欧米展開を加速させるスパイク・チュンソフトは欧米向けに何を届けるのか?担当者に聞いた「欧米に運ぶモノ」と「国内にもってくるモノ」の基準

スパイク・チュンソフトが欧米展開を加速させている。スパチュンといえば、自社開発タイトルと欧米ゲームの国内リリースの2本軸にヒット作を重ねているが、米国支社をもっており自社開発タイトルおよび他社日本タイトルの欧米展開も推し進めている。担当者に話を聞いた。

スパイク・チュンソフトが欧米展開を加速させている。スパチュンといえば、自社開発タイトルと欧米ゲームの国内リリースの2本軸にヒット作を重ねているが、米国支社をもっており自社開発タイトルおよび他社日本タイトルの欧米展開も推し進めている。そんな中、他社タイトルの欧米展開をより加速させているという(ファミ通.com)。その一環でBitSummit Driftに出展しており、同社ブースにてスパイク・チュンソフトの執行役員および米国支社CEOの飯塚康弘氏に話を訊いた。なお本インタビューはAUTOMATON英語版にも掲載するため、欧米展開について厚めに訊いている。

──自己紹介をお願いします。

飯塚康弘氏(以下、飯塚氏):
スパイク・チュンソフトの飯塚と申します。日本では執行役員を務めていて、欧米タイトルを扱ったり、Steamストアでのグローバル展開など、主に海外関係の業務を担当しています。また、アメリカにある支社(SPIKE CHUNSOFT, INC.)では代表を務めていて、自社タイトルや他社タイトルの海外向けパブリッシング事業を展開しています。


──今回のBitSummitへ出展されたことについて、改めてその理由を教えていただけますか。

飯塚氏:
今回のBitSummit参加に関しては、日本並びにアジアの独立展開社様とのコミュニケーションを取りたいと思いまして、BtoBのブースをメインに展開させていただいています。

──既に数社とのビジネスが進行しているとのお話を拝見しました。そちらは既に具体的に動き始めているのでしょうか。

飯塚氏:
そうですね、既にいくつか動き始めていて、まだ発表していないタイトルもあります。

──欧米ユーザーから見たスパチュンといえば、ややニッチでアニメ系のゲームを出すイメージで認知されているかと思います。

飯塚氏:
はい、その通りだと思います(笑)

──「アニメ系のゲームパブリッシャーだと認識されている」という背景をふまえて今後海外展開を拡大していく上では、どんなコンテンツを届けていきたいと思いますか。既存のスパチュンファン向けの新しいタイトルか、スパチュンファン以外の層獲得を意識したタイトルか、どちらでしょうか。

飯塚氏:
今のスパチュンを支持していただいているファン向けです。というのも、コンテンツの幅を大きく広く進めていこう、というつもりはさらさらないんです。今僕らが提供しているジャンルとして、ビジュアルノベルがあります。例えば自社タイトルの『ダンガンロンパ』や『ZERO ESCAPE』、パートナー会社さんのタイトルですとMages.さんの『STEINS;GATE』シリーズですね。こういったタイトルのファンは年々増え続けていますし、売上においてもすごく貢献してくれています。なので、まだまだ伸びしろがあるコンテンツだと思っていますし、ベースとしてナラティブ性を大事にしていきたいと考えています。

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また、先ほど仰られていた通り、日本のサブカル的な要素やアニメなどの、そういったコンテンツを扱うのも得意分野であると考えています。それらを楽しんでくれているファンの方々とはもう、顔が見えるくらいの距離感にいる、と思っています。やはりそういった層に向けたコンテンツを、継続的に届けていきたいですね。

具体的に言うならば、これまでアドベンチャーゲームをメインとしていましたが、今後はそこに“+α”というかたちで他のジャンルも……たとえばストーリー性のあるアクションゲームなど、徐々にコンテンツの幅も広げていければ、とも考えています。とはいえ、まず一番に考えるのは、今支えてくれているファンの方々を満足させたい、と言うことですね。

