寿司屋経営と潜水を融合させヒットしたゲーム『デイヴ・ザ・ダイバー』はなぜ生まれたのか?「早期アクセスは自己採点80点のゲーム」だけど、支持される理由
Steamにて2022年10月に突如早期アクセス配信開始され、瞬く間に人気を獲得した『デイヴ・ザ・ダイバー』。謎の男デイヴが、海に潜り、捕った魚を寿司屋に出す。昼パートにダイビングをし、夜パートで寿司屋経営をするというユニークなシステムは注目を集めたほか、確かな質の高さがクチコミを呼び、現在では現在Steamでは1万件を超えるレビューの内97%が好評の「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。
本作を開発するミントロケットとは何者だろうか。実は大手ゲーム会社ネクソンのサブブランドなのだという。ミントロケットは2022年4月に新設されたばかり。少数精鋭のメンバーで、既存の開発プロセスにとらわれないユニークでチャレンジングなタイトルを創出することを目的に作られたという。とはいえ、そのチーム体制は謎が多い。
ミントロケットとはどういった集団なのか、1作目からこれほどの評価を得た要因はどこにあるのか。6月28日に正式リリースを控える『デイヴ・ザ・ダイバー』の成功の秘訣を、本作プロデューサーでありディレクターのファン・ジェホ氏にうかがった。
──まず初めにファンさんの経歴と、ミントロケットに加わるに至った経緯を教えていただけますか。
ファン・ジェホ(以下、ファン)氏:
ネクソンのファンです。僕はネクソンに入社してもう15年になります。元々は海外の事業担当でした。いつの間にか開発の方に移って、最初は『エビルファクトリー』というモバイルゲームを作るところから始まりました。その時の開発チームは5人と、ネクソンにしてはすごく小規模なチームでした。『エビルファクトリー』はモバイルのハードコアなアーケードゲームだったんですけど、ユニークな部分があって反響は悪くなく、200万ダウンロード以上はされました。
その後、東宝さんとご一緒してゴジラIP65周年の記念作品として『ゴジラ ディフェンスフォース』というゲームを開発しました。これも評価的には悪くなかったと思います。『ゴジラ ディフェンスフォース』も6人ぐらいの小規模チームで作ったんですけど、ちょうどその頃会社でも、特定のプロジェクトに限らず、社内から独創性のあるクリエイターなどの人材を発掘する目的で、ミントロケットという別ブランドを立ち上げることになり、ゲームの開発経験があった僕にも話がありました。
ミントロケットは、早い段階でプロジェクトを立ち上げ、早期アクセスやユーザーテストを通じて直接ご意見やフィードバックをいただき改善しながら完成させる、という主義を持って新設されています。『エビルファクトリー』を開発していたときも、ゲーム自体の独立性は保証してくれていたんですが、それだけでなくシステム的な独立性も必要だと感じていて。事業的にも開発的にもスピーディさと効率を追い求めるプロジェクト方針にすごく共感でき、ジョインすることにしました。
──ありがとうございます。ネクソンさんのゲームは、ターゲットをセッティングして、そのターゲットに対してリーチする製品が多いと思うのですが、『デイヴ・ザ・ダイバー』どのようなプレイヤーをターゲットにしたゲームなのでしょうか。
ファン氏:
そこはほかのネクソンのゲームとちょっと違う部分です。大体の会社はターゲット、オーディエンスを設定して、それに合うゲームを戦略的に作るじゃないですか。たとえば僕が昔開発した『ゴジラ ディフェンスフォース』などは、ゴジラファンがどういうふうにモバイルゲームをやるのか、ゴジラファンを対象として戦略的に作ったゲームなんですが、『デイヴ・ザ・ダイバー』はそういう設計ではなかったんです。誰向けに作るかは設定せずに開発を始めました。
しいて言えば、ピクセルのゲームで寿司を題材にしているので、日本のユーザーに受けるかなと期待したんですが、意外とアメリカで好評だったり、日本の文化が好きなヨーロッパのユーザーがすごく気に入ってくれたり、意外と中国でも売れています。自分が面白いと思うゲームを作ったら、どこかには同じ感覚を持っている人がいるんだなと、結果的に思いました。
──本作はシングルプレイゲームでありながら、同時接続プレイヤー数が多いですよね。最近でも数千人がプレイしていることもありますが、こういった盛り上がりは想像していましたか?
