『Slay the Spire 2』なども採用、今熱いゲームエンジンGodot開発者いわく「日本で想定以上の人気」。大手の採用例も増えるGodot、“弱点”もあるゆえの強みを訊く
独特な立ち位置のゲームエンジンGodotの開発者に、日本での人気や、ゲームエンジンとしての強みと弱点などを訊いた。

トヨタの関連企業Toyota Connected North Americaがゲームエンジン「Flourite」を開発していることを発表するなど、昨今さまざまな角度から注目が集まるゲームエンジン。その中でも「完全オープンソース」を標榜するGodot Engineは独特の立ち位置であり、UnityとUnreal Engineの二強とされてきたゲームエンジンに風穴を開ける存在として期待が高まっている。
今回弊誌はGodot財団の取締役をつとめるエンジニアのClay John氏にコンタクトをとり、Godot Engineの魅力や直近の事情を尋ねた。ゲームエンジンに興味がある人や、Godot Engineを知っているが手を出しかねている人の背中を押せれば幸いだ。

——今回はインタビューに応じてくださり、ありがとうございます。Godot Engineについて、ゲームエンジンとしての明確な強みや特徴はどこにあると考えていますか。
Clay氏:
UnityやUnrealといった商用エンジンと比較すると、Godotは非常に軽量で、柔軟なアーキテクチャと高速な起動によって試行錯誤(イテレーション)を素早く行える点が強みです。そのため、新しいアイデアをすぐに試したり、ゲームのコアとなるシステムを繰り返し調整したりする作業に非常に向いています。
一方、他のフリー/オープンソースのゲームエンジンと比べると、Godotは非常に多機能で、完成度の高いエディタを備え、非常に直感的に操作できる点が大きな特徴です。こうした点から、オープンソースのエンジンの中でもっとも魅力的な存在だと考えています。
——Godot EngineはUnityで標準のC#に対応しているものの、あくまでGodot Engineの標準は独自言語のGDScriptであることに尻込みしてしまう方もいるかと思います。GDScriptが具体的にどういった目的で作られた、どのような言語なのか教えてください。
Clay氏:
GDScriptはインタプリタ型の言語です。つまり、実行前に機械語へプリコンパイルされるのではなく、Godotに組み込まれたインタプリタが実行時にコードを読み取り、その場で処理します。インタプリタ型言語の利点のひとつは、コンパイルを待つ必要がないことです。コードを編集したらすぐに実行できますし、実行中にコードを編集することすら可能です。Godotにおいては、こうした特性が試行錯誤のスピード向上に大きく貢献しています。
C#の場合、規模の大きなスクリプトではコンパイルに数秒かかることがありますし、複雑なゲームでは、編集後に実行できるようになるまで数分かかることもあります。この待ち時間は、ゲームを素早く改善していく上で大きな妨げになります。こうした背景から、GDScriptは「使いやすさ」を重視して設計されました。
編集部注:実際のところ、GDScriptにもっとも近い既存のプログラミング言語はPythonだとされている。Pythonはデータサイエンスおよび機械学習、Webアプリケーションなどに広く使われる。
——Godot Engineは一般的なPCにとどまらない多様な環境のサポートが魅力の一つです。「Steam Machine」の発表トレイラーにもGodot Engineが映っていたのが印象的ですが、どのような意味をもつのでしょうか。対応プラットフォーム戦略についても伺いたいです。
Clay氏:
Steam Machineの発表に関われたことは、私たちにとって非常にうれしい出来事でした。Godotの知名度が高まっていることの表れでもあり、Godotが長期的に続く本格的なプロジェクトであることを業界に示す良い機会になったと考えています。私たちは全ての主要プラットフォームを「最善努力原則(ベストエフォート)」でサポートしています。Godotは完全にコミュニティ主導のプロジェクトなので、コミュニティが修正や改善に取り組み続けてくれる限り、そのプラットフォームをサポートし続けることができます。

——Godot Engine公式サイトのブログやGodotCom(Godot Engine公式のイベント)ふくめてコミュニティを支援する動きが厚いですが、日本語を含めた非英語圏のコミュニティはどうなっているのでしょうか?
Clay氏:
世界中に多くの非英語圏コミュニティがあります。日本のコミュニティのように、イベントやミートアップを積極的に開催しているところもあれば、Discordなどオンライン中心で活動している比較的小規模なコミュニティもあります。公式サイト(https://godotengine.org/community/user-groups/)では、世界各地のユーザーグループを一覧で紹介しています。現在、非英語圏のコミュニティとして62のユーザーグループが登録されています。

