稲作アクションRPG『天穂のサクナヒメ』における「農林水産省攻略wiki説」は本当なのか?
国内の同人ゲームサークル・えーでるわいすが開発し、11月11日にSteam版、11月12日にPlayStation 4/Nintendo Switch版がリリースされた稲作アクションRPG『天穂のサクナヒメ』。「農林水産省が攻略wikiになる」など、本作の稲作要素はSNS上で話題となっているが、実際にプレイしていても、稲作要素を含めて細かな作り込みが感じられる。ところで、我々ゲーマーは日夜世界を救い、銃や剣を手に敵をなぎ倒しているものの、お米について知っているのは味ぐらいなもの。サンドボックス系タイトルで馴染みのある、植えて収穫するだけのシステムならともかく、ここまで踏み込んだ米作りは初めてだ。
ゲーム内ではすでに何年か稲作を行っているが、正直お米については全然わからない。我々は雰囲気で米を作っている。田起こし、種籾選別、中干し、3種類の肥料、いもち病、縞葉枯病、斑点米など、単語だけでも本作で初めて聞くものが多く、どこから攻略を進めて良いのか迷うぐらいだ。こういった場合、試行錯誤しながら手探りで攻略することになるが、稲作については現実でも行われており、信用に足る情報源が多数存在する。というわけで、現実の稲作攻略情報が、本当に『天穂のサクナヒメ』の攻略サイトになるのか、確かめてみるのが本稿の趣旨となる。
本題に入る前に、『天穂のサクナヒメ』について改めて紹介しておこう。本作は、豊穣神と武神を両親に持つ神、サクナヒメを主人公にしたアクションRPGだ。サクナヒメは、親の威光を盾に、神の住む都でぐうたらな毎日を送っていたのだが、人間を神の都へ招き入れ、神への貢物を台無しにしてしまった結果、主神の大目玉を食らって鬼島の調査に行くことに。勅命である島の調査を進め、また食料を自給自足でまかなうために、鬼退治と稲作の日々が始まる。
武神と豊穣神、双方の性質を持つサクナヒメは、米作りと強さが結びついており、探索を進めて材料を集め、稲作を通して強くなっていく。大きな特徴でもある稲作は、いくつものパートに分けて構成されている。
一筋縄ではいかない米作り
本作の稲作には、田植えを行うまでに、田起こし、種籾選別、育苗といった段階がある。田起こしは、稲を植える前に田んぼを耕す工程だ。サクナを操作するプレイヤーが、実際に鍬を構えて地面を耕し、土を柔らかくすることで稲の育ちが良くなるという。0から100%までの耕した割合と肥料の有無などによって、雑草の生えやすさに影響を与えたり、後の稲作全体に関わってくる。なお、田起こし中のサクナは、半分で「もうよいのではないか」、95%ほどで「完璧じゃ!これ以上ない働きっぷりよ」など、割合に応じた信用ならないセリフを喋る。この駄女神、都で暮らしていたころからまるで成長していない。
種籾選別は、良い種と悪い種の選別を行うパートだ。水に種籾と泥などを混ぜ、かき混ぜることで悪い軽い種が浮かび上がり、中身の詰まった良い種が底に残るようになっている。選別した種を育て、しっかり芽が出たあとでいよいよ田植えに移る。
田植えでは、プレイヤーがサクナを操作し、耕した田んぼに苗を植えていく。疎植や密植など、植えた苗の密度によって結果が判定。ゲーム内の記述を見る限り、苗の密度も稲の生育に関わってくるようだ。このあとは、田んぼに水を張り、お米が出来上がるまで数か月間を過ごす。田んぼで稲を育てている最中、プレイヤーの操作量はこれまでよりも少ないものの、水の量と温度、肥料を与えるタイミングや肥料の作成など管理する項目は増え、ここからが米作りの本番と言っても過言ではないだろう。
毎年、気候条件や田んぼの状況が一定なら、決まった手順を繰り返せばいい。しかし、本作には雨が降り続く年もあれば、気温の上がりきらない涼しい夏もあり、田んぼの状態によって病気や虫が発生したりする。そこまで細かく管理しなくとも稲は育ち、米を収穫できるが、稲の生育状況などに併せて田んぼを適切に管理できるとより良い米が出来上がるため、プレイヤーは米作りとしっかり向き合うことになるわけだ。複数の要素が絡み合っており、一筋縄ではいかないものの、アクションRPGとしては異様に本格的な仕組みから、米作りを擬似的に体験できるのは本作の魅力だろう。
ところで、現実と同じく雨が降り続いた場合には、不作は免れない。しかし、本作の世界には神が実在し、自身も神であるサクナは、主神カムヒツキ様に祈りを捧げることで、天候をある程度操作できるようになる。また、田起こしの具合が見れるようになったり、苗を効率よく植えられるようになったりなど、サクナは農作業を通して豊穣神として成長。効率的に米作りができるようになっていく。
