Nintendo Switch 2に求める性能は?最適化エンジニアたちに訊いたSwitch開発の奮闘と苦労

Switch 2発表に際して、Switch移植に携わったゲーム開発者へのヒアリングを敢行した。実際にSwitchへの移植は何が大変だったのか、そうではなかったのか。Switch 2に求めることは具体的に何なのか。

2025年1月16日、長らく噂されていた『Nintendo Switch 2』が任天堂から正式に発表された。Switch 2に対する期待は新しいハードウェアのギミックほか様々あれど、もっとも大きいものの一つに「スペックの向上」があるだろう。Nintendo Switchは任天堂の屋台骨を8年支えつつも、「他ハードからの移植の大変さ」にまつわるエピソードに事欠かなかったからだ。

弊誌AUTOMATONでも、Switch移植に関するニュースをこれまでに何度も取り上げてきた。2018年には『DOOM』や『Wolfenstein II: The New Colossus』のSwitch移植を手がけたPANIC BUTTON(記事リンク)、2019年には『The Witcher 3: Wild Hunt』のSwitch移植を手がけたSaber Interactive(記事リンク)、2020年にはSwitch移植を手がけるVirtuos Studioへのインタビューを敢行(記事リンク)。また、任天堂は2024年に『ホグワーツ・レガシー』のSwitch移植を手がけたShiver Entertainmentを買収したことも話題となった(記事リンク)。それだけ、「他ハードからのSwitch移植」はSwitchの発売から8年にわたってホットなトピックでありつづけた。

そこで、AUTOMATONはSwitch 2発表に際して、Switch移植に携わったゲーム開発者へのヒアリングを敢行した。実際にSwitchへの移植は何が大変だったのか、そうではなかったのか。Switch 2に求めることは具体的に何なのか。ヒアリングに協力してくれたのは計10名で、それぞれが別ジャンルで活躍している。

なお、今回ヒアリングに協力してもらった開発者は、オープンワールドRPG開発者から推理系ゲーム、RPGツクールタイトルの移植まで幅広いジャンルとなった。ハイエンド機種をリードプラットフォームとする負荷の高いゲームから、2Dのカジュアルなゲームまで多種多様にわたる。

今回、ヒアリングにあたっては以下の3つの質問をしている。

(1)Switch版の開発で苦労したことは何があったかCPU/GPU/RAM/ストレージ(カートリッジ)でそれぞれボトルネックはどこにあったか
(2)Switch版の開発で起きた予想外なこと、苦労しなかったことは何か
(3)Switch後継機には何を期待するか

Switch版の開発で苦労したことは何か?

このトピックにおいては、おおまかにCPU・GPU・RAM・ストレージとトピックを分けて苦労した点を語ってもらった。

・CPU(コンピュータ全般の計算を担う、コンピュータの頭脳)

SwitchのCPUへの意見で全般的に見られたのが「メイン処理で手一杯で、裏読みの対策に苦労した」というものだ。ゲーム開発には「裏読み」と呼ばれるテクニックがあり、たとえば連続しているAの場面とBの場面があったとして、Aのシーンの終盤でBにある要素を「裏読み」しておくことで、AからBへの切り換えをスムーズに行うことができる。

しかし、SwitchのCPUのパワーでは、(他のハードと同じ処理を実行すると)今動かしているAのシーンを処理するだけで手いっぱいになってしまい、Bのシーンを裏読みするパワーが残らなかったという。とある開発者は、Switch版では裏読みする箇所を他ハードと違う場所などにして対応を図ったが、別の開発者は裏読みの最適化を断念して、ある程度の処理落ちは許容することとなったという。逆にCPUスペックが上がったSwitch 2では裏読みしやすくなるだろう。

・GPU(グラフィクスの計算に特化したコンピュータの頭脳)

GPUの能力は、グラフィックスに直結する。今回のヒアリングではGPUへの言及は少なかったが、ひとつに「Switch版のターゲット(目標)解像度はどうしても低くなってしまう」といったものがあった。

