今年遊んだ、短いけれど面白かったゲームは何か?AUTOMATONライター陣が選ぶ「ベストショートゲーム」

2018年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第二弾。プレイ時間は短かったものの、満足感が高かった「ベストショートゲーム」について振り返る。

今年2018年を振り返る、AUTOMATONの年末企画第二弾。昨日には、今年長く遊べたゲームに焦点を当てた「ベストコスパゲーム」を紹介させていただいたが、逆にゲームのボリュームが控えめで、トータルのプレイ時間が短かったものの、満足できたもしくは心に残ったというゲームも存在するだろう。むしろ、短いプレイ時間でプレイヤーを満足させたゲームは、非常に濃密な体験を提供する作品であるとも表現できる。今回はそうしたゲームを取り上げるべく、AUTOMATONライター陣が選んだ今年遊んだ「ベストショートゲーム」を紹介したい。

 

知らない場所へ、短期旅行に出かけたような感覚が残る

『Firewatch』
購入価格: 1980円 / プレイ時間: 4時間
対応プラットフォーム: PC/PlayStation 4/Xbox One/iOS

今年は「心に残った」という点で本作を選出したい。クリアまでのプレイ時間は、たったの4時間。「値段の割に短い」と思われるかもしれないが、それだけの時間で、強く印象に残る作品となったのが『Firewatch』だ。

森林火災監視員の仕事を始めた主人公ヘンリーは、別の監視塔の上司、デリラという女性の指示に無線機で従いながら、火災の元となる煙を監視するという、地味な業務に勤しむことになる。

美しく描かれた自然の中を、地図とコンパスを使って散策するのだが、これがとても原始的な方法のため非常に面倒だ。何度も迷い、同じ道を行ったり来たりする羽目になる。そんな道中、プレイヤーは異様な風景、面白い落し物などを、無線機で上司のデリラに報告してみたりする。彼女との会話は、ユーモアに溢れ、面白おかしく、時に真面目で、時にせつなかったりする。そのやりとりから、何だか「森」が身近な存在に感じられるようになり、舞台のディテールが、彼女の実在感を深くしていく気がした。この感覚は、旅や探検などの体験性の面白さと近い。

『Firewatch』を一言で説明するなら、まさに「旅」かもしれない。本作のことを思い出すと、「森の匂い」を感じる。風に揺られる草木が、ざわざわと音を鳴らし、森の生態を感じ取ることができる。旅の途中で思いを馳せたことや、デリラとの会話が、断片的に記憶に残っていて、時間が経つたびに「いいゲームだったな」と、センチメンタルな気持ちになる。
by Yu Naganeo

 

表現媒体としてのゲーム、その可能性

『GRIS』
購入価格: 1730円 / プレイ時間: 3時間
対応プラットフォーム: PC/Nintendo Switch

泡沫夢幻、正しくこの言葉を体現する『GRIS』というゲームは、淡く、脆く、そして繊細な「人間の心」という駅への乗車券である。一人の女性「Gris」としてゲームへと降り立ったあなたは、美しくも複雑怪奇な心象世界の中で自らの色を取り戻すべく歩みつづける。

本作の特徴はなんといっても圧倒的な演出を伴う視覚表現だ。実在感を伴って動くアニメーション、水彩画の柔らかな滲みの豊かさと境界を鮮明にする線画が素晴らしいバランスで配置されたアートワークの数々は、静と動を匠に表現する劇伴と相成って、心の躍動というものを直にプレイヤーへと伝える。砂あらし吹きすさぶ荒野から、雨が降る森林、地下奥深くの洞窟へと移り変わる背景は、明確なストーリーテリングこそなくともGrisの心模様を如実に表現する。

正直言って、本作品において遊びという面での革新性や興奮を伴う楽しさといった要素は殆ど無い。ゲームシステムの根幹となる2Dアクション部分はかなり親切な作りになっており、一定のテンポを保つそれは、終盤以外盛り上がることも盛り下がることもない。プレイ時間に関しては現実で夢をみるよりも短く、ほんの数時間で彼女の旅は終わってしまう。「遊び」という観点から本作を眺めれば退屈な一本で終わってしまうことだろう。しかしゲームは今や「遊ぶ」ためだけにあるものではない。