──なるほど。

飯塚氏:
いきなりFPSや格闘ゲームなどにジャンルの幅を広げたり、欧米のゲームを欧米向けに展開していくのは僕らが不得意な領域だろうと考えています。日本のユーザーに向けて欧米のゲームを展開していくことに関しては別で、これからも続けていく考えです。欧米同様、日本のユーザーとも顔が見えるくらいの関係を築けていますし、メディアの方々ともしっかりとしたコミュニケーションが取れていますので。ただ、それを欧米において欧米のゲームを展開していくというのは、僕らにとってまだ敷居が高い領域と捉えています。なので、欧米での展開はゆっくり、じっくりと進めていくつもりです。

──ありがとうございます。これまで飯塚氏さんのお話のなかでは「いいもの」や「優れたもの」といったワードが用いられている印象があるのですが、それに当てはまるタイトルは例えばどういったものだと思いますか。

飯塚氏:
 「優れている」と評価するのは僕らが実際にプレイして面白いと感じるもの、つまり僕らが「好きなもの」ですね。僕自身も洋ゲーが大好きですし、アメリカにいるメンバーも日本のゲームが大好きなんです。そんな彼らが面白いと思うものは、きっと僕らのファンと近いテイストを持っているはずなので、メンバーたちのそういった感性は大事にしていきたいと考えています。なので僕らが考える「良いゲーム」というのは僕ら自身が本当に「面白いゲーム」と思えるゲームです。売る側の僕らが面白くなかったらそれはダメですし。

──面白いゲーム。

飯塚氏:
たとえば個性が尖っていて面白いものであったり、僕たちがプレイした時にこのゲームは日本で展開したいな、欧米圏に持っていきたいな、と思えることが第一段階ですね。僕らが「目利きする」というほどじゃないですが、きちんと評価したゲームを持っていかないといけない、と責任をもって取り扱っています。当然「なんでもいいからどんどん出せ!」なんてことはなく、きちんと吟味して持っていきます。

──スパイク・チュンソフトの社内で良いゲームだとされるものは、文化的共通点があるようにも思うのですが、例えばストーリーテリングが優れているとか、傾向的にどういう属性が強いものが認められやすい、などはありますか。

飯塚氏:
属性というのを考えると、社内でユーザーの視点に立ってプレイした時に、それが開発途中であってもそのゲームに可能性を感じたり「これ滅茶苦茶おもしろいな」と魅力を見出す、個々人のテイストやセンスが重要視されていると思います。

それを数値として定量化して、アドベンチャー要素やストーリーを評価して……合計八十何点だからやろうという訳ではなくて、やはり直観的に判断するところがありますね。そういったタイトルをプレイした時は、他のメンバーと一緒に「こういうところがいいよね、面白いね」と言う風に自然と会話も弾むんです。そういう時のメンバーの感性を大事にしたいですね。

やっぱり一緒にいるメンバーというのは基本的にみんな“オタク”なんです。本当に日本のいろいろなゲームが好きで、もちろん自社の『ダンガンロンパ』も大好きで、言ってみればほとんど僕らのファンと同じですよね(笑)そういったファンが今の僕らを支えてくれていると思うので、そんなメンバーたちが「良い!」と思ったゲームは、僕も良いゲームだと感じますね。

これは洋ゲーの国内展開場合でも同じです。洋ゲーを扱っているメンバーというのも、基本的にみんな洋ゲーオタクなんです。欧米のゲームでは色んなジャンルに手を付けていますが、メンバーごとにそれぞれ得意としているジャンルがあるので、そのメンバーを中心に据えてプレイして、面白いかどうかを判断していきます。


──グローバル展開は、日本のスパイク・チュンソフト本社の意向だけでなく、アメリカ支社にいるメンバーの意見を積極的に取り入れ、グローバルな視点から判断しているのですね。

飯塚氏:
そうですね。やはりタイトルを扱う人間には携わっていくうえでの責任があります。こういう風に売りたい、こういう風にローカライズしたい、というのはローカライズプロデューサーやディレクターが裁量をもって進めますし、そこには求心力というのも必要だと思います。代表者とはいえ僕だけで決められるものでは無いので、そういった展開の仕方は日本でもアメリカでも一緒です。

