海洋交易SLG『ポート ロイヤル4』(Nintendo Switch /PS/Steam)は熱中できる上に「大航海時代」も学べる。歴史に疎かった筆者の学びの軌跡
『ポート ロイヤル4』は、17世紀のカリブ海を舞台にした海洋交易シミュレーションだ。プレイヤーはスペイン・イングランド・オランダ・フランスのいずれかの植民地の知事となり、周辺都市との交易によって街に多くの物資をもたらしつつ資金を稼いでいく。稼いだ資金を元手に交易船団を増やしたり、都市にさまざまな施設を建設したりすることもできる。交易を通し、生活のあらゆる側面で領民の生活を豊かにするのがこのゲームの目標である。
2020年9月にPC版がリリースされており、2021年9月2日にはカリプソメディアジャパンよりPS4/PS5/Nintendo Switch版の販売と、PC版の日本語対応が開始される。 なお海外のKalypso MediaからはXbox One版が配信予定だ。
結論からいえば、『ポートロイヤル4』は硬派な港交易シミュレーションとして世界史好きの方々におすすめだ。しかし、実は世界史に疎い人間が大航海時代を学ぶにもうってつけの作品だ。かくいう筆者も世界史に強い方ではなく、本作からたくさんのことを勉強させていただいた。本稿はコンシューマー版を先行プレイする機会を得た 筆者が、『ポートロイヤル4』を通じて大航海時代について学んだことをまとめたコラムである。
本題に入る前に、少しだけ自己紹介をさせていただこう。筆者は世界史に明るい方ではないが、高校受験を真面目にやったおかげか、中学校の社会科で習った内容はなんとなく覚えている。高校では日本史選択だったので日本国内で起こったことについてはある程度知っているが、遠い西洋で起こっていた出来事についてはピンとこないことも多い。おおよその時代の流れはわかるものの、細かい時代のできごとにフォーカスすると知らないことばかりである。
大航海時代というものがあったことはもちろん知っている。西洋諸国がこぞって海の向こうへと繰り出して、日本には鉄砲やキリスト教がやってきた時代だ。しかし、大航海時代にどこでどんな国が幅をきかせていて、どんな対立が起こっていたのか……そのレベルの話になってくると、パッと答えることはできない。
世界史に詳しい方々からすれば笑ってしまうような無知さかもしれないが、そのレベルの人間でも『ポートロイヤル4』は十分楽しむことができた。教養面での敷居の高さを感じる方もおられるかもしれないが、このゲームは世界史に明るくなくとも問題なく楽しめることは筆者が保証しよう。『ポートロイヤル4』は世界史の知識抜きにしても、交易シミュレーションとして洗練されている。ゲームを楽しむついでに世界史まで勉強できるという、大変お得なタイトルなのだ。
さて、前置きが長くなったが、ここからは筆者が『ポートロイヤル4』から学んだことについて書かせていただこう。もったいぶったが、世界史初心者による“気付き”のまとめである。夏休みの自由研究を見るような気持ちで、ゆるりとお付き合いいただければ幸いだ。
そもそも大航海時代ってなんだ?
「ポルトガル、スペインによる新航路や新大陸の発見を皮切りに、 ヨーロッパの主権国家(オランダ、イギリス、フランス)が海外進出を果たした大航海時代。 各国は17世紀より本格的な植民地獲得競争に乗り出し、カリブ海はその覇権争いの舞台となりました」(『ポートロイヤル4』アナウンストレイラーより)
大航海時代と聞いて筆者がまず思い出したのが、コロンブスとマゼランの名前である。ご存じの方も多いだろうが、コロンブスはヨーロッパから西へ航海してアメリカ大陸を発見し、マゼランは世界一周を成し遂げた人物だ。しかし、大航海時代の先駆けとも言うべき彼らは『ポートロイヤル4』には出てこない。『ポートロイヤル4』の舞台は彼らの活躍からおよそ1世紀後、西暦1600年前後だからだ。
