ヘンテコ博物館経営シム『ツーポイントミュージアム』のプレイを“本物”の学芸員と館長に観てもらったら、どうも「リアル感」あるらしい。博物館あるある話を本職に訊いた
博物館関係者の知り合いをもつ筆者は、『ツーポイントミュージアム』の印象についての印象を本職の方に訊ければと思い、インタビューを敢行した。

セガは『ツーポイントミュージアム』を発売中だ。PC(Steam)/Xbox Series X|S版のデジタル版は3月5日に、PS5版のパッケージ・デジタル版は4月17日に発売される。通常版の価格は3888円(税込)で、ゲーム内は日本語表示に対応。またアップデートで、日本語吹替音声も追加予定となっている。
PC(Steam)版はこちら
https://store.steampowered.com/app/2185060/
PS5版はこちら
https://store.playstation.com/ja-jp/product/EP0177-PPSA19769_00-TWOPOINTMUSEUM00
Xbox Series X|S版はこちら
https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/Two-Point-Museum-ツーポイントミュージアム/9nfhrf1m4w3z
本作は駆け出しの学芸員となり、博物館を運営するシミュレーションゲームだ。プレイヤーは先史時代や海洋生物など、それぞれ5つのテーマが設定された博物館の館長となり、自分だけの博物館を設計していく。展示物を集めたり、装飾を配置したり、スタッフを管理したりして、理想の博物館を目指すのだ。
博物館運営のさまざまな面が楽しめる『ツーポイントミュージアム』では、子ども客への対応やドロボウの対策など、いろいろな要素が用意されている。一方、「ヘンテコ博物館経営シム」と謳われる本作では、オバケを展示する「超常現象博物館」が作れるなど、現実離れしている設定も散見される。博物館関係者の知り合いをもつ筆者は、本作の印象についての印象を本職の方に訊ければと思い、インタビューを申請。「匿名なら」との条件で承諾をいただき、現役で働く館長と学芸員のおふたりに取材することができた。
そうして本作のゲームプレイ動画を観てもらいながら、お二人に話をうかがったところ、筆者が“トンデモ要素”だと思っていた要素にも「リアリティを感じる」とのコメントが飛び出す、意外な内容となった。ほかにも現実の博物館運営の裏側などをお聞きすることができたため、以下ではそのインタビューの模様をお伝えする。
実際の学芸員の仕事は、けっこう地味?
――本日はよろしくお願いします。この『ツーポイントミュージアム』はできたての博物館を運営し、展示品の配置や装飾などを手がけていくゲームです。プレイヤーは駆け出しの学芸員という設定なのですが、現実の学芸員さんはどういった業務をおこなわれているのでしょうか。

学芸員:
展示物の配置や装飾を考えるのは学芸員の仕事のひとつです。展示の企画を考え、よりよく伝わるようにといろいろと工夫して、飾り付けをおこなったりします。このゲームでやっていることは現実に近いと思います。
館長:
基本的に館長が設定するその博物館のコンセプトというものがあり、現場の学芸員さんはそれに沿って具体的な企画や展示を考える感じですね。
学芸員:
あとは展示品集めなども学芸員の仕事ですね。
――展示品集めはどのようにおこなっているのでしょうか?
学芸員:
当館での展示品の集め方としては、たとえば博物館同士で貸し借りしたり、あるいは個人の蒐集家から寄贈してもらったりとかが主ですね。うちの博物館は郷土史的なものを扱っているので。
――このゲームでは展示物を集めるために、学芸員を遠征に行かせてお宝を探してくるのですが、こういったことは実際にあるでしょうか?探検隊が怪我をすることもあったりして、個人的想像ではゲーム的な要素かなと思っているのですが。
館長:
最初の博物館で発掘できるお宝は恐竜の化石がテーマなんですよね。化石系の学芸員だったら遠征に行くのは実際ありますよ!アルゼンチンとかモンゴルとか、化石が出そうだと噂を聞きつければ、海外まで掘りに行ったりね。

