『ウマ娘』、欧米で「カワイイのに超高難易度ゲーム」として広まる。“見慣れない育成システム”がそびえ立つ

『ウマ娘 プリティーダービー』の英語版ユーザー間で、本作の「難しさ」が話題を博している様子だ。

Cygamesは6月26日、『ウマ娘 プリティーダービー』のSteam版を配信した。本作は日本語版と英語版が分かれており、英語版はこれまで本作をプレイすることができなかった地域でもプレイできる。そのため、英語版はリリースから連日2万人を超える同時接続プレイヤー数を記録する盛況ぶりだ(SteamDB)。一方で海外ユーザーからは本作を「難しい」とする声も聞かれるようになっている。

『ウマ娘 プリティーダービー』(以下、ウマ娘)は、実在する競走馬たちの名前や魂を受け継いだウマ娘たちの物語を描くクロスメディアコンテンツである。ゲームでは、プレイヤーはウマ娘を育成するトレーナーとなり、トゥインクル・シリーズと呼ばれる一連のレースでウマ娘の夢を叶えられるよう尽力することになる。

本作がiOS/Android向けに国内でリリースされたのは2021年2月24日のことである。2021年3月にPC(DMM GAMES)版が配信され、PCでもプレイできるようになった。その後、2022年6月には韓国・台湾・香港・マカオで、2023年8月には中国本土で、それぞれリリースされた。北米・ヨーロッパ向けに英語版のリリースが発表されたのは2024年6月。そこから約1年を経てのSteamでの英語版リリースとなったかたちだ。

待望のリリースということもあり、『ウマ娘』の英語版は大変な好評を博しているが、そんな中でSNSに投稿されたある画像が話題となっている。もともとWeb開発コミュニティに広まっていたインターネットミーム画像のパロディで、いわゆるガチャシステムがあるゲームそれぞれの、プレイ時間とゲームの理解度の関係を表したグラフとなっているようだ。

比較対象のゲーム3つは時間経過とともに理解度が上昇していくのに対し、『ウマ娘』のグラフはカオスな様相。途中から反り返った崖のイラストになっており、崖の周辺には心半ばにして倒れたユーザーの屍や墓標も見られる有り様だ。長くプレイしているだけではゲームへの理解が進まないことを表しているのだろう。画像と共に6月30日に投稿されたXポストは多くの共感を呼んだのか、本稿執筆時点で約1900回リポストされ、1万7000回のいいねを獲得している。

Steamコミュニティハブや海外掲示板Redditでも『ウマ娘』が思っていた以上に難しいという声は聞かれる。国内ユーザー間では難しいゲームといった反応はあまり見られず、意外な反応かもしれない。こうした難しいという声の背景には、複数の要因が存在しているものと思われる。

まず、現在の英語版は『ウマ娘』のリリース直後の環境である点が挙げられるだろう。育成シナリオは「新設!URAファイナルズ」しか存在せず、育成を有利に進められるサポートカードや因子といったものをユーザーがあまり所持していない状況だ。理想的な育成をしても、手塩にかけたウマ娘がURAファイナルズを勝ち抜けるかどうか、固唾をのんで見守るようなバランスの時代である。多くのユーザーが敗北を味わっていることだろう。

加えて、リリースから一週間も経っていないため、ゲームプレイも試行錯誤の段階だと思われる。各ステータスがレースに及ぼす影響や、重要なレースで勝つために必要なステータスの目安は、まだ広く知られていないだろう。ウマ娘が習得できるスキルの効果についても数値では説明されないため、どれを選べば良いのかわかりにくい仕組みになっている。

さらに、本作のような育成シミュレーション系のゲームシステムの定着度合いが日本とは異なることも、要因の一つかもしれない。限られた期間でキャラクターを育成するゲームは、父親となって娘を育てる『プリンセスメーカー』シリーズが出て以降、日本では人気ジャンルの一つとして確立されている。『アイドルマスター』シリーズや『パワフルプロ野球』シリーズなどにも類似の育成システムが採用されており、触れたことのあるゲーマーは多いだろう。

一方でグローバル市場ではシューターやアクション、スポーツ系のゲームが人気を集めてきたのに対して、育成シミュレーションゲームはマイナーなジャンルとみられる。たとえばSteam上では『火山の娘』など育成シムにもヒット作はあるものの、ジャンルの専用タグは存在しない。『ウマ娘』の育成システムは欧米圏では馴染みが薄いとみられ、不慣れゆえに難しいという認識に繋がっていそうだ。

Image Credit: Newzoo


また、かわいいキャラクターが登場する気軽なゲームと思って始めたら、思った以上に複雑な育成システムに打ちのめされているといった投稿も見受けられる。ガチャシステムのあるゲームとして、シンプルなゲームプレイを予想していたユーザーも一定数いるのかもしれない。さまざまな要因が重なって、「難しい」という共通認識ができあがっているのだろう。

とはいえ、英語版にも今後のアップデートで新たな育成シナリオやサポートカードが実装されることは間違いない。また、すでにユーザー間の攻略情報共有は盛んにおこなわれており、ゲームへの理解も進んでいる様子が見受けられる。時間が経つにつれてより強いウマ娘を育成できるようになり、『ウマ娘』が難しいといった意見は、自ずと収束していくだろう。本作が育成シム系ジャンルの欧米での火付け役となるかどうかも注目されるところ。

ちなみにRedditの『ウマ娘』コミュニティなどを覗いてみると、英語版ユーザーたちが本作を存分に楽しんでいる様子を見ることができる。初めてのURAファイナルズ勝利を喜ぶ姿や、目標を成し遂げたウマ娘たちを眺め、昔懐かしい育成に思いを馳せてみてはいかがだろうか。


ウマ娘 プリティーダービー』は、PC(Steam/DMM GAMES)/iOS/Android向けに配信中だ。

Naoto Morooka
Naoto Morooka

1000時間まではチュートリアルと言われるようなゲームが大好物。言語学や神話も好きで、ゲームに独自の言語や神話が出てくると小躍りします。

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