密かに開発中止された大作オープンワールドゲーム『WiLD』開発者、「パブリッシャーに振り回され続けた」激動のエピソードを明かす。中止の決定打は“未プレイちゃぶ台返し”
Wild Sheep Studioが手がけ、2014年にPS4向けに発表された『WiLD』。同作は2021年に開発が中止されたことが報道された。今回海外メディアSuperpuovoirはWild Sheep Studioの設立者Michel Ancel氏にインタビューを実施。『WiLD』が実際に開発中止となったことやその経緯について明かした。
『WiLD』はオープンワールドサバイバルゲームだ。先述のとおりWild Sheep Studioが当初開発を担当し、当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント、以下SIE)がパブリッシングを務めていた。本作ではプレイヤーは動物を使役することができるシャーマンとなって、1万年前の太古の世界、ヨーロッパほどのサイズがあるというワールドを冒険していくとされていた。また本作では動物とともに行動するだけでなく、動物を操作することも可能となる見込みであった。
本作は2014年に「gamescom 2014」にて発表された。その翌年「Paris Games Week」にて最新のゲーム映像が公開されたものの、それ以降続報はなかった。そして2020年には、開発を手がけていたWild Sheep Studioの設立者、Michel Ancel氏がゲーム業界を離れるとインスタグラムにて発表。Ancel氏によれば、同氏の手を離れたうえで開発が続けられるとされていた。しかしその後続報はなく、今年8月にはWild Sheep StudioのクリエイティブディレクターSteven Ter Heide氏が「もはや積極的に開発には取り組んでいない(all we can say is that we are no longer actively working on it)」と伝えており、事実上の開発中止となっていたようだ。
今回SuperpuovoirはMichel Ancel氏にインタビューを実施。Ancel氏は先述の通りWild Sheep Studioを2014年に設立する以前は、Ubisoftにて『Beyond Good & Evil』や『レイマン』を手がけたことでも知られている。なお現在同氏はゲーム業界を離れ、野生動物保護区の運営に携わっている。一方で、今年10月にはUbisoftにて『レイマン』新作プロジェクトが検討段階にあることが伝えられており、同氏は世界観の一貫性を保つための監修というかたちで限定的に業界復帰しているとのこと(Eurogamer)。
インタビューでは、同氏がWild Sheep Studioに在籍していた時期の振り返りや、『WiLD』に何があったのかについて語っている。Ancel氏によれば、『WiLD』は「非常に不運な運命をたどった(WiLD a connu un sort bien malheureux)」とのこと。同作は2018年には“よくできた”プレイアブルバージョンが完成していたという。一方でもともとPS4向けに開発されていたものの、2020年発売のPS5に向けたアップデートに難航。そしてSIE側では親会社ソニー(現ソニーグループ)にて2018年に代表執行役社長兼CEOが平井一夫氏から吉田憲一郎氏に交代。経営体制の転換が図られていた。Ancel氏いわく、この際にいちど『WiLD』は開発が中断されたとのこと。
そうして『WiLD』の開発を中断していたWild Sheep Studioのもとに、Ubisoftから(パブリッシングの)引き継ぎの申し出が舞い込んだそうだ。一方その後SIEからもパブリッシング再開の申し出があり、同社からは予算倍増まで提案されたのだという。しかしAncel氏はUbisoftとの契約がかなり進んでいたためにSIEの申し出を断り、Ubisoftがパブリッシングを引き継ぐことになったのだという。
ただAncel氏はこの時期に、燃え尽き症候群になってしまったそうだ。加えて本作の開発再開にあたっては、Ubisoftのエディトリアルチームが新たに本作のクリエイティブ・ディレクションを担当していたという。しかしエディトリアルチームは、実際に『WiLD』をプレイすることなく、あらゆる部分の変更を要求してきたとAncel氏は語っている。そうして2年間のさらなる開発が続けられたのち、エディトリアルチームから「当初のゲームからかけ離れてしまった」と判断されて、開発中止の流れとなったそうだ。
なおAncel氏はインタビュー内で、開発中止が決定された2020年にはUbisoft幹部に対し複数のハラスメントが告発される騒動が発生し、本作の監修ディレクターを務めていたTommy François氏が退職していたことにも触れている(関連記事)。Ubisoft内のトラブルや退職によって、クリエイティブやディレクション、そしてそれらの引き継ぎがうまく機能していなかったという可能性が考えられるだろう。
実績のあるAncel氏が手がけることで当時注目を集めていた『WiLD』。同氏によれば一時は開発が一定の段階まで進んでいたものの、パブリッシャーに振り回され紆余曲折を経たことが、開発中止の背景にあったようだ。なおその後ゲーム業界を離れていたAncel氏は、先述のとおり『レイマン』新作の監修として限定的に業界に復帰しているようだ。『レイマン』生みの親が長らくぶりにかかわる新作ゲームという点でも、注目されるところだ。