筆者はいわゆる「効率厨」と呼ばれる部類のゲーマーである。ビルド制のゲームで「一番効率がいい」構成を考えるのが好きだし、戦闘のあるゲームで最短ターンで最大ダメージが出せるような試行錯誤をするのが大好きだ。

そんな筆者が今回、開発元からのコードの提供を受け、ほっこり系交流アドベンチャーゲーム『たき火のそばで』を遊ぶ機会をいただいた。本作は戦闘要素やステータス管理といった要素を排除した、のんびりとした癒し系アドベンチャーゲームである。たき火の周りでキャラクターと交流し、物々交換やおしゃべりを楽しむのがメインとなる作品だ。スローライフで牧歌的な、効率の対極にいるようなタイトルだが、効率を愛する筆者に楽しめるのだろうか。

結論から言えば、効率のことをあえて考えずに本作をプレイするのはとても楽しかった。むしろ効率にこだわる筆者でさえ効率度外視で遊んだほうが楽しめることを自然と感じとれたし、そのマインドになればのんびりと旅人同士の交流を味わうことができるように思う。次項より、効率主義者でもゆったり楽しめる『たき火のそばで』について紹介していこう。なお本作はPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)向けに発売中で、Nintendo Switch向けにも本日発売されている。本稿はSteam版のプレイに基づいて執筆されている。


本作の舞台は魔法の世界。乗っていた船が難破してしまった主人公は、見知らぬ土地へと流れ着く。元は商人であった主人公はその才能を活かして会話や物々交換をし、人々と交流して仲を深めていくこととなる。

人々と交流をするのは、タイトルどおり“たき火のそばで”だ。フィールドにはたき火ができるキャンプエリアが配置されており、そこを渡り歩く道中で物資を集め、人々と交換していくこととなる。しかし、ただ漫然とキャンプを歩いて探検を続けることはできない。とある事情で主人公が島を歩ける日数は限られており、定期的に別空間へと移動して“ソウルエナジー”を届けなければならないのだ。ソウルエナジーは人々と交流することで溜まっていくので、会話や物々交換を積極的にすることで別空間の発展にも役立つ仕組みとなっている。


たき火に到着すると、5回の行動力のなかで何をするか決めることになる。行動力はNPCと話したり、物々交換したり、料理をしたりといった行動で消費される。物々交換は失敗しても行動力を消費するし、料理はレシピごとに調理時間が異なってくる。

そう、本作は島を歩ける日数が限られており、行動回数に制限のあるなかで別空間へと資源を運び、エリアを発展させていく要素があるのだ。つまり、“効率的”な動き方というものも存在するゲームである。なんとも効率厨の血がくすぐられるが、プレイを続けると次第にのんびりする、あるいは効率化をサボる遊び方になっていった。効率のことは考えず、のんべんだらりと知らない土地を探検することを楽しんでいたのだ。


効率度外視のほのぼのした暮らし

なぜ筆者は効率を気にしないようになったのか。理由として、まずは本作では効率を追求するメリットが特にないことが挙げられるだろう。本作は基本的にほのぼのとしたゲームだ。知らない土地をのんびり好きに歩き、そこで出会った人々との交流を楽しむのが醍醐味のタイトルである。先述したルールを守っていれば特に日数制限があるわけでもなく、効率を考えたところで自己満足以上の何かはない。一応、最序盤に「明日までにこれをやってほしい」と頼まれるイベントもあるが、気が済むまで周辺を散策してから行ってもペナルティはない。主人公が「道に迷っちゃって……」と素直に言うと、依頼人も優しく許してくれる。


一方で効率の追求を“阻む”要素はある。たとえば、本作においても世の中の基本は物々交換だ。「コイン」というアイテムはあれど、本作の世界では貨幣制度としては機能していない。ある程度天秤が釣り合うようにすれば取引は成立するが、キャラクターごとに欲しがっているものがある場合も。そのときは相手の求めるアイテムを提示すれば、多少こちらが有利でも取引が成立することが多い。とはいえ取引が成功するかどうかは「勘」に頼るほかないし、取引に失敗するとたき火での時間を消費してしまう。効率を考えると最小限の物資で相手から最大限むしりとりたい気持ちもあるものの、失敗した際のリスクも大きい。そのため次第にちょっとゆとりをもって取引を完了してもいいかと思えるようになり、何となく取引相手への思いやりも生じていく。このなかではお互いの価値観を測りあって、探り探り取引をしているような気分になることができた。

