今年一番アイデアが光ったゲームはどれ?AUTOMATONライター陣が選ぶ、アイデア・オブ・ザ・イヤー 2019

今年一番アイデアが光ったゲームはどれ?AUTOMATONライター陣が選ぶ、アイデア・オブ・ザ・イヤー 2019。AUTOMATON年末企画第3弾。

今年2019年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第3弾「アイデア・オブ・ザ・イヤー 2019」。「このアイデア、素敵だな」と思う瞬間は、ゲーマーの多くが少なからず経験したことがあるだろう。本稿では、2019年に発売されたゲームの中から、もっとも優れた、もしくは斬新なアイデアを含んでいると各ライターが感じたタイトルを紹介していく。

 

『Baba Is You』

――既成概念が邪魔をするパズル

開発元: Hempuli Oy 販売元: Hempuli Oy
対応機種: PC/Nintendo Switch

『Baba Is You』は、ステージのルールを変えて解法を見つけるパズルゲームだ。文字のブロックを押してきて文章を作れば、それが絶対的なルールとなる。到達できない場所にゴールがあるなら、別のオブジェクトをゴールにしてしまえば良い。壁が邪魔なら通り抜けられるようにしたり、押して動かせるようにしたり、あるいは浮かせたり。プレイヤーキャラクターにすることだってできてしまう。何の疑いもなく当たり前だと思っていた世界のルールが、あっさり打ち砕かれるインパクトは強烈だ。

とはいえ、パズルゲームであるため何でもありという訳ではなく、どうしても触れられないブロックで規定されたルールは変えられないし、作れるルールもステージによって異なる。一定の制限の中でいかに正しい順番とルートでブロックを押し、ルールを作り変えていくかが求められるのだ。本作には200ステージ以上存在するが、かなり難易度が高く序盤で詰まってしまう方も多いかもしれない。しかし、ちょっとしたヒラメキで一気に道が開けるだろう。文字のブロックで文章を作ればルールになるというシンプルかつダイナミックなアイデアと、練り込まれたパズルデザインとが組み合わさったことで、本作は独創的な作品として完成したと言える。

by. Taijiro Yamanaka

 

『Superliminal』

――見方を味方に

開発元:Pillow Castle 販売元:Pillow Castle
対応機種:PC

遠くのものは小さく見え、近くのものは大きく見える。そんな当たり前の現象を、見事にゲームプレイに落とし込んだ作品が『Superliminal』だ。本作の舞台は、夢の中。ここでは認識が存在を作り出す。プレイヤーは謎めいた部屋の数々を、錯視を利用して突破しなければならない。たとえば、ジャンプでは届かないドアがある。部屋にあるブロックを土台として用いるが、それでも届かない。この場合、ブロックを近くで離し、巨大化させることで解決する。目に見えた大きさが、そのまま物質の大きさに転化するのだ。こうした錯視とパズルの融合は、私のこれまでのゲーム体験に新たな風を吹き込んでくれた。

さらに本作は、パズルとは無関係な場所においてもプレイヤーに驚きを与えてくれる。平面に見えるが実は立体。へこんでいると思いきや実は出っ張っている。さながらトリックアートの世界に迷いこんだかのような感覚だ。そう、本作は錯視を利用したパズルゲームであると同時に、プレイヤーをあっと驚かせるギャラリーなのだ。そこに無機質なガイダンスと、全貌の見えない物語がフレーバーとして添えられている。夢か現か、噓か真か。プレイを進める度に分からなくなっていく。しかしそれらを混乱ではなく、パズルとして昇華させているあたり、やはり本作は唯一無二のアイデアを持つ作品と言えるだろう。

by. Nobuya Sato

 

『Mindustry』

――資源と時間を消費するタワーディフェンス

開発元:AnukenDev 販売元:AnukenDev
対応機種:PC/Android/iOS

『Mindustry』は、資源をかき集めコアを防衛する、ファクトリー系タワーディフェンス。舞台となる各マップには、銅、鉛、砂、石炭、水などの資源が埋まっている。これらをドリルやドローンなどを使って掘り出し、防衛施設や発電装置などを建造し、ウェーブごとにやってくる敵を撃退。集めた資源を使い、より強い防衛網を構築し、より効率的なラインを整え、更なる敵に備えていく。初期状態では脆弱なタレットなど、初歩的な建造物しか建てられないが、マップから資源を持って帰還し、研究を進めていくとより上位の施設が解放されていき、高度な建造物も建てられるようになっていく。より分かりやすく言えば、傑作RTS『Factorio』をカジュアルにし、タワーディフェンス要素を中核に据えたような作品。中毒性はそのままに、ラインの効率化より敵と戦闘に重点を置いたタワーディフェンスに仕上げたタイトルだ。