一般的にPS5/Xbox Series XはWQHD(1440p)から4K(2160p)、PS4/XboxOneはフルHD(1080p)をターゲット解像度にしているが、Switchはやや負荷の大きいゲーム(たとえば「ゼノブレイド」シリーズ)だとドック接続時に720p、携帯モードで540pがターゲット解像度になっていることが多い。ざっくりいえば、フルHDモニターおよびSwitch本体液晶の約半分の解像度となる(このあたりが許容範囲ということなのだろう)。

モニターに対して解像度の低さがどれだけ気になるかは個人の主観によるところが大きいものの、Switchに移植された重量級のタイトルによってはモニターに対する解像度が40%近く、もっとも顕著な場合は25%未満まで下がるものもあった(関連記事)。

また、今回のヒアリングでもっとも具体的だった意見として「GPUの性能が低いため、ライトが増えると処理が追いつかなくなり、エフェクトの品質も担保できなくなる。SwitchのGPUを意識した3DCGモデルの作り方をする必要がある」というものがあった。それと、「リアルタイムのライティング処理を減らすためにライトをベイク(地形やオブジェクトに光が当たっているように見せかけるテクスチャを生成する技術)を行うと、今度はベイクのために生成されたテクスチャがストレージの容量を圧迫してしまうジレンマが起きる」といった意見も見られた。ストレージについては後述にて詳細を解説する。

・RAM(コンピュータの処理のためのデータを一時的に置いておくスペース、およびグラフィクスの情報を保存するスペース)

SwitchのRAM容量は4GBだが、PS4やXboxOneのRAMが8GBだった。Switchは他ゲーム機の半分の容量であるため、他ハードを基準に開発したゲームのデータをSwitch向けにどう減らすか工夫を凝らす必要があったという。特に、RAMの容量を超えてしまうとクラッシュが発生するため、どれくらいのデータをRAMに常駐できるか、裏読み・先読みができるのかを調整するにあたっては多大な工数が必要だったそうだ。一方で、オープンワールドRPGの開発者は「テクスチャを限界まで圧縮してメモリを節約する必要があったが、メモリを節約したぶんクオリティが上がるのでパズルのようで楽しかった」と述べていた。

Switch発売前に任天堂とカプコンが共同で行った講演(該当記事)にて、任天堂はもともとSwitchのRAMをもっと少なくする予定だったが、カプコンをはじめとしたサードパーティの意見を参考にしてメモリを4GBにしたという経緯がある。もしも任天堂が当初想定していたメモリの容量(Switchとほぼ同一のSoCを持つゲーム機”NVIDIA SHIELD”のRAMは3GB)だったとしたら、今存在するSwitchのタイトルの数がもっと少なくなっていたかもしれない……。

※余談だが、家庭用ゲーム機とゲーミングPCではRAMの取り扱い方が異なることは覚えておきたい。ゲーム機では高速なRAMに処理用のデータとグラフィクスの情報をどちらも保存する一方で、ゲーミングPCでは低速のRAMに処理データを保存し、GPUにある高速なVRAMにグラフィクスの情報を保存する。逆に、ゲーミングではない普通のPCでは、低速のRAMに処理データもグラフィクスの情報も保存するため、ゲーミングPCと比べてゲームのパフォーマンスが出づらい。

・ストレージ(ゲームソフトのデータそのものが保存される場所のこと)

Nintendo Switchにおけるストレージは本体内蔵eMMCストレージ、別途購入必須のmicroSDカード、店頭で販売されるROMカートリッジの3種類が存在する。実は、これら三つのストレージはそれぞれ速度が異なることをご存じだろうか。同じゲームをプレイするとして、本体内蔵eMMCのロード速度が最も早く、次点でmicroSDカード、もっとも遅いのがROMカートリッジとなる。

実は、この速度の差異で何が起こるのかというと、「本体eMMCやmicroSDだと問題がないのに、カートリッジだと読み込みの遅さで不具合が起きる」という可能性があるのだ。実際に、ヒアリングした開発者から「カートリッジ版だけ、ロード速度が異常に遅くなる不具合が起きたことがある」と述べている。