ファン氏:
本当に想像しておりませんでした。そもそもネクソン内部でこういったシングルプレイゲームをリリースする経験が少なかったんです。早期アクセス自体も、内部で論議するよりは、オープンにユーザーの話を聞こうと始まりました。早期アクセスは「何が成功か」を規定せずに、パブリックテストのような感じで始めたんですよ。いろいろとフィードバックを受けて、それをもとに改善して正式版を本当に良いものにするプロセスだったんですけど、意外と初期の反応が良かったです。嬉しいは嬉しいんですけど、プレッシャーではありました。
──私も早期アクセスタイトルはいろいろプレイしますが、『デイヴ・ザ・ダイバー』は早期アクセスの時点でかなり完成度が高く感じました。初期から完成度が高かったことも、97%が好評の「圧倒的に好評」ステータスを獲得するなど、高い評価を得ている一因かと思います。
ファン氏:
それも意外な反応でした。早期アクセスの経験がないので、どのぐらいの完成度でリリースすればいいかも全然知らなかったんです。「このぐらいの完成度だと批判されるんじゃないか」と思っていたんですけど、意外と完成度が高いと評価してくださり、ありがたく思っています。
──早期アクセスの経験がなかった分、要領がわからず配信時点でいろいろ詰め込まれており、それが評価されたのは面白いですね。
ファン氏:
今97%に好評いただいていますが、僕としては『デイヴ・ザ・ダイバー』の早期アクセス版は80点ぐらいのゲームだと思っています。のこりの17ポイントは「この開発チーム頑張ってるな」という好意で入っていると思うんです。各種レビューであったり、YouTubeのコメントなど見ると「この開発チームはすごく対応が早い」「親切でユーザーの声をよく聞いてくれる」みたいな反応があって、こんなに頑張っているのにネガティブな評価をつけるのは、ちょっと申し訳ないなと思って、低評価をつけてないんじゃないかなと思います(笑)
──確かにアップデートのサイクルも早く、開発の頑張りが伝わるところではあります。
ファン氏:
これは自慢できる部分なのですが、ユーザーさんからのフィードバックとか不具合報告には早く対応するようにはしていました。公式Discordチャンネルにユーザーさんから「こういうバグがある」「こういう機能が欲しい」「UIとかチュートリアルが分かりづらい」などたくさんフィードバックを頂いたんですが、そういった要望をリストアップして、早めに対応したのが現在の評価を維持できた理由だと思っております。素早い対応をしてくれた開発チームにも感謝しています。
『デイヴ・ザ・ダイバー』の早期アクセスを始めるときはすごく心配だったんですけど、少し自信はありました。というのも、リリース前に内部でのテストプレイや、海外の方でのテストも結構やったんです。そのフィードバックがあったので、万人に受けるのかはわからないけど、好きな人はいる、ぐらいの自信を持って始められました。そういう形で、経営陣の事業的な戦略のみではなく、ゲーマーさんにプレイしてもらい、そのフィードバックをいただいて改善していくのが、ミントロケットブランドゲームの一番の特徴点と思っております。
海洋探索×寿司屋経営、ユニークなアイデアはどのようにして生まれたのか
──ここからはゲーム内の要素について質問させていただきます。海底探索と寿司屋経営、なぜこの2つを組み合わせて1つのゲームにしようと思ったのですか?
