オープンワールド宇宙シム『X4』、実は日本ユーザーが結構いるらしい。日本受けの理由や『Starfield』『EVE Online』との違いなどいろいろ訊いた
『X』は1999年にWindows向けに発売された『X: Beyond the Frontier』に始まる、サンドボックス型宇宙シミュレーションシリーズだ。最新作は2018年、PC(Steam)向けに発売された『X4: Foundations』となる。
プレイヤーは宇宙に降り立ったあと、何をするもプレイヤー次第だ。宇宙船で気ままに旅をするもよし、宇宙ステーションの建築に勤しむもよし、全宇宙の支配者を目指して戦争をし続けてもよしと、プレイヤー自身がゴールを決められる自由度の高さが大きな特徴。そして、自由度と共に『X』シリーズを特徴づけているのが、自由意志を持って動く人種も種族も異なる多種多様なNPCたち。プレイヤーの見えないところでもNPC同士は交易や戦闘を行い、世界に影響を与えてゆく。そのため、プレイヤーが関わらずとも物価の変動も勢力図の変化もリアルタイムで起き続けるのである。そうしたシミュレーションが絶え間なく行われている世界に飛び込めるのも、『X』シリーズの魅力の一つといえるだろう。
開発元のEgosoftはドイツを拠点に置くインディースタジオ。1980年代後半にAmiga向けゲームを制作する会社として立ち上げられ、現在では『X』シリーズに注力している。『X』シリーズは多岐に亘る要素とその複雑さから、遊び始めるハードルが高いというイメージを持たれがちだ。しかしその一方で、20年以上に渡り根強い人気を保ち続けているのも事実。弊誌では『X』シリーズの魅力を訊くべく、Egosoft創設者であるBernd Lehahn氏にメールで話をうがかった。
──はじめに自己紹介をお願いします。
Bernd氏:
こんにちは、Egosoftの創設者兼マネージングディレクターのBernd Lehahnです。私たちは90年代後半から続く宇宙シミュレーションシリーズ、『X』シリーズを作っています。
──『X』シリーズについて、改めて概要を教えてください。
Bernd氏:
『X』シリーズは緻密に構築された世界、複雑に絡み合う経済、そしてオープンエンドなゲームプレイで知られている宇宙シミュレーションゲームの一群です。プレイヤーが行う交易、戦闘、建築、探検といったさまざまな活動が、ゲーム内世界に大きな影響を与えるのが特徴です。シリーズ第一作は1999年に発売された『X: Beyond the Frontier』で、最新作は2018年に発売した『X4: Foundations(以下『X4』)』です。『X4』は現在までに4つのDLCが発売されており、最新バンドル「X4: Community of Planets Edition」ではゲーム本編と全DLCがセットになっています。
──『X』シリーズ一作目はどのようにして生まれましたか?影響を受けた作品や、「X」というタイトルの由来も教えてください。
Bernd氏:
リアルにシミュレートされた広大な宇宙で、船を操縦して交易と戦闘を行うゲームというアイデアはずっともっていました。80年代に発売されたCommodore 64の『Elite』や、『Tradewars』というBBSで遊ぶテキストゲームあたりから着想を得ています。そうしたゲーム以外にも、読んだ数多くのハードSFの本の影響もあるでしょう。
90年代初頭のことです。まだ小さかったEgosoftで、友人と『X』シリーズとは無関係のAmiga向けの小規模なゲームを作っていました。ですが、宇宙に関するゲームを作りたい夢はいつもありました。宇宙を舞台にしたゲームのプロトタイプをAmiga用に作って、当時のVRヘッドセットで動かしたりした時期もあります。それから数年後、3Dアクセラレーターカードと共にWindows 95とDirect X 1.0が登場して、Windowsがゲームプラットフォームとして台頭し始めました。ここで後に『X』シリーズ一作目となるゲームの開発を始めたのです。
「X」という名前には複数の意味が込められています。まず第一に、音の響きがクールだと思ったから(笑)二つ目の理由はゲームのコンセプトに合致しているからです。構想の段階から交易、戦闘、建築、思考といった複数の要素を一つのゲームにしたいと考えていました。そこでさまざまな概念を表せる「X」がぴったりだったのです。さらに一作目ではプロットにも組み込み、プレイヤーの乗る宇宙船Experimental shuttleの略をX-Shuttleにもしました。
──『Starfield』や『EVE Online』など、宇宙がテーマのゲームは数多くあります。そのなかでの『X』シリーズ独自の強みはなんですか?
