マーベルのSRPG『マーベル ミッドナイト・サンズ』は「多ジャンル要素が山盛りかつ完全融合」した異色作だった。ヒーロー×カード×SLG×ADV=唯一無二

『マーベル ミッドナイト・サンズ』の魅力を紹介。ヒーロー×カード×SLG×ADV=唯一無二のゲーム。それが『マーベル ミッドナイト・サンズ』である。

昨今マーベル・コミックを原作に据えた作品が数多く登場するなか、「Firaxis Games開発のシミュレーションRPG」という点で確かな異彩を放っていた『マーベル ミッドナイト・サンズ』。その姿は、「スーパーヒーローらしい迫力ある大立ち回りと、シミュレーションRPGらしい緻密な戦略性という、一見相反する要素を完全に融合させた戦闘システム」と 「まるで恋愛シミュレーションのごときキャラクター中心のアドベンチャー」を同時に成立させることで、シミュレーションRPGとしても、キャラゲーとしても異彩を放つ、高いオリジナリティと魅力を持った作品に仕上がっている。本稿はその魅力を紹介するものである。なお本稿では、2Kからコードの提供を受けてゲームをプレイした。

マーベル ミッドナイト・サンズ』は12月2日発売予定(PC版は14時から発売開始)のシミュレーションRPG。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox SeriesX|S(PS4/Xbox One/Nintendo Switch版の発売日は後日発表予定)。開発を手掛けるのは『シドマイヤーズ シヴィライゼーション』シリーズや『XCOM』シリーズで知られるFiraxis Gamesだ。マーベル・ユニバースが持つダークな世界観を舞台に、「リリス」 およびエルダー・ゴッド「クトン」に率いられた悪魔の軍勢と、ヒーローグループ「ミッドナイト・サンズ」の戦いを描く。さらにプレイヤーの分身であり主人公として、ゲームオリジナルヒーロー「ハンター」が登場する。

ほかに登場するヒーローとしては、「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」「ドクター・ストレンジ」「キャプテン・マーベル」「スパイダーマン」「ウルヴァリン」「ブレイド」「ニコ・ミノル」「ゴーストライダー(ロビー・レイエス)」「マジック」「スカーレット・ウィッチ」が明らかになっている。

シリーズの垣根を越えたヒーローコンビネーション


『マーベル ミッドナイト・サンズ』最大の特徴はカードゲームをベースにしながらもタクティカルなシミュレーションゲームの要素を組み込んだ戦闘システムにある。ヒーローごとのアビリティが表現されたカードを組み合わせ、ウェーブごとに現れる敵を次々と倒していく。『Slay the Spire』をはじめ、デッキ構築とカードゲームを遊びに取り込み、敵を倒していく作品は昨今数多い。一方で『マーベル ミッドナイト・サンズ』は3D空間における位置取り、距離の概念を戦闘システムに取り入れることで、優れたオリジナリティを生み出している。限られたリソース、ドローのランダム性により生まれるプレイヤーひとりひとりのドラマ、そしてダイナミックかつ心地よい攻撃モーションが組み合わさった本作の戦闘システムは、とっつきやすく遊びごたえのある内容に仕上がっている。

本作は敵味方が交互に攻撃するターン制を採用している。戦闘を開始するとまず、平面状に表現されたフィールド上に敵味方のユニットが配置され、プレイヤーには5枚の手札が配られる。この手札は出陣しているヒーローひとりひとりに設定されているデッキを混ぜた内容から5枚ということである。カードを使うとそれに対応しているヒーローが攻撃し、敵ユニットにダメージを与える。敵ユニットには、HPが設定されている敵(エリート)と、一撃で倒せる敵(ミニオン)が存在する。つまり、ダメージの高いカードはHP持ちの敵に、ダメージの低いカードは一撃で倒せる敵に使っていく。

カードを使うたびにヒーローは奥行きのあるフィールドを移動し、その場に留まる。たとえば、近接攻撃のカードを使うと敵に近寄って攻撃し、その位置に留まるという形である。カードの中にはヒーローから一定の距離内にいる敵にしか使えないものや、直線上の敵すべてに攻撃できるもの、敵を吹き飛ばして移動させるものといった、敵味方の位置関係によって効果が変わってくるものがある。もちろん敵も範囲攻撃を仕掛けてくる。そして、カードを使わずにフィールドを移動できる回数や、1ターンのうちに使えるカードの枚数には限りがある(基本的にカードは手札の中から3枚しか使えない)。