――おお、化石系でははるばる海外まで出向くこともあると。噂を聞いて掘りに行くということですが、実際首尾よく化石が見つかるものなんでしょうか?
館長:
発掘作業は人里離れた荒野でやることが多いから、危険はありますよね。場合によっては何か月もかかるし、準備を怠れば当然怪我のリスクもあって。そこまでしても小さな骨がひとつ見つかっただけ、ってこともあるから、発掘はいろいろ運次第の仕事。
――はるばる海外まで行って小さな骨だけだとガッカリしますね……。このゲームでも手に入る展示物は基本的にランダムで、恐竜の骨の一部だけ見つかることもありますが、何度も探索するうちにパーツが集まって全身が完成するのですが。
館長:
実際化石が全身そろった状態で一度に出土するのは珍しくて……(笑)全然別の場所で見つかった化石を、同種だからといってくっつけて展示することもあるから、(一見変な話に見えるけれど)そういうのは現実でもある話です。
学芸員:
日本の土器なんかでも、バラバラの小さな破片をパズルみたいにくっつけて展示することは多いですね。足りないパーツは粘土や石膏で作って補ったり。ちなみにこのゲームでは、発掘した品は全部自分のものにできるんですか?
――そうですね、全部プレイヤーの博物館のものになります。なにか気になることが?
学芸員氏:
実は日本の法律では、博物館が主導して発掘したとしても、基本的に博物館の所有にはならないんですよ。発掘して土器とか見つけても、自分のものにはできません。
――え、博物館のものにならないんですか?法律的に発掘品はどういった扱いになるんでしょうか。
学芸員:
原則として出土した品は、みんな拾得物として扱われます。いわゆる「落とし物」です。
――お財布とかと同じ扱いということですか?昔の人が落としたものと?
学芸員:
そうです(笑)警察署に落とし物として届けられて、3か月間持ち主が名乗り出るのを待つために保管されます。で、当然持ち主が現れるわけはないのですが、お財布と違うところは発見した人の物にはならず、最終的に都道府県の管理下になるということですね。当館は公営ですが都道府県の運営ではないので、せっかく見つけた文化財も手元を離れるかたちになってしまいます。なので、博物館のものにできるこのゲームはいいなあと……(笑)それに集め放題というのもいいですね。リアルではそう簡単に資料を受け入れられないんですよ、保管スペースの問題があるので。
館長:
似たような資料ばっかり集めてもしょうがないしね。
――本作の文化財集め放題というのは、学芸員的にはグッとくるシステムなんですね。
意外にリアルなところ
――本作には子どもの来館客も来るのですが、用意されている解説文を読まないなど、特別な対応が必要なお客さんになっています。そんな子ども向けに体験型展示という要素が存在していますが、現実の博物館では子ども向けの対応というのはどうでしょうか。
学芸員:
子どもが解説文を読まないのはあるあるですね。というか、特に古い博物館なんかは、そもそも来館客として子どもを想定していないことがあるんですよ。初めから大人向けというか、もともと興味がある人向けというか。新しめの博物館だと、このゲームみたいに体験型展示を配置したりして、子どもも楽しめるように設計しているところもありますけどね。たとえば福岡・大宰府にある九州国立博物館は、企画段階から子どもを視野に入れて、親子で楽しめる博物館というコンセプトで作られたと聞いています。

館長:
恐竜の展示でいうと、昔はあんまり復元した状態では展示しなかったんですよ。正確さを重視して、化石のまんま、ありのまんまで展示すると。ただそれだとわかりにくいし、特に子どもには退屈ということで、生きている恐竜を再現した模型を展示するところも増えてます。正直生前の姿はわからないことも多いから、想像で補っている部分もあるんですが、まあわかりやすさ優先ということで。技術も進歩してリアルな模型が作れるようになってるし、動いたり触れたりする展示が子どもに受けるのは間違いないですからね。まあこの辺りは館長の考え方次第ですね。客層の設定というか。
――なるほど。先ほども館長さんがコンセプトを設定することで、展示の方向性が決まっていくというお話がありましたね。
館長:
大体の博物館には運営委員会というのがあって、それで承認を得ないと予算が下りませんから、館長だからってなんでも決められるわけではないですけどね。
――博物館のコンセプトでいうと、このゲームにはご覧の先史時代を含め、5種類のテーマの博物館が用意されています。たとえばこちらは幽霊が出ると噂のつぶれたホテルを買い取り、オバケやいわくつきのオカルトグッズを展示する博物館として改装したという設定です。