『ポートロイヤル4』のキャンペーンシナリオでは、1570年ごろのスペイン、1589年のイングランド、1600年ごろのフランス、1620年ごろのオランダが舞台となる。キャンペーンの年代はそれぞれの国が隆盛を誇ったり、大きな転機が訪れたりした時期に設定されている。大航海時代における全盛期を迎え、海戦においても敵なしであった1570年ごろのスペイン。私掠免許状を発行し、私掠船に船舶を襲撃させることでスペインの弱体化を目指す1589年のイングランド。植民地の重要性に気付き、着々と勢力を伸ばしはじめた1600年ごろのフランス。スペインからの独立を果たし、アメリカ大陸やアフリカとの交易促進のため西インド会社を設立した1620年ごろのオランダ。4つの国の植民地を舞台に、プレイヤーは植民地の知事業務をこなしていくのだ。
各国の背景のほかにも、キャンペーンから学べることは多々ある。たとえばスペインのキャンペーンでは、敵国家であるイングランドが私掠船を送り込んでくる。この私掠船がかなり厄介で、都市から物資を略奪したり、船から金品を奪ったりと、人の庭でやりたい放題の限りを尽くすのである。ひどく腹が立つのだが、それによってイングランドのやったことが強く印象付けられ、国家間の関係を覚えやすいのも確かである。実際に自分が感じたことから大航海時代の列強諸国の関係を学べるのも、『ポートロイヤル4』の面白い部分といえる。
さて、少し話は逸れるが、ここまでポルトガルの名前がほとんど出てこないことに筆者は少し驚いた。戦国時代に西洋諸国と接触したころの日本史において、やたらとポルトガルが出てきた記憶があったからだ。種子島に漂着して鉄砲を伝えたのはポルトガル人だし、フランシスコ・ザビエルが日本にやってきたのにもポルトガルが一枚噛んでいたはずだ。結論から言うと、1570年ごろのポルトガルはすでにスペインに併合されており、急激にその地位を失っていたようだ。お手本のような栄枯盛衰ぶりに、かつてテレビでよく見たプロスポーツ選手の現在を調べたらすっかり落ちぶれていることを知ったときのような、そんなショックを受けた。
ポートロイヤルってどこ?
社会科のテストでは、大航海時代にヨーロッパ諸国がこぞって海外を目指した理由についてよく問われた記憶がある。答えは「肉や魚の保存に使う香辛料を輸入するため」なのだが、『ポートロイヤル4』の輸出入品目に香辛料は存在しない。なぜなら、ヨーロッパ諸国が高値で取引をおこなっていた香辛料は、気候の関係でアジアでしか育たないからだ。『ポートロイヤル4』の舞台はタイトルどおりポートロイヤル周辺。ではポートロイヤルはどこなのかというと、現代でいうメキシコの東側に位置する、カリブ海の都市である。
「ポートロイヤルは、『世界で最も豊かで最もひどい町』との異名をとる港町。 バッカニア(海賊)たちが略奪した宝物を持ち込み消費する場所としても有名でした」(『ポートロイヤル4』アナウンストレイラーより)
恥ずかしながらポートロイヤルという都市について、筆者はほとんど知らなかった。ディズニー制作の映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のはじまりの地としても知られ、エドワード・ティーチ(黒ひげ)などカリブ海の有名な海賊が集まる場所でもあったそうだ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」は鑑賞したが、もう10年以上も昔のことだ。もしかすると『ポートロイヤル4』プレイ後のいまなら、当時とはまた違った発見があるかもしれない。
当時のヨーロッパ諸国は植民地獲得競争でアメリカ大陸の都市を奪い合っていたが、その影響は現代にも残っている。たとえば、中南米諸国の公用語にスペイン語やポルトガル語が多いのは、新大陸を発見した西洋人たちが使っていた言語がそのまま定着したためだ。先日おこなわれた東京オリンピックにも中南米諸国の選手が登場したが、入場行進の際に国家成立の歴史的背景として「元フランス領」「○○年前にイギリスから独立」といった紹介がされていた国もあり、当時のできごとが現在につながっていることがわかる。歴史は過去のことではあるが、決して“終わった”ことではないのである。
海賊とバッカニアって何が違うの?