──ありがとうございます。やはり海外展開する上では欧米の反応をチェックする機会もあるかと思うのですが、そのなかで印象的だったものやエピソードはありますか。

飯塚氏:
そうですね。僕らは毎年Anime Expoに出ているんですけど、企業としてのブースは持ってないんですよ。そこではパネリストとして登壇して、1日のうち1時間程度プレゼンテーションをするかたちで参加しているんです。欧米展開がスタートしたときから、パネルプレゼンテーションを毎年続け、当初はあまりお客さんが集まらなかったんですけど、今では800人、1000人のキャパシティがすべて埋まるほど集まっていただいて。ファンがわざわざ足を運んでくれて、僕らのゲームのコスプレをしてくれたりする。僕らのプレゼンテーションにもしっかり耳を傾けてくれる、というのは僕らとしてもすごく嬉しいことです。

もちろんXでの投稿やSteamレビューでの投稿も嬉しいんですが、やっぱり顔を合わせるというのはすごく親近感が湧きます。「あっ、あの人今年も来てくれてる」だったり「去年も来てくれた人だよね」だったり、そんな人たちがいっぱいいるんですよ。そういった方々は、僕らが新しいタイトルを出す度に新しいコスプレで来てくれたりするので、それを直接目にすると愛されていることの実感や、活力が湧いてきます。なので、毎年やって良かったなと思いますし、まだ発表はしていませんが、来年も出たいと思っています。

やはりそういったファンの方々をこれからも大事にしていきたいと思っています。でも、その数をいきなり何万人、何十万人に増やすことではないと考えています。。僕らが今やるべきことは、ファンの方々が望んでいるタイトル、満足してもらえるタイトルを自信をもって届けることであって、 それをファンの方が各々判断・評価してもらうことで、少しずつコミュニティが広がり育っていくものだと考えているんです。

たとえばインフルエンサーの方にメーカーから働きかけたり、あるユーザーの方が掘り起こしてくれたのをきっかけに、爆発的な注目を集めたり……『スイカゲーム』もそのひとつですよね。ただ、そういうものは非常に偶発的なものだと捉えていて、僕たちが狙うところではないんです。

僕らは自信をもって面白いタイトルを出し続けて、それがファンに刺さったことで、次は身近な友達に「これ面白いからやりなよ」と進めたり、そういうひとつひとつの広がりというのが、自分たちの財産になるんじゃないかなあと考えています。

いっときのファンになってすぐに去られちゃうよりも、先ほどあげたようなAnime Expoに一度来てくれたファンが毎年来てくれるような、そんなメーカーになりたいなと思っています。

──ブランド展開のことも踏まえて、ビジネス的な拡大よりもまずファンのことを大事にすることを重要視されている印象です。

飯塚氏:
経営者失格かなあ……(笑)

──(笑)

飯塚氏:
やっぱり僕らのことを好きだと言ってくれるファンは、本当にありがたい存在なんですよ。おこがましいですが、ファンの数を倍にするなんてそう簡単にはいかないと思います。なので、今後も僕らの態度やコンテンツにメッセージを込めて世に出していく、それを真摯に続けていくことに尽きるだろうと考えています。

──この質問はもしかしたらセンシティブかもしれませんが、お聞きさせてください。昨今の欧米のゲーマーたちは、日本語から英語へのローカライズ内容に関しても敏感になっていて、クオリティや表現調整で議論を呼ぶこともあるように思います。日本のコンテンツを欧米向けに届けるときには、どういうポリシーでローカライズしていく予定ですか。

飯塚氏:
僕らと一緒にいるアメリカのローカライズメンバーたちは、先ほどお伝えしたように“超オタク”なんですよ。『ダンガンロンパ』が好きだったり、日本のアニメは全部チェックしていたり。そういう人たちの集まりなので、僕はオリジナル作品の良さを保ったままローカライズしてくれるだろうと信じており、安心して進められています。幸いにも僕らのもとには理解あるメンバーが揃っていて、実際にローカライズが高い評価を得て、喜んでもらえています。やっぱりそういった「好き」な人たちでないと、良いローカライズはできないだろうと考えています。