館長:
結構リアリティがある話ですね。
――え、リアリティあるんですか?なかなか非現実的というか、ぶっ飛んだ設定だと思ったのですが。
館長:
ただ珍しいものを集めて置くだけでは展示にはならないので、博物館はコンセプトが重要なのですが、超常現象博物館というのはテーマがはっきりしていて良いですよね。それに既存の建物を流用するというのも、博物館では多いです。現実でもありえそうな話だと思いますよ。
学芸員:
私もいわくつきの建物を改装して、オバケがテーマの博物館にしちゃおうというのは、よい企画だと思います。ナイスアイデアですね。
――意外な高評価をいただきましたね。本職のお墨付きということで、プレイにも力が入りそうです。
資料の保護が最重要使命……だがトラブルもある
――ちなみに本作には展示中に痛んだ品を学芸員が修復するといった要素もあるのですが、実際の修復作業はどういった行程でおこなうのでしょうか。
学芸員:
展示品はそもそも痛まないようにするのが大前提ですが、もし痛んでしまった場合は、専門機関に修復を依頼しますね。化学の専門知識や設備が必要になるので、基本的に博物館では修復はしないと思います。ただ大手の博物館だったら、自前でそういった設備をもっていることもあるかな。東京の国立博物館とか。ただそういった大手でも、現場の学芸員がその場で直すといったことはしないと思います。
館長:
資料を無事に保管しておくというのは博物館の最重要使命だから、展示品の破損や紛失はものすごく怒られますね。
――展示品の破損と修復回りの仕様はゲームならではということですね。紛失でいうと本作にはドロボウがいて、 監視カメラや警備員を配置しないと展示品を盗まれることがあります。
学芸員:
現実でも防犯は超重要ですよ。リアリティある要素だと思いますね。当館も監視カメラの配置や警備会社との契約など、防犯には気をつかっています。
館長:
僕が以前副館長をやっていた博物館では、実際に盗難被害がありましたよ。
――え、そうなんですか!いったい何がどのように盗まれたんですか?
館長:
抱えるほどのサイズの大きなツボで、展示室には警備員を配置してたんですが、警備員が少し席を離れた隙に盗まれてしまったんですよね。開館時間中の犯行で。ビス止めされたガラスケースの中に展示してたんですけれども、そのビスを外されて、キレイに盗まれました。どうやら犯人は何度も下見に来て、毎日少しずつビスを緩めていたようなんです。警備員が席を立つタイミングなんかも調べておいて。結局犯人は捕まらないし、僕も偉い人からこっぴどく怒られました。
――実際に脅威なんですね、窃盗は。
学芸員:
展示物になにかあると、博物館の信用問題になりますからね。最悪、よその博物館から展示品を貸してもらえなくなってしまいます。窃盗は各博物館が神経をとがらせていて、当館も「防犯態勢が不十分」だとして、ほかの博物館から資料の貸し出しを断られたことがあります。監視カメラの増設など対応をして、最終的には貸してもらえましたが。
館長:
国内の博物館だと、日本刀なんかもよく狙われるそうですよ。金銭的価値が高いからとか。
――なるほど、警備はめっちゃ重要と……。

学芸員:
ちなみに、このゲームでは博物館スタッフが盗みを働くことはないんですか?
――え!?えーと、さすがに博物館のスタッフが盗むことはないようですね。基本的に、お客さんのなかに泥棒が混じっているというかたちです。
館長:
公的機関の調査によると、博物館の盗難事件の60%は内部関係者によるものとされているんですよね。不満をもったスタッフが展示品を持ち逃げするみたいなイベントがあると、ゲームがもっとリアルになるかもしれません。
――本作にもスタッフの不満といった要素はあるのですが、最悪でも辞職するといった程度でして。給料を上げたり、無料のコーヒーマシンを用意したりするとスタッフの満足度が上がっていきます。
学芸員:
無料のコーヒーはいいですね。うちはコーヒー自腹ですよ(笑)
館長:
いらないでしょ、そんなの(笑)
――最後になりますが、本作の全体の印象についてお聞かせください。
館長:
博物館がテーマのゲームというのは面白いですよね。このゲームで興味をもったら、ぜひ実際の博物館にも遊びに来てもらいたいですね。
学芸員:
リアリティもあり、ゲーム的に楽しくアレンジされているところもありで、面白そうなゲームだと思いますね。自分でも遊んでみたくなりました。ただ、私は今ゲーミングPCもPS5も持っていないので、遊べる環境が……。本作みたいにボタン一つで学芸員の給料が上げられたら、新しいグラボを買ってプレイしたいところなんですが。
――現実はゲームより世知辛いと……。本日はありがとうございました。
『ツーポイントミュージアム』はPC(Steam)/Xbox Series X|S版のデジタル版が3月5日より発売中、PS5のパッケージ・デジタル版が4月17日に発売予定だ。通常版の価格は3888円(税込)で、ゲーム内は日本語表示に対応。また発売後のアップデートで、日本語吹替音声も追加予定となっている。
PC(Steam)版はこちら
https://store.steampowered.com/app/2185060/
PS5版はこちら
https://store.playstation.com/ja-jp/product/EP0177-PPSA19769_00-TWOPOINTMUSEUM00
Xbox Series X|S版はこちら
https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/Two-Point-Museum-ツーポイントミュージアム/9nfhrf1m4w3z