資源の採掘と防衛建築のバランス。敵の攻撃に対する対応。壁の建造。電力網の敷設。上位資源の造成。コアとドリルを結ぶラインの構築。インフレに対する対応。研究のための資源収集。特に序盤は施設がほとんど建っていないため、忙しい。また、発電の方法一つとっても、石炭を燃やして火力発電をするのか、水を使ってタービンを回すのかなど、複数の方法・施設が用意されている。資源はいくらでも掘り出せるし、敵を撃退してコアを防衛出来れば良いため、多少の乱雑さや非効率性、初期タレットを無尽蔵に置く暴挙なども許容されている。複雑かつプレイ時間が長くなりがちなRTSをカジュアルに、タワーディフェンス作品にした『Mindustry』のアイデアに、個人的なベストアイデア賞を贈りたい。

by. Keiichi Yokoyama

 

『Unrailed!』

――シンプルなルールと奥深さを両立

開発元: Indoor Astronaut 販売元: Daedalic Entertainment、bilibili(China)
対応機種: PC(Xbox Oneにも対応予定)

『Unrailed!』は協力プレイで遊ぶタイムマネジメントゲームだ。タイムマネジメントゲームはカジュアルゲームでは定番ジャンルの一つだが、マルチプレイの要素が加わることで、楽しさが大幅に増すジャンルでもある。本作の目的は「勝手に進んでいく列車の前に脱線しないようレールを敷いて、駅へと導く」ことにある。ルールは単純でわかりやすく、初心者でも直感的にプレイできる。レールを敷くためには、木を伐り岩を砕いて材料を作成し、線路を生産する必要がある。必然的に「木を伐る人」「岩を砕く人」「材料を運ぶ人」「レールを敷設する人」と4つの役割が必要になる。そこに列車の炎上などのトラブルが重なることで「消火する人」といった役割が増えていくわけだ。3~4人であれば無理なく役割を回すことができるが、2人プレイだとかなり厳しい。

一見単純なゲームに思えるが、プレイしてみると本作の奥深い要素が次々に顔を出す。気候変化があったり、昼夜で視界の広さが異なったり、窃盗団(?)が登場したり、毎回一筋縄ではいかない。川や動物、砕けない岩場などの障害があり、目的地の駅はプレイ画面の外側にある。常に画面外の障害を予測しながら列車を誘導しなければならない点は、パズルゲームのようでもある。ステージをクリアするごとに車両を強化できるアイテムや新車両を入手し、プレイヤー好みの列車にカスタマイズできる点は、RPG要素といっていいだろう。列挙した点以外にも、本作にはゲームに深みをもたらす要素がふんだんに含まれている。

驚かされるのは、これら多様な要素が「ひと目で理解できるシンプルなルール」の中に「わかりやすさはそのままに」追加され、「ゲームに深みをもたらしている」という点だ。複雑な要素をシンプルなルールにまとめるのは容易ではないが、本作はそれを軽々とやってのけている。2019年の素晴らしいアイディアとして、高く評価したい。

by. Masahiro Yonehara

 

『デス・ストランディング』

――ホモ・ルーデンスのゲーム化

開発元:コジマプロダクション 販売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
対応機種:PlayStation 4/PC(予定)

優れたゲームアイデアを内包した作品という点で、『デス・ストランディング』について語らずにはいかないだろう。ゲームでしかできない経験――たとえば剣を振るい魔法を操るような――をプレイヤーに与える作品は星の数ほど存在するが、本作では「身支度を整え、出先へ向かう」という、あまりに日常的過ぎて意に介さない人間の行動に焦点を当てることにより、エキサイティングな体験を演出することに成功している。

それが何故かと言えば、経路、持ち物に関する選択肢の幅広さや、主人公であるサムをはじめ登場人物のモデリングやモーションが、きめ細やかで可能な限り生々しく作られているからだろう。画面に映るフィクションがシミュレーターのような一歩引いた内容ではなく、あまりに身近なものであるが故に、私達は没入し、熱中してしまう。ここにソーシャル・ストランド・システムが加わってくる。出先独りでアクシデントに見舞われた際、「どうしましたか?」と声をかけられたときのような安堵を、私達は幾度となく不意に覚えるのだ。ゲーム内容の快適性を他者に預けることで人が持つ善性を刺激し、かつてカントが唱えたような「無条件の親切心」を発露させる。人間が持つ可能性をゲーム化したという点で、コジマプロダクションのモチーフであるホモ・ルーデンスを体現した、この世に2つとない作品だと言えるのではないだろうか。