『ポートロイヤル4』では、プレイヤーの分身としてはじめに4つの職業をもつキャラクターのうち1人を選ぶこととなる。交易許可なしにあらゆる都市と商売ができ、戦争中でもすべての国と取引が可能な商人。海戦時、撃破した船を掌握して命令を出せるようになる冒険家。海賊行為で失う名声を半分におさえられる海賊。私掠免許状が90%割引で購入できるバッカニア。プレイスタイルにあわせて好きなキャラクターを選べばよいが、初心者は交易の難易度がぐっと下がる商人がおすすめだ。
さて、4つの職業のうち、海賊とバッカニアにはある共通点が存在する。どちらも都市や船を襲い、品物を強奪することを飯のタネにしている点だ。しかし、海賊による略奪は法に触れるが、バッカニアによる略奪は私掠 (しりゃく)と呼ばれ、国からの扱いはまったく異なっていたようだ。
筆者はまず「私掠」という言葉にあまり馴染みがなく、「“私”的に“掠”(かす)める……!?字面からして悪そうだな……」と良い印象を抱かなかった。しかし実際はその印象とは真逆で、私掠は国から許可された合法的略奪行為のことである。私掠船は国から私掠免許の発行を受けることで合法的に敵国の都市や船舶を襲うことができる、いわば国家公認の海賊船なのである。ちなみに、世界で初めて私掠免許を発行したのはイングランドで、キャンペーンのシナリオでも私掠について触れられている。
ゲーム内での扱いも両者は真逆である。『ポートロイヤル4』は植民地の総督から指令を受けて交易をおこなうゲームで、名声が高まるほど総督から評価され、ゲームを円滑に進めやすい。名声を高めるとポイントを獲得することができ、そのポイントを消費することで新たな建築物などがアンロックされるからだ。総督から免許を受けての私掠行為は自分の名声を高めることにつながるが、海賊旗を掲げて同じ行動をおこなえば逆に名声は下がってしまう。また、自身が治める都市の周辺に海賊が現れることもあり、彼らを撃破することで名声を高めることもできる。やっていることは同じでも、国が認めていなければ真逆の評価を下される。海賊とバッカニアは、似て非なる職業なのである。
交易のイロハ
安く仕入れて高く売る。商売の基本である。ある商品について需要が高まれば都市内の価格は上昇し、逆に供給過多になれば価格は下落する。この市場原理を利用し、物資が有り余っている都市があれば買いつけをおこない、物資の足りない都市に輸送して売ることで差額をもうけることができる。各都市の需要と供給を見きわめ、必要な物資を必要な都市に運ぶことが『ポートロイヤル4』の交易の基本となる。
これは筆者が『ポートロイヤル4』の指南役NPCであるサミーに怒られたことなのだが、都市Aから都市Bまで積載量ギリギリの積荷を運んだとして、帰りに船がカラッポだと効率が悪い。肩に鮮やかな羽色のインコを乗せた“ザ・海賊”といった風貌のサミーは、チュートリアルでもプレイヤーを鍛えてくれる先輩船乗りである。プレイ中もプレイヤーの行動に目を光らせ、妙な動きをしているとすぐに教えてくれる頼もしい存在だ。
サミーの言うとおり、空荷は避けたほうがいい。都市Aから都市Bに積荷を運んだら、そこで安く売られている物資を積み込んで、その物資が足りていない都市Cに寄って取引を済ませてから都市Aに帰るといった工夫が必要だ。しかし、航路が複数になってくると、手作業で船を走らせるのはいささか大変になってくる。そんなときは、交易ルートを自動化することもできる。自動化した交易ルートでは船団は指定された都市を回り、プレイヤーが損をしないように物資供給量に応じて自動売買をおこなってくれる。とはいえ、自分で好きにあれこれ買い付けて、物資が足りていない都市で売り払うのもかなり楽しい。マップ上ではランダムでイベントが発生することもあるので、自由に動かせる船団を余分に作っておくのもおすすめだ。
喫水ってなに?