Bernd氏:
『X4』を例に説明しましょう。第一に、有機的な世界と創発的なゲームプレイが挙げられます。『X4』の宇宙はただの背景ではありません。動的な、ボトムアップ型のシミュレーション環境です。『X4』の宇宙では各地にいる何千ものNPCたちが、プレイヤーの意図とは関係なくそれぞれの目標に集中して行動します。そして、その各NPCは交易、戦闘、採掘、商品の生産などを通じて、さらに他の何千ものNPCと関わっています。 NPCにルールと法則は与えられていますが、NPCたちの動き全体をカバーするスクリプトはありません。そのため、NPCの行動や市場経済の変化は予測不能で、時には我々開発者をも驚かせるものに進化を遂げるのです。こうした相互作用により、プレイごとにまったく異なる世界、脈動し呼吸をする生きた世界ができてゆくのです。
完全にシミュレートされた世界ですから、プレイ感覚はMMOに近いといえるでしょう。しかし、『X4』はプレイヤーのPCで動く一人用ゲームです。そのため、MMOより速いスピードでのゲーム進行が可能となります。また、プレイヤー自身がゴールを決められる自由度の高さも、『X4』のユニークな部分です。数々の戦闘に参加するのか、平和的に帝国を築くのか、未知の領域を探索するのか、交易で富をかき集めるのに集中するのか。このプレイ体験こそが、『X4』を『X4』たらしめるものです。さらに、この自由度の高さはプレイヤーのストーリーにも変化をもたらします。『X4』のストーリーは一本道ではありません。柔軟でモジュール的な、部分部分が少しずつストーリーを形作っていく方式のため、各々のプレイスタイルに沿ったストーリー展開となります。
最後に述べておきたいのは、『X4』に実装されている豊富な機能です。私たちのゴールはさまざまなプレイスタイルや興味に訴えかけることですが、幅広さを保ちながら焦点を維持するのは困難です。それでも、いかにマイナーな機能であってもアクセスを容易に、直感的にできるようにしています。興味やプレイスタイルに対応する汎用性と包括性へのコミットメント。これこそが我々の誇りであり、『X4』が数多あるゲームの中で唯一無二の存在にしていると私たちは信じています。
──『X4』はSteamレビューが15000件以上寄せられており「やや好評」のステータスです。これについてはどう感じていますか?また、日本での人気が高いと伺っていますが、なぜでしょうか。
Bernd氏:
『X4』は幅広いプレイスタイルのプレイヤーを呼び込んでいます。そのぶん、制作者の意図が伝わりづらく評価の得づらいゲームともいえます。そういう意味では、『X4』の評価、特に最近のものには非常に満足しています。発売前も発売後も、何年も大変な努力をしてきた甲斐があります。
日本は『X4』が売れている国のトップ5に入っています(※)。『X4』が日本で好評な理由ですが、ゲーム後半の戦略の奥深さや、凝った(ハード)SFへの愛、細部へのこだわりの多さなどでしょうか。とはいえ、こうした理由も含め多くの要因が絡み合った結果なのでしょう。
※ 2023年10月のSteamハードウェア&ソフトウェア 調査によると、日本語ユーザー人口はフランス語に次ぐ8位。5番目に多いというのは、そこそこ多いのだと思われる。
──その一方で、『X4』はハードルの高いゲームというイメージを持たれがちです。これについてどうお考えですか?また、初めて『X4』に触れるプレイヤーにアドバイスをお願いします。
Bernd氏:
『X4』は複雑さと奥深さゆえに、学ばなければいけないことが多いのは確かです。しかし、ユーザーフレンドリーを欠いたゲームにするつもりはありません。2018年の発売以来、アップデートを通じてゲームの間口を広げ続けています。まず一番最初に、「航空学校」チュートリアルの導入をしました。ここではプレイヤーが知るべき基本の多くをカバーしていますから、最初のプレイではこれを遊ぶことをおすすめします。
また、『X4』のすべてのDLCにはスタートシナリオが用意されています。「支援あり」「誘導あり」と記されているものは、さまざまな立場やストーリーを持ってゲームに飛び込むことができるのです。私たちが開始後しばらく手を取って誘導する形になりますので、最初はそうしたシナリオから遊ぶとよいでしょう。逆に「サンドボックス」と記されてる場合は、冷や水に放り込むことになるので注意が必要となります。
プレイヤーが許容できる難易度のさじ加減は、慎重に見極めている点の一つです。 序盤の船の操縦やドッキングなどは、慣れるまで大変でしょう。多くのプレイヤーが終盤の大艦隊の指揮や、巨大ステーションの建造などに苦労しているのも私たちは把握しています。ですが、こうしたハードルを乗り越えることで操作方法を覚えるだけでなく、世界のリアルさと没入感を作り出す体験になると考えています。
──『X4』を開発する上で大変だったことを教えてください。
Bernd氏:
自社開発したグラフィックスエンジン、キャラクターのアニメーションシステム、船やステーションの中を歩ける機能、ルート決定や物理シミュレーションなど、要求水準が非常に高い部分がたくさんあるのは確かです。一番は困難だったのはなんといってもゲーム内の経済といえるでしょう。先に述べたように、『X4』の世界は何千ものNPCの相互作用によって成り立っています。ですので、完璧なゲーム体験をデザインすることを目指すより、たくさんのNPCを開発して法則を与え、宇宙がどう「時間加速度的」に進化するのか見ていきながら作り上げる必要があります。中でも経済のテストは気の遠くなるような反復を伴いますから、終わることはありません。他にも、大量にあるアセットの読み込みもかなり厄介な部分でした。これはプレイヤーのいる地点や近くの施設から、次に必要になるものを予測することでロードを減らすことができています。
──『X4』の没入感を作るうえで、サウンドやグラフィックで力を入れている部分はどこですか?
