RPG x 自堕落探偵 x ADVで個性マシマシ。『異夢迷都(イム・メイト) 果てなき螺旋』はキャラも内容も濃い欲張りRPG

PLAIONは3月10日に『異夢迷都(イム・メイト):果てなき螺旋』を発売した。RPG x 自堕落探偵 x ADVで個性マシマシ。

PLAIONは3月10日に『異夢迷都(イム・メイト):果てなき螺旋』を発売した。対応プラットフォームはNintendo Switch/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S /PC(Steam)。価格は5480円(税込)となっている。

本作は主人公たちが遭遇するさまざまな事件を解決しながら、大都市に隠された秘密を暴いていくターンベースRPGだ。プレイヤーは私立探偵と祓魔師、2人のキャラクターを操作して、表と裏の世界から調査を進めていく。各地に足を運び手がかりを集め、大都市にあるもうひとつの世界で異形の存在と戦っていくのだ。本作に触れてみて感じたのは、多くの要素を取り入れながらも複雑になりすぎない、シンプルで遊びやすいRPGという印象だ。そして、気づけばプレイを進めてしまうような、独自の魅力に満ちている作品でもあった。本稿では、PLAIONより提供いただいたPC(Steam)版でのプレイ体験をもとに、本作の内容と魅力について紹介していく。


近未来化された古い東洋の街を冒険する魅力


物語の舞台となるのは近未来化が進みながらも、どこか懐かしさを覚える架空の東洋都市「新都」だ。新都は謎めいた港町で、外部の世界から断絶されている。本作は独自の世界観をもった作品であり、NPCとの会話においても、聞き馴染みのない単語が何度も飛び交うことになる。なにやら魅力的な雰囲気はあるものの、その小難しい世界観についていけないと感じてしまうかもしれない。

だが安心してほしい。本作は難しい話が苦手なプレイヤーでも楽しく遊べる工夫がある。本作の主人公のひとり、「何某」は新都で暮らす人々のために奔走する私立探偵である。彼が物語を進めていく中で得た情報は、百科事典として書き記してくれるので、その場はなんとなく相槌を打ちながら、あとでこっそりと用語を読み返すこともできる。探偵らしくないだなんて思う必要はない。何某という人物は有能であると同時に、ずさんなところや抜けている部分も多い人物なのだ。

彼は行き当たりばったりで行動した結果、調査対象に怪しまれてしまうことも少なくない。実際に身分を偽って相手から情報を聞き出す際には、ぼろを出してしまう場面が多々ある。ほかにも百科事典では人物や勢力については、主観たっぷりに書かれている部分もある。仲間の義賊に対しては、悪事をはたらく高官に対して盗みをしていても咎めたりはせず、むしろ「チームでもっとも正義感のある人物かもしれない」と評している。一方で、天世宗とよばれる宗教に対しては、「もっとも人畜無害な顔をして、一日中変なことばかり喋っているが、本当は広願寺の地下にある大型の実験場で人体改造という汚い真似をしている連中である」と、感情むき出しの記述がされていたりする。


こうした部分からもわかるように、何某は非常に人間味あふれる人物なのだ。本作では、いたるところで彼の「都市で暮らす人々を脅かす存在を許さない」という強い想いが伝わってくる。それと同時に、ごく普通の人間らしさを垣間見ることもできる。特にお気に入りのエピソードは、何某が寝不足を解消するために、寝る時間になったら知らせてくれるよう知り合いに頼む会話だ。実際に深夜になったらPCを通じてやりとりしていくのだが、寝る時間を知らせてもらっても「もう少しだけ」と言ってすぐに寝ようとはしない。それどころか、調査対象の情報収集をしていると思いきや、インターネットで見つけた面白い動画を送りつけたりして、結局寝不足が解消されないまま朝になってしまう、といった内容になっている。睡眠時間を削ってついつい夜更かししてしまう気持ちに、苦笑いしながらもつい共感してしまったのだ。

