『デス・ストランディング2』のゲームエンジンDECIMAは、“UE5より優れている”とのユーザー主張にベテラン開発者がツッコむ。そもそも比べようがない

『DEATH STRANDING 2』のグラフィックとパフォーマンスが称賛を受けるなかで、「ゲームエンジン」に関する議論が発生している。

KOJIMA PRODUCTIONSは6月26日、『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』(以下、DEATH STRANDING 2)を発売した。対応プラットフォームはPS5。本作のグラフィックやパフォーマンスが大きな称賛を受けるなかで、「ゲームエンジン」に関する議論が巻き起こっている。

本作は、『DEATH STRANDING』の続編となるオープンワールドアクションアドベンチャーゲームだ。舞台となるのはデス・ストランディングと呼ばれる現象の発生により人類が分断され、滅亡の危機にある世界。本作でもサム・ポーター・ブリッジズを主役に、前作の11か月後から始まる物語が描かれる。本作でも配送を主体とするアクションは健在。未知の荒野にて、変化する時間・天候・自然そのものがさまざまな景色と挑戦を与え続ける。

そんな本作にはゲームエンジンとして「DECIMA」が用いられている。『Horizon Zero Dawn』などの開発元として知られるGuerrilla Gamesの内製ゲームエンジンだ。フォトリアルなグラフィックが特徴となる『DEATH STRANDING』の開発にあたっては、Guerrilla Gamesの協力体制でDECIMAに改良が加えられていったという(ファミ通.com)。


DECIMAとUnreal Engineとの“比較”

そんな本作のゲームエンジンについてのとある議論が注目を浴びている。発端となったのは、あるユーザーが投じた『DEATH STRANDING 2』に関するXポストだ。同ユーザーは「圧倒的ビジュアルと安定した60fpsで動作する」として本作を称賛しつつ、“DECIMAはUnreal Engineよりも優れている”との持論を述べている。Unreal Engine 5(以下、UE5)は、フォトリアルな表現も含めた3Dグラフィックに強みのあるゲームエンジン。ただ昨今ではグラフィックは上質でも最適化不足といったUE5製作品も見受けられ、そうした文脈からUE5を批判する意図の投稿かもしれない。

この主張に物申したのが、Del Walker氏だ。同氏はRespawn EntertainmentやNaughty Dogなどでキャラクターアーティストを務めてきた人物。現在は元Respawn Entertainmentの開発者たちが集って設立されたWildlight Entertainmentで開発中の作品に、主任キャラクターアーティストとして携わっている。業界歴10年以上のベテラン開発者だ。

そんなDel氏は、“どちらのゲームエンジンが優れているか”といった議論について机上の空論だと一蹴。(どんなゲームエンジンで作られた作品でも)アーティストがライティングを施し、キャラクターやオブジェクトを配置し、入念に調整しながら何年もかけて作り上げていると説明した。そしてゲームエンジンの優劣を巡る議論は、そうした労力をないがしろにして、ただ「ゲームエンジンのお陰」と決めつけるような考え方だとして痛烈に批判している。

またDel氏は、DECIMAと、汎用ゲームエンジンであるUE5を比較すること自体がおかしいとも言及。というのも汎用的なゲーム開発を見越して提供されているUE5と違って、DECIMAはあくまでGuerrilla Gamesの内製ゲームエンジン。過去にはSupermassive Gamesが手がけた『Until Dawn-惨劇の山荘-』オリジナル版などの開発に用いられたこともあったが、現状ではGuerrilla Gamesと、同スタジオとパートナーシップを結んでいるKOJIMA PRODUCTIONSのみが用いている。

先述のとおり協力体制でゲームエンジン自体に改良が加えられてきた経緯もあり、また『DEATH STRANDING 2』はPS5専用タイトルだ。開発する作品やそのハードにあわせてカスタマイズされたゲームエンジンと、UE5とを一概に比較することは難しい。

Del氏としてもDECIMAは素晴らしいゲームエンジンであると補足。あくまでDECIMAを引き合いに出して、UE5がパフォーマンス面で劣っているといった主張に反論しているかたちだ。


「UE5製」はパフォーマンスに影響する?

昨今ではUE5が採用される作品がさらに増加を見せており、昨年だけでも『Senua’s Saga: Hellblade II』『黒神話:悟空』といった高精細なグラフィックを売りにする作品から、アニメ風3Dグラフィックの『マーベル・ライバルズ』など幅広い作品に採用されていた。そうしたなかでは、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』など発売当初に最適化不足が指摘される作品も一部存在。過去にはUE5では特にオープンワールドゲームの開発が難しいといった開発者の意見もみられた(Windows Central)。

そのため最適化という側面では、開発元側でゲームエンジンの仕様をすべて理解し、コントロールできる内製エンジンのメリットが挙げられる例もある。ただ世代にあわせたクオリティのゲームを作るために、エンジン自体をアップデートしていく必要もあり、エンジンの開発には手間もお金もかかる。またソースコードを公開するわけにいかない内製エンジンでは、新たなスタッフが開発ノウハウを学習するコストもあるだろう。その点でUEは扱いやすさもメリットになっており、内製エンジンとUEの“二刀流”で開発される例も多い(関連記事)。

他方、UE5を開発するEpic Gamesとしても、特にUE5製作品にて生じるスタッタリング・ヒッチング(一瞬のカクつき)に関してコミュニティから指摘を受けていることは認識しているという。今年1月に公開された公式開発者ブログでは、2023年のUE5.2から対策となるPSO事前キャッシュが導入されたことが伝えられており、グローバルグラフィックスシェーダーへの対応など、さらにスタッタリングの対策が進められているとのこと。

そして最終的には事前キャッシュを自動かつ最適に処理できるようにして、開発者がスタッタリング対策を何も意識しなくてもいい状態を目指しているそうだ。つまり将来的には、開発者が最適化を施すかどうかに関わらず、幅広い作品で安定したパフォーマンスを発揮できるようになるかもしれない。

いずれにせよ、UE自体を改造して使うケースが多いことも踏まえると、現状ではパフォーマンスの優劣は開発元次第という側面はありそうだ。たとえUE5であっても、内製のゲームエンジンで開発された作品であってもパフォーマンスは、開発元での最適化にかかっているとみられる。今回称賛を受けている『DEATH STRANDING 2』のグラフィックやパフォーマンスも、KOJIMA PRODUCTIONSがGuerrilla Gamesとの連携のもとで最適化を追求してきた結果なのだろう。

DEATH STRANDING 2』はPS5向けに発売中だ。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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