デジタル・アナログ同時発売の新作ボードゲーム「いかだの5人」は“いかだ崩壊のカタルシス”で病みつきになる。緊張と裏切りのサバイバルボドゲを遊び比べる
デベロッパーのオインクゲームズは本日12月7日、ビデオゲーム『レッツプレイ!オインクゲームズ』向けにDLC「いかだの5人」を発売した。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch/iOS/Android。
さらに「いかだの5人」はアナログボードゲーム版も近日展開予定。12月9日〜12月10日に東京ビッグサイトにて開催される「ゲームマーケット2023秋」にて先行発売され、12月15日に一般販売が開始される。
オインクゲームズといえばベストセラーとなった「海底探険」をはじめ、「エセ芸術家ニューヨークへ行く」などの数々のボードゲームの開発・販売を行っている。「いかだの5人」はそんな多くのボードゲームの名手オインクゲームズ初のバランスゲームとしてリリースされる。
弊誌はオインクゲームズから「いかだの5人」のビデオゲーム版/ボードゲーム版を先行して遊ぶ機会をいただいた。本稿では両作をプレイして比較し、それぞれの魅力を紹介していく。
「いかだの5人」は、5つある大小さまざまな形をした人型のコマと、長方形の板カード、色ごとに分けられた宝箱コマを使って遊ぶバランスゲームだ。プレイヤーはそれぞれ自分の手番で、5つある人型のコマのひとつを選択して取る。最初のプレイヤーは盤面の任意の位置に板カードを配置し、その上に人型のコマと宝箱コマを置く。その後のプレイヤーは任意の人型のコマを取ったあと、ほかの板カードと一部重なるように新たな板カードを配置。自分の置いた板カードの上に人型のコマと宝箱を置き、手番終了となる。これを順番で続けていき、いかだを大きくしつつ自分の宝箱コマを置ききることを目指す。
一方でバランスを崩していかだから宝箱コマが落ちた場合、落ちた宝箱コマが自分のコマであれば自分の手ゴマに戻ってきてしまう。さらに相手が配置した宝箱コマを落とした場合はペナルティを受けることに。ビデオゲーム版では通常3回、ボードゲーム版では5回のペナルティを受けたプレイヤーが現れた場合、ゲームは終了となる。次々と重なりあっていく板カードのバランスを見極め、いかに相手の宝箱を落とさずに自分の宝箱を置くことができるかが勝負のカギとなる。
アンバランスな緊張感
本作のビデオゲーム版/ボードゲーム版ともに共通する魅力のひとつは、ゲームが長く続けば続くほど盛り上がっていくところにある。何もない小さないかだから板をバランスよくつみ重ねていく序盤。いかだがアンバランスになり、少しずつ板を置けるスペースがなくなっていき、戦略性が生まれだす中盤。いよいよコマを取ることすらままならないほど不安定ないかだで行われる緊張感抜群の終盤。誰かがいかだを崩すまで緊張感が高まり続けるのが本作の持ち味だ。
そしていかだに乗った5人のコマの違いは本作の戦略性を深めている。本作のコマは大小それぞれ違うサイズになっており、どのコマを動かすかによって盤面への影響も大きく変わる。小さいコマは取るときこそリスクは少ないが、置く場所によっては支点として機能しづらく、宝箱コマの重さに耐えきれない危険性がある。一方大きいコマは、安定性があるため置くときにはあまり困らないが、取るときに一気にバランスを崩す可能性がある。
ゲームが後半に進んでいくと、どのコマもギリギリのバランスで置かれているような状態になるため、どのコマを取るにしても大きいリスクを孕むことになる。これによって、プレイヤー同士の駆け引きは一層加速する。いかだのバランスを取り戻そうと別プレイヤーと協力する瞬間もあれば、あえてバランスの悪くなりそうな位置にコマと板を設置し、相手を困らせるいじわるをする戦法もあり。時に助け合い、時に邪魔し合うといったほかのプレイヤーとの流動的な関係性が構築される点も魅力であった。また自分が置いたいじわるな配置が、あっさりと抜けられて逆に自らがピンチに陥る……なんてこともこのゲームではたびたび巻き起こる。
なお先述のとおり、自分の宝箱を落とした場合はペナルティにならないため、危険な場面であえて自分の宝箱だけ落として手番を切り抜けるといった戦略も可能だ。一方でそれに対抗して、自分の宝箱を幅広い場所に設置することで、巻き込み事故を起こすような戦略も有効。カードとコマを置くだけのシンプルなルールながら、相手の置き方を読み合う駆け引きも発生するわけだ。
そして、これまでつくってきたいかだがバランスを崩し、崩落する瞬間が、本作一番の盛り上がりどころかもしれない。じっくりと時間をかけていびつに成長したいかだが、少しのコマの移動で崩壊。板カードが連鎖的にするすると落ちていき、あっという間に崩れ去ってしまう。張りつめていた緊張の糸が途切れるえもいわれぬ感情からか、いかだが崩れる瞬間はプレイのたびに皆声を上げていた。いかだをつくり上げるゲームなのに、いかだが壊れる瞬間が一番盛り上がるというのはなんとも面白いところだ。
いつでも誰とでも盛り上がる
