「ソニック」未経験者でも『ソニックオリジンズ』は楽しめるのか。クラシック「ソニック」決定版
学生時代、帰国子女の友達が持っていた筆箱が「ソニック」のデザインだった。EU圏から越してきたその友達は「ソニックって日本のキャラクターでしょ?日本に来ればもっとソニックのグッズに溢れていると思ってた」と、残念がっていたのをふと思い出した。
何故そんなことを思い出したかというと、「ソニック」シリーズの原点である作品を手軽に遊べるようにリファインされた『ソニックオリジンズ』を遊んでみたからだ。
※ 『ソニックオリジンズ』は、Nintendo Switch/PlayStation 5/PlayStation 4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam・Epic Gamesストア)向けに発売中
恥ずかしながら、「ソニック」に対し「オリンピックが行われるたびにマリオと一緒に競い合っている」くらいのイメージしかなく、友人の勧めでXbox Live Arcade版『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』をプレイした経験はあれど、なんとなく「レトロな2Dゲームなのね」という印象に留まっていた。
筆者は1990年代後半生まれの、最後のミレニアル世代といったところであり、我々の世代の多くが初めて触れるハードはニンテンドーDSやPSPといった携帯型ハードだった。言ってしまえば、「ソニック」の誕生やブーム、ゲームセンターでBGMが使われていたことを知らない世代である。
そんな「最近のゲーム」にかぶれた筆者が、「ソニック」という作品の起源に触れてみると、さまざまな側面を持つ「疾走感」と、音速のハリネズミ「ソニック」を操る楽しさを見つけ出すことができた。
『ソニックオリジンズ』とは
『ソニックオリジンズ』は、「ソニックの原点」ともいえる『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』『ソニックCD』『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3&ナックルズ』の4作品(正確には『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3&ナックルズ』は分作を1作品にまとめたものなので5作品とも言える)を、現代向けに移植して1本のソフトにパッケージングしたものだ。
対応プラットフォームは、Nintendo Switch/PlayStation 5/PlayStation 4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam・Epic Gamesストア)。
「現代向け」とは具体的に、今風のアスペクト比16:9に対応し、タイムアップや残機0に伴うゲームオーバーを撤廃したモード「アニバーサリーモード」が目玉である。もちろん、昔懐かしい4:3で当時のルールそのままのオリジナル版も「クラシックモード」として遊ぶことができる。
プレイヤー自身が作り出す「疾走感」
「ソニック」という作品の特徴が「疾走感」にあることは知っていた。『ソニックオリジンズ』をプレイする前、「疾走感」を、ジェットコースターのようなリニアなものと勝手に思い込んでいたが、そうではないらしい。実際にプレイしてみると、想像よりも「覚えゲー」であることに驚くことになった。
最初の驚きが、「意外に死ぬ」ということ。リングを1つでも持っていれば敵の攻撃を受けてもリングを落とすだけでゲームを続行できるが、リングがない状態では、頻繁に現れる敵に触れると一撃で終わりだし、燃え盛るマグマや、足場から落ちたら終わりだ。
敵が多く、いやらしい配置をしているのが本作の特徴のひとつだ。突然画面外から現れたり、頭だけ地面から生えていて飛び出して攻撃してきたりと、そのいやらしさはかなりのもので、横歩きしているだけのカニが突然火の玉を放出したときは驚きのあまり顎が外れそうになった。初見プレイは、そんな驚きの連続だ。『ソニックオリジンズ』のアニバーサリーモードはタイムオーバーとコンティニューがなくなっているので、死にながら何度も手軽に再挑戦できたのが救いだった。
また、本作のマップは原則、コンパクトかつ、プレイを進めると全体像が理解できるような構造になっている。シンプルに左から右にいくステージはもちろん、一見すると広いように思えても、実は縦に広いものを下から上につづら折りのように登っているだけ、といったようなステージもある。最近の広大なオープンワールドをプレイしていると「あぁここがつながっているわけね」と導線に感心する。それの縮小版のような印象を持った。
そんな中、「ソニック」というキャラクターは猛スピードで移動しようとする。どんな敵がどこから飛び出してくるのか、どんな攻撃をしてくるか、どこに落ちたら死ぬのか、そんなことお構いなしだ。スピードを出したソニックは簡単には止まれず、さながらオープンワールドレースゲームで一般道を猛スピードで走行しているように、キャラクターのスピードにプレイヤーの感覚があとから追いついていくさまは新鮮で非常に面白い。