──ローカライズは個人の思想的背景などの要素よりも、コンテンツやゲームに対する愛が最優先、ということなんですね。

飯塚氏:
そうですね。やっぱり自分が扱うタイトルのことを好きにならないと駄目かな、と思っています。自分の担当作業、という捉え方ではなくて「このゲームの面白さをファンに届けたい」という気持ちが、欧米のニーズに応えるローカライズへ繋がると思っています。

時にはアメリカにいるメンバーは、日本の開発チームの方とせめぎ合わなきゃいけない場面もあって。例えばテキストの修正で、アメリカでは今日既に業務が入っているけど、日本では「間に合わないから今日出してくれ」という話になったり……そういう時に「じゃあ後一日、いや後一時間待ってくれ!」と掛け合ったり。そういうやり取りは、気持ちが込もっていないとできないことですし、その積み重ねが良いゲームを作り出すと思っています。これは洋ゲーを担当するメンバーでも同じですね。そういった意気込みでやっています。

──国内展開においては、欧米のタイトルを日本向けに持ってくるか判断するときは、どういう特徴を見ていますか。既に実績もありますが、「日本で受けるか」というのは何か直観的にピンときて判断するものなんでしょうか。それとも、マーケットをリサーチした上で判断するのでしょうか。

飯塚氏:
「ピンと来て」ですね。ただ、絶対に欠かせないのはプレイアブルを獲得することで、実際にプレイしてからでないと決められません。これはどんなタイトルでも、ですね。映像や資料だけ見て決めるのは無理なので、必ずプレイアブルを触らせてもらいます。そうすると想像と違うものだったこともあるので、残念ながらお断りする場合もあります。

──なるほど。実際にピンとくる時のセンスは、チーム内で何か共通していると感じるところはありますか。

飯塚氏:
いや、共通してないですね。やっぱりジャンルによって好き嫌いがあります。僕はゾンビゲームが好きなので(笑)とりあえずゾンビと見たらすぐにアプローチして、プレイアブルを触らせてもらって考えたりします。『They Are Billions』も僕がアプローチして取ってきたタイトルで、滅茶苦茶好きでした。

『Cities: Skylines』のような街づくりが好きな人もいれば、シミュレーションゲームが好きな人もいる。それを踏まえるとチームで「いやあ、これはちょっと良くないような……」みたいな話になるんですけど、そこから先はやっぱり熱意ですよね。プロデューサー陣は誠実的なので「いや、これは絶対面白いんですよ!」と魅力を伝えて、さらに弊社の場合はセールスチームやマーケティングチーム向けにプレゼンをする必要があるんです。それに対して市場性をチェックしたり、そこからが本番です。

『ゾンビサバイバル コロニービルダー They Are Billions』


──パブリッシング契約を勝ち取ることはゴールではなく、スタートですもんね。

飯塚氏:
ローカライズで開発元とのやりとりが発生し、相手が夏休みになり、その後連絡がつかず……なんて事態になって、どうにか連絡を取る手段を探したりとか……(笑)リリース後も、Day-1パッチが入ったりアップデートが入ったり、そんなことがしょっちゅうあるじゃないですか。深夜に起きてそのままその対応をしたりとか。やっぱり好きじゃないとそんなことできないですよ(笑)

──最後に、今後欧米ファンに向けてどのようなものを届けていきたいですか。

飯塚氏:
ファンが望むタイトルや商品は引き続きどんどん提供していきたいと考えていますが、時には普通の出し方ではなくて「おっ?」と思って貰えるサプライズもどこかで考えていきたいですね。「なんかスパチュン飽きたなあ」とならないように、日々精進していきたいと思います。

僕たちを長年支えてくれたファンたちは絶対に裏切りたくないですし、今後もしっかりコミュニケーションをとっていきたいと考えています。今回のBitSummitでは、BtoBをメインとしての参加でしたが、どこかで僕らがファンの方々と直接お会いできる場のような、BtoCの場も設けたいと考えています。


──ありがとうございました。

[執筆:Toru Ishikawa]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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