本作に仕込まれた、美しいものを自らの手で動かすことによって得られる豊かさや、心の躍動に直に触れた感触は『GRIS』が文学や絵画ではなく双方向メディアであるゲームだからこそなし得た表現である。アーティストが自らの内に眠る何かを表現したいと考えたとき、ゲームを選択する時代は既に来ている。本作はその象徴と言えるだろう。表現媒体としてのゲームが持つ可能性、その一端を指し示す『GRIS』は、値段やボリュームなど気にせず是非プレイして欲しい作品の一つだ。
by Takayuki Sawahata

 

死と隣り合わせの過酷なダンジョン探索。雰囲気にこだわった一作

『迷宮の塔 トレジャーダンジョン』
購入価格: 1200円 / プレイ時間: 6時間
対応プラットフォーム: Nintendo Switch

ダンジョンゲーム好きが高じたフランス人が、デザインとBGM以外は全て一人で作り上げたという情熱の一作。不気味なダンジョンを探索する雰囲気がとても出ていて、初代『Wizardry』などの硬派なファンタジーRPGが好きな人には是非オススメだ。ゲームは「ウォリアー」「ローグ」「メイジ」など8つのクラスから4人の冒険者を選びパーティーを組むところから始まる。敢えて脳筋パーティーで行くもよし、弓部隊を組むもよし、魔法パーティーもよし。全てはプレイヤーの自由だ。最弱パーティーで最高難易度に挑戦というやり込みもできる。

ダンジョンはそれぞれのフロア毎に特徴があり、ギミックを解かなければ進めない場所もある。大ダメージのトラップや、隠し扉の奥にあるレアアイテムなど探索しがいのあるダンジョンとなっている。突然背後の扉が閉ざされ、スケルトン二体との戦闘になった時の圧倒的な絶望感は筆舌に尽くしがたい。各フロアには個性豊かな強力なボスが待ち受けている。負けイベントかと思いきや、あっさりゲームオーバーになった時は衝撃を受けた。難易度が高めだからこそ踏破した時の達成感もひとしおと言えるだろう。

クリア時間はトータルで6時間ほど。しかしボリューム不足は感じず、無駄を排除し「迷宮探索」の雰囲気作りに特化した印象だ。マンネリ感を迎える前にラスボスとの白熱バトルが待っているので、中弛みもなくテンポの良さを感じた。1200円という価格で短いボリュームながらも、一つの大冒険を終えたような満足感を得られるコンパクトにまとまった良作。
by Naoya Ito

 

心あたたまるロマンティック挿入劇

『Genital Jousting』
購入価格: 720円 / プレイ時間: 2時間
対応プラットフォーム: PC

今年1月の正式リリースと同時にストーリーモードが実装された集団肛門性交アクション『Genital Jousting』。高校の同窓会に招待された男根ジョーン・ディック青年が、当時の片思い相手や巨根いじめっ子たちを見返そうと恋人探しに明け暮れるという、愉快なラブコメ挿入劇だ。アナルグッズのQAテスターとして働いているジョーンは、異性からモテるために高価なインテリアや衣服を買い漁ったり、筋トレに励んだり、世界中を旅したりして自分を磨こうとするも、一向にデートを成功させることができない。収入も外見も経験も手にしたはずなのに、いつまでたっても相手を見つけることができず、自尊心を失っていくジョーン・ディック青年。そんな彼にやさしく接してくれる旧友サムは、ジョーンに向かって「人生はハードだ。だけどみんながみんな、ハードに生きる必要はない」と、最後まで陰茎メタファーを挟みながら励ましてくれる。

陰茎・肛門ジョーク縛りというハードな設定ながら、女性のやさしい(けれど言っていることは卑猥な比喩表現だらけな)ナレーションにより、不思議と穏やかな気持ちにさせてくれる本作。下品だけど品がある、シュールだけどしんみり心に響く、異端児のはずなのに物語構造的には王道な短編となっている。生殖器を前面に出したゲームでありながら「人生、挿入だけが全てではない」と諭してくれるあたり、妙な説得力があったりもする。クリアまでの所要時間は2時間ほど。Steamウィンターセールでは“69”%オフの223円という卑猥値引き中だ(日本語非対応)。
by Ryuki Ishii