さらに、たき火では料理をすることもできるが、レシピによっては調理に時間がかかる。どれくらい時間がかかるかは事前にはっきり把握はできず、ここでも手探りで火にかけることとなる。ほかのキャラクターとのおしゃべりを終え、余った時間で新レシピを試してみるもまったく時間が足りなかった、なんてことも。効率主義者としては大損した気分になるような場面だが、本作では作品全体ののんびりした雰囲気もあってか、不思議と嫌な気持ちは起こらない。「また今度作るか!」という気分で切り替えることができた。そもそも本作では先述のとおり効率を追求しても自己満足にしかならない。効率を愛していたはずの筆者の心に「サボってもいいな」という気持ちさえ芽生えてくる。


『たき火のそばで』では特に時限式のミッションが課されることもなく、のんびり島を歩いて人の話を聞いて料理を作り、自分が欲しいものを持っている人を見つけたら交換を持ちかけ、温かな交流を楽しむことができる。何かに急き立てられる必要はなく、効率を重視したところで特段メリットもない。効率厨であり、効率を追求するゲームが好きな筆者だが、たまにはこういう遊び方でゲームを楽しむのも良いと感じるのだった。


ほのぼのしてない部分も

そうしてのんびりと遊べる『たき火のそばで』は世界観も絵本のようなほのぼのとした雰囲気だ。しかし、そんななかにもほのぼのしていない部分もある。本作の世界でも人と人が集まれば揉めごとや困りごとが生まれるのだ。主人公は人々と関わりながら、美味しいパンが食べたいという欲求から友人同士の喧嘩まで、さまざまなお悩みを聞くこととなる。そのため、主人公は彼らの問題を解決するために奔走する……必要はなく、物々交換で日々を過ごす片手間でみんなの愚痴を聞くくらいの温度感で遊んで良かった。もちろん効率を追求することもできるが、きっとのんびりと遊ぶほうが楽しめるのではないかと感じる。

たとえば最初のマップ「三角州」では、リアとアリという二人の人魚の喧嘩を仲裁することとなる。喧嘩をしてしまった二人の意見を聞き、他の旅人にも協力を仰ぎながら、お互いに許せないところがある彼女たちが腹を割って話す手伝いをすることになるのだ。

ここまでのプレイで効率化を“サボる”意識が芽生えていた筆者は、リアとアリの物語を効率を考えずにのんびり遊んだし、それでよかったと思っている。許せない部分がある相手の言い分を聞いてすぐに許せることは、現実でもそうそうない。むしろ怒りが収まらないうちに無理に仲裁すれば、火に油を注ぐことになるかもしれない。そこで本作でも、片方の気持ちが割り切れるようになるまで、というロールプレイも込みで、のんびりと料理レシピを解放したり他の人と話したりして「時間に解決してもらう」ように過ごすことでリアリティを感じることができた。『たき火のそばで』では人と人との温かみのある交流も持ち味であり、効率化をあえてサボってのんびりすることでこの魅力も深まるかもしれない。本作はじっくり時間をかけて、温かい飲み物でも飲みながらプレイするのがぴったりだと改めて感じることができた。


以上、「効率厨」のゲーマーが効率度外視で『たき火のそばで』を遊んでみた結果を綴ってきた。のんびりとした本作ながらソフトな制限や生々しい人間関係がちらつく部分もあり、効率化をサボることやあえて時間をかけることに意義を感じられるように思う。効率を重視してガツガツと遊ぶより、のんびりとお茶やお菓子を楽しみながらゆるく遊ぶのがおすすめのタイトルだ。人の温かみに触れつつ、気が向くままに過ごすのも、たまには良いものだ。

『たき火のそばで』はPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com)/Nintendo Switch向けに発売中だ。