また、「ヒロイズム」という呼ばれるリソースを一定量消費して使うカードも存在する。これは普段の攻撃に用いる「アタック」カードとは別に、「ヒロイック」カードと呼ばれ、強力な威力および効果を持つ。ヒロイズムはカードを使用するたびに、カードごとに設定された量が貯まっていく。また瓦礫を投げ飛ばしてダメージを与えるなど、カードを使わないダメージ源……フィールドギミックを起動するのにも必要だ。倒されたユニットはロストすることはないが、復活させるにあたってもカードを使う。ゆえに本作は、デッキ構築ゲームの中でも、カードを使う順番とフィールドにおける位置取りがかなり重要なデザインになっていることが分かるだろう。自分のターンが終わったら敵のターンに移行し、攻撃をしかけてくる。攻撃は必中であり、かつ攻撃対象があらかじめ分かるようになっているため、限られた手札の中で、防衛手段も考慮する必要がある。


そしてこのゲームを楽しむ上で何よりも重要なことは、デッキ構築とヒーロー間のシナジーを軸とした戦術の構築である。本作はカードの効果の方向性に関して、ヒーローごとに異なるデザインがなされている。たとえば、ドクター・ストレンジであれば敵をふっ飛ばして移動させるカードが多いほか、ドローや1ターンに使えるカード枚数の上限を増やす、ヒロイズムを大量に生み出すといった、補助手段を提供するカードも多い。そんな彼と良い組み合わせとしてまず挙げられるヒーローは、「ゴーストライダー(ロビー・レイエス)」である。彼のカードの中にはフィールド上に即死ポイントを生み出し、そこに押し込んだ敵を即死させるものがある。また、手札の枚数で強化されるカードもある。敵の移動とドローによる補助が比較的簡単にできるドクター・ストレンジは非常に相性がいいのだ。

ゴーストライダーはカードを使うにあたって敵と自分、味方を巻き込んで範囲型の特大ダメージを与えつつ、別のカードで回復を行う戦法が主軸のヒーローである。そのため、カードの使用枚数を3枚から増やせるストレンジとは改めて相性が良いほか、回復を行える主人公「ハンター」ともシナジーを形成している。強力な全体弱体化能力を持ちながら強力な敵単体に対する攻撃能力に乏しい「スカーレット・ウィッチ」と組み合わせれば、足りない部分を補えるだけでなく、フィールドすべてを文字通り焼け野原にしてしまえる。


一方、ドクター・ストレンジと相性が悪いのは「スパイダーマン」である。スパイダーマンの特徴はカード、ステージギミック使用に伴うヒロイズムの少なさと強力なドロー能力である。つまり、ドクター・ストレンジは使い切れないほどのリソースを生み出すことに特徴があるヒーローである一方で、スパイダーマンは節約ができる。リソースを余らせ、他のヒーローに回せるヒーローなのだ。役割が微妙にダブっている。役割がダブっているヒーローを出陣させることはすなわち、攻め、守り、補助のうち、果たすべきロールを1つ減らすということを意味している。

本作は出陣できるヒーローが一部固定されているステージもあるため、「誰を出陣させるか」という時点で役割がある程度ダブっていてもなんら支障はないが、いざ戦場にシナジーの相性が良くないヒーロー同士を出陣させると、それだけで任務がクリアできなくなる。とんでもない火力を出せるがとんでもない量のリソースを要求するキャプテン・マーベルと、強力な盾であるが回復を必要とするキャプテン・アメリカ、他人を巻き込んだ自傷からの回復にリソースを必要とするゴーストライダーを組み合わせれば、何もかもが足りずもうゲーム終了である。


このほか特徴的な能力を持っているヒーローには「ニコ・ミノル」がいる。彼女は回復も攻撃も弱体化もリソース補充も全部できるまさに器用万能なキャラクターだが、「一度使った魔法は2度と使えない」という設定を反映して、どの弱体効果が発動するか、だれを攻撃の標的にするか分からないランダム性をほぼすべてのカードに備えている。彼女を活かすパーティやデッキを考察するのも一興だろう。何でもできるため、方向性を絞り特化させるかさせないか。試行回数を増やすためにリソース補給担当を組み合わせるのか、ランダムに振り回されない、攻撃と守りを自己完結するキャラクターで脇を固めるのか。先述したように、ゲーム中には出陣するメンバーが一部固定されているステージもある。そのため、満遍なくヒーローたちのデッキを仕上げていくことが肝要である。特定のヒーローを組み合わせる場合は特定のカードを多く入れよう、という細かな調整も高難易度ステージに挑む際には当然必要だ。

