『アークナイツ』のHypergryphが放つ新作ゲーム『エクスアストリス』は「コマンドRPGの皮を被ったアクションバトルゲーム」だった。ただし両要素のいいとこどり

『エクスアストリス』における最大の特徴と言えるのが、コマンドバトルとアクションバトルを融合させた戦闘体験である。プレイスキルの上達を強く意識したデザインに仕上がっている。

制作発表から現在に至るまで、作品内容の大部分が謎に包まれていた新作ゲーム『エクスアストリス』。『アークナイツ』で知られるHypergryphが作っていることや、何やらコマンドバトルらしいこと、そして買い切り型を採用していることしか明かされていなかったが、このたび開発中にある本作をプレイする機会に恵まれたため、現時点で判明している作品の特徴について紹介していきたい。

エクスアストリアスはHypergryphが開発しているロールプレイングゲーム。対応プラットフォームはiOS/Androidとなっている。本作はいわゆる買い切り型を採用しており、価格は1500円。プレイヤーは地球人の調査員「雁」(イェン)として、白夜と極夜しかないにも関わらず知的文明が発達した惑星「アリンド」を探索し、仲間とともに世界に秘められた謎を解き明かしていく。

コマンドバトルの姿をしたアクションバトルゲーム

画像は開発中のもの


『エクスアストリス』における最大の特徴と言えるのが、コマンドバトルとアクションバトルを融合させた戦闘体験である。コマンドバトルとアクションバトルを組み合わせたゲームは既に数多く存在し、その形態もさまざまだ。中でも本作はコマンドバトルをシステムのベースに据えているものの、実態はほぼアクションバトルになっている。リアルタイムでのボタン入力を通じたゲーム進行を中心とする、プレイスキルの上達を強く意識したデザインに仕上がっている。

本作の戦闘は、最大3人のキャラクターを使用したターン制コマンドバトルを採用している。自分のターンと相手のターンを繰り返し、攻撃と防御を行っていく。自分のターン中における攻撃は、行動権である「AP」を消費することで行うことができる。デフォルトで所持しているAPは1つだが、戦闘中におけるさまざまな要素を通じて追加分を獲得することができ、ストックできる最大値は育成を通じて増える。所持しているAPの数だけ1ターン中に1回行動できるため、可能な限りAPを獲得し続けることで自分のターンを延長、絶え間ない攻撃を浴びせ続けることが、本作における戦闘の醍醐味である。


APの獲得手段として代表的なものがスキルだ。本作の戦闘では予め複数用意したスキルを順番に使っていくことで敵にダメージを与えていく。1つのスキルを使用するにあたって、1APが必要になる。特定の順番でスキルを使用することによりAPを追加獲得できるため、それを可能な限り続けていくという形だ。

「順番」という部分が肝であり、攻撃を通じて敵を空中に打ち上げる、敵の滞空時間を延長する、最後に地面へ叩き落とす、というように、スキル1つ1つに異なる性質を活かしたプレイヤーオリジナルのコンボを作って戦う必要がある。コンボを繋げるたびにAPを獲得できるとイメージすればわかりやすいだろう。

本作は3人のキャラクターを使って戦闘を行うため、たとえばAのキャラクターが敵を打ち上げ、Bのキャラクターが空中攻撃を行い、Cのキャラクターが地面に叩き落とすというコンボを作ることも可能だ。スキルのセットは2つまで用意することができ、戦闘中にいつでも切り替えることができる。よって、2種類のコンボを用意し、それを逐次切り替えながら戦っていくことになる。ただ、コマンド入力は攻撃モーションに合わせてテンポよく行わなければならない。入力のための猶予時間は長くはない。いちいち何をするか迷っていてはターンを無駄にしてしまうだけになってしまう(入力自体はスキルを使用するキャラのアイコンをタップするだけなので簡単だ)。

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一方、相手のターン時には敵の攻撃に合わせてタイミングよく防御行動を行う必要がある。防御行動に成功すると、HPへのダメージを0に抑えることができるだけでなく、防御をしたキャラクターごとに異なるアドバンテージを得ることができる。「攻撃を防御する」キャラクターは相手のターン中にリアルタイムで変更することが可能であり、特定の防御行動=特定のキャラクターでしか防げない攻撃も存在する。敵のモーションを観察しつつ、リアルタイムでキャラクターを入れ替えて適切な防御を行う必要があるということだ。