交易用の船団を編成していると、見慣れない言葉を発見した。船の「喫水 (きっすい)」という単語である。調べてはじめて知ったのだが、喫水とは船が水上に浮かんでいるときに船体がどれくらい深く沈んでいるかを指す言葉なのだそうだ。 喫水が深い船は浅瀬では海底に船底を擦りやすくなるため、速度を落として注意深く走らなければならない、といった感じだろうか。サイズが大きい船や装備が多い船は単純に船体の重量が増えるため、喫水が深くなる傾向があるようだ。
『ポートロイヤル4』のゲーム内では、喫水が深いほど沿岸や浅瀬での船の速度は遅くなり、喫水がもっとも深い船では60%も速度を落とさなければならないのだ。ざっと見たところ、大きい船や装備が多い船が、喫水が深めの傾向にあるようだ。
海戦で知ったこと
『ポートロイヤル4』では、海賊と戦ったり、自分が私掠・海賊行為をする際に海戦をおこなうことになる。海戦は六角形のマスが敷き詰められたマップでのヘックス戦で、最大8対8の船によっておこなわれるターン制バトルだ。砲弾で船体にダメージを与えたり、敵の船に移乗攻撃を仕掛けたりと多彩な攻撃手段を有しているが、筆者が驚いたのが両舷にある砲台をうまく敵の方向に向けることで、1ターン中に2回攻撃をすることができる点だ。
当たり前といえば当たり前なのだが、船舶は真正面の敵には攻撃できない。砲台は右舷と左舷それぞれについており、側面に向かって撃つことしかできないからだ。そして、両舷に砲台がついているということは、自分の右側に陣取っている船を右舷側の大砲で攻撃したあと、うまく自分の左側に敵がくるように移動することができれば、左舷側の大砲でも敵を攻撃できるということだ。これに気がついたとき、筆者は少し感動してしまった。両舷に大砲があるんだから、そりゃあそれぞれきちんと使ったほうが無駄がない。
海戦に勝利すると、乗っ取った船や相手の積荷の一部を獲得することができる。うまみは多いが、前述したように海賊行為は名声を下げる行動だ。海賊プレイをするのでなければ私掠免許状を取得し、私掠船で敵国の船を襲うことをおすすめしたい。また、自分は交易がしたいのであって、戦闘にはそこまで興味がないという方もいるかもしれない。そういう方は戦闘をその船団の船長に任せ、すぐに結果を表示できる自動戦闘機能を利用するのも手だ。しかし、自動戦闘では戦闘中に使えるスキルに制限がかかるため、戦力が拮抗している場合は手動で戦闘をするほうが勝利に近づく。
プレイ中に表示される豆知識がおもしろい
さて、ここまでの筆者の気付きはあまりにも当たり前すぎて、『ポートロイヤル4』で学べることは自分にはないかもしれないと思った方もおられるかもしれない。しかし、筆者の無知さゆえに本作まで“浅い”ゲームだと思われてしまっては心外だ。『ポートロイヤル4』では年代が進むごとにちょっとした豆知識が表示され、当たり前以上の世界史情報も得ることができるからだ。
たとえば、1607年にはシェイクスピアの演劇がイングランド以外で初めて上演されたそうだ。イギリス東インド会社の船「レッド・ドラゴン号」の乗組員は、船長のウィリアム・キーリングの指揮のもと、当時シェイクスピアの演劇の中で屈指の人気を誇っていた「ハムレット」を演じたのだとか。そんなこと当然知っている、という方もいらっしゃるかもしれないが、本作にはこういった豆知識が260個以上も詰め込まれている。あなたの知らなかった大航海時代の知識が、きっとどこかに存在するのではないかと思う。
プラットフォームごとのパフォーマンス所感
さて、一通り説明したところで、購入検討者向けに、プラットフォームごとのパフォーマンスについて記載させていただこう。カリプソメディアジャパンによる『ポートロイヤル4』の対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS4/PS5/Nintendo Switchだ(Xbox One版は本国Kalypso Mediaから販売)。筆者はすべてのハードで検証したところ、いずれのプラットフォームでも快適にプレイできたが、他プラットフォームと比較するとNintendo Switch版は若干処理が重く、グラフィックも粗い印象があった。とはいえ、比較すればの話で、Nintendo Switch版単体で見ればあまり気にならないレベルである。
販売されるプラットフォームのなかで複数のプレイ環境をお持ちで、どれを購入するか迷っている方もいるだろう。操作性の面でいえば、キーボードとマウスで操作できるPC版がおすすめだ。『ポートロイヤル4』では地図上の都市を選択する機会が多く、画面を直感的にクリック操作できるPC版との相性が抜群に良いからだ。とはいえ、本作でのゲームパッドでの操作性に問題があるわけではない。カリブ海の美しい景色を堪能したいならば、PC版に加えてPS4版とPS5版もおすすめである。操作性やグラフィックではやや劣るものの、携帯機でいつでもどこでも交易を楽しめるという利点では、Nintendo Switch版でじっくりと遊ぶのもアリだろう。
終わりに
筆者はアラサーと呼ばれる年齢だが、ここ数年「もっと勉強しておけばよかった」というような会話をすることがとても増えたように感じる。『ポートロイヤル4』を通して大航海時代について学んできたが、改めて感じるのは、自分から興味を持って学ぶ勉強はとても楽しいということだ。世界史に詳しい方もそうでない方も、『ポートロイヤル4』を通じて大航海時代の世界史に触れてみるのはいかがだろうか。『ポートロイヤル4』はPC版がすでに発売中。PS4/PS5/Nintendo Switch版は、2021年9月2日に発売予定だ。Xbox One版は海外Kalypso Mediaより販売中だ。序盤の攻略に詰まった方は、公式序盤攻略ガイドを参照してみるのもいいだろう。