ファン氏:
元々僕はネクソンの子会社のNeopleで開発をしていたんですが、その会社が済州(チェジュ)という島にあるんです。会社の近所に居酒屋さんがあったんですけど、店長さんが朝海に潜って魚を獲って、それを夕方に料理して出す店で、コンセプトがすごく面白いと思ったんです。これはゲームにしたら面白いんじゃないかなと、それがアイデアのきっかけでした。
僕自身はダイビングは趣味ではなかったんですけど、調べてみたら海はすごくいいダンジョンだと思ったんですよ。僕は『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』が昔すごく好きだったんですが、海がまるで不思議のダンジョンのように思えたんです。生態とか、環境とか、天気によっても入るたびに違う状態になるじゃないですか。そこで得られる海の生物とか資源も全然違うので、これはゲームのダンジョンに近いんじゃないかなと思いました。
海に入って水産資源を獲って、これで何をするのかを考えたんですが、やっぱり魚ですから、
料理にするとかお寿司にして、経営してお金を儲けて、装備をそろえてもうちょっと深いところに行くサイクルが、面白いんじゃないかなと、そういうコンセプトでプロトタイピングを始めました。
──なるほど。私は『デイヴ・ザ・ダイバー』をプレイしていて、海の中にオリーブオイルやら醤油やらが落ちているのがシュールで面白かったんですが、あれも「海はダンジョンだ」という発想から生まれたものなのでしょうか。
ファン氏:
『デイヴ・ザ・ダイバー』の舞台であるブルーホールは「ONE PIECE」のオールブルーみたいなところで、何が起きてもおかしくない場所なんです。巨大な生物もいますし、地形も変わりますので、面白そうだったらやってみようと思っていろいろ入れました。正式版では、野球ボールも海の中で投げれるようになっていまして、こういうのも全然OKじゃないかなと思っています。
──確かにいろいろとコミカルでファンタジーな要素は多いですね。私はそもそもとして『デイヴ・ザ・ダイバー』というゲームタイトルもちょっとコミカルだなと思いました。「ダイバーのデイヴ」……。このタイトルにした理由などありますか?
ファン氏:
キャラクターの名前でデイヴ以外は思いつかなかったんです。“デブ”で“ダイバー”だったらデイヴじゃないかと思って(笑)上層部はあまり日本語がわかる人がいなかったので、そのままOKになったんじゃないかなと思っています。
──特に反対などもなく?
ファン氏:
そうですね。ちょっと裏話になるんですけど『デイヴ・ザ・ダイバー』は元々モバイル版で制作されていたんです。モバイル版は、タイトルは同じなんですが、今とは全然違うゲームで。それをPC版に変えるという話になり、タイトルも変えようかと話があったんです。ただいろいろ考えた結果、これ以外にいいタイトルはないなと思って、そのまま使いたいと上に報告して使っています。
──ありがとうございます。このゲームは普通のゲームと違い、メインコンテンツの柱が1本あるのではなく、マリンカ、エコウォッチャー、クックスタなど、達成目標となる小さな柱が横にたくさんあります。ストーリーコンテンツを長大にせず、小さな目標を増やした理由はなんでしょうか。
ファン氏:
ゲームのストーリーを広げていくのも面白いとは思います。ただ、海を調べてみたときに、面白い要素がいっぱいあるなと思って、これをメインのストーリーで全部表現するのは難しいと思ったんです。新しい海の種族と協力するのがメインストーリーなんですけど、それのみがこのゲームの魅力ではない、ひいては海の魅力ではないので。
たとえばストーリー上でマリンカみたいに、特定の種類の魚を獲れ、みたいなのを入れると、ストーリーがモバイルゲームのクエストやるみたいに“宿題”になっちゃうので、そういうのは別途のシステムでできるようにしています。僕の中に“海の魅力リスト“があって、それぞれの魅力を伝えるのにベストな方法は何かと思っていろいろ模索していたら、いつの間にかすごく多く柱が立っている感じになっておりました。
──たしかにいろいろな達成目標があることで海の魅力が多角的に伝わりますし、ゲームのサイクルとかペースもすごく楽しくさせていると思います。
ファン氏:
はい。ディレクターとして難しいと感じている部分なんですけど、このゲームでは海の楽しさを表現するシステムを作って、それを後からペースに組み込む形で開発しているんです。ペースを作るためにシステムを作るんじゃなくて、楽しいものを作ってからペースを作り出しています。このペース配分は僕の担当なんですが、このシステムはどの時期に出たら一番面白いかを判断するのが結構つらくて。早期アクセスの10時間ぐらいのボリュームなら、ずっとテストしながら、このくらいかなと変えて試せるんですけど、正式版はそれよりいろいろとボリュームが増えているので、ペース調節がうまくいっているのか、一番気をつかっている部分です。
──私は昼と夜でパートが違うゲームもよく遊ぶのですが、作品によっては昼夜にあまり連動性がなく、別々になっているゲームもあるかなと思います。『デイヴ・ザ・ダイバー』は昼と夜がしっかり連動しているなと感じるのですが、そこの設計でこだわった部分はありますか。
ファン氏:
そもそもとして素材がコンセプト的に完全に繋がっている部分が大きいと思います。魚を獲って、その魚で料理をするのが、すごく自然に受け入れられる部分かなと。元々のプロトタイプでは昼にもお寿司屋がオープンできたんです。それも自然ではありますけど、集中度が薄くなっているように感じて、これはセカンドプロトタイプで変えました。昼はダイビングをして、夜だけ寿司屋をやる。「深夜食堂」という日本の漫画原作のドラマがすごく好きなんですけど、そういうふうに店は夜だけオープンして、そこで人と人の話が続いていく、そのきっかけとなるのが昼に獲ってくるお魚。そういうふうに、コンセプト的にすごく滑らかに続いているのが、違和感がないんじゃないかなと思っています。
──確かに、昼間も寿司屋経営ができると、選択肢は広くなりますが、選択肢が広がりすぎて難しい側面もありますよね。逆に、ダイビングに関しては夜に行うこともできますが、これはなぜでしょう。
ファン氏:
夜中のダイビングは昼に素材を取れなかったときに入る用の救済措置、一種のチートキーとして作ったんです。元々の意図はそうなんですが、夜の海の出来が結構良くて。夜の海は何か美しい感じがするじゃないですか。夜の海だけのボス戦とか、夜行性のお魚とか、そういう要素は後から追加しています。
──確かに夜の海がアンロックされるのもゲームを進めてしばらく経ってからですし、ここもペース配分としてうまいなと思いました。
ファン氏:
一番こだわっているのはペースとリズムですので、そこをよく見てくださったらありがたいです。
──もうひとつこのゲームの特徴として、昼夜パート分けのゲームなのに探索パートの時間の制限がほぼない点が挙げられると思います。海から出るときは大体荷物がいっぱいになったときが多くて、タイムアップでの撤収というかたちにならない。これは意図した整形ですか。
ファン氏:
そこはちょっと心配している部分です。おっしゃるように荷物が完全にいっぱいになるまで海から出ないユーザーもいますが、僕ら開発チームはそういったゲームプレイをあまり想定していなかったんです。そこまで海にいる必要がないというのが開発の考えだったんですけど、意外とそういうユーザーが多くて。それもありますし、後半になるとダイビングパートのプレイ時間が長くなるんです。深海に潜るとなると序盤より移動距離とか時間がかかりますし、酸素の容量も大きくなりますので。序盤の寿司屋とダイビングのペース感が、だんだんずれていくんです。
ただ、潜水のパートを制限するのはあまりいいデザインではないと思っています。僕は早期アクセスのボリュームを10時間ぐらいと見積もっていたんですが、実際には30~40時間ぐらいプレイしている方がいます。そういったユーザーが何をしているか反応を見ると、「単に海を探検していろいろな魚を獲るのが楽しい」であったり「ただただ海の環境を見て癒されている」という反応があるんです。それをゲーム的に制限するのはあまりいいデザインではないと思っています。ですので、この部分は寿司屋パートにコンテンツを追加することでバランスを取ろうとしています。
──そのほか、ユーザーはあまり気が付いていないけど、配慮している、ペース配分にこだわったところがあれば教えていただけますか。
ファン氏:
たとえば深海に潜るときにライトがないと動けないだとか、バランス調整としてわざと不便要素を入れているのですが、そういう要素でも、後でユーザーさんのプレイパターンを見て、改善すべき点は改善しています。たとえば今のバージョンでは、ライトは充電式になっていて、時間が経つと充電するようにしました。海の探検が好きなユーザーさんに合わせてゲームの形を変えていく方針で、利便性は結構上げています。
