「『S.T.A.L.K.E.R. 2』を遊ぶとウクライナ軍に徴兵される」といった工作じみた虚偽動画がメディアなどに送られる、発信元はロシアか
デベロッパーのGSC Game Worldは11月21日、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』(以下、S.T.A.L.K.E.R. 2)を発売した。同作について、極めて信憑性の低い内容で中傷する虚偽の動画がネット上で拡散。ロシアによる偽情報キャンペーンの一環と見られており、話題を呼んでいる。海外メディア404 Mediaが伝えている。
『S.T.A.L.K.E.R. 2』は、サバイバルホラーFPS『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズの最新作だ。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com/Microsoft Store)/Xbox Series X|S(日本国内展開はセガが担当)。
本作の主な舞台となるのは、チョルノービリおよびその周辺の立入禁止区域「ゾーン(The Zone)」だ。プレイヤーはストーカー(S.T.A.L.K.E.R.)と呼ばれる、一攫千金を狙う者たちのひとりとなって、貴重なアーティファクトなどを求め危険地帯に飛び込んでいく。プレイヤーは凶暴なミュータントや「アノーマリー」と呼ばれる存在などのほか、武装した派閥間の争いも切り抜けつつ、広大なオープンワールドを探索していくのだ。
そんな『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズを手がけるGSC Game Worldは、もともとはウクライナに拠点を置くゲーム開発会社である。しかし2022年より続くロシアによる軍事侵攻を受け、『S.T.A.L.K.E.R. 2』の開発は難航。一時開発が休止される事態となった。その後同社はチェコに拠点を移し、開発を再開。しかしチェコへの移転後も、ロシア系とみられるグループによりサイバー攻撃や脅迫を受けるなど、開発は苦難に満ちたものだったという(関連記事)。
そうして今年の11月21日に、本作はついに発売された。しかし配信後も、ロシアによるとみられる本作への攻撃は続いているようだ。海外メディア404 Mediaは11月27日、とある動画を公開。同メディアによると、この動画はメールやTelegramなどのアプリを通じて、ジャーナリストに直接送りつけられるかたちで拡散しているのだという。動画には海外メディアWIREDのロゴが組み込まれているが、404 Mediaによれば、WIREDは本動画の作成に関わっていないと報じており、無断でロゴを使用した虚偽動画であるとしている。
くだんの動画の内容では、『S.T.A.L.K.E.R. 2』について陰謀論的な中傷がおこなわれている。いわく、『S.T.A.L.K.E.R. 2』の開発会社とウクライナ政府は密約を交わしており、本作を軍の動員に役立てようとしているのだという。そのため本作はプレイヤーの名前やIPアドレス、現在位置といった情報を収集し毎秒送信しているのだ、と主張を展開。購入を止めるか接続元を偽装するためVPNを使用するように促している。
動画について報じた404 Mediaのジャーナリストのもとには、こうした質の低い情報を伝えるメールやメッセージが一日に何十通も届くのだという。拡散の手口や内容から、404 Mediaはこれをロシアの偽情報キャンペーンによるものだと推測。『S.T.A.L.K.E.R. 2』がロシア政府の注目を集めていると見られるのは興味深いと語っている。
実際ロシアのとある議員は本作について、名指しで懸念を示している。ロシア語メディアDaily Stormによると、ロシアの国家院の議員で情報政策委員会の副委員長であるAnton Gorelkin氏は今年の11月12日、『S.T.A.L.K.E.R. 2』について言及。同作の開発者はウクライナ軍を支援しており、またゲーム内にも暴力を扇動する過激な内容が含まれている可能性があるため、ロシア国内での販売を禁止する可能性があるとしていた。本作はそもそもロシア向けには販売されていないが、いずれにせよロシア当局が本作に関心を寄せているのは確かなようである。
ちなみに本作のSteamユーザーレビュー件数の約16%はロシア語ユーザーによるもの。ロシア語はトップの英語、2位のウクライナ語に次ぐ第3位と高い割合を占めている(SteamScout)。またレビュー評価も、ロシア語のレビューの約85%が好評としており、全体平均の83%を上回る高評価である。つまりロシア向けには販売されていないにもかかわらず、多くのロシア語圏ユーザーが本作を楽しんでいることがうかがえるわけだ。あるいは虚偽動画の発信元としては、『S.T.A.L.K.E.R. 2』を楽しむプレイヤーの間に親ウクライナ的な感情が広まることを危惧し、人気に水を差そうとしているのかもしれない。
またウクライナのメディアdev.uaによると、ウクライナのデジタル変革省は以前、昨年2月に発売されたゲーム『Atomic Heart』の販売中止を求めていたという。同作はロシアにルーツをもつ開発者らによって開発されており、集めた資金やユーザー情報が戦争に利用される可能性があるから、というのが中止を求める理由とされた。一方開発スタジオはそうした疑念を否定していた(関連記事)。
一部メディアは、今回『S.T.A.L.K.E.R. 2』について広められている偽情報は、『Atomic Heart』発売時のウクライナ当局の懸念と似通っているところがあると指摘。そのため虚偽動画の発信元としては『Atomic Heart』の“仕返し”のつもりなのではないか、といった見解を示すメディアも存在するわけだ。どういった理由にせよ『S.T.A.L.K.E.R. 2』をめぐり、評判を貶めようとする偽情報が展開されているのは確かなようだ。
『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』は、PC(Steam/Epic Gamesストア/GOG.com/Microsoft Store)/Xbox Series X|S向けに発売中だ。PC/Xbox Game Pass向けにも提供されている。