“死体埋め”から始まる「人の繋がり」の物語。悲劇の先を描く衝撃的クライムサスペンス『ショートケーキの埋葬』を今こそ遊んでみよう

主人公が死体を埋めるという衝撃的な幕開けの『ショートケーキの埋葬』。本作は悲劇の「先」を語ることで、他者とのつながりを描くクライムサスペンスだ。

Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。

死体を埋めるところから始まる、予測不能な物語

連載第14回となる本稿では、NANTEDOWが手がけたクライムサスペンス・ビジュアルノベル『ショートケーキの埋葬』を紹介。本作は2024年12月のコミックマーケット105で頒布され、2025年8月にSteam版がリリースされた。声優のささきのぞみ氏がキャラクターデザインを担当しており、演者としての経験を生かした表情の豊かさの描写も特徴だ。

物語は、主人公の荒川季節が母親の遺体を山中に埋めようとする場面から始まる。深夜の山林で穴を掘っていた季節は、何者かに気絶させられ、“ペット用”の火葬場で目を覚ます。そこには母親の遺体も運ばれており、火葬場の職員である清水莉央から人間も焼却できると告げられた季節は、正規の手段ではないと理解しながらも、母親との別れを済ませる。その後、火葬場で働くことになった季節は、政治家の正源寺太郎をめぐる事件に巻き込まれていく。さらに無職の父親からパパ活を押し付けられている朝日夏鈴をはじめ、さまざまな事情を抱えた人々と出会うことになっていく。

衝撃的な導入から始まる本作だが、犯罪の謎を追うだけの物語ではない。季節を中心とする人間関係に加え、政治家や刑事、ジャーナリストなど、異なる立場にある人物たちの視点を通じて、街に潜む問題が少しずつ明らかになっていく。最初は無関係に見えた出来事や人物が、物語の進行とともにつながっていく構成が、先の展開を知りたいという気持ちをかき立てるのだ。

諦めを抱えた人々が、それでも誰かとつながろうとする

本作のキャラクターたちは、過去の出来事や現在の境遇によって、何かを諦めた状態で生きている。季節は奇行を繰り返す母親の世話をするために高校を中退し、消費期限の貼り直しなど不正を強要されるスーパーマーケットで働いてきた。自分の人生を自由に選べる状況にはなく、日々をやり過ごすだけで精いっぱいだった彼は、莉央との出会いを通じて少しずつ前を向き始める。

そんな季節が気にかけるのが、夏鈴だ。家庭の事情によって身動きが取れなくなっている夏鈴の境遇に、季節は自分自身を重ね、自分と似た苦境にいる相手に手を差し伸べようとする姿からは、自分が救われた経験を活かそうとする意志がうかがえる。ただし、本作は誰かが手を差し伸べれば、問題が解決するような物語ではない。家族との関係、経済的な事情、社会的な立場。個人の努力だけでは簡単に乗り越えられない障壁が、彼らの選択を縛っている。

印象的なのは、登場人物たちの会話が、あらかじめ整理された感情を説明するためのセリフになっていない点だ。相手を思っているからといって、いつも適切な言葉を選べるわけではない。親切のつもりで口にした言葉が相手を傷つけることもあれば、互いの気持ちがすれ違ったまま関係が続くこともある。群像劇として描かれる本作では、登場人物を善人と悪人に分けることも難しく、行動を理解できたとしてもすべてを肯定できるとは限らない。社会の歪みを描きながら、そこに生きざるを得ない個人の感情もおろそかにしない。最初から理想的な人間関係を築けるわけではなく、互いの事情を知り、衝突し、ときには誤解しながら誰かとつながろうとする姿が眩しいのだ。

悲劇の終わりに、何が残るのか

『ショートケーキの埋葬』が掲げるのは、「悲劇の、その先を描く」というテーマだ。作中では、政治や宗教に関わる問題も描かれ、個人の人生が社会的な権力や人間関係のしがらみによって左右されていく。登場人物たちは、自分の力だけでは変えられない状況に置かれながら、必死に日々を生きている。

本作は、彼らの苦境を描くだけでなく、そのなかで人と人とのつながりがどのような意味を持つのかを問いかける。誰かと出会ったからといって、過去の苦しみが消えるわけではない。善意が必ず報われるわけでもなく、努力した人が必ず救われるわけでもない。それでも誰かの存在が自分の見ている世界を変えたり、今まで諦めていたことに向き合うきっかけになったりする場合はある。結末もすべての問題が解決するような、安易な救いを提示するものではないが、だからこそ物語のなかに差し込むささやかな希望が心に残るのだ。

『ショートケーキの埋葬』は、死体を埋めるという衝撃的な場面から始まりながら、社会の歪みとそこに生きる人々の関係を描いていくクライムサスペンスだ。予測不能な展開を追う面白さに加え、誰かを大切に思う気持ちや、他者とのつながりが持つ意味を丁寧に描いている。悲劇のただなかにいる人々が、それでも誰かと関わりながら生きていく姿を見届けることに価値のある一作だろう。

『ショートケーキの埋葬』は、PC(Steam)向けに配信中。

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Yuuki Inoue
Yuuki Inoue

RPGとADVが好きなフリーのゲームライター。同人ノベルゲームは昔から追っているのでそこそこ詳しい。面白ければジャンル問わずなんでもプレイするのが信条。

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