初めて挑むエリアへふと出たときの、崖から放り出されたような緊張感や、「このままスピードを保っていていいのだろうか、一度立ち止まったほうがいいのだろうか」とか思いながらも手を止めたくないようなドキドキ感はひとしおであり、ただスピードがあるだけでなく、そこに多彩な敵やレベルデザインが組み合わさることで「ソニック」の「疾走感」が形作られていることを感じた。ゲーム(レベル)への理解度が高まるほど、その疾走感を自由に加速させることができるのだ。
自分が勝手を知っていて、自信を持って「コントロールしている」エリアの疾走感と、未知のエリアでスピードが「出てしまっている」スリルがある疾走感、この2つの疾走感も、同じ「スピード」でありながら、まったく別の印象を持つ「スピード」であり、これらが猛スピードで切り替わっていくのはとても楽しい。本作が高く評価されている2Dアクションゲームであることを納得させてくれた。
どのようにソニックを調律するか
もう一つの驚きは、繊細なキャラクターコントロールが求められるということだ。
特に、回転ジャンプは動きの癖が強い。敵へ攻撃をアシストしてくれることもなく、ソニックが繰り出すアクションをしっかりと敵に当てることが求められる。前述の通り、配置や動きがいやらしい敵に対して、癖のあるソニックのジャンプやダッシュを当てることはなかなか思い通りにはいかなかった。ただ、ゲームを進めていくと「ソニックを操る」ということ自体が楽しくなっていく。スピードの化身であるじゃじゃ馬「ソニック」を、巧みに操る楽しさが、本作の肝に思えた。
同じステージ(ACT)でも、初見プレイのときと、クリア後に訪れるのとでは、プレイヤー自身の熟練度によって大きく印象が違い、そうすると、タイムアタックなんかも楽しくなってくる。本作は、タイムアタックのランキングも見ることができるので、あっと驚く上位タイムを目標にしてみるのも面白く、「アニバーサリーモード」の手軽さも相まって、かなり手軽に挑戦することができる。
慣れるのには時間を要する“クラシックさ”
「ソニック」というキャラクターの動きを知り、ステージを知り、敵を知ることが、「ソニック」のアクションにおける楽しさである、ということが理解できた。一方で、本作は90年代のゲームである。
カラオケで妙に古いアニソンを入れたときに流れるようなオープニングムービーや、物理法則的に疑問が残るキャラクターの挙動(初代『マリオ』と、近年の2D『マリオ』ではジャンプなどの動きがまったく違うようなもの)など、随所にクラシックさを覚えることは間違いない。ステージ最後のボス戦では、コンティニューすることでリングが0からのスタートとなり、必然的にノーダメージクリアを強いられるといったデザインもハードコア。
敵の触れてはいけない部位なども独特だ。オブジェクト判定の厳しさや敵との接触でのノックバックなど、本作独特の仕様を学ぶことも求められる。当然ではあるが、あくまで、クラシックなゲームであることを留意する必要はあるだろう。
ただそれでも、びっくり箱がいくつも飛び出してくるようなユニークでよく練られたステージを、多くの意味を含むスリルある疾走感で駆け抜ける楽しさというのは、存分に味わうことができた。なにしろ残機が無限という、可能な限りプレイしやすいデザインである「アニバーサリーモード」は、「ソニック」というシリーズの原点を知るという意味でうってつけの、プレイしやすいものだ。
「ソニック」の博物館
また、それが4作品収録されているだけでなく、ボスラッシュや、一定のリングを集めてステージをクリアする、といったお題に挑戦するミッションモードなど、多彩なモードが用意されている。4:3のオリジナル版も含め、「ソニック」の2Dアクションをたんまりと遊ぶことができるのが嬉しい。
そして、実際にゲームをプレイするほかにも、音楽を聞くモードや、ギャラリーとして当時のパッケージビジュアルや取り扱い説明書、開発資料などを読むこともできる「ミュージアム」モードも搭載されている。海外版のものも収録されており、説明書自体がレアな存在となった今、歴史書を開くようなワクワクを覚えた。
音楽やビジュアルなど、歴史的な資料に触れていると、「ソニック歴史博物館」の最初のエリアをくぐり抜けたような気分にもなる。『ソニックオリジンズ』は、「ソニック」への入門書であり歴史書でもあるのだ。
「ソニックってどんなものなの?」と気になっているなら、「最近のゲーム」にかぶれた筆者をもサポートしてくれた「アニバーサリーモード」でプレイしてみると良いだろう。「ソニック」が持つスピードから飛び出すさまざまな魅力を、衝撃波の如く、感じ取ることができるはずだ。
『ソニックオリジンズ』は、Nintendo Switch/PlayStation 5/PlayStation 4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam・Epic Gamesストア)向けに、ダウンロード専用ソフトウェアとして発売中だ。