ゲームデザインやバランスとしては、海にいる時間はもうちょっと制限したい感じもあるんです。あまりに長居すると、僕たちが考えたパターンとペースがちょっとずれる部分がありますので。でもみんなが好きだったら、オープンに楽しく探索できるようにした方がいいんじゃないかなと思っています。
豪華なピクセルアニメーションに込められた開発者の“執念”
──ゲームをプレイしていると、寿司屋パートで、非常に凝ったピクセルアートのアニメーションが挿入されます。かなりの凝りようですが、こういったムービーシーンはなぜできたのですか。意味不明なぐらいの凝りようなので、ピクセルアートのアーティストが暴走してしまったのではないかと思っていました。
ファン氏:
(笑)魚を獲って寿司にする、それだけをやっているとすぐ飽きがきます。なので、何かアクセントを入れてみようとしてできたのが、ミニゲームとかカットシーンなんです。開発チーム内部では、ずっとテストプレイをして、「このぐらいのタイミングで新しいコンテンツが出たら面白いんじゃないか」を追求しています。僕は『龍が如く』が個人的に好きなんですけど、あのゲームは本筋はヤクザの話ですが、いろいろとミニゲームとかが入っているじゃないですか。戦闘ばっかりやっていると飽きる部分が来るので、何かリフレッシュさせながらゲームを進めていると思うんですけど、そういうのをイメージして作っています。
カットシーンをピクセルアーティストさんに依頼してみたら、すごく嬉しがって1個2個作ってくださったんですが、入れてみたら「1~2個じゃあ足りないな」と思って、だんだん多く作る形になってしまったんです。その方は元々ほかのキャラクターデザインとかもやっていたんですけど、今はカットシーンしかやっていません。もう止められない感じですね(笑)そういう意味では、暴走とも言えるかもしれません。自分からいろいろアイデア出して、結局自分の作業になるので、アイデアを出しすぎると自分がすごく苦しいんですけど、面白がっているのでどんどんやってみようって形になり、いろいろやっております。
──そんな執念で作ってらっしゃるんですね。でもよく見るイベントで出てきがちなので、最後はスキップすることに……。
ファン氏:
飛ばしちゃいますよね。ストリーマーさんの配信を見ていても、最初はカットシーンで笑っているんですけど、後で飛ばすんですよ。それをピクセルアーティストさんが見ると「もう1個作ろうかな」と。自分の作業したものを誰かに飛ばされるのはすごく悲しいじゃないですか。だから、後半になるとみんな飛ばしているのを見て、もうちょっと入れよって話になって、今も頑張っています。
──なるほど(笑)毎回新しいカットシーンが流れれば、誰も飛ばさないと。
ファン氏:
新しいシーンが出たら飛ばさないじゃないですか。できればもうちょっと作って誰も飛ばさないようにしたいと思います。
──そうですね。もう新しいカットシーンないかなと思ったときに、カレーのイベントで新しいのが出てきて、また出てきて驚きました。ということは正式リリース版ではまたカットシーンが増えていますか?
ファン氏:
正式版でもいろいろカットシーン入れています。早期アクセス版ではストーリー上のカットシーンはなかったんです。完全に演出的なカットシーンしかなかったんですけど、正式版ではもうちょっとストーリーの中にもカットシーンを入れるようになっております。ピクセルのゲームは3Dみたいにいろいろなものを見せるのが難しいじゃないですか。カメラの動きとかそういうのができないですから、紙芝居みたいに話をするぐらいで精一杯なんですが、カットシーンは受けもいいし、いろいろ見せられるので、ストーリーにも追加しています。
──それは楽しみです。そういったカットシーンのディレクションは、ピクセルアーティストさんが自分でやってらっしゃるのですか。
ファン氏:
一応僕もガイドは出しています。たとえば「『北斗の拳』をパロディーをしてみよう」ぐらいの、すごくラフな感じですね。ケンシロウの動きのサンプルを送って「こんな感じの動きをバンチョがやったら面白くない?」と言ったら、そこからはピクセルアーティストさんが自分で頑張り始める形になっています。
──アイデアはファンさんが出して、それを種に自由に描き上げていく感じなんですね。寿司の表現などにもかなり気合を感じるので、相当の寿司好きが描いているのではと想像していました(笑)ちなみにファンさんもお寿司はお好きですか?
