中心地という意味で借用したんですが、「ベネズエラの若者が日本のアニメやゲーム文化に影響を受けて作った作品」ということで、そのキャラクターたちをぜひ、日本に招待できないかと思って描きました。日本でなら、Sukeban Gamesの顔であるデイナにも、自然にスケバン衣装を着せられますしね。
――イラストを描かれる上で、他にはどういった点を意識されましたか?
PS4版とNintendo Switch版の特典付きパッケージ版ということで、もちろん新規の方にも興味を持っていただきたいのですが、すでにプレイ済みのコアなファンの方も購入を検討されるのではないかと思って、そういう方々にも楽しんでもらえる内容にするということを心がけました。新規の方にはまずはキャラクターをたくさん出して、こういうユニークなゲームであることをアピールできれば、と。また、端々に細かいネタを盛り込んだので、プレイした後に見直すと、また色々と発見があって面白いんじゃないかと……。Nintendo Switch版のイラストで、ジルの隣にいる人物が誰なのかとか、初見ではわからないですよね。プレイ後にそういう発見がいろいろ楽しめるイラストを目指しました。
一点、あとで気づいたんですが、ドロシーってチンチラ恐怖症でしたよね? PS4版では近くにイカ柴がいるので、大丈夫なのかな? と。だから、ドロシーはあの場面ではまだ気づいてなくて、後からイカ柴に気づいてびっくりするんだと思います。
――このNintendo SwitchとPS4のイラストを見て、Sukeban Gamesのクリストファーは「モニターを抱きしめながらこのイラストを見ていると、どうか、どうか伝えてください!」と言っていましたね。それを聞いてどう思われましたか?
とてもありがたいです! やっぱりSukeban Gamesさんに喜んでもらえるかどうかが、一番気にしていたところなので……。モニターを抱きしめたクリストファー氏の姿をうちのモニターに映して、さらに抱きしめたいですね!
『VA-11 Hall-A』×「おしえて!ギャル子ちゃん」クロスオーバーについて
――今回、連載中の「おしえて!ギャル子ちゃん」でクロスオーバーをしてくださいました。そこでも『VA-11 Hall-A』のほぼオールスターが出ています。しかも絵の描写が細かい上に、内容もギャル子ちゃんの性格を活かし、新規のファンが読んでも面白いし、しかもしっかりコアなファンがニヤリとする内容になっていますね。
このクロスオーバーのラフを見て、Sukeban Gamesのクリストファーが「10000000000%ラブ!」と言ってパッケージに続いて、漫画の方でも先生の非常に熱のこもった仕事ぶりに大変感謝していたようです。
イラストの仕事を進めていく中で、クリストファー氏の方から「クロスオーバーもできれば……」と伝えられたんですが、ギャル子ちゃんを連載しているアライブ編集部さんはかなり柔軟で融通が利きますし、個人的にもやりたかったのでコラボさせてもらいました。担当編集さんの方から「Webだけでなくコミックアライブ本誌に出張掲載したらどうですか?」とご提案いただき、雑誌の方にもゲーム記事と一緒に掲載されたので良かったです。
イラスト同様にたくさんのキャラを出した方が、未プレイの方に興味を持っていただけるし、プレイ済みのファンの方も喜ぶのではないかと思い、できるだけキャラを出しました。マリオとかも好きなので本当は出したかったんですけど、なにしろ4ページなので……。ギャル子の普段の読者が読んでも面白いように、逆に、ギャル子を知らない『VA-11 Hall-A』のファンが読んでも面白いように、というのが両立できる内容を目指しました。うまくいってるといいのですが……。
Sukeban Gamesさんからはほとんど要望がなく自由に描かせてもらったのですが、唯一の注文が「アルマを出してくれ! 彼女は天然のギャルなんだ!」ということで、2ページ目はアルマ中心のエピソードになりました。本当はギャル子がジルからブロンソンの根っこをわたされて、それをかじって「苦い!」となるネタを考えていたんですが…いま思い返すとあんまり面白くないですね。アルマにして良かったと思います。
――今回の『VA-11 Hall-A』のパッケージイラストやクロスオーバーを拝見して、鈴木先生の繊細で緻密なお仕事ぶりに目が行きます。お仕事をされる上で意識されていることは何ですか?
こういう版権ものや、小説の挿絵など原作のあるものは、とても気を遣います。自分の漫画だと、好きにやって、まあ最悪失敗したとしても責任をかぶるのは自分なので、ある意味気楽なんですが……。やはりSukeban Gamesさんへの敬意はきちんと内容で表さないといけないですし、『VA-11 Hall-A』は特に、既に国内外でも多くのファンを抱えている作品で、熱いファンアートもたくさん見かけます。だからこそ、ファンの方々をがっかりさせるような仕事をしては申し訳ないと思いました。今のところ、Sukeban Gamesさんやサンプルを見たファンの方からも良い反応をいただけていて、ひと安心しています。
――最後に、改めて今回担当された『VA-11 Hall-A』のパッケージ版やSukeban Games
に関する想いをお願いします。
『VA-11 Hall-A』のオフィシャルな仕事ということで、すごく光栄な話でしたので全力投球させていただきました。既にファンになっている方も、新規にプレイする方にも、『VA-11 Hall-A』をお楽しみいただく上でのほんの一助になれば幸いです。Sukeban Gamesさんのファンの輪が、よりいっそう広がると良いですよね。また、続編『N1RV Ann-A』も2020年に発売予定とのことで、これはいちファンとしてとても楽しみにしています。ですが、まずは5月30日発売のPS4版・Nintendo Switch版を一緒に楽しみましょう。飲み物とおつまみを用意して、リラックスして!
――ありがとうございました。
Sukeban Gamesのクリストファー氏は、鈴木氏の秋葉原編のパッケージイラストを見て「パーフェクト!」と評したそうだ。Sukeban Gamesの方でも鈴木氏とのクロスオーバーを計画中で、その第一弾としてこのイラストを公開している。
『VA-11 Hall-A』は、5月30日 Nintendo Switch/PS4版が発売される。鈴木氏の力作リバーシブルジャケットが拝めるパッケージ版は現在予約受け付け中だ。初回限定版は豪華特典が付くので、ぜひこの機会にチェックしてほしい。
[聞き手・執筆 Sayuri Murabayashi(PLAYSIM)]