そしてこのシナジーを意識したユニットの組み合わせが、原作では観られない新たなヒーローたちの魅力発掘に繋がっているのだから興味深い。好きなヒーローたちの技と技のコンビネーションが実現できるという時点で嬉しいのだが、戦闘中に行われるフルボイスの掛け合いは彼らに対するプレイヤーのイメージの解像度をより高めてくれる。

以上が、本作の目玉である戦闘システムの概要である。攻略目標の中には、特定ユニット対象の破壊や、防衛、制限時間付きという内容もあり、バリエーションがある。カードゲームに簡易的なタクティカルシミュレーションの要素を組み合わせることで、優れたオリジナリティを生み出しつつ、同時に簡易的ゆえのとっつきやすさ、遊びごたえのある魅力的な内容に仕上げているのだ。

だがここまで読んでいただいた読者の方には、このような質問を持った方もいるだろう。「そもそも主人公はどんなキャラなのか」「戦闘以外のゲームプレイ要素はあるのか」「カードはどうやって手に入れるんだ」。ここからは筆者のロールプレイを辿りながら、戦闘以外のゲームプレイ要素であるヒーローたちとの交流、拠点の散策を紹介していく。

これが私のヒーロー道


私が目覚めるとそこには天高く伸びる鉄の柱、摩天楼がそびえ立つニューヨークの風景が広がっていた。かつて悪魔の軍勢とリリスに挑み戦いの果てに死んだ私は、再び彼女に立ち向かうため、ドクター・ストレンジによって蘇生させられたようだ。

『マーベル ミッドナイト・サンズ』ではプレイヤーの分身として、オリジナルヒーロー「ハンター」が登場する。ハンターは宿敵リリスの子であり、光と闇の属性を同時に扱えるというヲタク心をくすぐる設定をもっている。ハンターの属性はゲーム中の会話における選択肢や、カードの使用頻度によって傾いていく。光の属性を持ったカードを多く使えば、正しさと優しさで悪を消し去る光のヒーローに。闇の属性を多く使えば、毒をもって毒を制すダークヒーローに成長する。傾けば傾くほど報酬として、戦闘中に有利になる効果が得られる。ちなみに、光のカードは回復系のカードが多く、闇のカードはハイリスクハイリターンの攻撃系カードが多い。もちろん光と闇を両立させる道を歩むことも可能である。

こうして私は、蘇ったリリスを再び倒すため組織されたヒーローグループ「ミッドナイト・サンズ」に加入するはこびとなった。ソーサラー・スプリームやアイアンマン、半吸血鬼や復讐の精霊など賑やかなメンバーが揃っている。ちなみに、ハンターのビジュアルはキャラメイクを通じてプレイヤーごとに変更することが可能だ。ボディタイプの選択をはじめとして、基本的な内容が一通り揃っている。また、任務の報酬で得られるゲーム内通貨との交換や、各種イベントの報酬として、ファッションアイテムであるさまざまなコスチュームが手に入る。属性の傾向と合わせて、プレイヤーひとりひとりのカラーを出すことができる。ちなみに、コスチュームについては仲間であるほかのヒーローに対しても数多く用意されている。


ミッドナイト・サンズの拠点である「大聖院」では、そんな個性溢れる賑やかなメンバーの一人と「交流」を深めることができる。私はニコ・ミノルに声をかけ、深夜に映画を観ることにした。ムービーナイトだ。リラックスした雰囲気のなか、西部劇を肴に身内の話に華が咲いた。互いにロクでもない親を持つもの同士、共感するものがある(ニコ・ミノルのパーソナリティについては、現在Disney+で配信中の映像作品を観るとわかりやすいだろう)。交流中には会話の選択が発生し、気の合う選択肢を選ぶことができれば、友情を育むことができる。選択肢の内容はどれも原作を知っているとニヤリとくるものばかりだ。両者の関係性は数値として示され、一定値に達すると、戦闘中で常時発動する便利な能力や強力なカードを獲得することが可能だ。さらに数多くのヒーローと関係性を深めるとミッドナイト・サンズ全体としての結束が強固になり、さらなる報酬が手に入る。

なお、相手の気に障る選択肢を選ぶと数値は下がる仕組みになっている。寒いジョークや通じない冗談で相手を困らせないように。個人的な地雷を踏むのもご法度だ。本作のゲームフローは戦闘と大聖院でのアドベンチャーパートを交互に繰り返す仕組みになっており、アドベンチャーパートにも昼間と夜間の概念がある。それぞれの時間帯にしかできないアクションが用意され、かつ交流は一度のアドベンチャーパートにて一度しかできないため、慎重に行おう。