そして驚くべきは、この「荷物運びに出かける」システムが生と死と絆をテーマに掲げるナラティブと完全に合致している点にある。NPCやモニュメントをあえて設置しないオープンワールドを設計しシステムを組み上げるアイデアもさることながら、出来上がったアイデアを表現したいテーマと美しく融合させるそのクリエイティビティ、脚本構成力には……言葉が出ない。次はホラーを作るらしいと噂のコジマプロダクション。恐怖は既にさまざまな形が模索されてきたが、本当にホラー物を作るのだとしたら、何を見せてくれるのだろうか。

by. Takayuki Sawahata

 

『Dicey Dungeons』

――6面のサイコロを用いた、6種の変化球

開発元:Terry Cavanagh 販売元:Terry Cavanagh 
対応機種:PC

『Dicey Dungeons』は、サイコロとカードデッキを組み合わせたターン制バトルが特徴のダンジョン探索ゲームである。カードデッキ、というと語弊があるかもしれない。実際には、6マス分の装備スペースにアビリティをセットする形式を取っている。戦闘時には、毎ターン一定数のサイコロを振り、出た目をアビリティに当てはめることで効果を発動させる。カードを引くのではなく、サイコロを振る。当てはめるサイコロさえあれば、毎ターン同じアビリティを使用できる。出た目の分だけダメージを与えるシンプルな攻撃アビリティから、偶数・奇数といった条件付きで発動できるバフ・デバフ技まで。相乗効果を狙える組み合わせを考えることが、ひとつの醍醐味となっている。

近年増えつつあるデッキビルディング系の「ローグライト」ゲームに、ダイスロールを組み合わせた本作。ただ、その一芸だけで終わらせるのではなく、6体の操作キャラクターそれぞれに、異なるサイコロギミックを投入することで、遊びの幅を広げている。サイコロを3回まで振り直せるウォーリアー、1の目を4つ確定で出せるシーフ。サイコロを1つずつ振り、ジャックポット数ピッタリで止まるとボーナス効果を発動できるロボット。「手持ちのサイコロ2つで引き算し、その差と同じ目のサイコロを3つ入手」といった特殊な条件付きのアビリティを操るウィッチ。キャラクターによって効果的なビルドや、戦闘のアプローチ方法がガラリと変わる。6面のサイコロという縛りの中で、6種の変化球を放つ『Dicey Dungeons』。大枠としてのアイデアを練りつつ、その枠の中で多様な遊びのバリエーションを生み出した本作をぜひ推薦したい。

by. Ryuki Ishii

 

『Legal Dungeon』

――「調書づくり」という名の迷宮

開発元:SOMI 販売元:SOMI
対応機種:PC

『Legal Dungeon』は、刑事や裁判を扱う「司法アドベンチャー」とも呼べるジャンルの中で、新たな試みをする作品である。警部補である主人公の清崎蒼にできるのは、事件の「調書」をつくることのみ。捜査は部下がおこなうし、起訴か不起訴かを決めるのは検察官。その間にある地味なプロセスを担当する。事件の基本情報をまとめて、ときに容疑者に尋問をしながら、調書をつくり検察に意見提出する。その意見書に検察が影響されることもあるし、その判断を最高裁が覆すこともある。もちろん、何も変わらないこともある。最終的な意見書を提出したのち、犯罪を検挙したかどうかの「成果ランク」と最終判決と一致したかどうかの「法機関評価ランク」のふたつで、ひとつの事件についての評価が下されていく。

本作では「調書をつくる」というストイックなテーマを裏切らない、硬派なシステムと物語が展開される。膨大なリストの中からピンポイントで情報を発掘して突きつけ、容疑者の供述を引き出すことが求められる高難易度の尋問。点数稼ぎにあけくれる現場警官と、癒着と保身第一の幹部に囲まれる職場環境。過剰なほど成果が求められる歪なシステム。真実につながりえる意見書を提出しても、政治事情で判決が覆される司法構造。地獄のような環境で清崎蒼は、調書をつくりつづけなければならない。プレイ中は、あらゆる点で板挟みになり、得体のしれない息苦しさに苛まれるだろう。正しさとは何か。韓国開発者SOMI氏が実際にあった事件を調べ上げ、葛藤に揺れながらもゲームを通じて「正しさ」を問いかける『Legal Dungeon』は、野心的な挑戦にほかならない。テーマ・システム・物語。多くの点で未知の領域に挑戦したアドベンチャーゲームに、アイデア・オブ・ザ・イヤーの冠を捧げたい。

by. Minoru Umise 

AUTOMATON JP
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