そうして筆者の中でできあがった何某というキャラクターの人物像は、特別な能力をもった天才などではなく、どこにもいる一般人に近い印象だ。しかし、だからこそプレイヤーが感情移入しやすく、彼の考えに共感してプレイできる部分が多かったといえる。そんな何某が、さまざまな人物に振り回される苦労人のポジションとして定着してしまうのも、納得といえるだろう。そんな彼を操作して事件を調査していくのは、本作がもつ魅力のひとつだ。何某にかぎらず、本作に登場するキャラクターたちは人間味にあふれている。プレイしていくことで、彼らのように新都で暮らす人々の気持ちに、自然と気持ちが重なるようなつくりになっていた。

また、感情移入しやすいキャラクターのほかにも、プレイしやすさに繋がる導線が張られている。システム面からもプレイの手助けをしてもらえるのだ。彼が引き受けた依頼はクエスト情報として、どこへ向かえばよいのか常に示してくれるので、目的地に迷うことなく快適にストーリーを進めることができる。クエストも物語が大きく進行するメインクエストと、寄り道となるサイドクエストで異なるアイコンになっているので、いつの間にか違う物語が進んでしまう、といった心配もない。

事件の先に凶渦の影あり


それではいよいよ、何某が遭遇する事件について触れていこう。彼はとある事件を調査する中で、異形の化け物がはびこる巣窟へと迷い込んでしまう。戦う術をもたない彼を助けた人物こそ、もうひとりの主人公である祓魔師の「鍾馗」だ。鍾馗は包帯で顔を隠し、体には奇妙な入れ墨が無数に入った謎の道士で、新都には危険な裏の世界があることを教えてくれる。巣窟に潜む化け物「凶渦」によって、新都で暮らす人々に悪影響が出ているのだという。なりゆきで鍾馗と手を組むことになった何某は、表と裏の世界から事件の解決を目指していくことになる。

本作の流れはとてもシンプルで、依頼を受けた事件を解決するために、何某が新都の各地を調査していく。その中で見つけた凶渦の手がかりをもとに、鍾馗が巣窟に乗り込み、凶渦を退治していくのだ。凶渦によって影響を受けた人間は、無意識のうちに不自然な言動をするようになったり、衝動的なおこないをするようになってしまう。巣窟におもむき、原因となる凶渦を排除することで、その人を正常な状態へと戻すことができるのだ。

しかし物事はそう単純にいかないことも多い。何某の調査がうまくいかず、事件の原因や黒幕の正体にたどり着けないこともある。また、巣窟を見つけて乗り込んだとしても、敵対人物から妨害を受けて進めないこともある。双方の世界を行き来しながら、何某の調査力と、鍾馗の戦闘力、そのどちらも活用していかなければならない。

また、事件の裏には犯人といえる人物が存在しないこともある。生活の中で深い絶望に沈み、凶渦に飲み込まれてしまった人を退治したり、調査したい物事とは無関係な事件だったという場合もある。無駄足を踏みながらも、いくつもの依頼を調査していかなければならない。そして単なる親子喧嘩の仲裁をすることもあれば、行方不明の人物を調査した結果、後味の悪い結末を迎えることもある。どんな事件にも必ず登場人物がいて、事件が起こるに至った背景や物語がある。プレイヤーは新都で暮らす人々に寄り添い、ときに笑みをこぼしながら、ときに心を痛めながら、探偵稼業をこなしていくのだ。

癖なく快適なバトルシステムの魅力


凶渦の手がかりを突き止め、巣窟へ突入すると操作するキャラクターが何某から鍾馗へと切り替わる。戦闘力のない何某は表の世界に残り、鍾馗からの報告を待っている。シンボルエンカウント形式が採用されており、フィールドには凶渦が点在している。探索する中で、凶渦と接触すると戦闘に切り替わる。戦闘はターンベースで進行し、各キャラクターがもつスキルを駆使して戦っていく。