カートリッジの容量の大きさもボトルネックの要因となる。まず、SwitchのROMカートリッジの容量は32GBのものが上限だということ。とはいえ、32GB以上の大きさのゲームがSwitch向けにリリースされることもある(特に海外産スポーツゲームは40GB~50GBに至る)が、その場合はカートリッジに収まらなかったデータはユーザーが本体eMMCやmicroSDカードなどに別途ダウンロードする必要がある。かつて2020年ごろに「Nintendo Switch向けに64GBのカートリッジが出る」といった報道がなされたものの(関連記事)、2025年時点で64GBカートリッジを採用した例は見つかっていない。

そして、Switchはカートリッジの容量が大きくなるごとに製造コストが上昇する問題がある。『スマブラ』シリーズを手掛ける桜井政博氏は、スマブラSPの容量が16GBを超えないようにデータを圧縮する必要があったことを語っている。Switchのカートリッジ容量の大きさに準じてカートリッジの製造費用が変わることは他メディアでも語られており、スマブラよりも規模の小さいゲームだとしても8GBに収めるのか4GBに収めるのかで、パッケージ販売時の収益に直結する。そのため、目標のパッケージ容量に収めるためのデータの軽量化がもっとも困難だったと語った開発者もいた。

Switch開発における、印象的なエピソード

Switch開発における印象的だったエピソードのひとつとして「Switchという名称が一般名詞なので、プログラムのコードにある単語や命令文と干渉する」というものがあった。これは実際に開発してみないと思い至らない問題点だろう。

また、RPGツクール作品のSwitch移植を手掛けたエンジニアからは「RPGツクールは負荷が軽いイメージだが、実際にはSwitchに移植するときにパフォーマンスが追いつかなくて大変だったものがあった」と指摘していた。一見、負荷が低そうなタイトルでもパフォーマンスに問題が生じることはよくある(これは古いソフトウェアの処理が現代的なCPUを想定しておらず、CPUの一部分しか使えずにパフォーマンスが出ないことがある)し、クリエイターがプログラミングなしでゲームを作れるソフトウェアから生まれたゲームは、えてして重くなるものだ。

Switchが出たばかりのころはドックモードや携帯モード、テーブルモードでそれぞれUIや操作系統が異なることに不慣れだったという意見もあった。今ではすっかりなじみのスタイルになったが、Switchが出たばかりのころは、3つのスタイルをいつでも切り替えられること自体が衝撃的だった。

そして、これまで「(他ハードから移植すると)性能が足りない」というエピソードを中心に書いたが、最初からSwitchのスペックを想定したゲーム開発をしていた場合は、必ずしもSwitchでの開発に問題が生じるとは限らないという声も見られた。また、現代の主要なゲームエンジン(UnityやUnreal Engine)が標準でSwitchをサポートしていることもあり、そういった面から移植や開発に困らなかったという意見も出た。どの程度のスペックが必要になるのかはあくまでケースバイケースであり、一面的に「すべての開発者にとってSwitchのスペックが足りなかった」という話ではないことに留意してほしい。

Switch 2に何を期待するか

この質問に対しては「全般的にスペックを向上してほしい」という回答がほとんどだった。特にPS5/Xbox Series X|Sをリードプラットフォームとしているタイトルの開発者はSwitch版の移植がいかに困難かについて語っており、Switch 2に対する期待の大きさと必要性の切実さを感じさせた。一方、ユーザーと目線を並べた意見として「コントローラが壊れないようにしてほしい」というものと、「Switchと同じく、次の時代を築いてほしい」といった意見が見られた。印象的だったのは、各開発者がSwitch自体への愛情を述べていたこと。好きなハードだからこそ、次なるハードでは自身の開発したゲームもスペック上余裕をもって作れるような十分な性能をもち、よりリリースしやすくなってほしいという想いが伝わってきた。

ゲーム業界全体が成長の停滞やレイオフラッシュなど不況に陥るなか、いまやゲーム会社やゲーム開発者がSwitch 2に期待する声はますます多くなっている。多くの人にとっての希望になりえる新ハードなだけに、より多くのゲームを受け入れるハードであることが望まれるだろう。2025年4月のNintendo Directでの詳報を座して待ちたい。

Nobuaki Shibuya
Nobuaki Shibuya

VRを専門としつつ、ゲーム業界分析も書くライター。好きなゲームジャンルはイマーシブシム

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