——特にGodotでのコンソール対応(家庭用ゲーム機への移植)は非英語圏だと難しいと思いますが、今後どのようにサポートされる予定ですか?
Clay氏:
現在、コンソール対応はサードパーティ企業によって提供されています。公式サイト(https://godotengine.org/consoles/)には、いくつかの対応企業を一覧で掲載しています。サービス内容はさまざまで、移植作業を自分で行う一方でコンソール上で動作するGodotを提供するミドルウェア型のものから、移植作業をすべて代行するポーティング専門会社まであります。
編集部注:Godot Engine自体はオープンソースである一方、家庭用ゲーム機は秘密保持契約のため標準のGodot Engineに家庭用ゲーム機向けのコードを同梱することができない。そのため、Godot Engineで開発したゲームを家庭用ゲーム機向けにリリースしたい場合は別途契約が必要(逆にいえば、PCやiOS/Androidのみリリースするのであればこういった契約は不要)。

——Godot Engine独自の魅力がある一方、2023年に起きたUnityの価格改定騒動(関連記事)で「Unityからの乗り換え先」として注目を集めた面はあると思います。あの騒動から2年以上も経ちましたが、当時の記憶や現状への影響などを教えていただけますでしょうか。
Clay氏:
Unityの騒動は、正直なところ私たちにとって少し不安な出来事でした。当時はGodot 4.0をリリースしたばかりで、多くの問題を抱えていた時期だったからです。Godotはコミュニティ主導で開発されているため、すべてが滑らかで洗練されるまでには、いくつかのバージョンを重ねる必要があります。そのため、最初の1年は多くのバグが出ることを想定していました。
そうした中で、Unityを巡る論争によって、本来は静かにGodotの問題修正に集中したい時期に、大きな注目を集めてしまいました。それでも、多くの方がGodotを十分に楽しんでくれたおかげで、バグが利用の妨げになるほどではなかったのは幸運だったと思います。
現在では、GodotはUnityやUnrealと並ぶ主要なゲームエンジンのひとつとして認識されるようになりました。いずれはそのような評価になっていたと思いますが、Unityの騒動が私たちの成長を加速させたことは間違いありません。
——現状としてはUnityからの乗り換え需要自体は落ち着いていますか。それとも大手インディーゲームスタジオの乗り換え自体はまだ活発なのでしょうか。
Clay氏:
正確なことは分かりませんが、私の感覚では小規模スタジオや個人開発者の大規模な移行は一段落したように思います。Godotのユーザー数の成長率を見ると、数か月間伸びた後、現在は年間でユーザー数が倍増するという通常の成長ペースに戻っています。
一方で、多くの規模の大きなスタジオでは、今もGodotへの移行が積極的に続いている印象があります。プロジェクトを終えた大規模なスタジオが、次のタイトルでGodotを選ぶケースが増えており、その動きはむしろ加速しているように感じます。
編集部注:例として、インディーゲームとしてトップクラスの大成功を収めたデッキ構築ローグライト『Slay the Spire』は1作目がlibGDXフレームワークで開発されていたが、2026年リリース予定の新作『Slay the Spire 2』は当初Unityにて開発。しかし上述の騒動を受けて、Godot Engineで開発されることになった(関連記事)。
——EAの『Battlefield 6』のModエディタにGodot Engineが採用されたり、日本ではゲーム制作ツールがGodot Engineをベースにする事例が出てきたりしています。こうした企業のユースケースはGodot Engineにとってどのような意味をもつと考えていますか?
Clay氏:
何よりも、スタジオの皆様に私たちのツールを信頼していただき、採用していただけることをたいへん光栄に思っています。ツールを作る立場として、経験豊富で高度な知識を持つクリエイターに選んでもらえることは、何よりの栄誉です。
長期的には、こうした採用事例を通じて多くのフィードバックが集まり、エンジンの改善につながることを期待しています。また、将来的にはこれらの企業がGodot財団に寄付してくれるような機会になれば幸いです。