Bernd氏:
ゲームの空気感を作っている側面は多種多様です。 視覚面では、背景の星雲、リアルな惑星とその雲と大陸、小惑星帯など、宇宙環境を作り出すものあらゆるものが重要となります。そして、それと同じくらい重要なのが効果音と音楽。何かひとつでも欠けると、全体が機能しなくなってしまう。 何がどれだけ貢献しているか、具体的に言うのは難しいです。
──『X4』のアップデートの施策ついて教えてください。
Bernd氏:
2018年以降のアップデートをすべてリストアップしようとしたら、大変なことになります。パッチノートがSteamに投稿できないくらいの長さにもなるので……(笑)一番盛り上がったのは今年初めにあったゲームエンジンなどの技術面の大規模なオーバーホール、建設可能な船の追加、そしてライブ配信カメラモードの追加(6.00)でした。新たなゲームプレイ要素だと、テラフォーミング(4.00、2021年)とスクラップのリサイクル(5.00、2022年)などがありました。他にも技術的な改善や大量の修正を行いつつ、時には新しい無料コンテンツを追加しています。
──『X4』の今後のアップデートやDLCについて改めて教えてください。
Bernd氏:
開発チームは現在、次のメジャーアップデートである7.00と、非公開の新製品に取り組んでいます。いい時期が来れば公表しますので、私たちのコミュニケーションチャンネルに目を光らせておいてください。ゲーム終盤の新イベントである「実存的危機」など、既に今年初めに出した動画で初期コンセプトを語っています。『X』シリーズには依然として注力していますし、宇宙のシミュレーションを用いた完璧な箱庭を作るという野望もあります。つまり、ゲーム内で実装したいアイデアはいくらでもあり、『X4』はまだまだ続くということです。
──『X4』の開発チームには、宇宙への強い熱意があると存じます。オフトピックの質問ですが、人類が進化するにつれ、宇宙開発や技術はどのように発展すると思いますか?近未来、あるいは何世紀も先の未来、どのような夢が叶っていてほしいですか?
Bernd氏:
個人的には、宇宙に知的生命体が存在するかどうかが知りたいです。 帝国が宇宙に築かれれば人類の原動力になるかもしれませんが、それには興味がありません。生命発生の可能性に関する情報収集から、宇宙の起源や終末についてまで、さまざまなスケールで宇宙を観察したいです。そうしたさまざまなクエスチョンを、先入観を持たずに探求すること。その科学の営みに魅力を感じています。スケールの大小に関わらず宇宙から学べることは多いですし、広い視野を持ち続けることの大事さを教えてくれます。
──最後にEgosoft人類代表として、日本のプレイヤーの皆さまと、今後人類が初めて会うであろう地球外生命体へのメッセージをお願いします(笑)
Bernd氏:
地球外生命体の方々、どうか我々の愚かさと無知をお許しください。今も昔も、人類を双肩に乗せるかのごとく聡明な人々は多くいます。しかし、残念ながら今日の人々の多くは無知を選んでいるのです。人類をその両極端で判断せず、どうか辛抱強く見守ってください。
日本のプレイヤーの皆さま、私たちのゲームとその世界に関心を持っていただき、本当にありがとうございます。日本に住む人々はとても親切で忍耐強い。素晴らしい国です。
「どうもありがとうございます!」
『X4: Foundations』はPC(Steam)向けに発売中。Steamオータムセールの対象で、11月29日午前3時までベースゲームを50%OFFで購入が可能なほか、各DLCも割引中だ。