 

ブラックボックス化したハードウェア開発の可視(見える)化

『Nintendo Labo』
購入価格: キット3種類合計約20000円 / プレイ時間: 3時間(組み立て時間などは除く)
対応プラットフォーム: Nintendo Switch

任天堂の元代表取締役社長であった岩田聡氏は、高校時代にアルバイトをして購入したプログラム電卓「HP-67」で「スタートレック」や「野球」、「ゴルフ」のゲームをつくっていたのだそうだ。若き日の岩田氏にとっては、「HP-67」こそ最高の玩具だったのだろう。その岩田氏ゆかりの任天堂はというと、1984年に『ファミリーベーシック』で「ゲームで遊ぶ」のではなく「ゲームをつくる」という遊びを提示している。さらに24年後の今年、任天堂は「ハードウェアで遊ぶ」のではなく、「ハードウェアをつくる」という遊びを提示してみせてくれた。

『Nintendo Labo』をビデオゲームとして評価してしまうと、コストパフォーマンスが悪いと言わざるを得ない。ゲームの内容はどれも小ぶりで大作ゲームとは言い難いし、段ボールを組み立てたに過ぎないハードは繊細で壊れやすい。一方で、Joy-Conに組み込まれたIRカメラやジャイロセンサーといったハードウェアを、Toy-Conガレージというソフトウェアで簡単に制御できるところに、無限の可能性を感じさせてくれた。現在、任天堂が企画した#ラボ作品コンテストのページには興味深い作品が多数紹介されている。

『Nintendo Labo』での遊びやToy-Conクリエイターの方々への取材を通じて、私は「ソフトやハードをつくるとはどういうことなのか」を肌で実感することが出来たように思う。私にとってそれは、ブラックボックス化してしまった現代的ハードウェア開発を、再び自宅のガレージに取り戻し可視化したように感じられた。『Nintendo Labo』はゲームづくりやハード開発をより身近なものにしてくれた、という点において素晴らしいプロダクトであったと思う。近い将来、Toy-Conガレージと格闘した子供たちの中から第二、第三の岩田聡氏が生まれてくることを願ってやまない。
by Masahiro Yonehara

 

おもちゃ箱的なインタラクティブ体験

購入価格: 1064円 / プレイ時間: 2.5時間
対応プラットフォーム: PC/PlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switch/iOS/Android

初めてPCでさわったゲームは、ポイント・アンド・クリックゲームだったことは覚えている。それはゲームと呼べるかも怪しい、学習教材に近いものであったが、クリックに対して反応が返ってくるという、インタラクションに喜びを覚えた。幼少期でありながらビデオゲームの面白さに目覚めた瞬間のひとつだった。

『Gorogoa』は、そういった観点でみると、極めてインタラクティブな作品だ。ゲームプレイの視点は、複数の世界レイヤーから成り立つ絵本を見るというメタ的な構造であるが、クリックしたり絵の並びを変えたりすることでそのアートのオブジェクトが、その他のアートへと移動したり、もしくは接合したりと思わぬ反応を見せる。本作においては謎めいたシナリオもひとつの特徴で、崇高であったり、哲学的なテーマ性が存在し、それを読み取るのも醍醐味なのだと思うが、筆者は『Gorogoa』のインタラクションがたまらなく好きだった。オブジェクトをクリックしたりアートを並び替えたりすれば思わぬ反応が見られるので、クリックへの欲望が止まらない。おもちゃ箱を開けるような未知を探る高揚感が全編を通じて楽しめた。そしてその体験は最初から最後まで一貫して味わえた。

プレイ時間は2.5時間で、購入価格は1064円(セール価格)。遊んでいた時間は短い作品であるが、作り込みに妥協は感じられず、その2.5時間の体験は非常に濃密だった。魂が込められた作品だったといえよう。開発費の高騰にちなんで、大作だけでなく個人開発ゲームでもボリュームが長大化する傾向があるが、短くとも濃密な体験ができる作品を受け入れ評価するマーケットとコミュニティが、今後も存在し続けることを祈るばかりだ。
By Minoru Umise

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