攻撃には武器に応じて斬撃・貫通・破砕といったダメージ属性が存在しており、敵によって相性が異なる。敵との相性で攻撃スキルを使うキャラクターを変えたり、場合によっては武器を切り替えることで、戦闘を有利に進めることが可能だ。しかし不利な相性でもある程度は力押しできるので、そこまで深く考えなくても進められる配慮がされているように感じた。何度も繰り返す戦闘で頭を使わなくても良いのは、ストーリーを追いかけたい人にとってはありがたい。

特筆しておきたいのは、本作にはキャラクター固有のレベルやHPが存在しないという点だ。パーティーはチームレベルやチームHPで管理されており、戦闘中のHPもパーティー全体で共有されている。特定のキャラクターが集中攻撃を受け、1人だけ戦闘不能になってしまうようなことはない。戦闘で得た経験値もチーム全体で管理されているため、あとから加入したキャラクターとレベル差がついてしまうこともない。

装備は武器こそキャラクター個別だが、防具の代わりにチーム装備というアイテムが存在。装備次第で攻撃特化、耐久特化に寄せることも可能となっており、プレイヤーの好みに調整できるようになっている。


また、チームレベルが上昇すると全員にタレントポイントが加算される。タレントポイントを消費することでスキルツリーを強化して、キャラクターの基礎性能を強化したり、新しいスキルを習得したりできるようになる。新しいキャラクターが加入した際には、加入時点のチームレベルに応じたタレントポイントがもらえるので、育成面で差がつくことはない。このあたりの共有要素は非常に快適で、状況にあわせて戦闘に参加させるパーティメンバーを気軽に切り替えることができた。


一方で敵である凶渦は個別のHPが設定されており、各個撃破できるようになっている。最初から加入している鍾馗が全体攻撃を序盤から使用可能なのもあり、パーティメンバーの少ない序盤から数的不利を感じにくい調整がされている。全体的に管理するものが少ないのもあって、バトルパートにおいて考えなければならないことや、ストレス要素は少ないように感じた。なお、本作は設定で難易度そのものを変更することも可能だ。

登場人物たちの魅力

本作では事件を解決していく中で、新都で暮らすさまざまな人と出会い、協力者も増えていく。そして調査の手助けをしてくれる人物のほかに、ともに凶渦と戦ってくれる仲間も加入していくのだ。メインキャラクターはもちろんのこと、サブキャラクターとの関係性も絶えず変化していく。敵対していたキャラクターと和解し、頼れる関係になることもある。本作は群像劇としても、魅力ある作品に仕上がっている。


仲間とは出会ったばかりの頃はお互いのことを知らず、意見の違いで衝突することも多い。しかし物語が進行していくと仲が深まり、息の合ったかけあいが見れるようになってくるのだ。また、個人クエストと呼ばれるものも存在しており、仲間になる各キャラクターとの絆を深めていくこともできる。そんな頼れるキャラクターたちの中から数名、その魅力と性能について紹介したい。


まずは戦闘員の鍾馗だ。彼はその多くが謎に包まれているものの、凶渦を倒すという明確な目的によって、何某と協力関係にある。しかし凶渦以外には無頓着で、事件の調査は何某に丸投げしている。序盤は何某と衝突してばかりで、文句を言いつつ手助けしてくれることが多い。ストーリーが進むと口下手なものの、少しずつ身の上話をしてくれるようになり、少しずつ信頼関係を築けていることがうかがえる。鍾馗は戦闘になれば、積極的に凶渦を殲滅してくれる。とにかく癖がないキャラクターで、どんな状況でも活躍してくれる。


つぎに紹介するのは、とある事件から行動をともにするようになる義賊の胡蝶だ。正義感が強く、物事をはっきり言うタイプの彼女は、何某を振り回す側の人間だ。しかし本人に悪意はなく、軟弱な何某を純粋に鍛えるためトレーニングに付き合ってあげたりと、強引ではあるものの、彼女なりに考えて行動することが多い。潜入はお手の物で、彼女の手助けあってこそ事態が進展する場面もある。