——日本において、こんな企業に活用してほしいという想定はありますか?
Clay氏:
特に小規模スタジオにGodotを使ってほしいと考えています。Godotは、使いやすさや試行錯誤の速さといった恩恵を比較的多く受けることができる小規模スタジオに最適だと確信しています。限られた予算や時間の中でアイデアを製品化するには、ゲームエンジンが作業の妨げになるのではなく、加速してくれることはさらに大きな価値となります。その点で、Godotは他のエンジンにはない強みを提供できていると思います。
——Godotのこれからの課題と、どういった環境やユーザーにアプローチしていきたいといった展望があれば教えてください。
Clay氏:
私たちはあらゆるタイプのユーザーと関わろうとしています。私たちの哲学は、特定のターゲット市場を選ぶのではなく、寄せられたユーザーの声に耳を傾けることです。結局のところ、それがオープンソースの魅力のひとつでもあります。私たちは製品を販売しているわけではないので、市場を拡大しようという理由はありません。むしろ、ユーザーが誰なのか、どんなニーズを持っているのかを理解し、それに応えようと務めています。
その良い例が昨年ありました。ウェブサイトへの訪問者がどの国から来ているかというデータを調べたところ、日本からのアクセスが想像以上に多いことが分かりました。以前はGodotを使用している日本の開発者は少数だと考えていましたが、それは間違いでした。そこで、私たちはウェブサイトの日本語対応など、日本の開発者を支援するための取り組みにリソースをより多く投入しました。
——収益性についてはアセットストアが施策のひとつとして決まっていますが、そのほかの計画はあるのでしょうか。
Clay氏:
今のところありません。プロジェクトの資金は、大部分を寄付によって賄うことを優先しています。その方が、収益を意識せず、ユーザーのニーズに100%集中できるからです。
——日本においては『ファミレスを享受せよ(ブラウザ版)』『鏡のマジョリティア』といった作品が採用作品としてイメージが強いかと思います。Godot Engineの現状も踏まえると、どのような開発者にGodot Engineをおすすめしたいと考えていますか。逆に、どのような開発者には不向きだと思いますか。
Clay氏:
Godotは幅広い開発者に適していますが、特にインディー開発者やAA開発者の、約30人以下の小規模チームに適しています。Godotの理念は、各機能をシンプルにすることで、1人のゲーム開発者がゲーム開発に必要なツールをすべて習得できるようにすることです。そのため、アニメーション、音声、描画、物理演算、UIなどを理解する必要があり、これは非常に難しい課題です。その過程でのトレードオフとして、他のエンジンの同等の機能と比較するとGodotの機能は柔軟性とパワーの面でどうしても劣ってしまいます。そのため、各タスクに専任の担当者がいるような大規模なチームには、Godotはあまり適していません。

——Godot Engineに興味のある開発者に向けて、ほかのゲームエンジンから乗り換える際のコツを教えていただけますか。
Clay氏:
まずは小さなプロジェクトやゲームジャムでGodotを試してみて、とにかく触ってみることをおすすめします。他のエンジンについては専門家ではないので具体的なアドバイスは難しいですが、乗り換えた多くの方からいただくフィードバックには、Godotを少し試したらGodotのやり方がすぐにしっくりきて気に入った!というものが多いです。
——ではGodot Engineからゲーム開発に入門する場合に、ほかのゲームエンジンと比べてのおすすめポイントを教えてください。
Clay氏:
最大の強みは試行錯誤の速さです。Godot は起動も実行も非常に速く、使い始めるとすぐに反応します。「Unreal Engine をロードしながら Godot 4 でゲームをビルドしてみた」(https://www.youtube.com/watch?v=G6OGM4fdF3M) というYouTube動画もあるぐらいです。多くのスタジオにとっては大きな利点ではないかもしれませんが、複数の作業を並行して行う開発者や、空き時間でゲーム開発に取り組んでいる人にとっては、すぐに起動できることが非常に重要です。
さらに、GDScriptとエディタの使いやすさにより、新機能のテストやゲームメカニクスの調整を非常に効率的に行うことができます。ライティングのベイクやシェーダーのコンパイル、実行用に変換するための前処理(いわゆる「クック」)の待ち時間もほとんどありません。エディタで変更を加えれば、数秒以内にその結果を確認できます。ゲームの実行中でも変更を続けることができ、変更は実行中のゲームに反映され、ゲームを終了すると保存されます。そのため、他のエンジンと比較して、開発者がゲームを非常に簡単に変更できるのです。
——ありがとうございました。
いかがだっただろうか。このインタビューがあなたのGodot Engineへの関心の始まりや手引きになれば幸いである。Godot Engineは公式サイトやSteam/Epic Gamesストアから無料でダウンロード可能で、誰でもPCやスマートフォン(iOS/Android)、VRデバイス(Meta Quest/Steam Frameほか)への開発、ビルドが可能だ。
[聞き手・執筆・編集:Nobuaki Shibuya]
[翻訳:Motoharu Ono]
[編集:Hideaki Fujiwara]
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