『リネージュ2M』PC版は、モバイル版と比べてもかなり美しい。UE4精通者がパフォーマンスの違いを検証
エヌ・シー・ジャパンは3月24日より、『リネージュ2M』(以下、リネ2M)を国内向けに配信中だ。同作はiOSやAndroidといったモバイル向けに配信されているほか、パープル(PURPLE)と呼ばれるツールを介したPCでのプレイも可能である。「モバイル向けゲームをPCでプレイする」と聞くと、エミュレーターを介してただPCに出力しているだけではないかと、思うかもしれない。しかし実際はそうではない。PURPLEを介してPCでプレイする際には、モバイル版よりもビジュアルなどが明らかにリッチになっていることが感じられる。
では具体的に、どれほどリッチになっているのか。本作の開発に使用されているエンジンUnreal Engine 4に詳しく、またモバイルゲームやMMORPGの開発経験のあるIndie-us Gamesの中村匡彦氏を招き、PC(PURPLE)版とモバイル版の違いを検証および解説していただいた。なおPC版とモバイル版はともに最高画質での比較となる。PC版に使用したハードウェアはSurface Book 2で、CPUはCore i7-8650U 1.90GHz、GPUはGeForce GTX 1060を搭載。モバイル版に使用したハードウェアはiPad(第4世代)である。
より遠くまできめ細やかに
───本日はよろしくお願いします。まずはグラフィックについての違いを解説いただけますか。
中村氏:
『リネ2M』のPC版とモバイル版を比較すると、ぱっと見てわかる程度に表現の差があり、PC版が優れています。PCゲーム級のクオリティになっていますね。まず、PC版では解像度が全体的に向上していて、おそらくテクスチャ自体の解像度が最大で1.5倍から2倍程度上がっています。具体的に見ていくと、PC版ではモンスターの肌なども綺麗に見えています。というより、解像度的にはほぼ別物ですね。肩の表現なども全然違っていて、同じモンスターでも見た目が明らかに違うモンスターもいます。影も解像度が大きく違います。モバイル版のぼやっとした影の表現も悪くはないんですが、PC版ではくっきりした影をしっかり出しているので綺麗ですね。
中村氏:
また、解像度だけではなく、モンスターの最大表示数や描画距離なども変わっているように見えます。遠景用のLoD(Level of Detail、細かさの度合い)が入っていることは以前説明しました(関連記事)。おそらくモデルが複数用意されており、距離によって粗いもの(遠景用)ときれいなもの(近景用)に切り替わるかたちですね。モバイル版では、基本は粗めのものがベースになっており、オブジェクトに比較的近い距離になったときに3Dモデルがきれいなものに切り替わります。一方PCでは、3Dモデルが遠景用のモデルに切り替わっているようにも感じられませんし、遠くでもモンスターがきれいに描画されています。近景用と遠景用で3Dモデルが切り替わってはいるものの、モバイルの時ほど変化がはっきりしていませんね。ここはあまり敵がいませんが、おそらく実際に視認できる敵の数自体も、PCのほうが多くなっているのではないでしょうか。
モンスターだけでなく、草などもよくよく見ると全然違っていますね。モバイル版では遠くの草はわかりやすく消されていましたが、PC版では比較的遠くまで生えていて、同じように見えても詳しく見るとやはり結構差があるように感じます。どちらもグラフィック設定は最高設定なんですが、やはりPCの方がスペック的には余裕があるので、結果として差が出ているわけです。また、PC版は4K解像度までサポートしているので、より大きな解像度できめ細かく画面が表示できることも、モバイル版との大きな違いなのかなと思っています。
中村氏:
それから、読み込みもPC版が速いですね。たとえばクラスの切り替えをすると、画面が読み込まれて切り替わっていきますが、その速度もモバイル版より全体的に速くなっています。モバイル版では、テクスチャストリーミングにより毎回データを読み込み、その都度データを捨てて読み込み直していました。なので、高解像度のモデルを読み込む際にも、一度低解像度のものを表示させて、時間差で高解像度のものが映るかたちでした。
しかしPC版はスペックに余裕があるので、一回読み込んだあとはしばらくデータを保持していて、次に見たときにはテクスチャ解像度が高いまま、低解像度の画像を挟まず表示してくれていますね。PCならどれを読み込んでも最初から解像度が高く、綺麗な状態で映ります。
───テクスチャストリーミングの読み込み直しが行われないのは、メモリの恩恵なのでしょうか。
中村氏:
そうですね。PC版では、ビデオカード(グラフィックボード)を積んでいて、ビデオカード側のメモリ(VRAM)にテクスチャデータをそのまま載せられるため、だいぶ余裕があるんですね。GPUは、モバイルであってもオンボードで搭載されているんですが、ほかのチップとメモリを共有しているので、メモリの差が大きいんです。一方、PCではメモリに余裕があるので、その都度捨てて読み込み直す必要がありません。ロードも非常に速く、すぐに表示されますね。一回読み込んだら次はぱっと切り替わりますし、そうしたロードの速さは、個人的にもすごいと思いました。
グラフィックとフレームレートの工夫
中村氏:
『リネ2M』のライセンスの記載を見ていて気付いたんですが、本作にはMegascansというUnreal Engineの素材が使われているようですね。Epic Gamesが、Megascansという自然物をスキャンして撮った3Dモデルとテクスチャをフリーで使えるようにしているんです。ライブラリとして、UEユーザーが無料で使えるように公開していて、高品質な自然背景を誰でもゲームの中で使えるようになっているんですよ。すごい高解像度なものからローポリまで用意されているんですが、ライセンスを見る限り、『リネ2M』ではMegascansが使われていますね。
ゲーム開発では素材を全部自前で作るとなると大変なので、いかに手間をかける部分とそうでない部分をわけるかが、非常に重要なことなんです。上手く素材を使うことによって、よりハイクオリティなものを短期間で作ることができる。今のゲーム業界では、そういうエコシステムを利用してゲームを作るために必要なものを補い、少しでも速くハイクオリティなゲームを作ろうとしている印象です。
───工夫が感じられますね。モーションのなめらかさについてはいかがでしょうか。
中村氏:
このPC自体が超ハイスペックではないので、すごくヌルヌルに描写されるとまではいかないんですが、それでもモバイルに比べると綺麗に動いてくれています。もっと新しい世代のGPU、RTXシリーズなどを積んだPCで動かした際には、グラフィックももっと綺麗に映るでしょうね。
───フレームレートも60fpsに対応していますよね。
中村氏:
そうですね。おそらく60fpsで動作しています。モバイルでは30fps程度だったので、比較するとだいぶ滑らかに動いていますね。
よりガチなプレイを支える操作面
───操作面についてはいかがでしたか。
中村氏:
最初からPCでのプレイを前提に作られているなと感じました。PCゲームを遊んでいるのと変わらない感触でプレイできますね。『リネ2M』はマウス操作にしっかり対応してくれています。マウスで操作できること自体が本当に大きいです。MMOはPCを基準に作られている場合が多いので、そうした中でPCゲームと同じデバイスで遊べるのは大きいと感じます。また、モバイルでキーボード操作に対応していることは驚きでしたが、PC版では微妙に動きやすさも違いますね。同じように見えて、キーボードで操作したときの感覚が違います。
───レスポンスが良いような気がしますね。
中村氏:
そうですね、モバイルよりさらにキーボード操作がしやすくなっています。モバイルではタッチデバイスを使う必要性があるので、基本的に操作はタッチに合わせてカスタマイズされているんですが、それでもここまでPCとモバイル、マウスとタッチ操作を念頭に置いて作られているのはすごいです。どこかが中途半端に感じることもなく、違和感なく操作できています。プレイの仕組みやシステム自体はモバイル向けに最適化されているので、モバイル向けのゲームをPCで完全に遊ぶことができるわけです。おそらく、Unreal Engine 4を使ってPC版とモバイル版の両方を同時開発していたのでしょう。
PURPLEについても、エミュレーターではなく単純にPC版といったほうがいいですね。起動時にnProtect(韓国製の著名なゲームガード、チート対策ソフトウェア)も立ち上がっており、PC用のチート対策も行われています。このゲーム自体がオートプレイ推奨になっていて、全自動で遊べるようになっていますが、チートなどを意識して対策していることがわかりますね。デフォルトがウィンドウモードになっていることもポイントでしょうか。PCゲームは、もう一つの画面に攻略情報を表示したり、別のチャットツールなどで会話しながら進めたり、そういった事情からウィンドウモードで遊ぶ人が多いんですが、フルスクリーンだとウィンドウを切り替えるのが手間になります。デフォルトがウィンドウモードなので、開発側の推奨もウィンドウモードなのでしょう。
中村氏:
設定としては、解像度の設定、ショートカットキーの設定、ウィンドウ/フルスクリーンの切り替え、ボリュームの詳細設定などがあります。ボリュームの詳細設定には、モバイルだけでなくPCで遊ぶことを前提に、ワイドスピーカーやダイナミックレンジもついています。ノートPCで遊ぶ場合は、バッテリー表示にも対応していて、残バッテリー量がいつでもわかるようになっていますね。それとモバイルではタッチ操作だった画面の操作も、PC向けに全部カスタマイズできるようになっています。PCでプレイするガチ勢も満足できる設定でしょうね。
───以前開発者にインタビューした際には、韓国の『リネ2M』プレイヤーの半数がPURPLEを使っていると伺いました。
中村氏:
そうだと思いますよ。本気でやるプレイヤーは、ショートカット設定などを使っているでしょう。ショートカットを全部設定してしまったほうが操作は早いですし、攻城戦の際にタッチ操作でもたついてしまったら負けますので。PCを前提に全部設計が行われていて、本当によくできているなと思いますね。
次世代モバイルMMORPGとしての一面と、PC用の既存MMORPGと比較してまったく見劣りしないという一面を持ち、PCでプレイすることによってモバイルとはまた違ったゲーム体験を味わうことができるゲームです。ぜひモバイル、PC両方で遊んでもらって、プレイスタイルに応じて使い分けてもらうのが良いのではないかと思いますよ。
───前回の記事とあわせると、より内容が理解できますね。ありがとうございました。
『リネ2M』は、iOS/Android/PC(PURPLE)向けに基本プレイ無料タイトルとして配信中だ。
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