ポケモンはさらに人間に近づき、ついには寝床にまでやってくる ── 「ポケモン事業戦略発表会」レポート
本日2019年5月29日、株式会社ポケモンは「ポケモン事業戦略発表会」を開催した。今回は何かひとつの大きなコンテンツを発表するというよりは、実にさまざまなパートナー企業と共に実施していく多くの新要素が明らかになった。
ポケモンはゲーム本編シリーズのみならず多岐にわたる展開を行っており、『Pokémon GO』では若者だけでなくこれまでポケモンに触れていなかった人も取り込み、映画『名探偵ピカチュウ』でこれまでとは異なるポケモンの世界を描いたりと、精力的に支持層を増やそうと努力している。そして今回は、今まで以上にポケモンというフランチャイズを掘り下げようとしている姿勢を見ることができた。
ゲーム、スマホ、グッズ、新事業……。とにかく盛りだくさんの「ポケモン事業戦略発表会」
さて、まずは発表された要素を一通りまとめていこう。株式会社ポケモンの代表取締役社長である石原恒和氏からの挨拶が終わったあと登壇したのは、東宝の常務取締役である松岡宏泰氏。ハリウッドで映画化された「名探偵ピカチュウ」の大ヒットを報告、さらに7月12日に公開予定の映画「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」があるように、今後もポケモンの映像プロジェクトに挑戦していく旨をコメントした。
続いてNintendo Switch向けの『名探偵ピカチュウ』が発表。ニンテンドー3DSで発売された前作は物語が途中で終わっていたが、新作では「映画とは違った結末」が楽しめるという。
株式会社ポケモンセンター代表取締役社長の上郷頼臣氏も登壇し、2019年秋に開業予定の渋谷PARCOに新たなポケモンセンターを出店することも明らかになった。この店舗はコンセプトが一新されており、ただ買い物するだけでなくポケモンファンが訪れるだけでも楽しいものになるという。なお、渋谷PARCOには任天堂オフィシャルショップ「Nintendo TOKYO」もオープン予定、ポケモンセンターとのコラボ企画も行われるという。
そして中国のゲーム会社、ネットイースのゲーム部門パブリッシュ責任者であるワン イー氏が登場。『ポケモンクエスト』にPvP要素やソーシャル要素を追加して中国で展開するという。事前登録者はすでに170万人を越え、中国でも期待が高まっているとのこと。
ゲームフリークの常務取締役である増田順一氏からは、すべてのポケモンを一箇所に集めることができるクラウドサービス『Pokémon Home』が発表された(関連記事)。ニンテンドー3DS、Nintendo Switch、スマートフォンと、ハードの垣根を超えてすべてのポケモンを預けることができるのが特徴。2020年初旬ローンチ予定だ。
『Pokémon Home』は交換機能も用意されており、友人やその場にいる人はもちろん、世界中の人とポケモン交換を楽しめるようになる。今まで集めたポケモンはニンテンドー3DS『ポケモンバンク』で一箇所に集めることができていたが、今後はさらに対応ソフトが増えより手軽に収集・交換ができるようになるようだ。
今回の一番大きな発表は、やはり睡眠をエンターテイメントにするアプリ『Pokémon Sleep』だろう(関連記事)。ゲームの詳細は明らかにされていないが、任天堂と共に開発した「Pokémon GO Plus +」という端末を用い、プレイヤーの睡眠の様子を記録。それをBluetooth通信でスマートフォンに転送し、睡眠時間などを記録するようだ。
睡眠を遊びに活かす具体的な方法は、任天堂とNianticも共同で検討しているとのこと。登壇した任天堂の丸山和宏氏によると、「Pokémon GO Plus +」はこれまでの「Pokémon GO Plus」の機能を兼ね揃えているうえ、加速度センサーによって睡眠時間や歩いている時間も記録できるという。なお、この端末がなくとも『Pokémon Sleep』はプレイできるそうだ。
かつて任天堂はQOL(Quality of Life)事業で同様のことを行う予定としていたが、2014年に発表されてからというものの音沙汰がなくなっていた。この分野に関してはポケモンに協力する形で手を広げていくのかもしれない。
『Pokémon Sleep』に関連したイベントが『Pokémon GO』でも実施されるということで、NianticのCEOであるジョン ハンケ氏も登壇。眠っているカビゴンがたくさん登場するイベントを発表した。
そして、先日報道されていた株式会社DeNAとの共同プロジェクトは『Pokémon Masters』というスマートフォン向けタイトルになることが発表された。本作は歴代シリーズに登場したポケモントレーナーとその相棒たちが3対3でバトルを繰り広げるというもの。2019年内リリース予定で、6月ごろに情報が公開される。
最後に、オリジナルデザインを用いてYシャツを注文できるサービス「ポケモンシャツ」の販売地域拡大を発表した。これまでは一部アジア地域のみで展開されていたが、今後は欧米をはじめとし世界で展開していくという。
多角的な要素でポケモンを世界に、より多くの人に広めようという意思
今回の発表内容は多岐にわたっており、新作タイトルはもちろん中国向けに『ポケモンクエスト』を展開したり、さらには映画やグッズといった部分も抜かりない。ポケモンというフランチャイズで、あらゆるジャンル・方向性の可能性を模索していることが理解できた。その中でも一番気になるタイトルは、やはり『Pokémon Sleep』だろう。
質疑応答によると、『Pokémon Sleep』は『Pokémon GO』と連動する要素はなく、あくまでこれ単体で展開を行っていく作品となるそうだ。また、「このゲームは従来のものとは異なり、ポケモンと一緒に過ごすような方向性にフォーカスしていると考えていいのでしょうか?」と石原氏に質問を行ったところ、詳しいゲーム内容についてはまだ話せないと念を押されながらも、「そうですね」と否定はせず、ポケモンと一緒に気持ちよく眠れるような内容が予定されていると返事をいただいた。
これまでのゲーム本編シリーズや『Pokémon GO』を見ればわかるように、ポケモンの基本は収集と戦闘である。ポケモンを捕獲し、育てて、戦わせる。しかしながら、もはやポケモンはただ集めるだけの存在ではない。ピカチュウのぬいぐるみを抱いて寝る子供もいるだろうし、それこそポケモンをファッションに取り入れている人もいて、ポケモンは誰かとのコミュニケーションの潤滑油にすらなりうる。ポケモンはもはや、人間の隣にいるパートナーなのだ。
『名探偵ピカチュウ』はゲームも映画も、人間とポケモンがモンスターボールなしに共存する世界を描いた珍しい作品である。この作品が支持されていることからわかるように、ポケモンのファンが求めているものは変化しつつある。もちろん、昔と変らない「集めて戦わせる」ゲームも『Pokémon GO』も楽しいが、さらなる可能性を求めているのだ。
そして、今回の事業戦略発表会ではそれに答えようとする意思を感じた。『Pokémon Masters』は人気がありつつもフォーカスが当たらなかったポケモントレーナーたちをメインに据えているし、『Pokémon Sleep』も今までとまったく違った体験となることだろう。支持層を増やしながらもさらなるポケモンのポテンシャルを追求しているのだ。
ゲームでも現実世界でもポケモンたちはわれわれのそばにいるが、2020年にはついにベッドにまでポケモンたちがやってきてくれる。誰もがずっとポケモンと一緒に過ごせる世界は、意外とすぐ近くに来ているのかもしれない。