ここからはビデオゲームとボードゲーム版、それぞれが備える魅力について深掘りしていこう。まずビデオゲーム版最大の魅力は、離れたプレイヤーといつでもどこでも遊ぶことができるという点だろう。また「いかだの5人」は『レッツプレイ!オインクゲームズ』のDLCとして配信されている。そのためほかのDLCと同じく、遊ぶプレイヤーの中の1人でも「いかだの5人」DLCを所持していればほかのプレイヤーは未購入でも一緒に楽しむことが可能。プレイヤーを誘いやすい点も魅力的だろう。
また、本作はバランスゲームであり、知らない人でもすぐにゲームのルールを理解しやすい。さらにプレイ中は、ゲーム側がわかりやすく進行してくれる。遊んだことのないプレイヤーを誘ったとしてもすぐに一緒にプレイ可能で、いかだのバランスを巡る駆け引きを共に楽しめるだろう。
そして、各所凝った演出でゲームを盛り上げてくれるのもビデオゲーム版の魅力のひとつ。危うい立ち位置の人型コマを動かす。もしくはバランスの悪い場所に板とコマを配置するとドラムロールが長めに鳴り、その瞬間を盛り上げてくれる。さらに上手く窮地を切り抜けるとバラエティ番組のように“観客”が歓声を発する演出も用意されている。また、いかだが崩落してコマが落ちてしまったときには、海からひょっこりとコマが浮かびあがるアニメーションも。緊張感あふれる本作において、コミカルな演出の数々がほっこりと場を和ませてくれる。
そしてもっとも印象的なのが、いかだ崩落時の演出だ。バランスを崩していかだが海に崩落する瞬間は、スローモーションでリプレイ可能。何が原因で落ちたのか、板カードがどのように崩れ去ったのかを皆で再確認できる。さらにこちらもバラエティ番組よろしく、観客からは大げさな落胆の声があがる。たとえいかだが崩落しても、プレイヤー皆で笑って盛り上がることができる演出であった。
本作ビデオゲーム版は親切な導入とキャッチーな演出のおかげで、誰を誘ってもゲームを素早く楽しんで盛り上がりやすいものとなっている。ペナルティの上限設定によっては1プレイも短めであり、ちょっとした時間でも遊びやすい。場所や時間を選ばず、すぐに集まって手軽に盛り上がりたいときに最適なタイトルだと感じた。
手で触る魅力
次に、ボードゲーム版の魅力を紹介していこう。ボードゲーム版を手に取ってまず気づくのが、ゲームに使うアイテムそれぞれのつくりのよさだ。盤面の土台としても使えるお洒落なパッケージ、木で作られた人型コマやカラフルな宝箱、裏返すと海の模様が描かれている板カードなど、それぞれのアイテムのデザインや手触りにこだわりが感じられる。また、これはほかのオインクゲームズのボードゲームにも共通する魅力。お洒落で可愛らしいデザイン、かつコンパクトなサイズのものが多く、ほかの作品と並べてコレクションしたくなるのも特徴といえる。
またボードゲーム版最大の特徴は遊んでみるとすぐに気づく。実際にそれぞれのコマを手に取って進行するため“ハプニング”が巻き起こるのだ。設置するときに手が震える、設置されたコマに意図せず触れてしまって事故が起こるなど、さまざまなハプニングが発生する。ゲームが進行するにつれて、緊張感の高まりから手の震えや焦りもどんどん強まる。この緊張を同じ空間で共有できる点もボードゲーム版の醍醐味だろう。
そしてボードゲーム版では自分たちのつくったいかだを、真横や真上など自由な視点と距離で観察できる。テーブルを移動し、自分の目でいかだを見回しながら安全な場所を直感的に探す楽しさもボードゲーム版の持ち味のひとつだ。なおじっくりといかだを見回す場合は、筆者のようにぶつかっていかだを倒さないように注意されたい。
またボードゲーム版ではプレイヤー同士の「顔色」をうかがうことも重要だ。特に終盤では協力と裏切りが連続する激戦に発展すること必至。安全な場所を一緒に考えあったり、もしくはコソコソ教えあったりと、さまざまなかたちの駆け引きやコミュニケーションが発生する。馴染みのメンバーはもちろん、初めて集まるメンバーでのアイスブレイクにもおすすめできると感じた。
そしていかだが崩れる際のカタルシスも、ビデオゲーム版とはひと味違う趣がある。いびつに大きく育ったいかだが目の前でバラバラと崩れ去る様は圧倒的。ハプニング、協力、裏切り……短い時間ながら全員で築き上げたいかだは、ささいなバランスの変化によって海の藻屑となる。そして思わず声を上げる皆と、机に響き渡るコマの振動。今度はもっと大きくして、もっと派手な崩落が見たい。プレイヤーたちに謎の一体感が生まれ、ついついあと一回あと一回と遊びたくなる。
比べて遊べば引き立つ魅力
以上のように「いかだの5人」のビデオゲーム版とボードゲーム版は、いずれもひと味違う魅力を備えている。いつでもどこでも手軽に盛り上がれるビデオゲーム版と、同じテーブルを囲んで緊張感や一体感を共有しやすいボードゲーム版。いずれにせよバランスゲームである本作のルールは誰でもわかりやすく、普段ボードゲームを遊ばない人を誘っても盛り上がること請け合いだ。オンライン・オフライン共に人を集めやすい年末年始には、ぜひ両作を遊び比べてみてほしい。
『レッツプレイ!オインクゲームズ』は、PC(Steam)/Nintendo Switch/iOS/Android向けに配信中。そしてDLC「いかだの5人」は本日12月7日から配信開始されている。配信開始から1週間は25%オフセールが実施中だ。
またボードゲーム版の「いかだの5人」は、12月9日〜12月10日に東京ビッグサイトにて開催される「ゲームマーケット2023秋」にて先行発売予定。そして12月15日に一般販売が開始される。