昼間に行えるアクションとして代表的なものは、戦闘の報酬であるエキスパンションパックを剥いてのカード入手や、ガンマコイルを解析して新たなカードを手に入れること、庭園でのスパーリングで任意のヒーロー1人に戦闘中の一時的な強化効果をつけることだ。 そのほか設備の機能拡張や戦闘パートへの移行なども昼間にしか行えない。広大な大聖院 の散策も明るい昼間のほうがやりやすいだろう。広大で美しい大聖院にはコレクションアイテムのほか、定期的に復活する宝箱が点在しており、「神秘レベル」という数値が上昇するたびに中身が豪華になっていく。神秘レベルはいわゆる背景設定に関する情報をどれだけ収集できたかを示す値であり、本作ひいてはマーベル・コミックスの世界観に詳しくなるほどゲームが有利になっていく仕組みになっているのだから面白い。


夜間になると1度だけヒーローとの交流が可能になるほか、この時間帯でしか発生しない特殊なイベントが多数存在する。昼夜の移行は基本的に昼のあいだ戦闘パートを挟む、夜にベッドで就寝することで行われ、一日が経過すると、あらかじめ依頼した設備の機能拡張が進行したり、戦闘中に倒され、かつ戦場に連続して出さなかったヒーローの傷が癒える (負傷したまま連続で出陣すると最初から最大HPが低下した状態になる)。

この昼夜移行に関して気をつけることは、ヒーローの負傷回復の調整だろう。本作はストーリーを進行させるためのステージ以外にも、報酬目当てに自由に挑めるステージが存在している。そのため、昼夜移行を行うために物語を進める必要はない。一方で、基本的には戦闘を挟まなければ移行ができない仕様になっている。上手く戦い続けることができないと、常にメンバーの誰かが負傷状態になってしまい、肝心なとき、たとえばユニット指定のステージに挑むことになった場合にハンデを背負ってしまうことになりかねない。戦闘報酬で手に入るエキスパンションパックの中身は、戦闘に出たヒーローに準拠するため、欲しいカード目当てにヒーロー指定のある高難易度ステージにシナジーを無視して連続出陣、倒されて一旦休みという失敗をすることもある。ただ、本作は時間経過に伴うリソースのやりくりなどといった厳しい制約はなく、失敗を恐れずにトライできる仕様ともいえる。


筆者の場合は、ほかのヒーローの性能を鑑みながら光の属性を目指すことを意識しつつプレイを進めていた。攻撃的な特徴を持ったヒーローが多いなか、回復役をこなせるヒーローは実に貴重であり、回復系のカードを多く使っていると必然的に光の属性に傾きやすくなる。また筆者は悪人プレイが苦手なため、闇属性を促進する自他ともに厳しい態度をとるような選択肢を取りづらいというのが大きな理由だ。各ヒーローのデッキ構築については、複数の役割を1人のヒーローに担わせるよりも、特化させる方向に組みがちである。運用方針が自分の中でわかりやすいというのもあるが、なによりカード間のコンボやシナジーが上手くハマった時の快感たるや筆舌に尽くしがたい。

ドクター・ストレンジで一気にリソースを補給し、キャプテン・マーベルの爆発的なパワーを開放するのは最高である。ニコ・ミノルのコスト踏み倒しカードが上手く刺さった時なんてもう……見ての通り筆者は高コストカード(俗に言うファッティ)の破壊力に魅了されたプレイヤーだが、高速戦が好きなプレイヤーのためのカードも「低コスト兼大ダメージだが、弱体化を受ける」というような形で用意されている。このほかにもゲームを進めていけばユニークな効果を持ったカードが手に入っていく。自分が好きなヒーローと自分だけの戦術の組み合わせを模索していこう。

『マーベル ミッドナイト・サンズ』は、「スーパーヒーローらしい大立ち回りとシミュレーションRPGらしい緻密な戦略性という、一見相反する要素を完全に融合させた戦闘システム」と「キャラクター中心のアドベンチャー」を同時に成立させることで、キャラゲーとしても異彩を放つ、高いオリジナリティと魅力を持った作品となっている。原作ファンや、カードゲーム、シミュレーションゲーム好きはもちろん、それらのジャンルに対して苦手意識がある人にもぜひ手にとってもらいたい一本である。

マーベル ミッドナイト・サンズ』は12月2日にPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売予定だ(PC版は14時から発売開始)。PS4/Xbox One/Nintendo Switch版の発売日は後日発表予定である。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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