伏魔殿たる育成パートを越えたあとは、カマを使った稲刈り、稲を干す稲架掛け、脱穀といった仕上げが待っており、最後に籾摺りで精米を済ませると、無事に食べられる米が出来上がる。田起こし、田植えなどと同様、稲刈りや脱穀もプレイヤーが操作するが、NPCに任せることも可能。また本作にはアクション難易度と共に稲作難易度が用意されており、厳しいと感じたら難易度をイージーへ変更できる。
いもち病との対決
上記のような工程を経て作られた米は、ステータスに応じて格が判定され、大まかな稲作の進み具合がわかるようになっている。筆者の場合は、最初の2年間は格が5ずつ上昇し、それなりに成長を見せていた。しかし、3年目からは成長が伸び悩み始め、5年目の収穫を終えた現在の格は17。この数字が高いのか低いのかはわからないが、成長ペースが鈍っているのは確かである。収穫量は増えてきているし、サクナ自身は毎年強くなっているので、プレイに大きな影響が出ているわけではないものの、より効率的にサクナを強化できるならそうしたいところだ。
成長を阻害する要因としては、3年目以降毎年発生しているいもち(稲熱)病が疑わしい。といっても、いもち病なる病気がどういった影響を及ぼし、どうやって発生するのかはわからない。わかっているのは、「雨が続くと稲が病気になる」というヒントに従い、天候を晴れに変えたところ、5年目は例年に比べてゲージの増加が多少抑えられたことぐらいだ。本当にいもち病が原因なのかすら不透明ではあるが、最悪場合ロードすればいいだけなので、今回はリアルな稲作知識を元にいもち病対策を行ってみよう。
いくつかの参考資料によると、いもち病とは、糸状菌によって発生し、現代日本において最も大きな被害を与えている病害なのだという。菌糸や胞子の状態で冬を超え、春に水分を含むことで胞子を形成。その後は、胞子によって伝染を繰り返していく。発生条件としては、気温や高湿度、雨や曇りが続いて植物が長時間濡れた状態になる、窒素肥料(葉肥)の多用によるイネの抵抗力低下が挙げられていた。(クボタのたんぼ)(農業協同組合新聞)(埼玉県公式ホームページ)
振り返ってみると、肥料も適当に与えていたし、5年目以前はずっと雨が続いており、いもち病の発生条件はすべて揃っていたため、毎年いもち病が発生したいたのも頷ける。逆に、いもち病の発生を抑えるためには、雨が振らず、葉肥を抑えればいいのだろう。具体的な作戦としては、どうにか雨を降らさず、葉肥の追加をやめ、種籾選別によって良い種を選択。現実で雨を降らせないためにはそれこそ祈るしかないが、サクナは豊穣の神で、ここには彼女の祈りに応えてくれるほかの神がいる。勝ったも同然ではないだろうか。
しかし、現実は甘くなかった。画像をみてわかるとおり、見事なまでの土砂降りである。カムヒツキ様に祈りを捧げ、日照りを願うと、確かに翌日以降の天候は晴れになる。ただ、日照り乞いの対象は翌日以降で、今回のケースでは翌日の天気を晴れにするべく祈祷すると、当日の天気が雨に戻ってしまった。神の祈りも万能ではなく、自然には逆らえなかったわけだ。なお、この日の降水確率は100%。ここまで雨に降られてしまうと、いっそ諦めもつく。
そんなわけで、今年もいもち病の発生は確実かと思われたが、半ば諦めつつ最後まで進めてみると、不思議なことにいもち病の発生を抑えることには成功していた。葉肥を与えなかったことが功を奏したのか。途中で与えた秀日の妙薬が効果的だったのか。農林水産省のガイドで、塩水選によって病害のない種子を選別するようだったので、泥水選ながら種籾選別は厳し目に実施したことが有効だったのか。あるいは他の何かが作用したのかははっきりしない。なんであれ、6年目の米はいもち病の被害から逃れていた。かわりに、今年は縞葉枯病が幅を効かせていたので、パンドラの箱を開けただけのような気もするが、現実の稲作攻略情報が、不慣れな米作りと戦う道筋を立ててくれたのは事実だ。
開発元であるえーでるわいすのこいち氏が語るとおり、農林水産省のサイトが攻略に一部有効なのは確かなようだ。そもそも農林水産省公式サイトはユーザー編集型サイトではないので、攻略wikiと表現するのは不適切ではある。ただし、ゲーム内のリファレンスを参考にしつつ、迷った際には現実の稲作攻略を参照してみるのは悪くなさそうだ。それほど、本作の稲作パートが本格的に作られているという証でもある。
稲作パートだけでなく、羽衣を使った手触りの良いアクションパートも搭載された『天穂のサクナヒメ』は、PlayStation 4/Nintendo Switch/Steam向けに発売中だ。