ファン氏:
寿司じゃないですが、僕はウナギと鰻重が大好きなんですよ。日本に行くと絶対食べるんですけど、コロナの影響でもう2年ぐらい行けなくて。次、絶対食べるぞと(笑)あと京都で食べたサバの寿司も本当に美味しかった記憶があって、それも行きたいですね。
正式リリース後も深まる『デイヴ・ザ・ダイバー』の世界。今後の目標は?
──本作は6月28日に正式リリースを迎えるわけですが、先ほどお話にあった、ライトが充電式になったなど、ストーリーコンテンツ以外の快適さにまつわるアップデート内容をいくつか教えてください。
ファン氏:
海の中でも寿司屋と養殖場に何匹の魚がいるか、魚の情報を見られるデバイス「フィッシュトラッカー」を追加したのが一番のQoLアップデートだと思います。これはすごく要望が高かった機能です。元々実装していなかったのは、序盤はそれほど海の中のパートが長くなく、それほど魚の情報を見なくてもいいと判断したからです。10分ぐらいでみんな海から出ますから。
ですが後半になると、魚人族の村もありますし、なにかと海の中で過ごす時間が長引きます。魚の情報をどこかで見れないと「何とったっけ、何匹いるっけ」とかが分からなくなるんです。なので、この機能は後半には必須だなと思って入れました。
もうひとつ、海に入って新しい銃器や銛を拾うと、もともと装備していた物はなくなる形になっていたんです。拾ってみて、あまり気に入らなかったとしても、元に戻せなかった。開発チームとしては、完全に自分の装備がなくなるわけではなく、次また潜ればOKですから、そういうとこはこだわっていなかったんですけど、これもやっぱりユーザーさんの話を聞いて、正式版では新しい銃器を拾うと元の銃器が落ちるようにしました。新しいのが気に入らなかったら元のアイテムを拾うことができるようになっております。
──それは嬉しいアップデートです。私もいつもアイテムの取捨選択ですごく迷っていたところです。逆に実装したかったけど正式リリースに間に合わなかった要素などはあるのでしょうか。
ファン氏:
海の魅力はすごくいっぱいあって、それを全部表現してみたいというのが僕個人の欲望だったんですけど、本作の開発チームは25人ぐらいで、それほど大きくないんです。なので、実装したかったけど断念したアイデアもあります。
たとえば、海でいろいろ探検をしている際に、発見する要素をすごく入れたかったんです。以前見たところでも、新しい道具を持って行くと別の道が開けて、もうちょっと奥まで探検できるとか。たとえばツルハシを持って壁を崩したら、そこの中に難破船があって、そこで何かをやるとか。そういうのをすごくやりたかったんですけど、コストが結構かかる作業ですので、実現できていません。リリースしてからでも機会があったらアップデートかDLCでやってみたい部分です。
もうひとつ、ブルーホールはランダム生成される場所なんですけど、後半になるとストーリーがメインになっていきますので、ランダム性がだんだんなくなっていくのが、ちょっと惜しいと思っています。
また、デザイン的に妥協した部分なんですけど、各コンテンツがちょっと浅いんですよ。悪い意味ではなく、カジュアル性と言いますか、今の“ノリ”を保つためにわざと浅くしている部分もあるんですけど、そのせいでやりこみ要素も浅くなっているのはちょっと惜しくはあります。
──確かに、寿司屋のバイトを雇う要素がありますが、重要な要素かとおもいきや、結構誰を雇ってもOKだったりしますね。
ファン氏:
実は早期アクセス期間は、プランナーさんでレベルデザインをメインに担当している方がいなかったんです。現在はいますので、正式版のバランスは早期アクセス版よりもうちょっといいんじゃないかなと思っています。でもそこはもう少し、バイトの組み合わせとかを研究できるような深さがあったらいいなとは思っています。
──いい意味で緩いところがこのゲームの魅力でもあるので、調整は難しそうですね。
