新作ステルスアクション『エリクスホルム:奪われた夢』は「街」が主役のステルスゲームだった。見下ろし視点に特化して設計された職人製“街”攻略
本作のデザインには、クォータービューにしかできない魅力が存在していると感じた。確かに視点は遠めだが、平坦さはまったくなく、むしろ本作のステージには奥行きがある。

パブリッシャーのNordcurrent Labsは7月15日、ステルスアドベンチャーゲーム『エリクスホルム:奪われた夢』(以下、エリクスホルム)をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|Sで、ゲーム内は日本語表示に対応している。
本作はステルスアドベンチャーゲームだ。舞台となるのは、1900年代初頭の北欧にインスパイアされた架空の都市「エリクスホルム」。主人公のハンナは裕福とはいえない生活のなか、弟のハーマンとふたりで暮らしていた。しかしある日突然、ハーマンが失踪。理由もわからぬまま、姉弟は警察に追われる身となってしまう。失踪した弟を捜すハンナと、ハンナに協力する2人の仲間を操作し、プレイヤーはエリクスホルムの各所を冒険することになる。

本作のゲームプレイはいわゆるクォータービュー。斜め上からの見下ろし視点である。唐突だが個人的な好みを述べさせてもらうと、実は筆者はクォータービューがあまり好きではない。アクションゲームやストラテジーゲームを含め、作品としては結構遊んではいるし、クォータービューでも好きなゲームは多い。しかし視点が遠く、画面が平坦になりがちなところが気になり、クォータービュー自体にはなんとなく苦手意識があるのだ。
しかし本作のデザインには、クォータービューにしかできない魅力が存在していると感じた。確かに視点は遠めだが、平坦さはまったくなく、むしろ本作のステージには奥行きがある。筆者がこれまでクォータービューのゲームで感じたことがないような、臨場感で満ちているのだ。しかもそれは肩越し視点や主観視点などではできない、クォータービューの特徴を活かすかたちで実現されている。本稿ではプレイ体験を通じて、筆者がそう感じるに至った経緯をお伝えしていく。

美しさ際立つ導入
ゲームはムービーとともに始まる。主人公のハンナは病に伏せっていたようだが、どうやらちょうど快復したところの様子。抱き合って快復を喜ぶ姉と弟の様子が微笑ましい。グラフィックはリッチな印象で、特にフェイシャルモーションは自然かつ表現豊かで、セリフがなくともキャラの心情が伝わってくる。フルプライスの作品と比べても遜色ない表現力である。
ところが看病を終え、仕事に行くといって出かけた弟が、夜になっても帰ってこない。そのまま朝になると、突如警察がハンナたちの家を訪れる。弟の居場所をたずねてくるが、焦っているのかかなり高圧的な態度だ。ハンナは「働きに行っているはずだが帰ってこない」と正直に答え、逆に弟になにかあったのか訊き返す。しかし警察は言葉をにごし、これ見よがしに警棒をかざして署への同行を求める。ハンナは一瞬の隙をついて逃げ出し、弟を捜しに行くところから本作の物語が始まっていく。
豊富なオブジェクトと立体的な景観

まずは警察から逃れつつ、ハンナたちが住んでいるアパートから脱出することになる。プレイを始めてまず目についたのが、配置されているオブジェクトの細かさだ。日用品が雑多に並べられており、生活感が視覚的に伝わってくる。もちろんオブジェクトは世界観を伝えるだけでなく、視界をさえぎる隠れ場所として活用することが可能。うまく追っ手とすれ違いながら、包囲網を突破していく。
隣人の助けもあって警察を出し抜いたハンナは、屋上へと逃れることに成功する。そうして初めてエリクスホルムの街並みがあらわになるが、筆者は思わず嘆声が出た。景観がとても魅力的だったのだ。屋根が入り乱れ、屋根の上にさらに増築されている建物や、はるか下にある道路、そして道路の下に広がる海と、立体的な構造が丹念に描かれている。「場当たり的に増築が繰り返され、自然に出来上がったダウンタウンなのだろうな」と、街の歴史まで伝わってくるかのようだ。

