AUTOMATONライター陣が選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー 2021」

年末最後の企画となる本稿では、1年の総括として各ライターの個人的なゲーム・オブ・ザ・イヤーを紹介する。あわせて、最後にAUTOMATON全体としてのゲーム・オブ・ザ・イヤー 2021を発表しよう。

今年も各ライター・編集員の個人的なGOTYだけでなく、投票によるAUTOMATON全体としてのGOTYも選定した。選定方法としては、ライター・編集員で候補作品を募り、その中から選ぶよう、ライター・編集員が投票。一番票数の多い作品を、AUTOMATON全体のGOTYとみなした。 

結果、僅差でGOTYに選ばれたのは『Inscryption』 である。 

投票用の候補作品リストは以下のとおり: 
 

 
『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』 
『バイオハザード ヴィレッジ』 
『モンスターハンター ライズ』 
『Returnal』 
『Deathloop』 
『It Takes Two』 
『メトロイド ドレッド』 
『Inscryption』 
『真・女神転生V』 
『Halo Infinite』 
 

 
以下、全体投票で選ばれた『Inscryption』について、ライター・編集員の短評を記していく。 
 

 
――制限があったからこそ、物語に引き込まれる 

ネタバレにならない範囲で好きな点をひとつ挙げるとすれば、グラフィックやサウンドが、ゲーム内容と絶妙にマッチしている点だ。表現方法の選択・制限が巧みであったからこそ、より一層物語に引き込まれたように思う。小出しに、または一気にもたらされる情報によって、想像力がかき立てられた。 

by. Maho Ikemi 

 
――カードゲームというジャンルへの入り口に  

“ループ”と“カード”をテーマにしたタイトルが台頭した2021年。多くのプレイヤーの心に残ったのは『Inscryption』という体験だろう。インディーゲームはこうでなくちゃ!といわんばかりの仕掛けが光り、徐々に押し広げられる世界観には思わず感嘆の声が漏れる。 

ただ私は、本作はシンプルにカードゲームとしての楽しさがあることを強調したい。興味をそそられる演出の数々に好奇心を刺激されながら、カードゲームにおける基本的なルールを学ぶことができる。本作の特徴である世界観の拡張に合わせてゲームのルールが増えていき、選択肢の幅も広がっていく。かくいう筆者も、手札と睨み合う楽しさや、うっかりミスであっけなく敗北するといった、カードゲームならではの楽しさを一から体験することができた。ゲームを閉じていても、カードをピックアップする音や、駒を進めるボードゲームらしき演出などが脳裏から離れず、暇さえあればあの椅子に座りたくなる。そんな中毒性を持つゲームだ。   

By. Sakutaro Okano 

 
――世相に対してのレジスタンス 

本作が特に優れている点はゲームデザイン自体そのものである。馴染みの餌をもってプレイヤーを誘い、衝撃を与えるばかりか、コミュニティ内外に向けてムーブメントを発生させる。そのすべてが作者の計算ずくであるという事実。本作は間違いなくこの作者だからこそ生まれた斬新な作品ではあるが、同時に「遊び」という行為の本質的な部分を提示する。 

遊びにはルールが必要ではあるが、ルールを作るのは人間だ。つまり、遊びの頂点に立っているのはルールではなくルールを制定した人間である。これは現実においても同様だ。人間によって廃棄されたはずのゲーム内で起こるドラマや、廃棄されるゲーム自体の謎を解くために奮闘するプレイヤーたちの動向は、(実際そうデザインしているのかは不明だが)私にとって人治主義が横行する世相に対してのレジスタンス活動に見えた。そういった意味でも『Inscryption』は2021年を代表する作品である。 

by. Takayuki Sawahata 

 
――稀有な作家性を大衆に知らしめた一作 

Daniel Mullins氏は、物語構造のサプライズを持ち味とするクリエイターであり、その点では、前作『The Hex』の時点で既に突き抜けた作家性を発揮していた。『Inscryption』において目を見張るのは、構造面での遊びを発展させつつ、ゲームプレイの観点からも「一度で三度おいしい」新鮮なアイデアを成就させたこと。そして、ゲームの正体を伏せたまま「マーケティング可能なゲーム」をつくったことである。 

Mullins氏のこれまでの作品は、口コミを中心として広がっていくカルト的な人気のインディーゲームであった。そもそも正体不明で捉えどころがないがゆえ、大々的には宣伝しにくい作風。一方で本作は、流行りのデッキ構築型ローグライクとして売り込むことで、その本性とのギャップ効果を高めつつ、宣伝できる側面をしっかりと用意し、「大衆向けのインディーゲーム」として振る舞うことを可能にした。 

このバランスを取れたこと自体が凄い。間口を広げた結果として、口コミ効果も威力を増している。ニッチな作風を維持しながら、メインストリームで売れるための道筋を切りひらく、見事な芸当であった。 

by. Ryuki Ishii 

 

 
以上、2021年のAUTOMATONゲーム・オブ・ザ・イヤーをお送りした。本年は昨年に引き続いてのコロナ禍に見舞われるなか、ゲーム業界も大作の延期や労働問題などさまざまな出来事に揺れた。そうしたなかでも、こうした記事を通じ、各人の心に残ったゲームを振り返るきっかけになれば幸いだ。 

 

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