『ARC Raiders』、当初の純PvE路線は「『ワンダと巨像』と『PUBG』と『Left 4 Dead』の中間みたいなゲーム」だった。“ジェット跳躍ブーツ”など秘蔵ボツ映像も明かされる

Embark Studiosは11月22日、『ARC Raiders』の開発の裏側を紹介するドキュメンタリーシリーズ「The Evolution of ARC Raiders」の第1回を公開した。

Embark Studiosは11月22日、『ARC Raiders』の開発の裏側を紹介するドキュメンタリーシリーズ「The Evolution of ARC Raiders」の第1回を公開した。そのなかでは、本作のゲームプレイが当初のPvEからPvPvEへと大きく舵を切った経緯が語られた。

『ARC Raiders』はPvPvE形式の脱出シューターだ。ソロプレイまたは最大3人でのチームプレイに対応。本作の舞台はARCと呼ばれる謎の機械によって荒廃した未来の地球。プレイヤーは「レイダー」と呼ばれるならず者のガンマンとなり、ARCや敵対するほかのレイダーなどと地表で戦う。戦闘や探索を通じて手にした貴重な物資を、地下居住区「スペランザ」へと持ち帰ることを目指す。

本作は10月30日にリリースされ、たちまち人気を博した。11月16日にはSteamで48万1966人の同時接続プレイヤー数を記録。そして同月11日には、本作の世界累計販売本数が400万本を突破し、全プラットフォームでの同時接続プレイヤー数が70万人を突破したことも報告された(関連記事)。

“純PvE”課題

ARC Raidersは、現在ではPvPvE脱出シューターとして知られているが、開発初期は大規模な協力PvEタイトルとして発表されていた(関連記事)。その後ゲームプレイについての大きな方針転換がおこなわれたわけだが、今回のドキュメンタリーでは、その具体的な経緯が紹介されている。

Image Credit: Embark Studios on YouTube

初期の『ARC Raiders』は、固定のヒーローキャラクターを操作し、広大なオープン環境で仲間と協力して巨大機械と戦うという、現在と違ってアーケード寄りのPvEレイドゲームとして誕生したそうだ。開発陣は当時の狙いを「『ワンダと巨像』『Left 4 Dead』『PUBG』の真ん中にあるゲーム」と表現している。

しかし、壮大な戦闘シーンは生まれるものの、その多くは偶発的で、ゲームとして安定して提供できる体験にはなり得なかったとのこと。広大なマップを走り続けても何も起きない、巨大ロボの挙動が制御できず戦闘が一瞬で終わる、などセッション間の落差が大きかったという。さらにパンデミックの影響で開発がリモート中心となると、共有すべき“手触り”をリアルタイムで確認しにくくなり、プロジェクトは徐々に一体感を失っていったそうだ。

Image Credit: Embark Studios on YouTube

こうした行き詰まりを受け、Embark Studiosは「Pivot」と呼ばれる6ヶ月間の再構築フェーズを開始。本来は2年規模が必要と試算されていた内容を半年でまとめる“起死回生”の計画である。広大な世界の一部エリアに焦点を絞り、まずは「確実に面白い体験」を固めようと試みたとのこと。しかし、テストでは見事な瞬間が再び生まれたものの、継続プレイを促すメタゲーム構造や進行の動機づけは依然として弱く、「良い瞬間はあるのに続かない」という根本的課題が残った。この段階で、純PvEレイドゲームとしての完成は難しいという認識がチーム内でより明確になっていったという。

PvP導入という決断

そうしたPivotフェーズを経たのち、スタジオの創設者Patrick Söderlund氏が早期から主張していた「PvP要素を導入すべきだ」という提案が、現実的な選択肢として浮上。スタジオに残された選択肢は次の三つだったという。現状のままリリースし、評価の厳しさを受け入れるか。プロジェクト自体を中止するのか。もしくは残された資産を活かしつつ、ゲームを再構築するのか。同社は最終的にゲームを再構築することを選んだといい、そうして「Reset」と呼ばれるフェーズが開始されたそうだ。

Resetフェーズでは、単にPvPを加えるだけではなく、ゲームジャンルそのものをPvPvE脱出型シューターとして再定義。アート、レベルデザイン、AIロボットのロコモーションといった“『ARC Raiders』らしさ”は残しつつ、ヒーローアクション的な挙動や大規模なレイド巨大ボス主体のPvEループ、基本プレイ無料を前提とした設計などは軒並み切り捨てることに。その結果、『ARC Raiders』は「巨大ロボに飛び乗り叩き伏せるゲーム」から、「巨大ロボを恐れつつ資源を持ち帰るゲーム」へと舵を切り、現在のPvPvEシステムへと繋がっていったという。

Image Credit: Embark Studios on YouTube

第1回のドキュメンタリーでは、本作の初期のコンセプトからどのような姿を経て現在の形へと至ったのか、その大きな転換点についてが語られた。また映像の15分12秒ごろには「ジェット跳躍するブーツ」といったお蔵入りになったとみられる要素も確認でき、本作ファンにとって興味深い内容だろう。ドキュメンタリーシリーズは全部で3エピソードで、1週間ごとに配信される予定。次回は「なぜ基本プレイ無料の形態をやめたのか」などのテーマが扱われるという。こちらも開発方針を理解する上で重要な内容となりそうだ。

『ARC Raiders』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。

Motoharu Ono
Motoharu Ono

隠れた名作に目がない一方で、話題作にもすぐ手を伸ばすミーハー気質のゲーマー。『ゴースト・オブ・ツシマ』では本編よりもマルチプレイにハマり、アーマードコアの新作を心待ちにしている。

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