ファン氏:
そうですね。ここはちょっと考える必要がある部分だと思います。海のゲームは結構深刻なものが多いと思うんです。『ABZÛ』とか『サブノーティカ』のような。どれもいいゲームなんですけど、すごくシリアスですよね。カジュアルで面白い海のゲームはあまりないんですよ。そういった理由で『デイヴ・ザ・ダイバー』の浅く緩い部分を好きになってくださるユーザーさんも多いと考えています。
女性のストリーマーさんがこのゲームを遊んでくださっているのを結構見かけるのですが、すごく軽い経営シミュレーションゲームとして遊んでくださっているようで、ここを本格的なシミュレーションにしたら、こういったユーザー層が楽しめなくなるんじゃないかなとも思いました。
──確かに納得です。今後についてのお話もお聞かせください。『デイヴ・ザ・ダイバー』は社内での評価も高いのではないでしょうか。支援は得られているのでしょうか。
ファン氏:
そうですね。これを言ったら自分のサクセスストーリーみたいになっちゃうんですけど(笑)本作の開発はミントロケットがない時期から始めていました。ネクソンはオンラインゲームの市場ではすごく強いんですけど、シングルプレイゲーム方面にはあまり詳しくなかったんです。開発は僕らのチームでやっているんですけど、このゲームをどうやってみんなに知らされるように伝えていくかは、すごく難しい部分だったんです。今こういうふうに日本のメディアさんも取材してもらえますし、ゲームの評価も悪くないので、自分でやってみたかった部分と会社でいろいろと支援をいただきたい部分の話が、もうちょっと楽になったのかなと思っていて、それはすごく嬉しい部分です。『デイヴ・ザ・ダイバー』をリリースしてから、社内でも「何か手伝えることはないか」とよく聞かれるんですよ、そういうとこは本当嬉しいと思います。
──Nintendo Switch版の開発もアナウンスされていますが、次にリリースするプラットフォームとしてNintendo Switchを選ばれた理由を教えてください。
ファン氏:
すごく自然に次はNintendo Switchで、となっていました。『デイヴ・ザ・ダイバー』が今ほどみんなに知られてないときでも、『デイヴ・ザ・ダイバー』を検索すると「デイヴ・ザ・ダイバー スイッチ」とかが関連検索に出ていたんです。みんなNintendo Switchというプラットフォームと『デイヴ・ザ・ダイバー』の相性がいいと思っているらしくて。実際去年「G-STAR2022」という韓国のゲームショウでSwitch版のデモを出してみたんですけど、すごく評判が良かったんです。なので次はNintendo Switch版と思っております。
プラットフォームについてはSteamのみでやりたいという考えは全然なかったんですけど、ネクソンもそうですし僕の開発チームもそうですし、Nintendo Switchを含め家庭用ゲーム機向けゲームの開発経験がまったくないんですよ。ひとつひとつやっていきたいので、今はSteam版に集中しています。最適化ができてないゲームってすごくバッシングされるじゃないですか。いっぺんに全部やるよりはひとつやってから次、その次と動こうとなっていますので、今の評価が続いたら、プラットフォームもいろいろ広げていきたいと思います。また本作はファンタジーではなく現実寄りのゲームですので、いろいろコラボイベントや、DLCをやりたい要望もすごくあります。
──楽しみです。今後の『デイヴ・ザ・ダイバー』の展開にも期待しております。本日はありがとうございました。
『デイヴ・ザ・ダイバー』はPC(Steam)向けに発売中。6月28日に正式リリースされ大型アップデートも実施される。また今後はNintendo Switch版の発売も予定されている。
[執筆・編集: Junichi Matsui]
[聞き手・編集: Ayuo Kawase]