しばし見惚れていた筆者だったが、気を取り直して先に進むことに。街中にも多数展開している警官から隠れ、エリクスホルムの街を探索していく。高低差に富み、オブジェクトも多い街中は、ステルスにはもってこいの舞台でもある。しかし本作では敵に見つかると、即ゲームオーバーになる仕様。視界に入ってから発見されるまでの猶予も短く、ゴリ押しはほとんど不可能だ。何度もゲームオーバーになった筆者だが、ありがたいことに本作はオートセーブの間隔が非常に細かい。ロードもかなり短く、非常にテンポよくリトライすることができる。
ステージには複数のルートが用意されていることもあるが、どちらかというとまっすぐ進むシーンが多め。ギミックを利用し、用意された正しいルートを見つけ出す、ステルスパズル的な遊び心地である。たとえばあるシーンでは、進路を見渡せる位置に敵が立って動かず、正面突破は不可能な状態だった。しかしステージの端の方にあったハト小屋に近づくと、ハトが飛び立って敵が反応。確認にやってきた敵を別ルートからすり抜け、出口にたどり着くことができた。ステージをよく観察し、あるものはしっかりと活用するのがクリアへの道筋となっているわけだ。

よく探索することで、ストーリーの理解も深まる
こうしてゲームを進めていくと、物語ももちろん展開していく。ストーリーの謎が徐々に明かされていくわけだが、同時に新たな謎も増えていく。少し話が進んだ結果、警察はどうやら、弟が持っている“なにか”を探しているらしい、と分かった。しかし具体的にそれはなんなのか、なぜ弟は警察が血眼になって探すような物を持っているのか、など新たな疑問が湧いてくる。
またステージには文書が落ちていることがあり、拾うとハンナが一言コメントを発する。警官から逃げながらいくつか文書を拾った結果、ゲーム冒頭でハンナがかかっていた病気は心臓痘とよばれる、発症するとほとんどの人が死ぬ恐ろしい病だったことがわかった。ハンナはよく治ったものだと感心するが、これはただの裏設定ではなく、メインストーリーに関わる要素であることが分かっていく。積極的に探索することで、重層的にストーリーの理解が深まっていく仕掛けとなっているのだ。

魅力的な景観と深まる謎に引っ張られ、どんどんとゲームを進めていく筆者。するとロケーションも切り替わっていき、洞窟や古城など、エリクスホルムのいろいろな場所を冒険することになる。明るいダウンタウンとは打って変わり、洞窟のような暗いステージでは光と影のコントラストが印象的だ。構造はやはり立体的で、ぼんやりと浮かぶ遠景からはどこか幻想的な印象を受ける。一見複雑そうな構造なのに、方向音痴な筆者がほとんど迷わないのは、誘導が巧みということなのだろう。
そうして次はどんなところで冒険できるのかとワクワクしながら進めると、新たな仲間も加わり、各キャラの連携が求められるようになる。まずあるキャラで陽動して視線をそらし、時間差で二人の敵をダブルノックダウンするといった調子である。ステルスパートの奥行きもさらに深くなっていき、筆者は本作の世界にどっぷりハマっていったのだった。
本作の真の主役は、街そのもの

以上が筆者のプレイ感想である。改めてまとめると、筆者が本作でなによりも印象に残ったのは、クォータービューと街を活用したステージデザインの美しさだ。オブジェクトが多数配置されたステージは生活感があると同時に隠れ場所を多く作り出しており、さらに崖から高所まで高低差が激しいステージは、臨場感と絵作りのダイナミックさ、そして進行ルートの意外さを生んでいる。これらは視界が開けた見下ろし視点だからこそ、実現できている設計だ。仮に本作が主観視点のゲームだったとしたら物と壁が多すぎて、見通しが非常に悪い作品になっていただろう。
そしてステルスパートをプレイすると、雑多に置かれているように見えるオブジェクトたちは、実際は丁寧に位置が調整されていることがわかる。絶妙なタイミングですり抜けられるとか、逆にギリギリ届かないといった事態が頻発するのだ。難所を突破できたときは、よくデザインされたパズルが解けたときのような爽快感と納得感がある。
さらにステージの探索をよくおこなうことで手に入る収集品は、ストーリーや世界観をさらによく理解する助けになっている。ビジュアル面からゲームプレイ上の仕様まで、とにかく丁寧にデザインされているのである。本作の主人公はハンナだが、ゲームの真の主役はステージそのものである、と筆者は感じた。エリクスホルムの、美しく精巧な北欧都市の冒険をぜひ体験してみてほしい。
『エリクスホルム:奪われた夢』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5/Xbox Series X|S向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。