戦闘においてはその素早さを生かした遊撃役を担ってくれる。その素早さはパーティメンバーの中でも随一で、戦闘では基本的に一番最初に行動できる。また、回復スキルをもっておりヒーラーとしての役割を担うこともできるのも特徴だ。


最後に紹介するのは、老兵の煙鬼だ。彼は元軍人で、ほかのキャラクターと比べて口数も少ない。堅物の印象を受ける人物だが、酒を飲むのが好きで、相手を説得するためにとりあえず酒を飲み交わそうとするお茶目な一面もある。彼の趣味の少なさは、軍人として生きてきたことに由来している。まったく興味が向かないというわけではないようで、何某との交流によって新しいものに触れることもしばしある。そんな煙鬼は戦闘においては、挑発スキルや味方全体にバリアを張るスキルをもつ、防御寄りのキャラクターだ。

カード頭脳バトルをはじめとする、多彩な遊び要素


本作のバトル要素は、巣窟における凶渦との戦闘だけではない。本作では情報を引き出すために、特定の人物の精神世界へと侵入し、心を閉ざした者をマインドブレイクさせることもある。こちらの戦闘ではカードバトル方式を採用しており、それぞれ異なる性質のデッキからひとつを選択し、心を閉ざした者と対峙する。何某の精神力が尽きる前に、相手の精神力を削り切るとマインドブレイク成功となる。


余談ではあるが、新都のいたるところで見かける野良猫や野良犬の多くは、なでることができる。猫の場合は寝転んで相手になってくれるのだが、犬の場合は行動パターンが複数あるのだ。足に近寄って遊んでくれることもあれば、おもむろに片足を上げてマーキングされてしまうこともある。こうした部分にも、開発の徹底した遊び心がうかがえる。

古き良き、独自の魅力に満ちたRPG

本作のさまざまな要素と、その魅力について紹介してきた。基礎となる部分はとてもシンプルにつくられており、RPGを触ったことのあるプレイヤーならば誰でも深く考えずに遊ぶことができるだろう。その一方で本作ならではの要素も多数盛り込まれており、きちんと特色をもった作品に仕上がっているといえる。とにかく遊びやすく、遊び幅も用意されている。基本は王道的だが、感情を動かされるストーリー。遊び方は単純ながら、多数の要素を盛り込み洗練されたゲームシステム。そのどちらにおいても、シンプルさと奥深さが両立している作品に仕上がっている。

もし少しでも興味を抱いたのならば、私立探偵の何某として新都に潜む謎を追いかけてみてはいかがだろうか。調査の中で出会う人々の悩みに耳を傾け、各地を走り回って証拠を探しながら、仲間と解決の糸口を探してみるのはいかがだろうか。もちろん、祓魔師の鍾馗として、裂け目から巣窟へと乗り込み、凶渦との戦いに身を投じるのも悪くないだろう。気づけば新都での暮らしに馴染んでいる姿が、きっとそこにはあるはずだ。


しかし、くれぐれも覚えておいてほしいのは、新都には想像しているよりも多くの秘密が隠されているということ。きらびやかな世界と、廃れた区画が共存する新都には、いまだ多くの謎と、底知れない陰謀がうごめいている。光と闇が共存する都市は、あなたの訪れをいつでも心待ちにしている。

『異夢迷都(イム・メイト):果てなき螺旋』は、3月10日より発売中。対応プラットフォームはNintendo Switch/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X|S /PC(Steam)。価格は5480円(税込)となっている。

蒼唯レン(VTuber)
蒼唯レン(VTuber)

自分のことをジーニアスだと思い込んでいる物書き系個人VTuber。FF14とドルフロをこよなく愛する特撮オタク。

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