そして、育成要素も豊富だ。スキルツリーシステムがあり、ランダムでステータスが向上する装備品のクラフト要素があり、バフアイテムとしての料理システムがある。RPGにおける醍醐味の1つといえばプレイヤーごとに異なるビルドの構成だが、コンボのバリエーションも含め、本作でもしっかり楽しむことができる。

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攻撃を成立させるための、テンポが心地よい入力体験。そして防御を成立させるための、タイミングを重視した入力体験。両者を通じて覚える感覚は他のアクションRPG作品の戦闘を通じて得られるものと比べてもまったく遜色ない。ではなぜ本作はアクションRPGの形を取らず、コマンド式戦闘をシステムベースに据えたのだろうか。

コマンド式戦闘の利点は、プレイヤーがゲームスピードをコントロールできる点にある。ほっておいてもゲームが一切進行しないため、落ち着いて、じっくりと攻略法を考えることができるのだ。『エクスアストリス』における戦闘は、確かにアクションバトルに準拠した入力体験も重要だが、敵の弱点属性や、特性を考慮した戦術立案も重要な設計になっている。例えば最初から飛んでいる敵に対し、空中へ打ち上げる攻撃をしても、体制を崩せずコンボを繋げることはできない。空中から地面に叩き落とす攻撃を始点としてコンボを組み上げる必要がある。こうした思考時間を確保するための仕組みとして、本作はコマンド式戦闘をベースにしているのだと筆者には感じられた。

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また、本作がプラットフォームとして採用しているスマートフォンやタブレット端末は現在における生活必需品であり、デバイスに組み込まれている機能はゲームプレイにとどまらない。よって、さまざまな都合を通じ、切りのいいところでゲームを止める必要がある。だが、アクションゲームは没入感を重視する都合上、プレイヤーをゲームに縛るデザインを施さなければならず、プレイ中に訪れる急な外部からの通知に対応することが難しくなってしまう。

アクションゲームのプレイ中に宅配便の対応に迫られ、その後にポーズ画面を解除したところ、敵の攻撃にまんまとやられてしまうという経験をしたゲーマーは少なくないだろう。だが本作はゲーム体験のベースをコマンド式戦闘にしているため、アクションゲームの体験を用意しつつ、いつでもゲームを止め、再開することができる(もちろん、オートセーブ機能も主導セーブ機能もある)。アクションゲームがゲームデザインとして流行していることも合わせ、今に即した興味深いデザインである。

独特な世界観

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『エクスアストリス』の魅力は、個性あふれるバトル体験だけにとどまらない。独特なビジュアルと、良く練られた背景設定の組み合わせを通じて描かれる世界観もまた、本作の大きな魅力である。プレイヤーがゲームを初めて最初に目に入ってくるのは、本作の舞台であるアリンドの美しい風景と、主人公である雁が乗車している列車の内装だ。白と金、そして角形を基調としたアリンドの世界は、極めて人工的、秩序立った雰囲気を醸し出しており、美しさの中に堂々とした存在感や冷たさを感じさせる。一方で、主人公たちが戦うことになる敵たちは、有機物のような肉体に、モチーフ同士の調和を感じさせない破滅的な印象を組み合わせたデザインをしている。世界の異物であることが一目でわかりやすい。

そんな『エクスアストリス』の世界を彩る背景設定は非常に練られており、独自の用語が冒頭から物語の中を飛び交っている。地球人の主人公がアリンドに調査にやってきた、というストーリーラインをなぞるように、地球人である私達もまた、どの言葉がが何を指すのか理解するには、正直時間がかかると思われるが、用語や設定をまとめたイラスト付きの資料がデフォルトで用意されているのはありがたい。

インターフェースデザインもクールだ。これはHypergryphが開発している『アークナイツ』でも共通している特徴だ。この他にも注目すべき点は多々存在する。秘密にまみれた登場人物たち。秩序だったアリンドの世界に見える軋み。綻び。謎が謎を呼ぶ物語。本筋以外にも、ちょっとしたお使い型のサブクエストや簡単なパズルを通じた探索体験も味わえることが確認できた。

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アクション要素を全面に押し出したコマンドバトルRPG。独特の世界観と、それを支える手厚いサポート。買い切り型の採用という、スマートフォン対応にしては珍しいマネタイズ方針も合わせて、『エクスアストリアス』は非常に野心的と思えるデザインに仕上がっている。製品版として登場した際、果たしてその試みはどこまで達成されるのだろうか。同作はiOS/Android向けに配信中だ。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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